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2019年04月10日

ものづくりのカギとなるデータ利活用の現在地と未来像とは?
IVI公開シンポジウム2019 -Spring-レポート

 ものづくりとITが融合した新しい社会をデザインし、あるべき方向に向かわせるための活動において、それぞれの企業の現場が、それぞれの立場で等しくイニシアチブをとるためのフォーラム「IVI(Industrial Value Chain Initiative)」。3月14、15日の両日、IVIが主催した公開シンポジウムが東京・新宿の京王プラザホテルで開催された。シンポジウムでは「スマートシンキングが拓くものづくりの未来」をテーマに、デジタルデータ利活用やIoT導入、エコシステム、品質管理などについての講演やセッションが行われた。ここでは、デジタル時代において重要なキーとなる「データ」について特に注目すべき言及があった三つの講演を紹介したい。

データの「オープン&クローズ戦略」が重要

 招待講演では、森・濱田松本法律事務所に所属する弁護士・ニューヨーク州弁護士の岡田 淳氏が「オープン化デジタル時代における、知財・データ戦略とプラットフォーム活用」と題し、法律や国・地域の制度面からみたデジタルデータ利活用の現状と動向について話した。

 岡田氏はビッグデータを取り巻く社会的な環境の変化として「第四次産業革命のもと、企業の競争力の源泉がデータを利活用したビジネスモデルへと変わりつつある」「一部の企業や国がデータを抱え込み、排他的に支配する動きが見られる」という点を挙げ、「企業によるデータの囲い込みは、サービスの付加価値を向上させ競争力を高めるため。国の場合は、自国内の産業保護や安全保障の確保のため」と解説した。

森・濱田松本法律事務所
弁護士・ニューヨーク州弁護士
岡田 淳 氏

 一方で、こうした”デジタル専制主義”とは逆に、多様性を活力として発展する社会を目指すために、データを単に保有するのではなく、事業者や業界を超えてデータを利活用することで付加価値を増大させられるという考え方もある。これを実現するには、企業などが保有するデータをある部分は秘匿しながらも一定の範囲で公開・共有すること、つまり「競争領域」と「協調領域」を区別する「オープン&クローズ戦略」が重要になる。

 「オープン&クローズ戦略」には、産業データが不正に社外流出して企業利益が損なわれたり、パーソナルデータの盗用によって個人のプライバシーが侵害されたりしないための法制度の設計が必要だ。講演では産業データ、パーソナルデータそれぞれについて、利活用と保護に関する制度・法律を紹介。特に産業データを保護する法律である「不正競争防止法」について触れ「いくら価値のあるデータであっても、従来の概念では規制対象と認められないことが多々ありました。しかし、平成30年の同法改正によりデータの悪質な不正取得・使用などに対して一定の救済措置が導入されました。一方でAIの進化を促すため深層学習に必要な画像データの著作権範囲を包括的に制限するなど、データの保護と活用のバランスを取る動きは着実に進んでいます」と説明している。

経産省は「プラットフォーム型」のガイドライン整備でデータ共用を促進

 経済産業省が平成30年に公表した「AI・データ利用に関する契約ガイドライン」についても言及し、企業の枠を超えたデータの利活用時に適切な契約締結でデータの利用権限を明確化することが重要であると強調。ガイドラインではデータ利活用契約を「データ共用(プラットフォーム)型」「データ提供型」「データ創出型」の三タイプに分けて整理。その中で、複数企業間でデータ取引を行う「データ共用(プラットフォーム)型」を例に挙げ、「プラットフォーム利用の特徴を踏まえ、個々の事業者間ではなく参加者全員に適用される統一的な利用規約で全体を規律するという考え方」などを語った。

 岡田氏は「経産省の主要な意図は特にプラットフォーム型のガイドラインを整備してデータの共用を促すこと。実際は契約ごとに細部が千差万別にならざるを得ませんが、人によって概念の違うデータ取引契約で共有すべき指針ができた意義は大きい」という。

 講演ではこの他、「データ・ポータビリティ」「情報銀行」「データ・ローカライゼーション」など、データ利活用に関する仕組みや制度、考え方についても触れ、日本と米国・欧州間で進められているルールづくりの現状などが紹介された。

データガバナンスには互換性、相互運用性がないと非効率

 トレンド解説では、世界経済フォーラム(WEF)第四次産業革命日本センター長の須賀 千鶴氏が「デジタル経済の動向と日本の立ち位置〜Society5.0の実現に向けて」と題して、同センターが取り組むデータガバナンスの問題について講演した。

 第四次産業革命センターは毎年ダボス会議を主宰するWEFのクラウス・ シュワブ会長が、第四次産業革命以降の世界をリードする人材をネットワーク化したもので、一昨年サンフランシスコに本部を設立。日本センターは昨年7月に設立された世界で最初の支部で、WEF、日本政府、そして独立系シンクタンクのAPI(Asia Pacific Initiative)のパートナーシップによるジョイントベンチャーである。須賀氏は「WEFにしても日本政府にしても、外部組織と対等なパートナーシップを組むジョイントベンチャーへの参加は初の試み。存在が極めてユニークで時代にマッチしたイノベーティブな組織であり、『お互い中立性を犠牲にしてでも手を組むメリットが大きい』という決断をしました」とその背景と意義を説明した。

世界経済フォーラム(WEF)
第四次産業革命日本センター長
須賀 千鶴 氏

 日本センターで取り組んでいる主要な分野は「データ政策」「モビリティ」「ヘルスケア」。各分野で、どういう問題が解決済みで、今後どのようなルールをつくらなければならないか、などに関して情報収集と議論を続けている。三分野に共通するのは「ガバナンスギャップの解消」、つまり「時代の最先端に政府が追いついていない」「各国の政府ごとに政策が違いすぎる」という点。須賀氏は「例えばデータ政策で、中国政府のようにデータを国境から外に出させないという国もあれば、逆に国境を超えて自由にやり取りすべきという価値観で制度をつくっている国もあります。もちろん制度間の競争があってもいいのですが、それぞれの制度にまったく互換性、相互運用性がないとあまりにも非効率ですので、適切な制度の範囲を各国で合意して、バリエーションをその範囲内に収められるような指針づくりを目指しています」と話した。

第四次産業革命日本センターはデータガバナンスの「第四の道」を探求

 講演ではさらに詳しくデータガバナンスについての説明があり、須賀氏は「『このデータは誰のモノなのか』『どの範囲の人が利用・アクセスできるべきか』などデータに関する”あるべき論”を整理するのがデータガバナンスであり、第四次産業革命の成果が上手く社会にもたらされるかは、このデータガバナンスの整備にかかっています」と強調した。

 須賀氏によると、現状のデータガバナンスには三種類あるという。それはグーグル、アマゾンのように企業主導で世の中のデータを縦横無尽に使って価値を生む「GAFA(ガーファ)モデル」、国家がプレーヤーとしてデータを独占的に使う「中国モデル」、個人のプライバシーに重きを置き、基本的にデータ発生源の個人や企業にデータ流通をコントロールする権利があるとする「欧州モデル」である。

 「私たちは三種類のモデルはどれも世の中にとって最適ではなく、第四のモデルの確立が必要だと主張しています。それは、基本的にはデータを発生させた人たちが、それを誰がどのように使うのかを決める権利を持つべきですが、データの流通を阻害しすぎないように、彼らが認める範囲でデータを広く流通させられるモデルです。データは、同じモノを何度も、違う人が違う目的で使えるというユニークな財産です。排他的な所有にこだわるのではなく、収集者の投資回収は認めつつも人間の利益につながるような世界観を構築していきたいと考えています」。

データを活用して外部と連携し、新しい機能を獲得する「組織知能」とは

 「IVIオピニオン」では、法政大学デザイン学部教授でIVIの理事長を務める西岡 靖之氏が「IVIM〜スマートな組織の思考法-つながるものづくりのメカニズム-」と題して、IVIで議論されてきた「スマートな組織のあるべき姿」などの紹介と説明がされた。

 西岡氏は初めに「デジタルトランスフォーメーションの動きは一過性のブームではなく、確実に産業界に地殻変動をもたらしつつある」として、デジタルデータを活用した新しい組織の重要性を強調。組織を特徴づける要素の一つとして、スマートなものづくりのための「組織知能=OI(Organizational Intelligence)」という概念を説明した。組織知能とは、組織を構成する人やモノ、情報のつながり方がスマートということであり、自らが学習して常につながり方を変え、データを活用して外部と連携することでダイナミックに新しい機能を獲得する仕組みだという。そして、組織は生身の人間が含まれるため人工知能(AI)のように設計通りに機能することはなく、自らの意図で自立的に変化して現行の仕組みを組み換え続ける。

法政大学デザイン工学部教授
IVI理事長
西岡 靖之 氏

 「OIをつくり、育て上げるためには、それが『損・得』『好き・嫌い』『本音・建て前』という人間的・感情的な要素を含むことを前提として、それぞれの自主的主体がさまざまな教師データを取り入れながらアメーバのように進化するシステムをデザインすべきです。評価の指標であるKPIは、従来組織のように『効率性・機能性・堅牢性』だけでなく『柔軟性・復元性・拡張性』も重視しなければいけません」。

 続けて、工場という組織がスマートにつながるための仕組みの構築法としてIVIが検討を続けているCIOF(Connected Industries Open Framework)について解説。スマートなものづくりの組織としての最小単位であるSMU(Smart Manufacturing Unit)の内部や外部を定義して、暗黙知と形式知、アナログとデジタルなどを切り分け、SMUの構造を再設計し、段階的に実装していくという取り組みを進めているという。

スマートシンキングは知見を共有し、創発的な知の生産を行う思考プロセス

 IVIが開発を続けるデジタルトランスフォーメーションのための実装手法IVIM(Industrial Value Chain Implementation Method)によるスマートシンキングについては「問題発見、問題解決、システム開発などの過程で得られる知見を共有し、相互につながりを深めることでより効率的・効果的・創発的な知の生産を行う思考プロセス」と説明。IVIMを構成する「困りごとチャート」「なぜなぜチャート」「目標計画チャート」など16のチャートが紹介され「企業のどのような要求にどのチャートの組み合わせで対応できるのかを検討中」と話している。

 この他、つながるものづくりのための新しいメカニズムについても解説。そのメカニズムの特徴として「『データ送信はファイル単位でありバッチ処理』『データ送信は一回で完了する』『システムがデータを保持しない』など機能がシンプルでつなぎやすいこと」、「データの提供者と利用者のそれぞれの側で独自の用語を定義し、それらの用語をデジタルの『辞書』に登録。共通用語で定義・関連づけることで、自分たち独自の”言葉”を使い続けることができ、容易にネットワークを広げられること」を説明した。

 最後に現状では確立できていない「データの広域トレーサビリティ」や「データ、人、モノだけでなく代金の支払いシステムも包括的に管理するDSN(Data Sovereignty Network)」などの構想が紹介され、CIOFを活用したものづくりの未来像についても語られた。

 岡田氏と須賀氏の講演からわかるように、データに関する法とガバナンスの整備は着実に進んでいる。これを常に念頭に置きながら、ものづくり企業はITを融合させたスマートな組織づくりを進め、日本のものづくりの未来を拓いていかなければならない。

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