2017年06月22日
先進事例が物語る、AI・IoT活用ビジネスの最前線
売上高3兆円を目指すダイキン工業のIoT戦略、現場で実現した「サービスの発想転換」とは
快適性を損なうことなく、スイッチの入/切や設定温度を自動制御して使い方のムダを徹底的に排除
──エアコンの使い方を見える化したことで、さまざまなムダが見つかったということでしょうか。
吉野氏:
そのとおりです。たとえば、老人ホームでは職員が交代でサービスを提供しています。そのため、たとえば昼担当の方がスイッチを入れたら、夜担当の方がスイッチを切らなければならないのですが、実態はスイッチが入りっぱなしになっていることがありました。
また、急に室温を冷やしたり温めたりするために過剰な温度を設定したり、夜間にスイッチを切り忘れたり、あるいは認知症の方が、誤ってスイッチを入れたりといったことも起きるのです。
──そのようなムダな運転を、どのような設定で改善したのでしょうか。
木下氏:
主に4つの設定を通じてムダを省きました。1つは設定温度の上下管理です。過剰な温度設定を防ぐために、冷房・暖房時の設定温度を一定の幅に制限しました。2つめは消し忘れ防止です。

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夜間や使用しない時間帯の消し忘れを防ぐため、自動的に停止するようにしました。また、仮にその時間帯にスイッチが入っても、タイマーによって自動的にスイッチが切れるようにしました。
3つめは設定温度のセットバックです。これは、部屋ごとに省エネ設定温度を決めて、手動で温度が変更されても、自動的に省エネ設定温度にリセットされる仕組みです。

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4つめは、設定温度の緩和です。夜間や使用頻度の低い時間帯に運転する場合は、設定温度を省エネシフトし、控えめな運転をするようにしました。省エネの手法としては、ごく当たり前な内容ですが、今までできていなかったからこそ、空調機の16%の電力削減に成功しました。
──今回の取り組みに、老人ホームの職員の皆さんは積極的に参加していただけたのでしょうか。
木下氏:
それは、今回のプロジェクトの重要なポイントでした。大変な猛暑だったこともあり、エアコンの設定温度を下げたいという声も多かったのですが、「ハワイアンウェア」と称したクールビズを実施されて、それを乗り越えられたのです。
ふだんはジャージで長袖、長ズボンなのですが、アロハシャツに短パン、ビーチサンダルで業務を行い、楽しく前向きに取り組んでいただけました。今回、省エネ大賞をいただけたのも、職員の皆さんの積極的な取り組みがあったからこそです。
最新技術だけではない「温故知新」の発想転換
──そもそも、今回の取り組みはいつごろから企画されたものなのでしょうか。
木下氏:
東日本大震災のときです。震災時に電力の使用制限があり、空調機器を制御したいというお客様の対応に追われました。その後、電気料金も上がり、電力使用量そのものを減らしたいというお客様の声が増えていったのです。
我々としては、前述のエアネットサービスを提供していたので、病院や老人ホームでムダな使い方が多いことは認識していました。ただ、今回実施したことは、突き詰めるとエアコンの設定温度管理とスイッチの切り忘れ防止の2つです。そのためにコントローラーを追加して使い方を見える化したという発想転換だけで、何か特別な技術を開発したわけではありません。にもかかわらず、16%も省エネできたことは大きな成果だと思います。
──今後の改善点や他の施設への展開を考えられていたら、お聞かせください。

吉野氏:今回は、エアコンの使い方を見える化して、その結果をもとにお客様と話し合って、我々の方でエアコンの運用スケジュールを設定しました。
今後はお客様側でもっと簡単に設定できるように、自動化も含めてさらに改善したいと思います。また、花粉やPM2.5など、さらに多くの屋外の情報をセンシングして活用することも検討しています。
もちろん、今回の老人ホーム様での事例を、同規模の施設に横展開することも可能です。ただ、業種によってエアコンの使い方はまったく違いますので、今回の事例をもとに、まずは他の老人福祉施設の省エネ推進に貢献していきたいと考えています。
──本日はありがとうございました。
(聞き手:ビジネス+IT 編集部 時田信太朗、執筆:井上健語)