

地方創生現場を徹底取材「IT風土記」
宮城発 ツイッターから人気スポットを発掘 SNS分析を地域振興に活用
SUMMARY サマリー
観光客の行動から「次の一手」を探る
白石市がツイッターを活用して観光スポットの動向分析を始めたのは、東日本大震災以降、低迷する観光客数の回復策を探るためだ。震災前100万人近い観光客が訪れていたが、震災直後は44万人と半分以下まで落ち込んだ。その後、じわじわと回復してはいるものの、2016年の観光客数は80万人。市では2019年に100万人の観光客数を目標にしているが、実現に向けた決め手がないのが実情だった。
「いろいろとイベントを企画してもなかなか実数に結びつかない。どうするか頭を悩ませている中で、まずは観光客の動きをみることにしました。SNSを利用する上で、白石市のいいところ、悪いところをちゃんと調べないと次の一手が打てないと考えました」と岡崎対策係長は語る。
市はNECプラットフォームズに依頼し、昨年10月から今年2月の5カ月間、白石市の観光スポットやイベントについてのツイッター上の投稿を収集することにした。ツイッターは、匿名性が高く、投稿者が目の当たりにした事柄について率直な見方を投稿する傾向が強い。今回のデータ分析を行ったNECソリューションイノベータの島津晃マネージャーは「投稿者が本音で語るため、投稿を分析することで課題が明確にみえてきます。改善策も打ち出しやすくなります」と効果を説明する。

分析調査として取り上げたキーワードは「全日本こけしコンクール」「鬼小十郎まつり」「白石城」「弥治郎こけし」「白石温麺」など7つのイベントと9つの観光スポットだ。もちろん、「キツネ村」も対象となった。キーワードに関連する投稿の数は5カ月間の集計で約2万件にのぼり、「白石城」「片倉小十郎」に次いで「キツネ村」が3番目に多い投稿数だった。
さらに分析を進めると、キツネ村には多くの外国人観光客が訪れるのにもかかわらず、市内の別の観光スポットに立ち寄った形跡があまりみられないことが分かってきた。
白石市観光協会副会長で、明治16年から市内で白石温麺を製造販売する佐藤清治製麺の佐藤豊彦社長も「キツネ村から白石温麺を食べにくる人はあまりいませんね。多くは日帰りしてしまうか、仙台市に宿泊してしまう。残念ながらキツネ村効果は白石の中心街までは波及していない。市街に呼び寄せる仕掛けが必要なのではないか」と指摘する。

また、宮城蔵王キツネ村のオーナー、佐藤光寛さんはこんなことも話す。「外国人観光客の中には駅から15キロの山道を何時間もかけて歩いてきたり、レンタル自転車で登ってきたりする人をよくみかけますよ」。駅からキツネ村に行くには車しかないが、近くのバス停まで数キロもある。タクシーを利用すると、8000円近い料金がかかるという。交通手段すら知らずに駅を降り、途方にくれながら、キツネ村を目指している観光客が少なくない。佐藤光寛さんは「市には『二次交通』を何とかしてほしいとお願いしてきましたが、実現してくれない」とあきらめ顔だった。
仮にキツネ村しか知らずに白石市を訪れた観光客を市街に立ち寄らせ、白石温麺を食べたり、鎌先温泉に宿泊したり、こけしを購入したりすれば白石市には大きな経済効果が与えることができる。外国人観光客がこうした立ち寄り先をツイッターに投稿することで、新たな観光需要を生む期待も生まれる。キツネ村に来た観光客に白石市の他の魅力をいかに伝えるかが今後の市の観光政策の大きなカギを握っている。
SNSは宝の山
今回の分析を受けて、市はキツネ村へのバス運行を試験的に実施する検討をスタートさせた。キツネの毛が「モフモフ」の冬毛に生え変わる時期に合わせてバスを運行する方向で調整しており、市内のほかの観光スポットにも立ち寄れるようにルートを設定する考えだ。
また、今回の分析では、「キツネ村」以外の収穫も多かった。ツイッターに1000人近いフォロワーを持つこけし職人がいることが分かったり、市の文化施設「ホワイトキューブ」がコスプレ愛好家や戦国武将ファンになじみの場所になっていたり、鎌先温泉を訪れた観光客がスタジオジブリのアニメに出てきそうな雰囲気に感動する投稿が多かったり。やり方次第では、今後の観光振興への活用が期待できる。市では今後も季節を変えて、ツイッター分析を実施し、ネットユーザーの反応を調査する方針だ。
SNSの利用が広がる中で、観光客がツイッターなどに投稿した写真がきっかけで、地元人も知らなかったスポットが人気を呼ぶケースは少なくない。また、日本人があまり関心を寄せなかったスポットが訪日外国人たちの意外な人気観光地になっているケースはよくあることだ。
すでに何度も日本を訪れている外国人観光客の関心は、ゴールデンルートと呼ばれる有名観光地からまだ行ったことのない地方へと関心が移っており、地方にとっては観光客呼び込みの大きなチャンスが生まれている。SNS上の投稿はいわば「宝の山」。観光振興に頭を悩ませている自治体はそこから観光客の生の声を分析してみると、思ってもみなかったヒントが得られるかも知れない。