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AFP通信ニュースで世界の「今」を読み解く

ICTの平和利用、Peace Tech

2017年10月10日

 ICTを平和目的に積極的に活用しようという動き「Peace Tech」が、世界で今、盛り上がりつつある。日本でも、平和と公正をすべての人にという地球レベルのビジョンを持ってビジネスを展開していこうという意識の高い人たちの間で広まり始めているようだ。国内外の事例を紹介しながら、Peace Techとはどのようなものか、そして今後の可能性を見てみよう。

紛争の原因を分析、ICTで予防

 人類の歴史を振り返ると、皮肉なことだが、科学技術の多くが軍事目的で発達してきた。ICTも例外ではない。しかし、そのことを後悔したり否定したりするのではなく、科学技術やICTを、戦争や貧困をなくし、社会課題を解決するために使っていこうという考え方、それがPeace Techだ。ノルウェーの社会学者、数学者で平和研究の第一人者でもあるヨハン・ガルトゥング氏が提唱する「積極的平和」の概念にも通じる。単に戦争のない状態ではなく、貧困・抑圧・差別など構造的暴力のない状態を真の平和として目指す。そのためには、超国家的な政治・経済・社会の道具であり、透明性・双方向性を促進するインターネットを使いこなす世界のリーダーが、紛争国や貧困国から出てくる必要がある。その原点となるICTインフラ整備と人材教育が急務であり、そこでPeace Techの登場だ。

 アフリカで起きている紛争の背景には、たとえば、天候不順による食糧不足や、食品会社が買い取り価格を引き下げたことによる価格暴落などの原因がある。だとすれば、ICTの活用で農家の生産プロセスを制御したり、農家から先進国の消費者までの物流をネットワークしたりというソリューションによって、経済を安定させることが、紛争の予防につながるのではないか。

 米国ワシントンDCに拠点を置くPeace Tech Labでは、相互に重なり合うテクノロジー、メディア、データの三つの分野で、世界中から紛争をなくすための方策を案出する。テクノロジーのエキスパートが、紛争マネジメントの専門家や、紛争地域から来た当事者たちと協働しながら、新たなツールを発明、開発、運用していく。また、紛争地帯での平和構築を低コストで便利なテクノロジーで支援するワークショップPeace Tech Exchangesも提供する。

コロンビア中部トリマ州の、コロンビア革命軍(FARC)結成につながる農民運動の発生地に通じる道路で、平和をイメージした壁画を描く女性と子どもたち(2016年8月26日撮影)。© AFP/GUILLERMO LEGARIA(1)

ICTリテラシー向上で、人や国の不平等をなくす

 世界中の国々で人々が人権に目覚め、民主主義が独裁政権などに勝利している背景には、インターネットの普及、そして一般市民の一人一人が個別に、安価でスピーディーに通信できるようになったことがある。

 今年3月、アフリカ大陸用のドット名「.africa(ドット・アフリカ)」がアフリカ連合(AU)によって導入された。世界初のドメイン名「.com」が登録されてから32年が経ち、ようやくだ。アフリカはようやくデジタルアイデンティティーを確立することができた、とも言える。世界銀行によると、サハラ以南アフリカのインターネット普及率は、世界平均の44%に対し、わずか22%程度。AUはブロードバンドインターネットの普及率を来年までに10%押し上げると表明している。アフリカでウェブサイトを開設したい人々にとって、1ドメインの取得につき250ドル(約2万9000円)もかかる国もあり、高額なドメイン名取得料が障害となっていたが、「.africa」はアフリカ大陸で暮らす誰もが18ドル(約2100円)で取得できる。「.africa」によってアフリカ大陸の人々や企業が世界といっそうつながることが期待される。(2)

アフリカ西部ベナンのウィダーで、スペイン人アドバイザーに訓練を受けるナイジェリアの広報将校(2004年12月5日撮影、資料写真)。©AFP/PIUS UTOMI EKPEI──【2017年3月11日 AFP】アフリカ連合(AU)が10日、アフリカ大陸用のドメイン名「.africa(ドット・アフリカ)」を導入した。

 ICTを使いこなす世界のリーダーが紛争地域や貧困国から輩出されるようになるには、インフラ整備とともに、人材育成が不可欠だ。

 Peace Techを実践し、紛争や貧困の問題を抱える各地にICT教育を届ける団体が日本にもある。NPO法人エドテックグローバルは「情報技術で世界平和を実現する」をミッションに掲げて活動している。名称の「エド」は「江戸(東京)」と「エデュケーション(教育)」を掛けている。現在はルワンダの小学校、ルワンダとヨルダンの大学でパイロットプログラムを実施中。具体的には、「ブロックチェーン&分散処理」「データサイエンス」「AR/VR(拡張現実感/仮想現実感)」「ドローン&ロボティックス」などの先端ICT分野の知識を教えるだけでなく、OJTで実際に開発する。社会課題を解決するための教育内容を通して、科学技術を人類や社会のために活かすための志の醸成が目標だ。学ぶ側にとっては「仕事につながる」という動機づけになる。

 農業、教育、エネルギー、金融…ICT活用で貧困を減らせる可能性はいろいろある。そしてまた、ICTリテラシーの向上はジェンダーをはじめ各種の不平等の改善にもつながる。今年7月、米国ワシントンDCで開催されたロボコンことロボットの国際競技大会「ファースト・グローバル・チャレンジ」で、アフガニスタンの10代少女たちのグループが健闘、ジェンダー不平等指数で155か国中152位の母国に対して、大きなメッセージとなった。トランプ政権下で実施されたイスラム教国家に対するビザ発給審査の厳格化によって、彼女たちの入国ビザの申請が2回にわたって却下されたことで、世界中のメディアに注目された。最終的には入国が認められ、同様にイランやスーダン、シリア難民チームにもビザが発給された。(3)

米首都ワシントンでロボットの国際競技大会に出場するアフガニスタンチーム(2017年7月17日撮影)。©AFP/PAUL J. RICHARDS

日本から世界へ、平和の鐘を鳴らそう

 国際協力機構(JICA)などの支援で2010年に設立された「エジプト日本科学技術大学」は、少人数、実践中心の「日本型の工学教育」で、理工系分野ではエジプト最先端の水準だが、この9月から電気通信などを学ぶ工学部と、会計・ITなどの国際ビジネス人文学部が新設された。日本側のねらいは、日本や世界の企業で活躍できる国際的な人材の育成だが、注目すべきは、新設学部では「平和学」の履修をエジプトで初めて導入することだ。平和研究で実績のある広島大学の協力で、軍縮や核廃絶、貧困問題を学ぶ科目となる。背景には、エジプトでは有名大学を卒業しても失業率が高く、イスラム過激思想への若年層の傾倒を招く一因とも指摘されているということがある。

 9月21日は国際平和デー。この日は、国際連合本部ビルで日本の平和の鐘が鳴らされる。この日に合わせ、平和を願う世界中の若者が、映像によって互いを知り、国を越えたつながりを持ってほしいという願いから横浜で開催されている国際平和映像祭(UFPFF)も今年7回目を迎えた。環境、省エネ、ICTなど多くの分野で世界のトップレベルにある日本の科学技術を単に共有するだけでなく、不平等をなくし、正しい利用を推進するという方向から、世界平和に貢献していくことが期待される。

(文/有限会社ラウンドテーブルコム Active IP Media Labo、写真/AFPBB News)

(1) AFPBB News 関連記事(2017年6月22日)「【特集】平和を願って世界各地の壁画」

(2) AFPBB News 関連記事(2017年3月11日)「アフリカ大陸のドメイン名「.africa」、7月導入へ」

(3) AFPBB News 関連記事(2017年7月18日)「アフガン代表の少女6人、ロボコン健闘母国に大きなメッセージ」

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