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地方創生現場を徹底取材「IT風土記」

福島発 エネルギーの地産地消で持続可能なまちづくりを目指す

 東日本大震災で大きな被害を受けた福島県新地町が、市街地復興整備と共に地産地消型エネルギーを活用する、持続可能なまちづくりに取り組んでいる。独自の発電施設を建設し、生み出した熱と電力を復興整備エリアに供給する。独立した電源を持つことで災害に強く、環境にやさしい町をつくるスマートコミュニティの構築を目指すものだ。効率的にエネルギーを利用するため、重要な役割を果たしているのがITだ。新地町の復興にITはどう貢献するのだろうか。

まちおこしの原動力に

 福島県浜通りの最北端、宮城県との県境に位置する新地町は2011年3月11日の東日本大震災で10メートルを超す巨大津波に襲われ、町の5分の1が浸水する被害を受けた。震度6強の激しい地震と巨大津波は119人もの尊い命を奪った。震災当時、JR常磐線新地駅には乗客ら40人の乗った4両編成の列車が停車。乗客らは警察官の機転で高台に避難し無事だったが、津波に飲み込まれた列車はめちゃくちゃに破壊された。無残にひしゃげ、がれきの中に横たわった列車の姿を今も記憶している人は多いのではないか。

 あれから約8年。JR新地駅は真新しい駅舎に生まれ変わり、列車の往来を取り戻した。震災前と大きく変わったのは、駅舎が300メートルほど内陸寄りになり、土地が約4メートルかさ上げされた場所に建てられていることだ。津波に襲われた沿岸部は茅色の平地が広がり、復興の道のりの厳しさを感じさせる。その一方で、かさ上げされた新地駅周辺は、賑わいを取り戻そうと、市街地復興整備事業が急ピッチで進められている。

 「地域のニーズに応えるために土地区画整理事業及び津波復興拠点整備事業を併せ、事業期間短縮のため設計及び工事の包括発注方式を採用し走りながら考えてきました。それが、被災者の生活再建とともに町の拠点をつくり、町の賑わいを取り戻すことは復興の大きな柱になっています。新地駅周辺の復興整備では『エネルギーの地産地消』にも取り組んでいます。エネルギーを自分たちで作って、効率的に使う。そうすることで、災害にも強く、環境負荷の少ない町をつくっていきます」。こう語るのは、新地町都市計画課の加藤伸二課長だ。

新地町都市計画課の加藤 伸二課長

12法人・団体が連携

 町の玄関口であるJR新地駅周辺の市街地復興整備事業では、かさ上げされた約10ヘクタールのエリアに宿泊施設や温浴施設を建設するほか、フットサル場、ホールや会議室などを備えた文化交流センター、農業生産施設などの建設や計画が進められている。温浴施設の開設に向けては、温泉の掘削にも成功。19年5月頃に開業する予定だ。

施設建設が進んでいるJR新地町周辺

 この復興整備の大きな目玉は、コージェネレーション(熱電併給)システムを備えた「新地エネルギーセンター」だ。新地町は18年2月、エネルギー供給会社「新地スマートエナジー株式会社」を新地町が過半超を出資する形で、石油資源開発(JAPEX)や京葉プラントエンジニアリング、NEC 、NECキャピタルソリューション、NTTファシリティーズ、地元金融機関など11法人・団体と共同で設立、この施設の運用を担う予定だ。

 新地エネルギーセンターには5台のコージェネレーションシステムが設置され、合計175キロワットの発電が可能だ。天然ガスをエネルギー源に、効率的な熱と電力を生み出す。燃焼時の排熱を利用した排熱回収型吸収冷温水機も備え、冷房に利用できる冷水も供給できる。過剰な電力利用を抑え、災害時の電源として役立つ50キロワットアワーのリチウムイオン蓄電池を配置。施設の屋根や壁面には太陽光パネルが張り巡らされ、再生可能エネルギーの活用も進められている。
 なお、これら設備の整備には、経済産業省の「スマートコミュニティ導入促進事業」が活用されている。

JR新地駅周辺に電力と熱を供給する、コージェネレーションシステムなどを備えた新地エネルギーセンター

 エネルギー源となる天然ガスは相馬港にあるJAPEXの相馬LNG(液化天然ガス)基地から供給を受ける。18年3月から稼働した相馬LNG基地には日本最大級の23万キロリットルのLNGタンクがあり、海外から輸送されたLNGが備蓄されている。JAPEXは、この基地から宮城県岩沼市につながるパイプラインを敷設して、東北地方を中心に天然ガスを供給しているが、このパイプラインを分岐して新地エネルギーセンターに引き込んでいる。

JAPEXの相馬LNG基地にある日本最大級のLNGタンクと相馬事業所の中川 博司総務部長

 「町内に備蓄された天然ガスで熱や電力を作り、町内の施設で消費する形の『地産地消』です。構想では供給エリア内の電力需要の6~7割をまかなうことができると試算しています」と、町のスマートコミュニティ事業を推進する企画振興課の泉田晴平課長は新地エネルギーセンターの概要を説明してくれた。

新地町企画振興課の泉田 晴平課長

EMSでエネルギー消費を「見える化」

 新地町がこの事業で目指しているのは、自分でエネルギーを作り、蓄え、賢く消費する「スマートコミュニティ」の構築だ。

 独自の発電施設を持つことで、災害時に電力会社からの電力供給が絶たれても安定的な電力を確保でき、災害に強い町にすることができる。二酸化炭素の排出量が少ない天然ガスをコージェネレーションシステムでさらに効率よく利用し、環境負荷が少ないエネルギーを供給する。さらに最新のITを活用して、無駄のない経済的なエネルギーの消費を実現させる取り組みも進められる。

 「エネルギーマネジメントシステム(EMS)を導入することで、電力の利用状況を『見える化』します。その情報を分析し、効率的で最適な形でのエネルギー利用を促すのです」と、NEC未来都市づくり推進本部の内藤政宏マネージャーは語る。

NEC 未来都市づくり推進本部の内藤 政宏マネージャー

 ふだん何気なく利用している電力だが、どれくらい使ったかが分かるのは毎月の電力料金の請求書が来るときだ。ただ、請求書だけでは日々、どれだけの電力を消費していたのか、いつ、どのタイミングで電力を使い過ぎたのかなど細かい利用状況は把握できない。そこで細かい電力使用量をインターネットでクラウドコンピューター上に蓄積し、グラフ化するなどして、いつ、どこに無駄があり、どうやったら改善できるのかを分析する。電力の使用量を目に見える形にすることで、電力を使い過ぎている時間帯の電力消費を抑えるなどして電力利用を最適化していく仕組みだ。

 新地町では、エネルギーセンターがエネルギーを供給するエリア全体をEMSで管理し、エネルギーの需給バランスを最適化することを目指している。温浴施設や宿泊施設でエネルギーの使用量が増えた場合、利用客への影響でエネルギーの抑制が難しい場合がある。エリア全体で管理することで、エネルギー消費を抑えても影響がない施設のエネルギー使用量を抑えて、エリア全体の電力使用を最適化していくという。

 新地町では、今回のスマートコミュニティの構築にあたり、町内一般家庭約125世帯にホームエネルギーマネジメントシステム(HEMS)を導入し、自宅の電力使用量をリアルタイムで表示し、家庭内の電力使用量を「見える化」する。一般家庭の一世帯一世帯で電力の無駄使いに対する関心が高まれば、より大きな効果を生むだろう。

 また、新地駅前の新地エネルギーセンター、交流センター、複合商業施設の3カ所にデジタルサイネージシステムを整備し、駅前を利用する町民および来訪する交流者に対し、町内エネルギー使用状況等を表示し、新地町のエネルギー事業に関する取り組みを訴求する予定だ。

 町での取り組みは今のところ、駅周辺のエリアに限られているが、今後、学校などの公共施設、一般家庭への展開も視野に入っているという。

他の地方の手本となるか

 町は今回の復興整備で農業生産施設の誘致を進めているが、そこでは、熱帯地域の果物の栽培が計画されているという。植物は二酸化炭素を吸収して養分を蓄えるが、農業生産施設では農産物の育成を促すため、新地エネルギーセンターで排出された二酸化炭素の活用も検討されている。そうなれば、地球温暖化の原因となっている温室効果ガスの抑制にも貢献することにもなる。

 全国各地でスマートコミュニティ事業の設計・調査などの実績を持ち、今回の復興事業にも参画する日本環境技研の安達健一取締役環境計画部長は、新地町の取り組みの意義をこう解説してくれた。

新地町が取り組むスマートコミュニティ事業の意義について語る
日本環境技研の安達 健一取締役環境計画部長

 「スマートコミュニティの取り組みはすでに何年も前から進められています。規模が大きい都市部では成立しやすいのですが、地方ではなかなか難しいのが現実です。新地町はそれを実現できた。これは町が主導的にかかわってきたからです。これはモデルケースになる事例です」

 都市部では大規模な再開発に合わせてスマートコミュニティを導入するケースが多い。規模が大きく、発電施設を建設しても採算に乗りやすいことが背景にある。このため、民間事業者が主導的な役割を果たしているという。都市部での事業に比べ、新地町の事業は規模がはるかに小さいという。採算面で民間が参入しづらい分野だけに地方にスマートコミュニティを根付かせるには自治体の役割が重要だ。

 新地町では、新地エネルギーセンターの稼働後、スマートコミュニティを身近に感じてもらうため、センターの見学もできるようにする考えだ。センター内の配管は、冷水や温水、冷温水など、それぞれの役割が一目でわかるように7色に色分けされ、利用する施設に届けられる。スマートコミュニティの取り組みのものを「見える化」することによって、町と多様にかかわる人々を集める狙いだ。すでに新地町に多くの自治体から見学の問い合わせが来ているという。

 防災面からも、エネルギーの効率的な活用という面からも、地方でのスマートコミュニティの広がりが求められる。スマートコミュニティを地方に根付かせる起爆剤となれるか。新地町の復興整備の成功を願うばかりだ。

新地町役場にはためく復興フラッグ。震災を後世に語り継ぐ復興のシンボルだ

SankeiBiz 産経デジタル SankeiBiz編集部

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