ここから本文です。

ブロックチェーン - Digital Lifeの信頼源

2016年12月09日

ブロックチェーンが注目される前から研究

 NECはグローバルに研究拠点がありますがドイツ・ハイデルベルグを拠点とした欧州研究所ではビットコイン黎明期、未だビットコインやビットコインを支える技術であるブロックチェーンの認知度が低かった頃からブロックチェーンのセキュリティ脆弱性の発見と対策について研究をしてきました。その成果である学術論文を難関国際的なセキュリティ学会で複数件発表し、ブロックチェーンのセキュリティ対策向上に貢献してきました。

 なぜ、ブロックチェーンに早くから注目していたか。それは、ブロックチェーンがビットコインのように金銭の取引に使われるだけでなく、デジタル化された資産の価値移転の記録をセキュアに実現する、デジタル時代に必要なテクノロジーだと考えているからです。10月21日、米国の東海岸で大規模なサイバー攻撃があり、TwitterやNetflixといったオンラインサービスが影響を受けました。このサイバー攻撃をNew York Times誌は「新時代のサイバー攻撃」という見出しで報じました。多数の監視カメラ等、インターネットにつながるさまざまなデバイスがサイバー攻撃の土台として悪用されたからです。今後、ますます、多様なデバイスがネットに接続するIoT時代には新しいセキュリティの仕組みが必要です。私たちの日常生活のモノやサービスの取引も家電や車といったネットに接続されたデバイスを通じた取引になり、生活の様子が変わっていくと考えています。そんなデジタルライフ時代に、ブロックチェーンはデジタル化された資産の価値移転を記録・取引するのに「信頼」できる有望な技術と考えています。

デジタルライフを支えるブロックチェーンの技術的特徴

 IoT時代におけるデジタル資産の取引記録にブロックチェーン技術がなぜ有望なのかを理解するために、ブロックチェーン技術の3つの特性について整理してみたいと思います。

 一つ目の特徴は「クリプトグラフィー(暗号技術)」が活用されており、システムの運用者ではなく、システムそのものを信頼できる仕掛けとなっていることです。「クリプトグラフィー」は日本語では暗号技術と訳されることが多いですが、ブロックチェーンに使われている技術の特徴は、情報を共有したい関係者以外には解読を困難にするという意味での暗号技術ではありません。データ生成者の証明やデータ順序の改ざんを困難にするための公開鍵やハッシュチェーンというセキュリティを改善するために開発されてきた「クリプトグラフィー(暗号技術)」が使われていることが特徴です。これにより、ブロックチェーンを活用したサービスの利用者はサービスが稼働しているシステムを運用する人や機関ではなく、システムそのものを信頼して、デジタル化された資産価値の移転を記録できます。例えば、通常の貨幣が中央銀行という信用できる機関の存在を前提としているのに対し、ビットコインは中央機関が存在せず、ビットコインを運用しているシステムそのものが信頼されています。

 二つ目の特徴はビザンチン将軍問題の対策がされているということです。ビザンチン将軍問題は1980年代頃からコンピューターサイエンスで扱われてきたテーマですが、簡単に言うと、情報合意をしようとしている複数のコンピューターの中に嘘つきが混じっていても、正直者のコンピューター同士で正しい情報伝達ができるようにするにはどうしたらいいか、という問題です。ネットにつながるデバイスが増え、システムが発信するデータの情報を書き換えるようなマルウェアによるサイバー攻撃や犯罪が増加している今日において重要な概念です。一般的にはシステムが稼働し続けるための可用性対策は、システムを構成するコンピューターが停止しても、停止を検知し継続稼働できるようにコンピューターを複数台の分散構成にするという対策がとられてきました。しかし、新種のマルウェアは、コンピューターを稼働させ続けた上でコンピューターが伝達する情報を書き換えるものがあります。情報を書き換えるマルウェアに感染した嘘つきのコンピューターが相手でも、コンピューター同士がお互いに正しい情報かどうか検証できる仕組みが実装されているというのが、ビザンチン将軍問題対策を具備した技術の特徴です。何億台ものデバイスがネットにつながるIoT時代には、情報の正しさをデバイス同士が検証できる仕組みが重要になってきます。

 3つ目の特徴が分散システムと合意形成メカニズムです。分散システムを構成する複数のコンピューターの内、一部が稼働していない、もしくは、マルウェア等に感染してしまっても、稼働し続けることが可能となっています。合意形成メカニズムは分散されたコンピューター同士で情報合意ができる仕組みのことで、さまざまな方式が研究されています。ビットコインを支えるブロックチェーンの合意形成メカニズムであるProof of Workという方式やビザンチン将軍対策プロトコル(Byzatine Fault Tolerant Protocol)といったものの研究改善、開発が進んでいます。

 これらの技術により、ブロックチェーンはマルウェア対策がされた上でコンピューター同士による情報の検証と合意、システムによる信用の形成が可能となっています。一つの見方では、IoT時代のデジタル取引のセキュリティに必要な技術の集合体がブロックチェーンと相俟って注目を集めているのかもしれません。日常生活で利用する多様なデバイスがネットにつながると、システムが自律的に人間の生活をより便利にしてくるかもしれません。そんな自律したシステムがデジタルサービスの取引を展開する際に、デジタル資産の価値記録を支える信頼できる技術としてブロックチェーンは有望だと考えています。

ブロックチェーンの技術課題

 ただし、ブロックチェーン技術は産業利用のためには未成熟であり課題を残しています。ブロックチェーンの課題を整理する上で、大雑把にブロックチェーンのタイプをオープン型とプライベート型に大別したいと思います。オープン型はビットコインを支えるブロックチェーンに代表されます。オープン型ブロックチェーンには誰でも参加でき、透明性と拡張性が高いのが特徴です。取引記録が全て公開されますので、透明性が必要とされる取引にはより向いています。また、ビットコインには何百万台というコンピューターが参加しているように拡張性が高いこともその特徴です。しかしながら、透明性と拡張性の裏返しで、プライバシーと性能がオープン型ブロックチェーンの課題でもあります。ビットコインは今の設計上は秒間7件の取引しかできません。拡張性は高いのですが性能(スループット)が低いという課題を抱えています。

 一方、参加できるコンピューターが予め決まっている必要があるプライベート型ブロックチェーンはオープン型ブロックチェーンと比較しプライバシー保護のための秘匿性が高いことが特徴です。しかし、現在の技術では合意形成に参加するコンピューター同士は全ての情報を共有できる仕組みになっているブロックチェーンが多く、プライバシーの保護ため合意形成メカニズムの改善が課題となっています。プライベート型ブロックチェーンはオープン型より性能は高いのですが拡張性が極端に低いという課題もあります。

NECの取り組み

 NECはこれまでビットコインを支えるブロックチェーンについて技術的課題と対策を研究してきました。これらの深い知見を活かし、新たなブロックチェーン技術のインベンションに取り組んでいます。The Linux Foundationというオープンソースソフトウェアを開発する団体にNECは積極的に関わってきましたが、今年、The Linux Foundation配下に新しくつくられたブロックチェーンのオープンソース開発を目指すHyperledgerにも参加しています。Hyperledgerではさまざまな種類のブロックチェーンを開発していくことが標榜されていますが、NECはHyperledgerをベースとしてブロックチェーンの技術的課題を克服したブロックチェーンを研究開発しています。NECはプライベート型ブロックチェーンにおいて、プライバシーと性能・拡張性の問題を解決するプロトタイプを開発しています。また、オープンブロックチェーンの技術的課題の調査とその対策も引き続き取り組んでいく予定です。このような技術的課題の根本対策と価値創造の共創を通じてブロックチェーンが可能とするセキュアなデジタルライフの実現を目指しています。

岩田 太地

NEC FinTech事業開発室 室長
株式会社ブリースコーポレーション 取締役

金融機関向け営業を経て2016年4月より新設したFinTech事業開発室にて、FinTech新規ビジネス開発に従事。情報処理学会2015年度喜安記念業績賞受賞。

関連資料のダウンロードはこちら

関連キーワードで検索

さらに読む

この記事の評価


コメント


  • コメントへの返信は差し上げておりません。また、いただいたコメントはプロモーション等で活用させていただく場合がありますので、ご了承ください。
本文ここまで。
ページトップ