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2020年09月03日

横浜銀行から学ぶ、AIによるリスク対策とDX実践の作法
―NEC iEXPO Digital 2020 講演レポート―

 先端テクノロジーによって業務の改善を図るデジタルトランスフォーメーション(DX)の重要性が近年ますます高まっている。しかし、多くの企業ではどのようにDXを実践すれば良いのか模索している状況だ。そんななか、7月に行なわれたNEC iEXPO Digital 2020に登壇した横浜銀行は、NECとともにAIによってDXを実践し、AML(アンチマネーロンダリング)の高度化を進めているという。横浜銀行はどのようにAIを導入し、いかにDXを実践しているのだろうか。横浜銀行デジタル戦略部によるプレゼンテーションからは、AIによるリスク対策と、DXを実践するための作法が見えてきた。

小さな成功事例からAI導入を切り拓く

 AI(人工知能)を業務に導入すればあまねく作業が自動化され業務効率が大幅に向上すると考える人は少なくないが、言うまでもなくAIは全知全能ではない。ブラックボックス化によって人間がAIの挙動を理解できなくなる恐れもあれば、繊細で複雑なデータは自動化によって扱えない可能性もある。DXの重要性を理解する企業は増えているが、一方ではその実践の難しさを感じる企業も増えているはずだ。

 そんななか、2019年からAIの異種混合学習技術によってAML(アンチマネーロンダリング)のモニタリング業務の高度化を実践していることで注目されているのが横浜銀行だ。同行はDXを推進すべくデジタル戦略部を新設し、NECのAIを使いながら最小限の人数によってAMLを遂行した。銀行の扱うデータは非常にセンシティブなものであり、かつAIによる不正検知はまだまだ事例も少ない。同行はいかにこのプロジェクトを成功させたのだろうか。

 「AIを入れたら何でもできると漠然と思われがちですが、小さな成功事例をつくると何をできるのか理解してもらいやすくなりますし、不信感も払拭しやすい。“AIは使える”というムードも醸成されやすかったのかなと思います」

 そう語るのは、横浜銀行 デジタル戦略部 戦略企画グループの主任調査役を務める新川直敬氏だ。2018年からAI利活用の強化が進められていた同行は、部門横断的なDXに向けて2019年4月にデジタル戦略部を設立。当初AIに専念して取り組んでいたのは新川氏のみだったが、各部署へのヒアリングや社内リソースの確保も並行して進めながらDX実践のための基盤をつくっていった。同年10月から4カ月に渡ってAIによる不正検知のPoC(概念実証)を行ない、今年2月にはさらに追加のPoCを実施。システム化の検討や予算の折衝を並行して行ないながら、今年10月から本格的な稼働が始まるという。

 「当初、AMLにおけるAI活用に対しては抵抗感を示す人もいましたが、丁寧に説明したうえでPoCの結果を見せたことで多くの方々に納得いただくことができました。しばしばPoCは対象部署の現場に負担やストレスをかけることもあるので、できることはなるべくわたしたちの部署で対応するよう心がけていましたね」

横浜銀行 デジタル戦略部 戦略企画グループ 主任調査役の新川直敬氏
横浜銀行 デジタル戦略部 戦略企画グループ 主任調査役の新川直敬氏

人間の暗黙知をAIに置き換える

 今回横浜銀行が実現したAMLの意義を考えるうえで、まずは従来の業務がどのような困難を抱えていたか認識する必要があるだろう。新川氏は、不正の検知においてはいまもなお人間が目視でデータを確認する必要があったのだと語る。

 「目視でモニタリングすると過剰検知も多く、時間もかかる。しかも担当者によって判断基準がばらついていたり、同一の担当者であっても判断結果そのものが一貫しない可能性がありました。モニタリング結果を入力するのも手作業だったので、業務を半自動化しつつ過剰検知を抑える仕組みが必要だったのです」

 こうした課題を解決するうえで大きな役割を果たしたのが、NEC Advanced Analytics Platform & Solution TemplatesやNEC Cloud IaaS(NECCI)といったNECの提供するソリューションだったという。新川氏はこれらのソリューションを選んだ理由として「後続業務へのリードタイムを短くできること」や「マシンリソースが柔軟に変更できること」、「セキュアな環境を確保できること」などを挙げ、さらにはこれまでの信頼関係があったことでスムーズな導入が実現したことを明かす。

 「NECと議論しながらシステム開発を進め、まずは人間の暗黙知による判断をAIによって代替し、単純作業はRPA(Robotic Process Automation)によって解消することに決めました。人間の判断はAIの異種混合学習によってモデルを構築したのですが、結果としてモニタリング調査の対象となる口座数を70%ほど削減することに成功しました。まずは保守的に自動化の割合を40%でスタートする予定ですが、今後は80%まで上げていけたらと考えています。並行して作業の自動化も進み、年間約2,000時間の作業の削減を見込んでいます」

 不正検知というリスク対策業務の特性上、単に効率を上げていけばいいものではなく、人間の判断がどうしても必要となる部分もある。一方で、人間では気づきにくい口座の動きをAIが認識し、リスクの高い口座として予兆的に認識できた事案もあり、各種金融犯罪の未然防止への寄与も期待できることも事実。今回のDXの成功は、AIが非常に多様な環境へ導入可能なものであることを証明したといえるのかもしれない。

NEC iEXPO Digital 2020は厳格な感染対策のもと、オンライン配信によって行なわれた
NEC iEXPO Digital 2020は厳格な感染対策のもと、オンライン配信によって行なわれた

ワークショップの重要性

 横浜銀行による今回のDXを考えるうえで重要なのは、単に技術的な問題だけではなく、DXへの意識を高めるためのワークショップが並行して行なわれていたことだろう。新川氏につづいてプレゼンテーションを行なった大田博也氏はNEC Advanced Analytics Platform(AAPF)をさらに広い領域で活用すべく、ワークショップの実施によってDXの意義を周知するとともに新たなDX案件候補を社内から吸い上げてきたことを明かした。

 「DXというと従来はその意義を社内へ一方的に提案するだけでしたが、ワークショップを行なうことで現場目線の意見を取り入れることができました。参加した社員も自分たちの課題を解決できるかもしれないため、忌憚のない意見を出してくれますし、単に『デジタルテクノロジーによる課題解決』といった紋切り型の発想では捉えられない課題がたくさん見つかりました。案件発掘を目的としたワークショップでしたが、結果的にDXへの意識を社内に高めていけたのもよかったですね」

 そう大田氏が語るように、本ワークショップは「AI活用・DX事例紹介」「グループディスカッション」「個別ヒアリング」「DX候補選定」という4つのフェーズを通して、各部署からDXで解決できる/できないにかかわらず日々感じている課題を洗い出してもらったのだという。その結果、DXに取り組む案件の候補として複数の課題が明らかとなった。そのなかにはリスク管理やデータの利活用など、銀行業に限らないより一般的な課題も含まれていた。

 「本ワークショップはNECのサポートのもとで行なったのですが、グループディスカッションでは参加者からたくさんの意見をNECが引き出してくれました。どんなに些細なことでもよいので発言してほしいと伝えたことで、想像以上に多くの意見が飛び交い、結果的に参加者の距離も縮まり、DXに対して前向きな姿勢を醸成できました」

 今回の成功を受け、大田氏は「今後はほかの部署へもワークショップを広げていきたい」と語る。COVID-19の感染拡大により膝を突き合わせて議論することは難しいが、ヒアリングシートの作成や個別のウェブ会議の活用など効果的な手法を検討しているところなのだという。

横浜銀行 デジタル戦略部 戦略企画グループの大田博也氏
横浜銀行 デジタル戦略部 戦略企画グループの大田博也氏

いかにDXを実践するか

 現在行なわれている横浜銀行によるAMLの実践は、銀行業や金融業のみならず多くの企業にAIによるDX実践の作法を教えてくれるものだろう。異種混合学習技術を活用したAMLそのものはたしかに銀行業務と深く結びついているが、AI導入に向けたリソースの確保やワークショップの実施などを通じた合意形成はより広い分野へ適用可能なはずだ。

 新川氏によれば、横浜銀行でAIを専任として扱っているメンバーは極めて少なく、潤沢な人的リソースがあったから今回のDXが成功したわけではない。多くの企業と同様、同行単体で多くのAI人材を育成していくことや、それを中長期的に維持するのは簡単ではないと新川氏は語る。

 「組織のなかでどうやって継続性を担保していくかが重要です。技術的な部分はNECのような専門家の方々のお力をお借りし、社員が担うべき部分と組み合わせることで体制をつくっていくのが有効だと感じています。NECのもつ高い技術力と多くのノウハウを活かしつつ、銀行ならではの業務や判断基準はわたしたちが共有しなければいけません。しばしばAI導入には専門的な知識が必要かと問われるのですが、必ずしも精通している必要はありません。重要なのは、知識というより技術の根底にある思想を正しく理解し、技術者の方々としっかりとしたコミュニケーションをすることですから」

 新川氏の発言は非常に示唆的だ。とくにCOVID-19の感染拡大以降、働き方や組織のあり方が変わり、今後はますます分散的になっていくだろう。もちろん予算や人員は組織や部署ごとに割り振られていることも事実だが、これからは従来の組織の枠組みに縛られないコラボレーションがますます増えていく。そのとき重要になるのは、すべての内製化を目指すことではなく、お互いの特性や価値を正しく理解しながらコミュニケーションをとれる環境をつくることだ。横浜銀行が実践したDXは、第一にはAMLのモニタリング業務の高度化を実現するものであり、第二には、企業がDXに挑戦していくための作法を多くの人々に教えてくれるものだったのかもしれない。

※ご登壇者さまの所属役職は講演時(2020年7月)の情報です。

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