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2022年12月09日

「脱炭素」を実現するビジネスの新潮流
~カギを握るのは「CO2の見える化」~

2022年11月9日~12月8日に日経電子版広告特集にて掲載。
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 脱炭素社会の実現に向けて世界が大きく動いている。地球規模で環境負荷の削減は、特定の企業や業界による“孤軍奮闘”では太刀打ちできない。個々の企業や組織が問題意識を持ち、いかに分野を超えて協調していくか。これが大きなカギを握っていると言えるだろう。すでに、日本でも分野を超えて難局に立ち向かう機運が高まっている。リスクの中にビジネスの成長機会や利益確保の可能性も見えてきた。産学官の有識者が「脱炭素ビジネス」の新潮流とその先の未来を語りあった。

中小企業にも対応を迫るサプライチェーンのCO2見える化

木場:
 脱炭素社会の実現は世界共通の課題です。ここへきて、その取り組みのギアが1段も2段も上がってきているように感じます。

平尾:
 2015年の国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)において、気候変動対策の新たな国際枠組、パリ協定が採択されたのをきっかけとして、さらにカーボンニュートラル宣言も機にフェーズが変わったように思います。それまでの企業の脱炭素化は、多くの場合、CSR(企業の社会的責任)の一環という位置づけだったのですが、それが企業経営の“本丸”になりつつあります。

環境省
地球環境局地球温暖化対策課
脱炭素ビジネス推進室 室長
平尾 禎秀氏
東京大学大学院
情報学環 教授
越塚 登氏

越塚:
 同感です。脱炭素化は環境問題ではなく、重大な経済・産業問題であり、もはや待ったなしの状況です。

稲垣:
 NECも脱炭素を含む気候変動対策を重要テーマとし、ICTによる物流の最適化や工場の環境負荷のリアルタイム管理をお客さまと共に推進しています。また、再生可能エネルギーを社会の主力電源にするためのソリューションも開発しました。太陽光、風力発電、家庭や企業の蓄電池や発電設備をICTで管理し、電力を安定供給することが可能です。

 NEC自身も脱炭素化のフェーズを上げていきます。2030年に温室効果ガスを従来比で55%削減し、2050年には事業で使用する電力を100%再生可能エネルギーで賄う計画です。

NEC
経営企画部門 サステナビリティ推進部
シニアプロフェッショナル
稲垣 孝一氏

木場:
 脱炭素化がCSRではなく、経営の“本丸”になりつつあるという指摘は大きなインパクトがあります。これをきちんとやらないと、企業は生き残れない局面まで来ているのですね。その脱炭素化を進める上で、外せないキーワードが「CO2の見える化」です。これに向けて世界の動きが加速していますね。

越塚:
 CO2は目に見えないですし、いくら排出量を減らしたといっても証明するすべがありません。そこで見える化が必要になるわけです。そして見える化をするために欠かせないものが「データ」です。社会の様々なシーンからCO2データを集め、それを共有・交換・連携できるプラットフォームが必要でしょう。

平尾:
 見える化の重要性にあらためて気づかされたのが、2022年4月の東証の市場再編に伴って実施されたコーポレートガバナンス・コードの改訂です。プライム市場上場企業は、気候変動に係るリスクおよび収益機会が自社の事業活動や収益に与える影響について、国際的に確立された開示の枠組みであるTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)などに基づいて情報を開示しなければなりません。そして情報開示にはデータによるCO2の見える化が必要です。

フリーキャスター
千葉大学客員教授
木場 弘子氏

 そのデータは3つのスコープの合算で算出することが求められます(図1)。Scope1,2は自社内の活動の見える化ですが、問題はScope3。これを算出するには、海外を含む上流から下流のサプライチェーン全体のCO2排出量を見える化しないといけません。ですから、大企業のみならず、中小企業も含めた取り組みが必須となるのです。

図1 サプライチェーン全体のCO2排出量の分類
図1 サプライチェーン全体のCO2排出量の分類
自社の事業活動におけるエネルギー燃焼と電力使用によるCO2排出量に加え、海外を含む上流から下流のサプライチェーン全体のCO2排出量を合算し算出。要請に応じられない企業はサプライチェーンから外されてしまう恐れもある

縦割り構造を脱し、産業・社会横断型のデータ基盤を

木場:
 CO2の見える化を支援するため、産学官でどのような取り組みが進められていますか。

越塚:
 日本では脱炭素化の活動を支えるデータ基盤整備の動きが盛んです。これは世界的に見ても進んでいます。政府は行政機関が保有する公共データのカタログサイト「DATA.GO.JP」を2014年10月に開設し、現在2万2000点のデータセットを提供しています。

 公共交通オープンデータ協議会では公共交通に関するオープンデータを提供し、気象ビジネス推進コンソーシアムは気象データの高度利用とそれによる産業活動の活性化を支援しています。東京大学情報学環でもオープンデータセンターを立ち上げ、オープンデータ活用のための先進技術の研究開発と人材育成に取り組んでいます。

 自治体の動きも活発です。東京都は官民連携データプラットフォームの構築に向けて2020年8月より準備会を発足し、活動を続けています。大阪府や高知県でも様々なデータの連携・活用に向けた基盤づくりが進められています。

平尾:
 環境省としても脱炭素経営の支援に向けて産学と共に考え、様々な施策を展開しています。

 地球温暖化対策の推進に関する法律に基づく算定・報告・公表制度、いわゆるSHK制度を整備し、時代に合わせてアップデートしています。「グリーン・バリューチェーンプラットフォーム(GVCPF)」ではサプライチェーン排出量算定の基本ガイドラインや先進の取り組み事例などを発信しています。

 2022年5月からは「省エネ法・温対法・フロン法電子報告システム(EEGS)」の提供も開始しました。オンラインでの報告書の作成・報告が可能になり、脱炭素化の企業活動の効率化につながることを期待しています。

木場:
 脱炭素化は社会全体で考えていくテーマなので、分野を超えた産業・社会横断的な基盤づくりも必要ではないですか。

越塚:
 おっしゃる通りです。ただ、日本はそこがあまり強くありません。一つひとつの取り組みは進んでいるものの、縦割り構造がまだ残っています。異なる分野を超えることが重要な課題だと考えています。

 これを目的として、私が会長を務めるデータ社会推進協議会では「DATA-EX」という構想を打ち出しました。国内のあらゆる産業や行政・自治体のデータを分野間データ連携基盤でつなぎ、国際機関や国際的な枠組みとも連携します。セキュリティーとガバナンスを確保しつつ、公正かつ自由なデータの流通・共有・利活用を促進し、データ駆動型イノベーションを持続的に創出することを目指しています。既に様々な分野から100社以上がこの構想に参加しています。

CO2算出の新ルールをつくり、データの質を高めていく

木場:
 国内でもCO2の見える化に欠かせないデータの基盤づくりが産学官挙げて着々と進んでいることが分かりました。一方で、様々なステークホルダーがデータを利活用するとなると、適正な基準やルールづくりも重要になりますね。

稲垣:
 はい。特に必要となるのは時代の要請に合わせたアップデートだと思います。実はNEC自身がその必要性を痛感しています。

 先ほどのScope3の達成に向けてサプライヤーにもCO2排出削減をお願いしていますが、現在の仕組みは資材調達システムの情報を基にCO2排出係数を掛けて算出しています。資材の調達量がこれだけあるから、CO2排出量もこれぐらいになるという計算です。

 ところがここに大きな矛盾がある。この計算式だと調達量が減らないとCO2が減らない。つまり、CO2排出をゼロにするには調達もゼロにしなければならない。サプライヤーによるCO2排出量の削減努力がまったく反映されていないのです。

 これは早急に改めなければならなりません。そこで2021年10月に電子情報技術産業協会(JEITA)の枠組みの中で「Green x Digitalコンソーシアム」を設立し、越塚先生に座長に就任していただきました。当初は47社でスタートし、現在は約100社が参加しています。コンソーシアムでは様々なワーキンググループが活動しており、NECは「CO2見える化ワーキンググループ」の主査を務め、その中で参加企業様とCO2削減の算定ルール、そのためのシステムづくりの検討を進めています(図2)。

図2 JEITA「Green x Digitalコンソーシアム」が目指すイメージ
図2 JEITA「Green x Digitalコンソーシアム」が目指すイメージ
サプライチェーンの各プロセスでのCO2排出量の実績データは自動的にデータ共有基盤へ蓄積され、正確にCO2排出量を把握できるようになる。サプライチェーンのCO2を「見える化」する仕組みを構築し、適正に運用管理することで、企業間の協働や消費者の行動変容を促し、社会全体の脱炭素化が促進することを目指す

木場:
 今の算定方法では、調達をゼロにしない限りカーボンニュートラルを達成できないというのは明らかにおかしいですよね。適正な算定ルールの実現は、業界の課題と言えそうですね。その算定を行う上で、気になるのが「データの質」です。質が担保されないと、算出した数値が正しいのかどうかも判断できないわけですから。

越塚:
 データの質は重要な視点です。これはサプライチェーン全体で考えなければいけません。そもそも上流のデータの質が悪いと下流も影響を受けてしまうからです。

 データの質には2種類あります。1つは誤差や間違いのないデータの精度です。もう1つは本物かどうかを担保する真正性です。データの改ざんが難しいブロックチェーンなどの最新技術の活用がカギになるでしょう。

 ただし、現状は取り組みが進んでいる企業とそうでない企業があって、質はバラバラの状態。これをどうするかが喫緊の課題です。

稲垣:
 この“温度差”をすぐに解消することは難しいと考えています。Green x Digitalコンソーシアムで考えているのは、良いも悪いも含めてレベルの違いまでシステムの中で見える化することです。そうすれば取引先のデータの質を判断できます。質が十分でないところはその改善を促すことで、全体の質の向上につながります。

企業がまず取り組むべきこととは

木場:
 すべての企業が一気にデータの質を高められるわけではない。だからこそ、質の違いも見える化することが重要なのですね。では、これからCO2の見える化を本格化する、あるいはデータの質を高めていくためには、企業は、まず何から手をつけるべきと考えますか。

平尾:
 まずCO2排出量を算定して、どこにどういう課題があるかを把握することだと思います。そうすればどこが減らせるかが見えてきて、その上で削減目標を立てることができます。

 着手するのは実はそれほど難しくないのですが、目標達成は長い道のりです。道筋を立て、優先順位をつけて、なおかつビジネスロジックの中で経済合理性を考えて計画的に投資していくことが重要です。

越塚:
 CO2の見える化と削減活動をしやすくする環境を整えることも企業がやるべき重要なテーマだと思います。ここは競争領域ではなく協調領域として、NECをはじめとするデジタル企業が、産業界で連携しデータを共有・管理するツールやシステムをつくってほしいと思います。

稲垣:
 こうした期待に応えるべく、NECは脱炭素化を支援する多様なソリューションを提供しています。環境パフォーマンス管理ソリューション「GreenGlobeX(グリーングローブエックス)」はその1つです(図3)。CO2をはじめとする環境負荷データを収集・分析し、そのデータを法令報告やESG調査に活用したり、情報開示するための仕組みも提供したりしています。既に40社以上の導入実績があり、お客さまからは集計業務の短縮や運用コストの低減といった評価をいただいています。

図3 GreenGlobeXの全体イメージ
図3 GreenGlobeXの全体イメージ
CO2だけでなく、水や廃棄物など様々な環境データの一元管理と見える化を実現し、報告書作成やESG経営を支援する。データの入力・集計を効率化するだけでなく、目標・進捗管理も可能だ。グローバルな利用を念頭に多言語にも対応する

気候変動はリスクである一方、成長の機会にもなる

木場:
 ツールをはじめとする環境整備が進めば、企業も取り組みを進めやすくなりますね。これを加速させていくためには、企業側がメリットを実感できることも大切です。取り組みを進めることで、どんなメリットが期待できますか。

平尾:
 これだけのCO2排出量で、こういう製品をつくり供給している。そういう情報は顧客や株主といったステークホルダーとの「対話」のツールになるでしょう。今後はその対話を通じてマーケットが企業を評価するからです。

 異常気象や自然災害が世界各地で発生し、それによって企業はサプライチェーンに大きな影響を受けています。気候変動はビジネスにとって大きなリスクですが、一方で成長の機会にもなり得るのです。例えば、大手のハウスメーカーはCO2排出ゼロの戸建て住宅を売り出し、勝機を見いだそうとしています。脱炭素化に向けた本気度が企業価値に直結してくると思います。

越塚:
 温暖化対策は莫大なコストがかかっています。そのコストはCO2排出量に応じて企業が負担すべきと考えます。欧州では製品の生産にかかるCO2排出量に応じて税金を課する制度が整備され、まずバッテリー製品について2024年から施行されます。

 日本でもこうした制度ができれば、CO2を削減することが、企業の利益につながるという意識が高まっていくでしょう。そういう社会形成に向けて、いち早く先行投資することが大切です。早く動けば、見える風景が変わってくる。そして活動を継続すれば、またその先が見えてくる。これこそが最大のメリットではないでしょうか。

稲垣:
 Scope3はサプライチェーン全体のCO2見える化と削減が求められるため、大手企業だけでなく、取引のある企業はすべてに影響が及びます。対応できないとサプライチェーンの中に入れてもらえない。そんなリスクも考えられます。

 脱炭素化は企業が事業を継続していくための重要な経営課題。不可避の取り組みであり、これが進んでいる企業は市場での存在感も高まっていくと思います。

木場:
 CO2の削減目標を達成する。これはあらゆる企業の責務になりつつありますが、それがゴールではない。これを継続していく企業姿勢が、市場の中でプラスに作用していくわけですね。脱炭素化はまさに企業経営の話ですね。

 今回お話を伺って、CO2を見える化することがビジネスの新潮流になりつつあることを実感いたしました。持続可能で豊かな社会の実現に向け、産学官の連携による取り組みがますます加速していくことを期待しています。

平尾 禎秀
環境省 地球環境局 地球温暖化対策課 脱炭素ビジネス推進室長
2022年7月から現職。脱炭素化に取り組む事業者の支援等を担当。これまでリサイクル推進室長兼循環型社会推進室長、広報室長、大臣秘書官、欧州連合日本政府代表部一等書記官等を歴任。
越塚 登
東京大学大学院 情報学環 教授
1994年 東京大学大学院理学系研究科博士課程修了、博士(理学)。2002年よりYRPユビキタス・ネットワーキング研究所・副所長を兼務。専門は計算機科学(Computer Science)。特に、Ubiquitous ComputingやIoT(Internet of Things)やオープンデータ、オペレーティング・システム、コンピューターネットワーク、ヒューマンコンピュータインタラクション、ブロックチェーンなどの研究に取り組んできた。近年は、情報システムだけでなく、法制度やビジネスモデルも含んだ社会基盤としての情報プラットフォームの構築に関心を持つ。具体的には、汎用識別子ucodeを核としたユビキタスIDアーキテクチャや、スマートシティのプラットフォームとしての都市OS、データ連携基盤(DATA-EX)、情報通信技術を活用した教育手法(EdTech)などの研究・開発・社会実装に取り組んでいる。
稲垣 孝一
NEC 経営企画部門 サステナビリティ推進部 シニアプロフェッショナル
1993年4月入社。経営情報システム本部配属。2002年4月環境管理部へ異動。
「環境経営ビジョン2020(2003.3)」、「環境経営行動計画2020/2030(2016.7)」、「2050年を見据えた気候変動対策指針(2017.7)」、「環境ターゲット2030(2021.7)」などのNECグループにおける環境長期ビジョン・環境経営戦略を策定し活動を推進。その他、環境教育・意識啓発、環境コミュニケーション(ESG IR、ESG調査対応、環境情報発信)などを担当。2021年11月からGreen x Digital コンソーシアム 見える化WGの主査として業界横断でのサプライチェーンCO2の見える化を推進。
木場 弘子
フリーキャスター/千葉大学客員教授
千葉大学教育学部を卒業後、1987年 TBSにアナウンサーとして入社。
在局中は同局初の女性スポーツキャスターとして、『筑紫哲也ニュース23』など多数のスポーツ番組を担当。1992年 プロ野球・与田剛氏(中日前監督)との結婚を機にフリーランスに。妻、母、キャスターの三役をこなす存在として、テレビ出演、コメンテーター、モデレーター、講演など多方面で活躍。教育や環境・エネルギーに関わる活動が多く、エネルギー施設等への取材は60を超え、最もヘルメットを被っている女性キャスターとして現場主義がモットー。また、各界TOPへのインタビューは300人を超える。生活者の視点を大切にこれまでに12の省庁で審議会のメンバーを務めた。2019年6月に株式会社INPEX社外監査役、2022年6月にはJR東海初の女性取締役に就任。日本港湾協会理事。「予防医学指導士」の資格を持つ。

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