ラグビーワールドカップ2019™日本大会
新しいボランティア文化をレガシーに
「ラグビーワールドカップ2019日本大会」が9月20日に開幕する。目の前で繰り広げられる熱戦は、まさに「一生に一度」のものだが、ここでは大会運営を支える裏方にも目を向けてみたい。総勢1万3000人ものボランティアスタッフだ。大会を成功させるには、彼らの働きが必要不可欠。NECは、ボランティアスタッフが、一体感のある活動を通じて感動し、その経験をレガシーとして継承していくことを目指して、新しい提案を行っている。
1万3000人ものボランティアスタッフが大会を支える
いよいよ開幕するラグビーワールドカップ2019日本大会。北は札幌市から南は熊本市まで、試合会場のある全国12都市を中心に日本中が大きな熱気に包まれつつある。
私たちが真っ先に目を向けるのは、一流選手のパワーとスピード、流れるようなパスワークや力強いスクラムといったプレー、そして世界を舞台にした日本代表の活躍だ。しかし、これほど大きなスポーツイベントとなると、目に見えないところでも多くの人たちが大会の運営に尽力している。
その中でも、大きな役割を果たしているのがボランティアスタッフだ。
ボランティアスタッフは、ラグビーワールドカップ2019日本大会のもう1つの顔として、試合会場の運営補助をはじめ、最寄り駅や空港での案内係、大会ゲストへの対応など、さまざまな場所で活躍している。その数は実に1万3000人にものぼる。
-
※
NECはラグビーワールドカップ2019™のオフィシャルスポンサーとして、「ボランティア管理」のスポンサーカテゴリーを契約しています。
TM © Rugby World Cup Limited 2015. All rights reserved.
担当者の負担が大きいボランティアプログラムの管理業務
NECの橋 直紀もボランティアスタッフとしてドライバーの役割を担い、大会関係者の移動をサポートしている。「ラグビーワールドカップ2019日本大会の成功に貢献したいという思いから応募しました」と橋は言う。
同時に、橋はNECのある新サービスの開発メンバーとしても、このボランティアプログラムに大きくかかわっている。
NECは、ボランティア業務を一貫してサポートする新サービス「ボランティア支援サービス」を開発、提供しているが、橋はこのサービスを担当しており、ラグビーワールドカップ2019日本大会のボランティアプログラム「TEAM NO-SIDE」を陰で支えていたのだ。
告知から募集、応募、面接を含む選考、スタッフへの活動の割り振り、教育など、ボランティア活動のプロセスにはさまざまな業務がある。それらは一般企業で日常的に行われている業務ではないため、多くのイベントでは、これらをメールやFAX、Excelなどで行っており、大きな手間と工数がかかっている。
「スタッフの人数が数十人程度であればメールなどでも何とかなるでしょうが、数百人を超えるような規模になると、管理側にかかる負担も非常に大きくなります。同時に、ボランティア希望者、参加者の方からも『応募の仕方がわからない』『活動内容がわかりづらくて不安』といった声があがっていました」と橋は指摘する。
しかも、ボランティア管理業務全体をカバーするような製品やサービスがないのが現状だ。「スタッフ募集ポータルやイベント終了後のアンケートの仕組みなど、単機能のサービスは存在しますが、必要な機能を網羅したものはほとんど見当たりません」(橋)。
NECは、新サービスによって、この課題を解消したのである。
運営側、参加者のニーズに応えてボランティア文化の醸成に貢献
そもそも、なぜNECがボランティアに着目したのか。
NECは「社会価値創造型企業」として「安全・安心・効率・公平」という価値を提供し、持続可能な社会の実現に貢献することを事業の根幹に据えている。その一環としてボランティアを捉えているのだという。
「ITでボランティア管理における課題を解決するだけでなく、日本のボランティア文化の醸成に寄与していきたいと考えています」とNECの水口 喜博は語る。
きっかけの1つになったのは、NECの従業員たちの活動だ。例えば、NECは2011年の東日本大震災から被災地支援ボランティアの"TOMONI"プロジェクトを実施しているが、毎年多くの社員が被災地に赴き現地のニーズに沿った支援を行ってきている。また近年では障がい者スポーツイベントの運営ボランティアで、障がい者スポーツを通して沢山の気づきや学びを得られる点や、自社名で揃えたTシャツを着て行う活動にOne NECである誇りを覚える社員も多く、毎回定員を超える応募があるのだという。
ほかにも、日ごろからさまざまなボランティア活動に参加しているNECの従業員は少なくない。「このような活動が社会的に意義深いものであることはいうまでもありませんが、実は企業にとっても重要な資産なのではないかと考えたのです」と水口は述べる。
というのもボランティア活動に参加する従業員は、会社の業務を離れて新たなコミュニティに参加し、幅広い経験をしたり、コミュニケーション、チームワーク、リーダーシップなどを実践の場で学んだりする。このような経験、および活動履歴は、企業にとっても有用なデータとなり得る。しかし、推奨はしても、そのような視点でボランティアを捉えている企業は少ないのが現状だ。
そう考えていた折、ラグビーワールドカップ2019組織委員会がボランティア管理に関する提案を募集。NECは、プロジェクトの効率的かつ最適な運用を目指す運営側の視点、安全・安心かつスムーズに参加したいというボランティア希望者の視点、そして、それをいかに企業や社会の資産として蓄積していくかという視点を踏まえて構想した「ボランティア支援サービス」を提案したのである。
本人確認を含むボランティア管理を一貫して支援
NECが提案した「ボランティア支援サービス」は、ボランティアの価値である「一体感」と「感動」を生み出し、「またボランティアに参加したい」という思いにつなげることを目指している。
「そのために管理側が効率よくボランティアプログラムを運営でき、参加側は、もっと簡単に情報を集めて気軽に参加できるような仕組みを目指しました」と水口は言う。
必要スキルなどを明示しながらスムーズな募集と応募を行える「募集機能」、参加者の要望やスキルを勘案しながら、適材適所のスタッフ配置を行える「マッチング機能」、活動当日の本人確認と役割の説明などをサポートする「受付機能」、そして、管理側、参加者がコミュニケーションを行い、一体感を高めるための場「マイページ機能」でサービスは構成されている(図)。
開発は試行錯誤の連続だったが、事業を担当する部門と共にボランティア参加経験を持つ従業員にヒアリングして、必要な要件を洗い出すなどした。また、ヒアリングだけでなく、開発に携わるメンバーが自らもボランティアに参加することで、ボランティア運営を経験し、現場で感じた課題やニーズを整理していった。
こうして開発した仕組みの中でNECが最もこだわったのがマッチング機能だという。「参加者の希望、スキルや経験といった属性をしっかりと見える化することで、例えば、ボランティア経験の豊富な方をリーダーにアサインしたり、英語ができる方に受付をお願いしたり、適正な役割に配置できるようになります」と橋は語る。
また、ボランティアスタッフの本人確認作業にもNECならではの技術力が活用されている。
ラグビーワールドカップ2019日本大会は世界中の人々が訪れる国際大会であり、セキュリティの確保が非常に重要になる。そのため、ボランティアスタッフの本人確認作業も厳密に行う必要があるのはいうまでもない。一方で、ボランティアスタッフの数は約1万3000人にものぼるため、 限られた人数で、効率的かつ厳格に本人確認作業を行う必要がある。
「ボランティア支援サービス」と同様にラグビーワールドカップ2019日本大会で採用された「ボランティア本人確認支援システム」は、ボランティアがアクレディテーションカード(資格認定証)やユニフォームを受け取る際に行う本人確認作業の効率化を支援するものだ。
「通常、ボランティアスタッフの本人確認作業は、アクレディテーションカードとリストに記載された情報、公的身分証明書を目視で照合するのが一般的ですが、ボランティア1人に対する確認時間がかかるだけではなく、公的身分証明書の偽造を見抜けないリスクがあります」とNECの保坂 有香は話す。
それに対してボランティア本人確認支援システムは、ボランティア本人が持参したマイナンバーカード、運転免許証、パスポート、在留カード、運転経歴証明書のいずれかの公的身分証明書をOCRスキャナで読み取り、真贋判定(※在留カード除く)を行った後、基本情報を抽出して、登録者リストと照合させる。「本人確認作業の効率化と、目視確認では困難な偽造カードによるなりすましを防止し、安全・安心な大会運営に貢献します」(保坂)。
地域全体でのボランティアコミュニティの形成に挑戦
既に述べたとおり、ラグビーワールドカップ2019日本大会では、約1万3000人にのぼる多くのボランティアスタッフが活躍している。これは、できるだけ多くの人に参加してもらいたいという運営側、そして、安心かつ気軽に参加したいという参加者のニーズに応えることができた1つの成果といってもよいだろう。
NECは、この経験を活かして、既にほかの大会のボランティア管理の支援を開始。例えばある地域では、地域一帯で開催されるイベントのボランティア管理を統合し、イベント単位ではなく地域全体でボランティアコミュニティを形成するチャレンジを行っている。
「コミュニティとコミュニティ、人と人が新たにつながり、次々に活動の輪が広がっていく。そんな地域づくりのお手伝いをしたいですね」と水口は強調する。
現在、水口、橋、保坂が所属しているのは2019年、2020年を見据え、各部門からメンバーが集結した専任チームだが、2021年以降も、ボランティア支援サービスを担当する産業ソリューション事業部やボランティア本人確認支援システムを担当する公共ソリューション事業部など、各産業や公共団体向け事業を担当する部門を通じて取り組みは継続される。「例えば、本人確認作業は、自治体の窓口、金融機関、通信事業者などの領域でも応用が可能と考えています」と保坂は話す。
今後もNECは、「日本ならでは」のボランティア文化の醸成に貢献していく。国際的なスポーツイベントなどでは、さまざまなインフラなどが建設され、その国や都市に資産として残っていくことになるが、NECが創出を目指す一体感や感動をもたらすボランティア文化もまた大きなレガシーとなっていくに違いない。