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地方創生現場を徹底取材「IT風土記」

神奈川発 AIが電話接触率の高い時間帯を予測し、国保料滞納者への催告を効率化

 個人事業者や無職の人が加入する国民健康保険や75歳以上の高齢者が加入する後期高齢者医療保険。病気やけがなどの医療費負担を軽減する国民生活になくてはならない大切な制度だ。川崎市は保険料の滞納を減らそうと、2018年11月から電話催告の業務にNECのホワイトボックス型AI(人工知能)の活用を始めた。AIは保険料の納付率アップにどのように貢献するのだろうか。

電話催告は月3万8000件

 神奈川県の東端、東京都と横浜市に挟まれた川崎市は、東京のベッドタウンとして発展した政令指定都市だ。人口は約151万人(2019年2月1日現在)。政令市の中で最も面積が小さいにもかかわらず、人口規模は神戸市に次いで7番目に大きい。タワーマンションが林立する武蔵小杉を始め、新興住宅地が広がる内陸部に対し、臨海部は京浜工業地帯の一角として大規模な工場が集積し、日本の経済を牽引してきた。かつて公害が大きな社会問題となったこのエリアも、今では、色とりどりのライトに照らされた工場の夜景が新たな観光スポットとして人気を集めている。

 「都市部の傾向でもあるのですが、勤労者世帯が多いため、国民健康保険の世帯加入率は政令市の中で最も低い約27%です。加入者の所得水準が高く、保険料の収納率は政令市の中ではトップクラスです。以前は低い収納率でしたが、さまざまな収納強化策を講じた効果が表れています」と、川崎市健康福祉局医療保険部収納管理課の上野 勝課長は語る。

川崎市医療保険部収納管理課の上野 勝課長

 市では、携帯電話を利用した収納サービス(モバイルレジ)や金融機関のキャッシュカードを専用端末に読み込ませて口座振替登録を行うサービス(ペイジー口座振替受付)を導入するなど加入者の利便性を高める一方、収納指導の担当者を増員するなどの対策を強化。国民健康保険料については、2011年度に88.29%だった収納率は17年度には94.16%まで改善した。

 収納率向上に効果を上げている対策の一つが「川崎市こくほ・こうきコールセンター」だ。国民健康保険や後期高齢者医療制度に関する市民からの問い合わせに総合的に対応するセンターとして2015年6月にオープンした。民間に業務を委託し、保険料の滞納者に電話をかけて納付を働きかける電話催告や、滞納者の家に出向き、納付を求める訪問収納の業務も担っている。

 電話催告の業務では、月3万8000件の電話をかけているが、接触率が低いことが大きな課題だった。そこで接触を高めるために18年11月からAIの本格導入に踏み切った。

接触率高い時間帯の予測

 「もしもし、〇〇さんのお宅ですか。国民健康保険の保険料の納付についてお電話しました」

 川崎市中原区にあるコールセンターでは、数人のオペレーターがヘッドセットを着け、パソコン画面に向かい合いながら、電話で滞納者に納付を働きかける。電話催告には自動音声も導入しているが、きめ細かい説明が必要な高齢者などにはオペレーターが直接電話でやり取りをしている。

保険料の滞納者に電話催告を行う川崎市中原区にあるコールセンター

 「AI導入の前後を比較すると、それ以前に比べ接触率が上がっていると感じています」とコールセンターの黒田 雄大副統括管理者は評価する。

 滞納者の多くは、振り込み口座の残高が不足していたり、納付期限が過ぎているのに気が付かなかったりといった「うっかりミス」のケースが多い。まずは電話をすることで納付忘れに気付いてもらう狙いがある。ただ、従来は電話をかける順番を特に考慮せず、出力された対象者のリストの上からかけていくやり方だったため、電話をかけても応答がないことが多く、効率が悪かった。

コールセンターの黒田 雄大副統括管理者

 川崎市は、17年にコールセンターの業務の新たな委託先を募集。接触率向上に向けてAIの導入を提案したNECに業務を委託した。

 では、AIを活用することで、どうやって電話の接触率を向上させるのだろうか。

 業務を受託したNEC神奈川支社の鉄野 善教・公共ソリューション営業部長はこう説明する。

NEC神奈川支社公共ソリューション営業部の鉄野 善教部長

 「家族の人数や年齢、性別で世帯を階層分けし、これまで市が蓄積してきた過去の折衝データなどをAIに読み込ませます。折衝データの中には過去に電話をかけて応答があった時間帯などの情報もあります。これらの情報からAIが予測モデルを作成し、国保料の滞納者の接触率の高い時間帯を導き出すのです」

 これは「異種混合学習」というNECが開発したホワイトボックス型AIを活用したもので、多種多様なビッグデータの中から、複数の規則性を自動で見つけ出す。通常、条件が変わるデータを高精度に分析するのは難しいが、データのパターンから参照する規則性を自動で選択し、その規則に基づいて、状況に応じた最適な予測モデルを作成する。しかもNECのホワイトボックス型AIは、裏付けとなる根拠も示すため、人間が想定していないような予測が出てきても納得して業務を進めることができ、精度も非常に高いという。

 実際にAIで予測モデルを立てたところ、単身者や家族世帯、高齢者世帯などそれぞれの属性に応じて、接触率が高い時間帯に違いが表れたという。

 「例えば、小学校に通う子供がいる世帯の場合、子供が帰ってくる午後3時以降の時間帯にはお母さんが在宅しているケースが高いという結果が出ました。この予測を当てはめて、同じような世帯には、夕方の時間帯に電話催告を行っています」と川崎市健康福祉局医療保険部保険年金課・収納管理課(兼務)の冨田 義憲システム担当係長は話す。

 他にも、75歳以上の後期高齢者世帯の場合、午前の早い時間帯か、午後2時~3時の時間帯に電話がつながりやすいことがわかった。これは、午前中に病院に通院している人が多く、通院前後の時間帯の接触率が高くなるからだ。一方、20代の単身世帯は、午前中はほとんど電話がつながらない。無職の人でも午前中は寝ていて電話にでない傾向があり、遅い時間ほどつながる率が高まることがわかった。

川崎市健康福祉局医療保険部保険年金課・収納管理課(兼務)の冨田 義憲システム担当係長

 「想定では、一般的に休日の土・日曜日や祝日、夜間のタイミングに電話がつながりやすいと考えていましたが、でもAIが導き出した予測モデルと示された根拠から、平日の昼間でもつながりやすい世帯があることがわかってきました」と、黒田副統括管理者。電話催告は、最初につながらなかった場合、別の日に改めて電話をかける。期間中、最大で4回電話をかける規定になっている。AIの導入前は4回かけるケースが多かったが、「AIの導入後、最初の電話でつながるケースや、電話でしっかりと話ができるケースが体感的に増えてきた」としている。

 川崎市によると、AI導入後、電話催告による滞納者との接触率は5.98%ほど改善(2019年2月時点)しているそうで、一定期間の応答状況をまとめ、接触率のさらなる向上を目指す。「AIはより多くのデータを学習させることで、さらに予測の精度が上がっていきます。川崎市と連携しながら、より有効なデータを開拓したり、予測モデルに修正を加えたりして、接触率を高めていきたい」とNECの鉄野営業部長は話している。

業務の効率化に直結

 接触率が向上すれば、電話催告の対象者数をさらに増やすこともでき、よりきめ細かい対応も可能になる。人員の効率的な配置などコスト削減の効果も期待される。さらには、直接的ではないが、保険料の収納率の改善にもつながっている。

AI活用の背景について説明する川崎市 健康福祉局 医療保険部の方々

 電話催告には、納付に直結する単純な納付忘れをふるいにかける狙いがある。

 保険料の滞納者は大きく分けて3つに分類される。(1)単純に収納を忘れている、(2)経済的な理由などで払えない、(3)払えるのに払わない、というものだ。

 (1)の納付忘れは、電話がつながれば、すぐに納付してくれる。一方で、(2)の「払えない」ケース、(3)の「払わない」ケースは、納付につなげるまでにきめ細かい相談や指導が求められる。「払えない」ケースの場合は保険料の減免などの救済制度がある。また、「払わない」ケースの場合は差し押さえなどの厳しい措置をとることもある。コールセンターを活用することで、収納担当の職員を相談や指導の業務に重点的に配置することができる。その点からも、コールセンターが収納率改善で果たす役割は大きいといえる。

 一方、川崎市では、今後求めるAI活用について訪問徴収業務効率化にも波及さていきたいと考えている。

 保険料の収納率を向上させるため委託訪問員が直接、滞納世帯に出向き、納付を求める訪問収納も行っている。訪問しても不在であるケースが多く、今回の取り組みをさらに発展させ、在宅している時間帯をAIで予測して訪問収納の効率化を進めたい考えだという。

 川崎市は全国の政令市の中でもトップクラスの収納率だが、それでも17年度の収入未済額は国民健康保険と後期高齢者医療制度を合わせて40億円を超え、収納率の向上は、国民健康保険や後期高齢者医療制度を運営する全国の自治体が抱える共通の課題でもある。それだけにAIを活用した川崎市の取り組みは、全国の自治体にとって参考になりそうだ。

SankeiBiz 産経デジタル SankeiBiz編集部

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