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2020年09月11日

災害時のツイートを解析・見える化
SNS時代の災害対応策とは

 近年、自然災害は激甚化の一途をたどり、地震や台風、豪雨などが深刻な被害をもたらしている。そうした中、被災の状況をいち早く把握し、スピーディな災害対応を行うための情報収集ツールとして、SNSに注目が集まりつつある。そこでNECでは、Twitterに投稿された被災状況や避難場所などの情報を可視化・解析するソリューション「高度自然言語処理プラットフォーム」を開発。2020年7月、サービスの提供を開始した。同ソリューションにどのような意義があり、災害時にどのような貢献を果たせるのか。関係者に話を聞いた。

災害発生時の情報収集に立ちはだかる大きな課題とは

 災害発生時には、いかに短時間で被害の全容を把握し、一分一秒でも早く被災者を救助できるかどうかが大きな分かれ目となる。とはいえ、公的機関から発信される情報だけでは限界があり、必ずしもスピーディで的確な災害対応ができるとは限らないのが実情だ。

 「これまで自治体では、住民からの通報や消防などの関係機関からの情報、メディアの報道、現場をパトロールして得た情報などを基に災害対応を行っていました」とNECの伊熊 結以は語る。

 近年は、水位などの観測情報や雨量をはじめとした気象情報などを防災情報システムで自動収集する自治体もある。だが、水位計の設置箇所は限られており、また近年多発するゲリラ豪雨といった局地的な気象災害を捉えることは難しく、現在の仕組みだけで得られる情報のみでは十分とは言えない。

 また、いざ災害が発生すると、担当者は現場対応に追われ、災害対策本部への報告まで手が回らないことも多い。このため各部署や職員間の情報共有は遅れがちで、時々刻々と変わる状況に対応しきれず、なかなか支援の手が届かないことも少なくない。

NEC
第一都市インフラソリューション事業部
新事業推進グループ 主任
伊熊 結以

 このため、必要な情報収集や分析、情報共有の仕組みが確立されておらず、災害対応に苦慮している自治体が多いのが実態だ。

 こうした中、近年、情報収集の新たな手段として注目を集めているのが「SNS」である。SNS上では、災害が発生した直後から、災害や救助要請、避難所の状況などが即座に伝えられる。そこで、NECは、災害に関するTwitter上の膨大な情報をリアルタイムに解析・可視化するソリューション「高度自然言語処理プラットフォーム」の提供を2020年7月に開始した。これはSNSなどの「自然言語情報」を構造化されたデータに変換し、地域やカテゴリーごとに集約・整理して、平時・有事の状況判断や意思決定に活用するソリューションだ。

令和元年台風15号の千葉県停電に関する実際のツイート解析結果
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「高度自然言語処理プラットフォーム」の画面イメージ。地域全体の被害状況をビジュアルに俯瞰しながら、実際のツイートも同一画面上で確認できる

 なぜNECは、SNSの中でもTwitterに着目したのか。その理由を、伊熊はこう語る。「Twitterは利用者の年齢層が幅広く、気軽に投稿しやすいのが特徴です。また、災害時に投稿される情報の量も、SNSの中ではTwitterが一番多いといわれています。それに、画像や動画が中心のSNSと比べると、Twitterは文章が中心。自然言語処理技術と親和性が高いということも、Twitterに注目した理由の1つでした」。

「矛盾した投稿」も画面に表示し注意を喚起

 高度自然言語処理プラットフォームの特長は、以下の3点に集約される。1つ目は、「いち早く被災現場の状況が把握できる」点だ。具体的には、「いつ」「どこで」「どのような事象や被害が発生しているか」を、AIが仕分けて整理することにより、求める情報にいち早くたどり着くことを可能にしたのである。

 「このプラットフォームでは、2つのAIを活用しています。1つは国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)が『DISAANA®(対災害SNS情報分析システム)』と『D-SUMM®(災害状況要約システム)』で開発した『自然言語処理エンジン』にNECが機能改良を加えたもの。もう1つは、総務省の実証実験を通じてNECが整備した『防災関係の語彙辞書』です。これによりすべての投稿を、災害のカテゴリーや地名によって分類し、画面に表示できるのです」(伊熊)

 2つ目は「事象の発生場所や種類別に、地図上で俯瞰できる機能がある」点だ。これは、ツイートされた場所を、投稿が多い順に赤・黄・青で色分けし、地図上で一覧できるようにしたもの。発災直後は混乱を極めているため、情報の空白地帯が生じ、救助や避難誘導の遅れにつながりやすい。だが、Twitterの情報を解析して、災害の状況の見える化をすれば、救助・支援のスピードアップにつなげることができる。

 「昨年の台風19号の時には、群馬県の八ッ場ダム付近や嬬恋村でツイートされた、孤立と救助要請の情報をマップ上で可視化。メディアで報道される6時間前には、このプラットフォーム上で状況を把握することができました」と伊熊は述べる。

 3つ目は、「正確でない情報を検知できる」点だ。SNSの情報活用に当たっては、懸念点もある。SNS上で飛び交う情報は膨大で、その中には正確でない情報も含まれている。玉石混交の情報の中から、本当に必要な、信頼できる情報だけを選り出すことは容易ではない。

 そこで同ソリューションでは、同じ地域と時間帯で「矛盾している投稿」があった時に、それも画面上に表示して注意を促す機能を搭載。例えば、ある地域で「停電しています」というツイートが大勢を占めている時に、「停電していません」という矛盾投稿があれば、システムが自動的に検知して画面に表示する。“両論併記”することで、プラットフォームの利用者自身に、情報が正確かどうかの判断をしてもらおうとの狙いだ。

正確でない情報を検知
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正確でない情報を検知
ツイートされた情報が正確かどうかの判断をするために、矛盾投稿を画面に表示する

 「こうしたケースでは、一般にツイート件数が少ない内容の方が、不正確である可能性が高い。そのツイートが信頼できるかどうかは、最終的には利用者側の判断となりますが、矛盾した投稿もあることを知らせて注意を喚起するのが、この機能の目的です」(伊熊)

 このプラットフォームによりTwitterの情報を解析・可視化することで、自治体などの利用者は災害対応のための情報収集・整理を省力化。リアルタイムに被災状況を俯瞰・共有しながら、災害対応に優先順位を付け、有効な手立てを迅速に講じることができる。ひいては、孤立している被災者の早期発見や、避難住民のニーズに沿った支援も可能になるわけだ。

NECとTwitter、NTTデータの共創が SNS活用の新たな可能性を開いた

 今回のサービス商用化を可能にしたのが、Twitter JapanとNTTデータ、NECの3社によるパートナーシップだ。NTTデータは現在、国内で唯一のTwitter Data Official Partnerとなっている。同社の伊東 大輔氏は、今回の共創についてこう語る。

 「当社は2006年から、Twitterの全量データをリアルタイムに受領し、API経由でお客様に提供するインフラを構築しています。これまで、NECのお客様へのTwitterデータ提供は当社が行っていましたが、今回のSIパートナーシップによって、NECが直接、自社のお客様にTwitterデータを提供できるようになりました。当社の実績とNECの最先端技術適用のアイデアを組み合わせることで、新たな価値を提供するソリューションを実現することができたと感じています」

株式会社NTTデータ
ITサービス・ペイメント事業本部
SDDX事業部
マーケティングデザイン統括部
デジタルマーケティング担当
課長代理
伊東 大輔氏

 一方、データの供給元であるTwitter Japanの後藤 和枝氏はこう語る。

 「近年、国内では著名人や識者によるTwitter利用が増え、行政と市民がTwitterを介して被災情報をやりとりする新しいコミュニケーションも生まれつつあります。ただし、TwitterデータをITソリューションに組み込んで活用する際には、利用規約に準じるプロセスも重要になります。その意味で、今回のソリューションは、Twitterの新たな可能性と社会のニーズを組み合わせて、新しい価値を創出する取り組みといえます。防災・減災の視点に加えて、お客様が安心してソリューションを利用できる観点からもTwitterデータを役立ててもらえると期待しています。当社としても、このように、企業利用を前提としたTwitterデータソリューションの活用を通じて、日本の社会インフラのイノベーションを支援していきたいと考えています」

Twitter Japan株式会社
Developer and Enterprise Solution
アジア地域アライアンス事業 リード
後藤 和枝氏
行政及び企業向け:Twitterデータエコシステムにおけるイノベーションの可能性と知見活用のイメージ例
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行政及び企業向け:Twitterデータエコシステムにおけるイノベーションの可能性と知見活用のイメージ例

北海道胆振東部地震では短時間で“全道停電”の状況を把握

 なぜNECがこうしたソリューションを提供することに至ったのか。そのきっかけは、先に触れた総務省の社会実装推進事業である。この事業の一環として「高度自然言語処理プラットフォームの研究開発」を、アビームコンサルティングが代表研究機関として受託。NECが、実証実験と開発の一部を支援することとなったのである。

 だが、開発に当たっては、さまざまな難問が立ちはだかった。「例えば、防災関連の語彙は何千万件もあるので、語彙辞書を作り込むのもひと苦労でした。SNSの投稿の中には、解析の対象とするにはふさわしくない内容のものも混じっています。それを排除するには、質のよい情報だけを表示するために裏でチューニングを続けなければなりません。その作業は相当大変だったと聞いています」(伊熊)

 Twitter情報の分類や優先順位の設定に当たってはNECのAIを活用。これには、NECが防災の分野で培ってきたノウハウが、大いに役立った。「当社は、全国の市町村で防災行政無線システムや防災情報システムを展開し、消防指令システムでは国内トップシェアを持っています。この防災関連のシステムのノウハウとNEC独自のAI技術の結実が今回のソリューションには組み込まれているのです」と伊熊は語る。

 それだけではない。ソリューション開発に当たっては、東京都の豊島区や江東区豊洲地区などの自治体15団体と計22回の実証実験を実施。さまざまな要望を採り入れ、より使いやすいシステムとなるよう何度となく工夫を重ねたという。

 こうした苦労を乗り越えた甲斐あって、既に成果も現れつつある。実災害が発生した時にトライアルというかたちで活用された際に、その有用性を示したのだ。

 例えば、2018年7月の西日本豪雨では、広島県の榎川で氾濫が発生したが、公的な避難指示が出るよりも早く、プラットフォーム上での解析により氾濫の状況を把握することができた。

 「2018年9月の北海道胆振東部地震の時には、北海道全域で大規模な停電が発生しました。北海道全域が停電しているという状況を電力会社が把握するまで時間を要したというメディアの報道もありましたが、このプラットフォームでSNSを解析したところ、地震発生後すぐに、停電が北海道全域で発生していたことがわかったのです」と伊熊は振りかえる。

AIから出てくる答えがすべてではない

 ツイートによっていち早く災害状況を把握できれば、スピード感をもって避難誘導を行い、住民の安全確保につなげることができる。また、ツイート件数や内容を解析して被災状況を可視化すれば、優先順位を決めて、効果的に初動対応を行うことも可能となる。

 こうした点が高く評価され、現在、各地の自治体やエネルギー系企業で導入検討が進められている。また、災害時だけでなく平時においても、事件や事故、道路渋滞、イベントでの混雑やトラブルなど、さまざまな切り口からTwitter分析を行うことが可能だ。

NEC
第一都市インフラソリューション事業部
事業部長代理
松尾 達宏

 「今後は、自然言語処理と画像認識を組み合わせることで、より多角的に情報を収集・分析することが可能になるでしょう。例えば、カメラの画像から『いつもは閑散としているところに、大勢の人が集まっている』ことがわかれば、Twitter分析で『そのエリアで何がツイートされているか』を解析し、『今、何が起こっているか』を判断して、管理者に報告することができる。そんなトラブル検知のツールとしても、幅広く使っていただけるのではないかと思います」とNECの松尾 達宏は話す。

 今後、NECではさまざまな公的な情報システムと連携させることも視野に入れている。これによって情報の精度を高めつつ、防災だけでなく、災害医療、保険、衛生、セキュリティなどを統合するプラットフォームソリューションへと進化させていく考えだ。

 「高度自然言語処理プラットフォームは、シティマネジメントを実行する上で、さまざまなことを判断するための1つのツールとなり得ると考えています。ただし、AIから出てくる答えがすべてではありません。NECとしては、SNSに付き物の“確かではない情報”もきちんと提示し、あくまでも『人の判断をサポートすること』を重視しながら、このソリューションを提供していきたいと考えています」(松尾)

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