本文へ移動

地方創生現場を徹底取材「IT風土記」

香川発 高松市が目指す「スマートシティたかまつ」をテーマにシンポジウム開催

 香川県高松市は持続的に成長できる都市の実現のため、「スマートシティたかまつ」の推進に取り組んでいる。その取り組みを市民に周知しようと、「スマートシティたかまつシンポジウム2018-データ利活用で未来のまちづくり-」(主催・スマートシティたかまつ推進協議会)が2月24日、高松市サンポートの「e-とぴあ・かがわ」で開催された。今回のシンポジウムから、高松市が目指すスマートシティとはどのようなものなのかを紹介する。

高松市のスマートシティ構想を紹介する「スマートシティたかまつシンポジウム2018」には、多くの市民が参加した

EUが開発したデータ利活用の共通プラットフォーム

 「データ利活用型スマートシティは、官民のデータを共通プラットフォーム上で適正かつ効果的に利活用することで、社会インフラを効率的に運営し、本市のいろいろな地域の課題解決につなげていこうとするもの。30年後の高松のために今できること、今すべきことについて、それぞれの立場から考え、取り組む一つの契機となり、データ利活用で未来のまちづくりが高松市で積極的に推進されることを期待している」

 シンポジウムの冒頭、高松市の大西秀人市長(スマートシティたかまつ推進協議会会長)はこう挨拶し、スマートシティの実現に向けた取り組みが本格化していることを市民にアピールした。

シンポジウムであいさつする高松市の大西 秀人 市長

 スマートシティは一般的に中規模以上の都市で、ICT(情報通信技術)やIoT(モノのインターネット)などを活用して高機能な社会インフラを効率的に運用、快適な市民生活を実現する取り組みだ。高松市では、産学民官などデータを保有する複数のステークホルダー間で、データを一括管理・運用し、利活用を推進するための共通IoTプラットフォーム(基盤)を構築し、市が抱えるさまざまな課題を解決するようなスマートシティの実現を目指している。

 活用するIoTプラットフォームは、EU(欧州連合)で開発された「ファイウェア(FIWARE)」と呼ばれるもので、欧州では110都市25カ国まで普及が拡大しており、日本では高松市が初めて採用する。

 FIWAREの普及を目指す非営利団体「FIWARE Foundation(ファイウェア・ファウンデーション)」の望月康則理事(NEC執行役員)は「これまでは交通や防災、金融などそれぞれの分野で独自のプラットフォームでデータを活用していたため、分野を横断してデータを利用することが難しかったが、FIWAREはシステム間のデータをオープンで利用できる。分野を横断したデータの利活用が容易になり、今までできなかった新しいサービスを生み出す可能性も出てくる」とFIWAREのメリットを力説した。

ファイウェアについて説明するFIWARE Foundationの望月 康則 理事(NEC執行役員)

 例えば、独自のプラットフォームでデータを活用している企業のデータを自治体が活用する場合、自治体が運用するプラットフォームで活用できるようデータを入力し直す必要があるが、企業と自治体が共通プラットフォーム上でデータを活用していれば、そうした作業を省くことができる。「中規模の都市は財政的な悩みを抱えているところが少なくないが、欧州ではコスト削減の効果が上がっている」と望月理事は語った。

スタートは観光・防災分野から

 高松市では、2月27日からまずは「観光」と「防災」の分野で、FIWAREによるデータ利活用を本格的にスタートさせた。高松市の廣瀬一朗総務局次長は「観光と防災は市の喫緊の課題。防災面では平成16年に高潮の被害を受け、近年では台風やゲリラ豪雨の被害も増えている。また、観光でも一昨年のデータで高松・さぬきエリアが全国でも人気上昇エリア1位になるなど、外国人観光客の増加が著しい。このように、市が抱える課題の中で、市民に見えやすいところから対応することにした」と観光と防災から取組みをスタートさせた理由を説明した。

高松市のスマートシティ構想について説明する高松市総務局次長 広瀬 一朗氏

 具体的には、観光分野では、GPSを通じて移動経路を記録する「GPSロガー」を観光客に人気のレンタサイクルに搭載。同意を得た外国人観光客に利用してもらい、どのようなルートを通り、どこに立ち寄り、どこを観光しているかといったことを国籍等の属性別に把握する。例えば多くの観光客が立ち寄る場所を見つけ出し、多言語対応の観光ガイドを用意するなどしてより一層魅力的な観光地づくりに役立てる。また、防災分野では、大雨や高潮などの災害に備え、水路や護岸に水位センサーや潮位センサーを設置。その情報を市役所でモニタリングし、災害情報をいち早く市民に知らせる仕組みを構築し、早期の災害対策に活用する。これまでは市の職員が現地に向かって状況を確認していたが、市役所でリアルタイムで状況を確認し、その変化に応じて、効率的に、より早期に、市民に知らせることができるようなものを想定しているという。

 さらに今後、高齢者の見守りなどの介護や福祉の支援や交通事故多発ポイントでの注意喚起など、幅広い市民生活のサポートにおけるデータ利活用を検討しているとも続ける。

データ利活用のカギを握るのは

 一方、シンポジウムの基調講演では、市民参加型の公共サービスの開発や運営を支援する一般社団法人Code for Japanの陣内(じんのうち)一樹事務局長が登壇し、「主役は市民ITとデータが実現する未来のまちづくり」と題し講演。東日本大震災の被災地である福島県浪江町で市民を巻き込んでITを活用した復興支援事業に取り組んだ経験を披露した。

 陣内事務局長は、データを活用したまちづくりについて「市民と行政、企業が垣根を越えて取り組まないといけない。あくまで横の関係で意見を言い合う関係が大事。ITとデータはこれからの未来をつくるが、それは、あくまでも手段。地域の未来をつくるのは自分たちであるという主体性が大事だ」と訴えた。

市民参加型のデータ利活用のノウハウなどについて基調講演するCode for Japanの陣内 一樹 事務局長

 「30年後の高松のために今われわれができること、今すべきこと」をテーマにしたパネルディスカッションでは、陣内事務局長が訴えた産学民官の連携、人材育成が大きなテーマになった。パネルディスカッションには、香川大学工学部電子・情報工学科の八重樫理人(りひと)准教授をコーディネーターに大西市長、高松大学・高松短期大学の佃昌道学長、四国電力系情報通信会社、STNetの田口泰士取締役、Code for Japanの陣内事務局長らがパネリストとして参加し、司会はCode for Sanuki代表の英誠一朗氏が務め、高松市のスマートシティの未来を語り合った。

小学校教育でのFIWARE活用を提案した高松大学・高松短期大学の佃 昌道 学長
「攻め」のデータ利活用を訴えるSTNetの田口 泰士 取締役。
スマートシティたかまつ推進協議会の設立発起人の一人だ。
コーディネーター役を務めた香川大学工学部の八重樫 理人 准教授
司会のCode for Sanuki代表 英 誠一朗 氏

 大西市長は「これまで産学民官の連携というと、それぞれの持ち寄りで、『足し算』的なものでしかなかったのではないか。しかし、30年後は人口が減少し、高松市では今の人口42万人が28万人ほどになると予測されている。その中で活力を維持するには産学民官の連携も共通の目的を持って連携を密にし、新たな『掛け算』的なもので何かを生み出していかないと成果がでない。その意味でもデータの共通プラットフォームを使って、新たなものを生み出す、今回のような仕組みは必要だ」とFIWARE導入の意義を強調。産学民官の新たな連携の架け橋になることに期待を込めた。

 一方、STNetの田口取締役は「データ利活用をして地域の課題を解決するというのは、『守り』だ。データを利活用して自社の競争力を強化したり、新しいビジネスを創造したりするのが『攻め』になる。地域の活性化には『攻め』が必要だが、今回、『攻め』を実現する基盤ができた」と評価するとともに「データが領域を超えて付加価値を生むようにするために必要なのは人がいかに連携し、交流するかが大事だ」と語り、データを利活用する人材同士の交流や連携の必要性を訴えた。

 香川大学で教鞭を執り、データ利活用型の人材育成を担う八重樫准教授は、育成のあり方について言及。「新たな価値を創造したり、データとビジネスを組み合わせて新たなイノベーションを興したりする人材を生むことが、われわれが目指す人材育成。ただ、工学部の学生がデータ利活用人材を担うのではなく、経済学部や教育、農学、医学部もそうだし、社会人の学び直しなど他分野の人もデータ利活用人材になりうる」との見方を示した。

 また、佃学長は「高松市は、まず小学校教育にFIWAREを取り入れたらどうか。そこから中学、高校へとつなげていく。さらに地元の大学に進学できる仕組みができるといい。工学部の先生たちは、小学校まで目を向けて、30年後のデータ活用人材がどうなるかを考えてはどうか」と提案した。

 英代表は「こうしたシビックテックをきっかけにシビックプライドが市民に醸成できたらいいですね」と期待を語った。

「30年後の高松のために今我々ができること、今すべきこと」パネリスト一同

市民、企業が垣根を越えてデータ利活用する環境を整備

 高松市は2月、スマートシティを強力に推進するため、NECとSTNet、香川大学、香川高等専門学校との5者でスマートシティを推進するための環境づくりを目指した基本合意書を新たに締結した。地元の企業や団体などが、FIWAREの実証環境のもとで交通や環境、福祉など幅広い分野でのデータ利活用をするための環境を整備することを目的としているという。今回のパネルディスカッションで挙がった課題は大きなテーマとなるかもしれない。

 高松市の取り組みが成功すれば、日本の他の自治体にも導入が進み、日本全体を巻き込んだデータ利活用の輪が広がることも期待される。また、世界各地に広がるFIWAREの利用都市や、実際にFIWAREを利用する世界の企業や団体、大学との連携が進むことにもつながる。高松市の市民や企業、教育機関がFIWAREをどう活用し、どう世界に羽ばたくのか。全国の自治体も高松市のスマートシティの取り組みを注視している。

(産経デジタル SankeiBiz編集部)

NECおススメITソリューション|香川篇

 「スマートシティ」と聞くと、あらゆるモノがインターネットに繋がり、電力は自給自足、街中は自動走行のEV車が行きかう……そんな最先端都市のイメージが思い浮かびますが、最近では、身近な地域をいかに活性化するか、という文脈で「スマートシティ化」というコンセプトが再注目されることが増えてきています。新たな雇用創出など、地方創生につながるソリューションという位置づけです。
 今回のNECのおススメITソリューションは、香川県高松市が導入した「スマートシティ向けデータ利活用基盤サービス」についてご紹介いたします。

◆スマートシティ向け「データ利活用基盤サービス」

 「FIWARE」という、欧州が開発した次世代インターネット基盤ソフトウェア(=Future Internet WARE)をNECのIoTプラットフォームに組み込んだスマートシティ向けのサービスです。
 FIWAREは公共サービスを提供する自治体や企業等の業種を越えたデータ利活用やサービス連携を促すため、オープンソースとして欧州の次世代インターネット官民連携プログラム(FI-PPP、注1)が開発した、グローバルスタンダードのAPIを採用しているソフトウェアで、すでに25か国110都市が導入しています。

  • (注1) 次世代インターネット官民連携プログラム(FI-PPP)欧州の第7次研究枠組計画におけるICTプロジェクトとして、3億ユーロの予算の下、2011年から5年計画で次世代インターネット官民連携(FI-PPP)プログラムを実施。

 例えばスペインのサンタンデール市は、ゴミ回収事業の効率化を目的に導入したところ、約15%のコスト削減が達成できました。
 そして、このFIWAREをNECのIoT基盤「NEC the WISE IoT Platform」に組み込み、サービスと提供するためにセキュリティを強化しました。

 このサービスは、都市における様々な課題解決に向けて、都市や地域に分散して存在する多種多様な分野・領域のデータ、例えば防災、観光、交通、エネルギー、環境などや、IoTなどを活用して収集したデータをクラウド上で蓄積し、共有・分析・加工して提供できます。例えばNECの最先端AI技術群「NEC the WISE」を活用し、データを分析することで、人が思いつかなかったような組み合わせやアイデアが生まれ、データの提供側と利用側のマッチングを期待することもできます。

NECの「データ利活用基盤サービス」概要図

 未来を生きる子どもたちの世代のために、私たちができることはまだまだあるはず。NECは、地域にある様々な力を結集する仕組みの提供を通じて、社会課題の解決を促進する環境づくりをお手伝いします。ご興味を持たれた方からのコンタクトをお待ちしております。

国の特別名勝に指定されている高松市の栗林公園。高松藩主松平家の別邸で、文化財庭園では日本最大の広さという。シンポジウム開催時は梅の花が見頃を迎えていた

(By NEC IT風土記編纂室 R)

SankeiBiz 産経デジタル SankeiBiz編集部

(株)産経デジタルが運営するSankeiBiz(サンケイビズ)は、経済紙「フジサンケイビジネスアイ」をはじめ、産経新聞グループが持つ経済分野の取材網を融合させた総合経済情報サイト。さまざまなビジネスシーンを刺激するニュースが、即時無料で手に入るサイトです。