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「新卒3年目の仕事」をするAI~RPAが人手不足を解決する

2017年05月30日

 人工知能の活用といえば、プロ棋士を打ち負かしたり、医者が見つけられなかった病気を見つけるような事例が話題になります。しかしながら、自社の業務への適用を考えるときには、「人類最高の叡智」よりも「新卒三年目の代替」を起点としたほうが考えやすいかもしれません。日本生命や三井不動産リアルティのRPA活用や、もう少し高度な知能を代替するソフトウェア秘書クララの事例を紹介します。

新卒3年目を代替するRPA

 深刻な人手不足や働き方改革への要請を受け、ITを活用した生産性向上への関心が高まっています。近年注目を集める事例として、RPAの導入があります。RPAとは、ロボティクスプロセスオートメーション(Robotics Process Automation)の略であり、人間が行ってきた様々な定型的な業務をソフトウェアにより代替しようとする取り組みです。具体的にはデータの収集や、自動入力、単純なデータ加工といった機能を代替するサービスが登場しています。

 RPAがどのような状況で活躍するか見てみましょう。ある程度の規模の会社にはエクセル職人とも呼ぶべきスタッフがよく存在します。彼らは、共有フォルダの中に納められた複雑な名称のエクセルファイルを巧みに操り、通常業務をこなします。発注依頼がFAXで届くと、所定のファイルを開きその旨を入力、その後社内システムにて在庫確認を行い、営業担当者に所定のメールを送る。そして別のファイルに配送指示に関するデータを入力する、といった作業を巧みにこなします。RPAはこのような作業を代行し、事務作業の生産性を高めます。

 これは人工知能の活用なのでしょうか?

 人工知能というと、Googleが開発した人工知能が囲碁のプロ棋士を破ったことがよく知られています。また、2016年8月には、東大病院がIBMのワトソンを用いて、患者が珍しい病気に罹患していることを発見したことも話題となりました。このときは、2,000万件の医学論文を学習した人工知能が、患者に生じた1,500の遺伝子変化データから、わずかに10分ほどで特殊な白血病にかかっていることを特定しました(1)。いずれも人間の知能を超えるような人工知能の活用事例として報じられました。

 一方、現在のRPAは定型的な処理が中心です。例えるならば「新卒3年目を代替する人工知能」と言えるでしょう。ここでの「新卒3年目」とは、自分のやるべき仕事を理解し、過去に似たような業務をすでにこなしているため、「あれやっといて」と指示されるだけで、なんとなくこなしておいてくれる、という立場として使います。もちろん3年目にこだわる必要はなく、2年目でも4年目でも構いません。新人と呼ぶにはこなれていて、中堅と呼べるほど自律的ではない。企業の中には、こんな「新卒3年目」でなければできない作業が数多くあります。特に大企業にはやたらと多く存在するものですが、RPAはこのような業務を代替します。

 RPAは、そのサービスを提供する事業の収益性という観点からしても有望です。プロ棋士を打ち負かす人工知能や、社長の意思決定を支援する人工知能に比べれば、「新卒3年目を代替する人工知能」は、はなはだ地味です。しかし、新卒3年目の数はプロ棋士や社長の比にならず多い。たとえ、一件あたりの単価が安くても、数が多い分代替サービスとして成長する可能性は高いといえるでしょう。

 RPAのようなサービスの導入を阻む障壁となっていたのは、代替対象となる新卒3年目の人件費効率が無視されてきたことです。まるで定額使い放題の労働力であるように仕事が放り込まれたため、そこの効率化は思慮の外でした。

 ところが最近の働き手に関する環境変化がこの前提を崩しつつあります。環境変化とは労働人口の減少と働き方改革の推進です。人件費を抑える以前にそもそも人が雇えない。一方で、残業の抑制こそが経営からの至上命題となっているため、いままでのような残業のさせ方はできない。そのようななかで、猫の手ならぬ、人工知能の手を借りたいというのが実情です。

頼れる同僚、ロボ美ちゃん

 たとえば、日本生命は、請求書データの入力にRPAを用います(2)。これまでの業務は、契約者から郵送されてきた保険金の請求書から証券記号番号など必要事項を社内システムに手入力していました。RPA導入後は請求書に印刷されたバーコードを人間がスキャンすると、社内の関連システムから必要なデータを収集し、手作業での入力が代行されるようになりました。一件あたり数分かかっていた業務が数十秒に圧縮されるし、間違いがなくなる。同社では、このRPAに「ロボ美」の愛称を冠して活用しています。

 三井不動産リアルティは駐車場事業におけるコールセンター業務にRPAを活用します(3)。現在対象としているのは顧客対応ではなく、清掃や集金を行う駐車場の運営スタッフからの報告受理業務です。現在、コールセンターへの入電の3割程度がスタッフからの報告受理ですが、これは機械的な対応で解決し、人間のオペレーターは顧客からのクレームなど難易度の高い応答に特化しようという考えです。将来的には、顧客からの入電についても定型的なものや、料金計算など、機械的な処理のほうが誤りなくできる事項にもRPA適用を拡大していきたいとしています。

ソフトウェア秘書、クララ

 もう少し高度な知能を感じさせる事例もあります。

 たとえば、クララ・ラボ社が提供するソフトウェア秘書「クララ」です。クララは「社内外の多くの人たちが参加する会合の日程調整」という、あの面倒くさい業務を人間になり変わって取り仕切ってくれます。

 具体的な手順はとても単純です。メールにて日程調整の必要が生じたとき、CCにクララのメールアドレスを入れるだけで良い。普通の文章で記載されたメールの文面を理解したクララは、参加予定者の空き時間や、会議室の空き状況を踏まえて、日程調整のメールを送ります。そのメールもまるで人間の秘書が書いたかのような文章となります。候補日を提示し、それぞれの参加者の参加可否を把握し、もっとも望ましい時間帯に会議を設定し、参加者への通知までを行ってくれるのです。

 社内会議のように、それぞれの人が同じスケジュールシステムを利用して、皆の予定を一覧できる状況であれば、日程調整はそれほど面倒ではありません。しかし、社外の人との日程調整など情報のやり取りに制約が発生すると、とたんに面倒な業務となります。

 クララ・ラボによれば、一回の会合のスケジュール調整を行うには平均7通のメールがやり取りされます。クララはその時間を狙うべき原資としてサービス提供を進めます。

 人工知能が囲碁棋士を破ったことを引き合いに、「我が社の新規事業も人工知能に考えさせたらいいんじゃないのか?」といった無茶振りが聞かれます。しかし、現在の人工知能はなんでもかんでもできるわけではありません。また、自社にとっての競争領域に適用しなければならないわけでもありません。競争領域であれば、研究開発投資を行い、他社を出し抜く必要がありますが、そうではなく皆と同じような効率化を得られる非競争領域における活用も考えられるでしょう。ましてや、猫の手も借りたいような人手不足にさらされるなかで、「人工知能の手を借りたいような非競争領域の業務はないのだろうか?」という問いは、ITによる業務高度化のきっかけになるかもしれません。

(1) 「人工知能 病名突き止め患者の命救う 国内初か」NHKかぶんブログ(2016年8月)

(2) 「オフィスワークもロボットにお任せ」日経情報ストラテジー(2016年12月)

(3) 「不動産テックが営業現場を変える」月刊不動産流通(2017年2月)

鈴木 良介(すずき りょうすけ)氏

株式会社野村総合研究所
ICT・メディア産業コンサルティング部 上級コンサルタント

株式会社野村総合研究所ICT・メディア産業コンサルティング部所属。情報・通信業界に係る市場調査、コンサルティング、政策立案支援に従事。近年では、ビッグデータの活用について検討をしている。近著に『データ活用仮説量産 フレームワークDIVA』(日経BP、2015年12月)。総務省「ビッグデータの活用に関するアドホックグループ」構成員(2012年5月まで)、科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業CRESTビッグデータ応用領域領域アドバイザー(2013年6月~)。

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