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2018年04月05日

「SOMPOって損保の会社だったの!?」と言われる未来を目指して 未踏の領域を進むSOMPOホールディングスデジタル戦略部

 「万が一の事故に備えて、保険に入っている時代があったんだって!」近い未来、そんな「昔話」が語られるようになるかもしれない。完全自動運転が実現した際、限りなくゼロに近づくと言われている自動車事故。事業の根幹を揺るがすこの変化に、損害保険会社はどう立ち向かっていこうとしているのか。業界のリーディングカンパニーであり、いち早くデジタル化とサービスのシフトチェンジを進めるSOMPOホールディングス株式会社のデジタル戦略部長、中島正朝氏にお話を伺った。

各部署のデジタル課題に、情報も人も、予算も出す

──まず、「デジタル戦略部」の設立の経緯と組織構成について教えてください。

中島氏:
 2014年に、当時の経営企画担当役員で現社長の西澤敬二が、中期経営計画の1つとして「デジタル戦略部」の構想を練り始めました。当時から「デジタル化」は保険会社にとっても大きな脅威とされていましたが、「ビッグデータ」、「AI」、「IoT」といったバズワードに関心を示し、対応するのはシステム部の人間だけでした。縦割りの組織の一部署が対応しているだけでは、経営課題として会社全体で立ち向かっていくことができないと判断し、経営企画部の中にチームを作りました。2年程度の準備期間を経て設立された部署で、次の4月で設立から2年になります。

 現在、東京に約30名と、シリコンバレーに約6名のメンバーがそれぞれいます。うち10名ほどのメンバーは保険業界の外から来た人材です。また、東京にいる専属の30名以外に、当部の兼務メンバーを約20名配置しています。社内に保険の商品企画や事業を手掛けるビジネスユニット(以下BU)が15程度あり、それぞれのBUとデジタル戦略部を兼務してもらうことで、最新の技術を現場に伝えると同時に、現場の課題をデジタル戦略部にフィードバックしてもらっています。そうして情報共有をしていき、デジタルを使った商品を作りたいとなったときに、我々のチームを頼ってくださいと。そのとき、情報と人手、そして予算を提供するという点がうちのチームの特徴です。

中島 正朝
成蹊大学卒業後、1989年に安田火災(現損害保険ジャパン日本興亜)へ入社。インターネット海外旅行保険の開発、セゾン自動車火災保険への出向、経営企画部を経て、2016年、デジタル戦略部長に就任。

──予算も、というのは珍しいのではないでしょうか?

中島氏:
 そうですね。私たちのような組織は、他部署の協力がないと成り立ちません。「あそことかかわると、仕事も増えるし予算も使われる」と思われてしまっては何もできなくなってしまうので、予算を持つようにしています。グループトップが自身で危機感を感じ、具体的行動につなげているからこそ、この仕組みが成立しています。

保険会社がデータを持てない時代

──既存のハイエンドな製品・サービスを新興テクノロジーが破壊して刷新する「デジタル・ディスラプション」の流れが激しさを増しています。保険業界には、どのような影響があるのでしょうか?

中島氏:
 「データの所有者が変わってしまう」ということが挙げられます。今まで、保険会社は、自社で保有するデータ量とその活用で勝負してきたといっても過言ではありません。自動車保険であれば、「この型式の車の事故率は◯%で、ドライバーの年齢を変数として……」といったことをひとつひとつ蓄積して、新しい商品・サービスの開発につなげてきました。データは保険会社の持ち物であり、そのデータがあるからこそ車ごとの料率を決められるというのが業界の常識でした。

 しかし、IoTの時代ではそうはいきません。たとえば車にセンサーがつくことで、ブレーキのタイミングや急発進の回数など、今までにはなかったデータがどんどん出てきます。海外では、センサーで運転の安全性を採点し、「あなたの運転スキルは83点です」といった形で点数をつけ、スコアに応じた保険料を払う仕組みがすでに出てきています。このデータの持ち主が保険会社ではなく、センサーを付けたメーカーであったり、Googleのアプリで計測するならGoogleであったりするのが現状です。

──データの所有者が変わることで、思いもしない業界から競合サービスが出てくる可能性があるということでしょうか?

中島氏:
 はい。新しいデータの登場によりリスクが細分化され、それぞれを極小化するサービスが登場してくると思います。今後、さまざまなデータがつながっていくと、例えば「今週の中島はドライビングスコアが低く、昨日は充分な睡眠がとれていない、そのうえ今日は雨で路面が滑りやすくなっている——よって、今日は最大時速を40km/hに制限し、それ以上のスピードはいくらアクセルを踏んでも出ないよう車の機能を制限する」というようなサービスの提供が可能になります。結果として事故のリスクは大幅に下がっていきます。もちろんそれは喜ばしいことなのですが、損害保険の価値も同じように低下していくでしょう。

 SOMPOは、こうした状況およびニーズの変化に合わせ、事故の予防や健康の促進、介護など、ビジネスドメインを「安心・安全・健康」へと拡げています。これが、デジタル・ディスラプションに対する弊社のスタンスです。

売り上げを減らしてでも、安心を提供する

──「ドライビングスコアを出す」というようなサービスは既に御社のグループでも提供されていますね。

中島氏:
 運輸業などの法人向けに「スマイリングロード」という、ドライブレコーダーとアプリを提供し、スコアを算出するアプリがあります。スコアを出すことで、運転に集中してもらい、事故を減らすことが目的です。実際、今3万台くらいに導入して事故が2割減っています。保険を提供する弊社としては、事故が減る=保険料が減る=売り上げが減るということになるのですが、お客様にとってはいいことずくめで、喜んでいただいています。弊社としても、保険料と別にサービス料をいただくなどして、新しいビジネスモデルを模索しているところです。

──他にデジタルを使ったサービスはありますか?

中島氏:
 グループ企業のセゾン自動車火災保険が提供する「つながるボタン」というサービスがあります。事故を起こしてしまったとき、ボタンを押すとスマホ経由で位置情報や契約情報がオペレーターに飛び、スムーズに事故処理を進めることができるものです。アマゾンダッシュボタンの保険版です。

 保険会社にお電話いただければ色々とお手伝いできることもあるのですが、事故現場で混乱してしまい、正確な情報を迅速に伝えることができなくなる方も多くいます。このサービスをご利用いただければ、電話経由でご連絡いただいた際に必要な「本人確認」のプロセスも不要。渦中にあるお客様を、最短距離でサポートすることが可能となるのです。

 また他の例として、ドローンで事故現場の調査を行うというものがあります。これまで、山間部の事故で崖下に車が落ちたときなどは、カメラを付けた棒を必死に延ばして実施していた調査なのですが、ドローンなら危険を冒すこともなく快適に行えるようになりました。

 それから、他社の自動車保険証券・車検証の写真をスマホで撮っていただくだけで、AIがその内容を分析し、損保ジャパン日本興亜の見積りを出す「カシャらく見積もり」というサービスもあります。そのまま、ペーパレスで契約手続きまで完了していただくことができます。1万枚以上の他社さんの見積りを機械学習させることで実現しました。

AIが内容を分析し、損保ジャパン日本興亜の見積もりを即座に出す「カシャらく見積もり」

データサイエンス・ブートキャンプ

──こうしたサービスの開発も、自社内で行っていらっしゃるのでしょうか?

中島氏:
 そうですね。金融機関がAIを使いたいというと、ITベンダーにお願いして実現していくという流れが多いですが、弊社ではGoogleが出しているオープンソースなどを使って、自前でAIを構築しました。「カシャらく見積もり」は、社内のエンジニアとデータサイエンティストがハンドリングしています。

──そうした人材の育成もデジタル化を進めるうえでは欠かせない部分であると。

中島氏:
 おっしゃる通りです。ただやはり、そういった人材は引く手数多で常に不足しています。市場にいないなら輩出しようということで、今はデジタルハリウッド大学と組んで、「データサイエンス・ブートキャンプ」と銘打ったエンジニア向けの社会人学校を開いています。1ヶ月の座学のあと、実際に弊社の生データを使ってどんなビジネスが作れるかを考えていただくプログラムです。社内の人材も積極的に参加しています。

Googleに「デジタル戦略部」はない

──最後に、デジタル戦略部の未来、または会社としてデジタルに向き合う上でこういう方向に進んで行きたいという想いがあれば教えてください。

中島氏:
 どの部署からも自然発生的にデジタルを使った商品・サービスが出てくるような企業になっていくべきだと考えています。部署を作って「推進していく」と言っているうちはまだまだです。「デジタル戦略」が社員一人一人に根付けば、横断組織を作ったり、盛んに啓蒙したりする必要はなくなるはずです。そういう意味では、社員の無意識のレベルにまでデジタル戦略が浸透し、デジタル戦略部が必要なくなることがひとつのゴールです。なぜならGoogleに「デジタル戦略部」はないと思います。

 また、AIによる業務効率化やIoTによる顧客満足度向上策のような、短期的に成果が出る話は実現まで割とスムーズに進むのですが、中長期的な、たとえば「デジタルネイティブ向けの新しい商品を作りましょう」といった話になるとなかなか具体的な話にならないのも事実です。

 例えばSOMPOは、Trov(トロブ)という海外のスタートアップに投資をしています。彼らは「オンデマンド保険」を扱う会社です。例えば、かっこいいロードバイクを持っている人がいて、普段は家に飾っているのだけど、今日は乗りたいと、そんな時にスマホ経由で、1日限定の保険がかけられる仕組みを提供しています。28円だったら28円だけクレジットカードで決済されてという形です。これこそがまさに破壊モデルだと思うのですが、これを商品部に持って行ったときに「うちも!」と飛びついてくれるかというと、まだ飛びついてはくれません。どうしても、既存のビジネスを優先してしまいます。

 そういった課題もあり、2017年冬から社内にデジタルベンチャーチームを立ち上げました。ホールディングス直下の部署で、保険にこだわらずに弊社の理念である「安心・安全・健康のテーマパーク」としてやっていくというのが大方針です。実際に介護ビジネスもやっていますし、リフォームですとか、我々にとって既存の事業にとらわれない新事業を立ち上げていくための組織です。このような動きをどんどん増やして、将来は、「SOMPOって昔は保険会社だったらしいね」と言われるような企業になっていければと考えています。

──「SOMPOは『損保』だった」というのが、トリビアになるような未来になってくるのでしょうか。

中島氏:
 ふふ、そうなると面白いです。ただ、デジタルはあくまで手段です。お客様の体験価値を創造するという我々の役割を果たすうえで、これからも追及していくのは「これまでにない安心・安全の価値の創造」という理念。お客様が保険に入らなくてもいいくらいの安心を、サービスを通して提供できる会社にしていきたいと思っています。

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