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病院をAIでデジタル化
デジタルホスピタルへの取り組み

 世界有数の長寿国である日本では少子高齢化が急速に進んでおり、年金や医療、福祉などの社会保障給付の持続可能性が大きな課題となっている。医療現場においても、高齢化に伴う患者の増加やニーズの多様化に、限られた人材と財源で対応していくことが求められている。こうしたなか、AI やIoTなどのデジタルテクノロジーを医療の現場に取り込み、医療の質の向上と医療従事者の働き方改革を同時に成し遂げることで、サステナブルな医療の実現に挑戦している病院を紹介する。

誰もが幸せな関係を築くためにICTを活用

 NECは、医療法人社団KNI(以下、KNI)と共に、医療現場の安全・安心、患者の早期社会復帰、医療従事者の働き方改革の実現に向けて、2017年度から積極的に活動してきた。AIを活用して、徹底した業務の効率化と医療の質の向上を目指す「デジタルホスピタル構想」の実現に向け、さまざまな開発を共に進めている。

 AIやIoT技術をはじめとする先進ICTのサポートにより、医療従事者の業務負担が軽減され、余裕をもって患者と向き合うことができる。業務効率化により日本の医療が抱える人材不足、財源不足の課題が解決でき、さらに医療の質も向上することで患者やその家族も幸せになる。こうした未来を実現するためにICTを活用していくのだ。

患者の入院長期化の回避に向けたAI活用の取り組み

 患者の高齢化に伴い、入院患者の不穏行動※1が増加している。KNIの電子カルテ情報を分析したところ、入院患者の約34%に不穏行動が確認されている。不穏行動を起こした患者は退院が通常の患者よりも約19日遅延しており、スタッフの少ない夜間に発生することが多いため、現場の医療従事者にとっての負担も大きい。

 そこで取り組んだのが、AIによる不穏行動の予兆検知の共同研究だ。電子カルテ情報とバイタルセンサのデータをAIで解析することによって、不穏行動の予兆を40分前までに71%の精度で検知した。予兆段階で対応することができれば、患者・スタッフ共に身体的・精神的な負担の軽減が期待できる。

 不穏行動と同様に、入院長期化の主な要因となる患者の容体変化に誤嚥(ごえん)性肺炎がある。誤嚥性肺炎は、食物が誤って気道に入ってしまうことが原因で引き起こされる肺炎であり、高齢者や脳卒中の入院患者に多く起こる合併症だ。KNIによる電子カルテ情報の分析結果では入院患者の約10%に発生しており、発症した患者の70%は1ヶ月以上の長期入院となっている。

 そこで行ったのが、誤嚥性肺炎のハイリスク患者の早期抽出だ。入院3日目までの電子カルテ情報をNECのAIで分析し、誤嚥性肺炎のハイリスク患者を87%の精度で抽出。入院早期の段階から看護師による重点的な予防介入を行うことで、業務負荷を高めずに発症数の低減を実現した。今後は、AIを活用した誤嚥性肺炎の予兆検知の共同研究に取り組んでいく予定だ。

  • ※1 入院患者に起こり得る急性の錯乱状態。幻覚妄想、感情不安定、混乱などがある。

AIのサポートで多忙な病院スタッフにゆとりを

 安全・安心な医療においては正確な記録が欠かせないが、多忙な医療現場では記録業務が大きな負担となっており、その解決策として記録業務の音声入力が注目されている。

 しかし、KNIの看護現場で評価したところ、発話情報をそのまま音声入力しただけでは、記録として整理されておらず、必要な情報の抜け漏れが確認しづらいという課題があることが分かった。そこで、音声入力した看護師の発話情報をAIで解析し、看護知識に基づいてラベル付けして自動的にカテゴリ分類を行った。これにより、見やすく整理された記録をリアルタイムに作成することが可能となる。

 KNIの実証では、看護師が1人あたり1日約1時間かかっていた看護記録業務の58%を削減することができた。さらに、従来は約30分かけて実施していた対面での引継ぎ業務が不要となり、業務時間の短縮に寄与。整理された情報のリアルタイムな共有によりインシデント回避も期待できる。

 森口看護科統括は、こうした取り組みの効果を次のように話す。

 「デジタルホスピタルに向けて、最先端ICTを活用するNECとの共創を2017年度から続けています。AIなどデジタル技術による手助けで、効率化だけでなく医療サービスの質も向上しており、共創の成果が出ています。」

医療法人社団KNI 看護科統括
森口 真由美 氏

 NECは、こうした取り組みを通じて、患者への満足度の高い医療の提供と共に、医療従事者の業務改革の両立を実現し、継続的な医療サービスの実現を目指している。

  • 本紹介は、技術実証の紹介であり、販売・授与はできません。