ここから本文です。

2019年03月12日

ダム工事の重機や作業員の動きをAIで再現
現場のIoT化で”次世代の土工革命”を目指す

 福岡県朝倉市と東峰村にまたがる小石原川ダムの現場では、施工の様子をカメラで撮影し、AI(人工知能)によって重機や作業員の動きを見える化し、CIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)上でリアルタイムに再現するための技術開発が行われている。この技術が完成すると現場のIoT(モノのインターネット)化が可能になり、コンピュータを使ってさらに生産性向上を図る”次世代の土工革命”につながるのだ。

重機や作業員が行き交う小石原川ダムの工事現場

現場映像からAIで重機や作業員を認識

 ダム現場の両岸に1台ずつ設置されたフルハイビジョンのカメラ画像から送られてくる映像上には、豆粒のように重機や作業員が映っている。これらの存在をAIがリアルタイムに認識し、「トラック」などのラベルを付けて、動きを追跡していく───福岡県朝倉市と東峰村にまたがる小石原川ダムの工事現場では、日本電気(以下、NEC)と鹿島建設(以下、鹿島)によって、こんな技術開発が行われている。

 「これまで工事現場では、重機や資材、作業員などの動きを正確に把握できていなかったため、どこにムダがあるのか、何が生産性向上のネックになっているのかが、あいまいでした。そこで製造業の工場で使われている技術を建設現場に応用し、重機や作業員などの動きを“見える化”するのが、今回の技術開発の目的です」と、NEC 第三製造業ソリューション事業部バリュークリエーション部のシニアエキスパート、山本賢司氏は説明する。

小石原川ダムの正面図(上)と断面図(下)。堤高139m、堤頂長568mの中央コア型ロックフィルダム。発注者は独立行政法人水資源機構
ダムの両岸に設置されたフルハイビジョンカメラ
現場を撮影した映像からAIによってリアルタイムに重機やダンプトラックなどを認識し、動きを追跡する

 この技術が実用化されると、工事現場における重機や作業員の動きのムリ、ムダ、ムラが誰でも把握できるようになり、省力化や省人化の対策が行いやすくなるというメリットがある。リアルタイムに動きがわかるので、その場で迅速な判断が行えるようになり、安全対策にもつながる。

 さらには、現場情報が誰でもわかる映像で蓄積されることにより、工事の進め方を「パラパラマンガ」のように振り返ることができるようになり、短期間で人材育成や品質向上対策を行うこともできるようになるのだ。

「教師データ」でAIを教育する

 映像中の重機の種類や作業員などを見分けるのは、AIの一分野である「ディープラーニング」という技術を使っている。コンピュータに多くの映像と、その映像が何であるかという情報をセットにした「教師データ」を数百個ずつ学習させることにより、現場の映像中から重機や作業員を識別できるようになるのだ。

 今回の取り組みでは、ダンプトラック、ブルドーザ、振動ローラ、油圧ショベル、作業員を識別できるようにする。例えば、振動ローラの場合は、振動ローラの映像と「振動ローラ」という名称をセットにした教師データを多数作り、AIに学習させた。

 メーカーを選ばず、どんな重機にも対応できる点も大きなポイントだろう。

重機の種類を見分けるための「教師データ」。ダンプトラック、ブルドーザ、振動ローラ、油圧ショベルの4機種と作業員を対象とし、それぞれの教師データを多数作成
左からダンプトラック、ブルドーザ、振動ローラ

 「同じブルドーザでも、見る角度によって形が違います。また、昼と夜など時刻の違いや、晴れや曇りなど天候の違いでも、見え方は大きく変わります。これらの条件を変えた教師データを作りました」と、鹿島 土木管理本部 生産性推進部 ICT・CIM推進室長の後閑淳司氏は振り返る。

 高速道路を走行するクルマの車種や速度を、同様の手法で画像から認識させる技術も既に開発されているが、重機特有の難しさもある。

 それは、工事現場では重機が走行する方向が一定ではなく、ダンプトラックが荷台を上げて土砂を下ろしたり、油圧ショベルが掘削・積み込こんだりする作業を行うと、重機自体の形が大きく変化することだ。

 「施工時に重機がいろいろな動作をしても重機が見分けられるようにAIに教え込むためには、それだけ多くの教師データが必要になります。さらに重機の大きさの違いも認識させるとなると大変です。今回、技術開発のフィールドとして小石原川ダムを選んだのも、ダム現場では使用される重機の種類が限定されているため、初期の開発には向いていると考えたからです」と後閑氏は説明する。

同じ現場でも昼間(上)と夜間(下)では、照明の有無などの影響で見え方がかなり異なる
振動ローラの教師データ。昼間(左)と夜(右)など時刻を変えて様々なデータを作成した

CIMモデル上に現場をリアルタイムで再現

 カメラ画像から重機の種類を認識した後、その位置をダムの3Dモデル上にリアルタイムに表示するための開発も行った。カメラ画像上に映った重機の位置と、ダム堤体(ダムまたは堤防の本体)の現在高から、重機の位置がわかる。それを堤体の3Dモデル上に合成することで、重機の動きを見える化するものだ。これにより工事関係者でリアルタイムに情報共有することが可能となり、よりタイムリーな現場改善にも取り組めるようになる。

 この工事は、国土交通省が内閣府の「官民研究開発投資拡大プログラム」(略称:PRISM)を活用し実施する「建設現場の生産性を飛躍的に向上するための革新的技術の導入・活用に関するプロジェクト」の対象工事として採択された。

 NECと鹿島のコンソーシアム(企業連合)が取り組む、「建設現場の飛躍的な生産性向上」。

 現在の目標は、安価な市販カメラによって映像から重機や作業員を判別し、カウントする作業を目視レベルの精度に近づけることと、昼夜や天候にかかわらず識別できるようにすることだ。

 これが実現すると、高価なセンサー機器も不要になり、通信環境に影響されることもなくなるので、様々な制約のある全国の工事現場にも幅広く普及しそうだ。

プロジェクトにかかわったNECと鹿島の技術者たち

現場のIoT化、データ分析で”次世代の土工革命”

 囲碁や将棋の世界では、AIが数十手、数百手先までシミュレーションして最適な一手を打つということが行われている。

 重機を使った土工の世界も同様にAIを使った施工の最適化が期待できる。ダム工事現場がIoT化されることにより、ダンプトラックがどのような位置・分量で土をおろし、ブルドーザがどんな手順や方向で土を敷きならしていけば、最少の移動距離や消費燃料で施工できるかを、AIによるシミュレーションで計画することが可能になる。つまり作業の生産性向上を図る道が広がってくるというわけだ。

 一方、現場を記録した画像データは人間が見てもわかりやすく、必要に応じて早回しで再生したり、目的の部分だけを取り出したりして見ることもできる。

 つまり、長い施工期間をごく短い時間で学んだり、振り返ったりすることができるのだ。その間には、突然、雨が降ってきて堤体の表面をブルーシートで覆って雨水の浸透を防ぐ場面や、ダムのコアを敷きならした後、油圧ショベルでコアの“法面仕上げ”を行った後に振動ローラで締め固めるといった場面もある。

 施工場面を記録した画像をクラウドサーバに保存しておくことで、全国各地のダム工事現場で使われたベテラン技術者の技術やノウハウを伝承するための資料としても幅広く活用できるのだ。

 NEC・鹿島コンソーシアムの取り組みは、ダム現場をIoT化し、AIなどによるデータ分析で生産性を飛躍的に高める“次世代の土工革命”を実現する第一歩となるものとして、次年度以降の展開にも期待したい。

(著:株式会社 イエイリ・ラボ 家入龍太)

関連キーワードで検索

さらに読む

この記事の評価


コメント


  • コメントへの返信は差し上げておりません。また、いただいたコメントはプロモーション等で活用させていただく場合がありますので、ご了承ください。
本文ここまで。
ページトップ