地方創生現場を徹底取材「IT風土記」
長崎発 人手不足の救世主?変なホテルが初導入「顔認証+画像認識=無人コンビニ」の可能性
長崎県佐世保市の大型リゾート施設ハウステンボスが運営する「変なホテル ハウステンボス」。フロントの受け付けや接客などスタッフの業務の多くをロボットが代行するユニークな取り組みが話題のホテルだ。2018年5月には施設内に店員を置かない無人の「スマート・コンビニ」を日本で初めてオープンさせた。高精度で識別する顔認証システムと購入商品を画像で認識する商品画像認識システムを組み合わせることで無人化を実現させたという。ロボットや無人コンビニなど最新技術を積極的に取り入れる「変なホテル」のねらいを探った。
人気を集める「次世代型ホテル」
佐世保市は戦前から旧海軍の軍港都市として栄えた町だ。戦後も自衛隊や米軍基地が置かれ、造船業も発展してきた。しかし、国際競争の激化とともに造船業が低迷する中、今は観光都市としての存在感を高めている。西海国立公園の九十九島や世界文化遺産に登録された黒島、最新鋭のイージス艦を見られる軍港クルーズなど魅力的な観光資産が集まる。なかでも市の観光を牽引しているのが、日本最大級のテーマパーク「ハウステンボス」だ。長年赤字に悩まされ続けていた施設だったが、大手旅行会社エイチ・アイ・エス(H.I.S.)が経営支援に乗り出し、年間300万人が来場するなど、見事に再建を果たした。
復活の原動力となったのは、世界最大級を誇るイルミネーションやVR(仮想現実)を駆使したアトラクション、常設歌劇団によるショーなどの新たな魅力を加えたことがある。2015年7月に園内にオープンした「変なホテル」もまた新たに加わった魅力の一つだ。
「いらっしゃいませ。『変なホテル』へようこそ。チェックインのお客さまは1を押してください…。本日の宿泊者データを確認しますので、お名前をフルネームでおっしゃってください」。フロントの前に立つと、ロボットがこう語りかけ、宿泊客を出迎える。フロントは「開業3年で5回進化させました」と大江 岳世志(たけよし)総支配人。
そのフロントのロボットは恐竜型2体と女性型1体。声に合わせて口や体を動かし、お辞儀やまばたきもする。しかも入力するタッチパネルは実機ではなく、空中に浮かび上がった3Dホログラムをタッチするという仕掛けだ。これには、NECソリューションイノベータなどが開発したフィンガージェスチャーという技術が活用されていて、3Dホログラムだから「タッチパネルが壊れる心配も、パネルを拭く手間もない」(大江総支配人)。現在、施設内では25種類約230のロボットが稼働し、客室コンシェルジュやポーター、清掃、クローク、庭の芝刈りなど実にさまざまな業務に就いており、まさに「次世代型ホテル」と言える。
「『変なホテル』は本当に『変な』わけではなく、『変わり続ける』というコンセプトから名付けられたものです。最先端のITをいち早く取り入れ、それをお客さまに楽しんで使ってもらいたい、そして未来を感じてもらいたいと日々取り組んでいます。ホテル内に新たに設けた「スマート・コンビニ」もいずれ訪れるであろう、一歩先の姿もみてもらおうと、全国に先んじて本格運用に踏み切りました」と大江総支配人は語る。
会計テーブルに置くだけで瞬時に会計
ロビーにある「スマート・コンビニ」は10平方メートルほどの広さ。入り口にあるタブレットで顔の登録を行い、認証を受けて入店する。店内には、飲料やおにぎり、パンなどの日配品、カップ麺などの食品のほか、おむつなどの生活用品などが販売されている。購入する商品を会計テーブルに置くと、商品が画像認識され、購入金額が表示される。購入ボタンを押し、クレジットカードで決済する。店内に入ると鍵が閉まるが、出口で顔認証を行うと鍵が開き、購入した商品を持って店を出ることができる。
「スマート・コンビニ」には、NECの顔認証製品「NeoFaceWatch(ネオフェイスウォッチ)」を活用したシステムと、購入商品を画像で認識する商品画像認証システムという2つのAI技術が組み込まれている。「NeoFaceWatch」は、個人によって異なる顔の特徴を読み取り、高い精度で個人を識別する。製品に組み込まれている顔認証エンジン「NeoFace」は米国の研究所によるテストで2位に大差をつけ、動画・静止画と4回連続世界NO.1※評価を獲得。今後予定されている大型スポーツイベントでの、関係者入場の本人確認にも採用が決まった。
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米国国立標準技術研究所(NIST)による顔認証ベンチマークテストでこれまでにNo.1を複数回獲得
NISTによる評価結果は米国政府による特定のシステム、製品、サービス、企業を推奨するものではありません。
一方、商品画像認識システムは、いろいろな角度から撮影した商品の画像を事前にデータベースに登録しておき、その画像と商品が同一のものかどうかを瞬時に照合する技術だ。買い物客が購入商品のバーコードを読み取り機に読み取らせたり、スマホで撮影したりする作業もなく、ただ会計テーブルに置くだけで支払額を計算してくれる優れものだ。
「スマート・コンビニ」の導入に踏み切ったのは、ホテルに泊まるとよくありがちな顧客のニーズに応えるためだった。「お客さまアンケートで『夜、おなかが空いたときに食べられるものがほしい』という要望が多かったのです」と大江総支配人。ホテルから近くのコンビニまで相当な距離がある。ホテル内にコンビニ店を併設することは可能だが、それには店員を配置しなくてはならない。しかし、ホテルの業務の多くをロボットが賄うホテルなのに、人がサービスをするというのはコンセプトから外れてしまう。どうしたらいいかと思案しているところ、NECが無人コンビニの検討を進めていることを耳にしたという。
大江総支配人自ら東京のNECまで出向き、検証中の現場を見学。ホテルへの導入を熱心に働きかけた。「まだ、どこも導入していない技術でした。日本で導入されていないという事は、変なホテルだけのオンリーワンと言える。非常にインパクトがあると考えましたし、逆にコンビニ業界を変えてやろうというくらいの意気込みでした」。ただし、NEC側からは逆に驚かれたという。「技術については実用化レベルにはありましたが、まだ、検証段階でしたので、本格運用をお客様と一緒に作り上げていかなければと考えた」とNECトレード・サービス業ソリューション事業部の奥山 祐一シニアエキスパートと流通・サービス業システム開発本部の大久保 聡プロジェクトマネージャーは振り返る。実際に運用するには、データベースに登録した商品をきちんと照合できるかどうか一つ一つ検証する必要があったが、商品点数を抑えることでまずは運用を可能にさせた。
「変なホテル」にとっては日本でまだ運用が進んでいない「無人コンビニ」をいち早く導入することで、宿泊客に「近未来のコンビニの姿」を提供するメリットが得られる。一方、NECは、実際の運用によって課題を抽出し、技術の向上に役立てることができる。双方にとってwin-winのメリットを追求したチャレンジとなった。5月の開店から間もないが、宿泊客も積極的に利用しているそうで、「宿泊客の要望に応えられ、確実に顧客満足度の向上につながりました」と大江総支配人は自信を深めている。商品点数も今は2倍に増えているという。
最先端技術の活用術を学ぼう
「変なホテル」は現在144の客室を運営している。同規模のリゾートホテルであれば30~35人のスタッフが必要なところを8人のスタッフで切り盛りしている。ロボットに業務をゆだねることで、大幅なコストダウンを実現している。それによって、宿泊料金も通常のリゾートホテルに比べ大幅に抑えられている。
開業から3年が経過したが、人気は右肩上がりで、客室稼働率はオフシーズンでも70%、年間でも80%を軽く超えているという。観光庁の調査によると、17年のリゾートホテルの稼働率は60%弱であることをみると、その人気ぶりが分かる。宿泊料金の安さも魅力の一つだが、「スマート・コンビニ」のように常に新たな技術を取り込むことで、宿泊客を飽きさせない仕掛けをしていることも人気を支える大きな要因と大江総支配人は分析している。
「スマート・コンビニで利用されている技術を予約システムと連携させることで、新たなサービスの提供ができるかもしれない。また、ハウステンボス全体に展開することも考えられる」と、今回のスマート・コンビニを導入したことをきっかけに新たなサービスの提供にも大江総支配人は意欲をみせている。
現在、「変なホテル」はグループ会社を通じて全国に店舗展開しており、都内に6施設がオープン。大阪や京都、福岡にも進出する予定だ。スマート・コンビニについて、H.I.S.の代表取締役会長兼社長であり、ハウステンボス社長も務める澤田 秀雄氏は「ハウステンボスの『変なホテル』は実験場と位置付けている。スマート・コンビニはお客さまからの評判も良いし、いろいろと試した上で他のホテルにも導入を考えたい」と話しており、全国の「変なホテル」にも「スマート・コンビニ」がお目見えする日が近いかもしれない。
また、「変なホテル」の取り組みには、業界の人手不足解消のヒントも隠されている。
日本政策金融公庫が2017年12月にホテル・旅館業者を対象に実施した人手不足に関する調査では、62%が「従業員を確保しにくくなった」と回答し、このうちの約75%が「経営に影響がある」との懸念を示している。ハウステンボスも人材確保は大きな悩みで、地元では人材を確保できず、福岡や熊本でも求人活動を行っていたという。「人がいないなら、人の代わりになるもので補えないか」。「変なホテル」のロボット運営は澤田社長のそんな発想から生まれたという。これほど大きな舵を切るのは難しいかもしれないが、共通の悩みを抱えるホテル・旅館業者は、「変なホテル」の最先端技術の活用術を参考にしてみてはどうだろうか。
(産経デジタル SankeiBiz編集部)
IT風土記|おススメITソリューション 長崎篇
みなさんは、「変なホテル」に宿泊されたことがありますか?
「ロボットホテル」として海外旅行客からも人気が高く、グループ企業を通じて全国に店舗展開されています。
まだ、という人はぜひ一度体験されてみてはどうでしょう。
今回は、「変なホテル ハウステンボス」で導入・活用されている2つのソリューションをご紹介します。
◆NEC顔認証AIエンジン「NeoFace Watch」
事前に登録してある写真や動画の顔データと、カメラで捉えた顔の画像を、リアルタイム・自動で迅速に照合して検知を行う、セキュリティ強化やサービスの向上などに活用できる顔認証ソリューションです。例えば、空港や駅といった多くの人が行き交う公共施設だけでなく、マンションや児童施設といった地域の防犯対策に役立ちます。最近では、ホテルやデパートでVIPの来客を判別するなど、さりげないおもてなしにも活用が広がっています。
※NECは静止画と動画の両方の顔認証精度で世界一の評価を受けています。
独自に開発したジェスチャー認識のテクノロジーです。指の動きを市販のカメラで認識させて操作を行うので、リモコンやキーボード、タッチパネルなど実機は要りません。スマホでレシピを見ながら料理している時に、画面をスクロールしたいけど手が汚れてる…!という時に直接手を触れずに操作できてとても便利ですね。
ロボットの従業員、顔認証のセキュリティ、ジェスチャーで操作するIT機器…。まるでハリウッドのSF映画みたいな世界が、もう現実の世界になりつつあるなんて、なんだかワクワクしてきますね。私は、いつかタイムマシーンに乗ってみたいな。
(By NEC IT風土記編纂室 R)
SankeiBiz 産経デジタル SankeiBiz編集部
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