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2022年03月31日

ドローン開発の最前線
~実証で見えてきた空の産業革命へのカウントダウン~

 ドローンの小型化・低価格化が進み、空撮や測量、農薬散布などに活用する動きが広がっている。しかし、さらなる活用に向けては乗り越えるべきハードルもある。それは、都市部を中心とした有人地帯での自律・自動飛行である。これが実現すれば、ドローンの活用はさまざまな社会課題に貢献できるようになるだろう。ただし、そのためには、安全・安心を担保し、多くのドローンを同時に制御する仕組みが不可欠だ。こうした中、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、NEDO)は、2017年に「DRESSプロジェクト」を発足。ドローンの社会実装を加速させるべく、官民一体で実証実験を行ってきた。その成果と課題や今後の展望について、キーパーソンたちに話を聞いた。

目視外飛行をシステムで支え、グローバル展開を目指す

 空の産業革命の本格化に向け「DRESSプロジェクト(Drones and Robots for Ecologically Sustainable Societies project:ロボット・ドローンが活躍する省エネルギー社会の実現プロジェクト)」が大詰めを迎えている。これは、物流やインフラ点検、災害対応などに活用できるドローンとロボットの開発促進と社会実装を目指すプロジェクト。2017年度から5年間にわたり、システム構築や飛行試験が行われてきた。

 このプロジェクトを立ち上げた背景について、DRESSプロジェクトのプロジェクトマネージャーを務めるNEDOの森 理人氏はこう語る。

 「2015年、首相官邸にドローンが落下する事件が発生し、ドローンに対する規制が強化されました。最近まで欧米も含めて、目視が可能な近距離でしかドローンが利用できないのが実情でした。しかし、ドローン本来の価値は、“人が行けない場所に機体を飛ばして、仕事をさせる”こと。そこで、目視外でもドローンを安全・安心に飛行させるシステムを開発し、グローバルに展開できる機体や仕組みをつくっていこうというのが、本プロジェクトの狙いです」

国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
ロボット・AI部 主任 プロジェクトマネージャー
森 理人(もり まさと)氏
図1 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の役割
図1 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の役割
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 DRESSプロジェクトの期間は、2017年度から2022年度までの5年。具体的な研究開発項目としては、「ドローンの運航管理システムと衝突回避の技術開発」「性能評価基準の開発」「国際標準化」などを設定。ドローンを安全に飛行させるための仕組みや技術を開発するのみならず、ドローンの性能や安全性を評価するための物差しづくりも行っている(図2)。

図2 DRESSプロジェクトの全体イメージ
図2 DRESSプロジェクトの全体イメージ
ドローン機体の性能評価基準の開発や、無人航空機の運航管理システムと衝突回避技術の開発、ドローンに関する国際標準化の推進などをテーマに掲げている

近未来には数万機のドローンが都心上空を飛行する?

 今回のDRESSプロジェクトの柱の1つが、「無人航空機の運航管理システム及び衝突回避技術の開発」だ。簡単にいえば、ドローンの運航を管理し、機体同士が衝突するリスクを回避する仕組みの開発である。

 NECは、有人航空機の管制システムで培った知見を活かし、本システムの研究開発を担当。その一環として、複数のドローンの飛行計画を管理し、同じ空域で飛べるようにするための技術開発を進めている。

 この開発に携わるNECの木島 憲一は次のように語る。「有人航空機の管制システムは、決められた管制のルールに基づいて開発を行うのですが、ドローンは運航のルールがない状態からのスタート。運航管理の仕組みも一から立ち上げなければなりません。やや進んでいる海外の情報を調査したり、NECの中央研究所の知見を入れたりしながら手探りで進めました。私自身も有人機の航空管制システムを担当していたので、その知識をドローンの運航管理に活かすことができれば、との想いがありました」。

NEC
クロスインダストリー事業開発本部
シニアエキスパート
木島 憲一(きじま けんいち)

 開発にあたっては、まずシステム全体のアーキテクチャーをつくり、ドローンの運航ルールや、システム間でデータをやりとりする方法などを決定。その方針に基づいて個々の機能を開発し、福島ロボットテストフィールドで実証実験を行っていった。

 「ドローンが活躍する社会においては、全国でさまざまな事業者が複数のドローンを飛行させることになります。そのような状況を想定したユースケースの検証、使いやすいUI、システム障害への対応なども検討しました」(木島)

 実証ではプロジェクトメンバーのみならず、一般事業者も含めた事業者で同じ運航管理システムに接続して飛行計画や飛行状況を共有し、ドローン飛行が安全に行われるかの評価を実施した。「最終的には、29事業者1時間1平方kmに146機のドローンを安全に飛行させることができ、運航管理システムの有効性を実証することができました」と木島は語る。

図3 運航管理システムの画面イメージ
図3 運航管理システムの画面イメージ

 2020年度には、複数の運航管理システムの統合や機能拡張を目的としたプロジェクトがスタート。ドローンの全国展開と大量飛行時代の到来を念頭に置き、スケーラビリティや自然災害への対応を検討していった。

 「近い将来、本格的な物流ドローンの時代が到来すれば、1時間あたり数千機、数万機のドローンが都心の上空を飛行することになるかもしれません。こうした状況に耐えうるシステムとはどうあるべきかを考え、取り組みを進めていきたいと思います」(木島)

ドローン版ナンバープレートで「空の安全・安心」の実現を支援

 もう1つ、NECが開発を担当したのが「リモートID」だ。リモートIDとは、機体ごとに与えられるIDのこと。今後、膨大な数のドローンが空を飛行する時代が来れば、空の安全を担保するためにも、車のナンバープレートに相当するIDが必要になる。

 今後、さまざまなドローンが飛行する場合、公共安全の観点から、ルールを無視したり、無許可で飛ばしている機体を取り締まったりする必要性が生じる。そこで不可欠となるのが、リモートで機体のIDや所有者・運航者の情報、飛行を許可されているかを識別する仕組みというわけだ。

 このリモートIDの研究開発においてNECは主に「機体識別技術」という領域を担当した。「リモートIDの無線機から発信される情報を活用して、どうすれば機体のなりすまし対策ができるのか。トイドローンから大型機体に至るまで、多様な無人航空機に搭載するためにはどのようなシステムが必要なのか。あるいは、電波を正確に発信するための評価基準とはどうあるべきか。こうした観点から検討を重ねました」とNECの田靡 哲也は語る。

NEC
クロスインダストリー事業開発本部
シニアエキスパート
田靡 哲也(たなびき てつや)

 だが、システムの実装に向けた道のりは決して平坦ではなかったという。「リモートIDと識別の研究は、2022年6月に改正されるドローン登録制度と密接に関与しています。機体が小さくなればなるほど、搭載するデバイスも小さくする必要がある一方で、地上からでも飛行しているドローンの情報を読み取れるように、正確かつ遠くまで情報を飛ばす仕組みもつくる必要がありました。その両立は非常に難しいものでしたが、NECのデバイス開発技術のノウハウを活用しながら進めていきました」と田靡は振り返る。

 実証では、トイドローンに搭載可能な10g以下のリモートID試作無線機を開発して通信評価を実施。リモートID試作無線機を搭載した高度150mを飛行するドローンと地上端末で最大受信成功率を測定し、水平距離300m以上で最大通信成功率100%の性能を確認することに成功した。

写真1 リモートID試作無線機(基盤タイプ)
写真1 リモートID試作無線機(基盤タイプ)

 「今回の取り組みが発展すれば、将来的には例えば、家の上を知らないドローンが飛んでいるときに、アプリを使ってそのドローンがどこの誰のものか、どんな用途か、きちんと許可されているものなのかがわかるようになるでしょう。これからドローンがさまざまなサービスを提供するようになったとき、人々が安心してそのサービスを受けられる。そんな社会の実現につながるのではと考えています」(田靡)

災害対応や物流など社会課題の解決に向けたドローンの活用へ

 今回の実証実験の成果を活用することで、今後、どのようなサービスが可能になるのだろうか。大きな期待を寄せられている領域の1つが災害対応だ。

 通常、大規模な災害が発生すると、ヘリコプターが現場に急行して、被災者の救助や被害状況の把握を行う。本来であれば、詳細な調査を行うため、ドローンも同時に出動させたいところだが、今はヘリとドローンが飛行空域を共有できる仕組みがないので、時間差で飛行させたり、アナログな調整をしたりしているのが実情だ。「このような運航管理システムで飛行経路を最適化できれば、より効率的な運用が可能となる。ヘリコプターだけではわからない細かな現場の情報もよりタイムリーに入手できるようになるでしょう。まずはそういうところから、この実証成果が貢献できるのではないかと期待しています」(森氏)。

 実際、今回の実証でも、災害対応のユースケースを検証している。運航管理システムを使い、災害発生時に、飛行中の通常のドローンは着陸させ、災害エリアには災害対策用のドローンのみ飛行を許可するという内容だ。このように、災害時にドローンが活躍するための仕組みづくりは着々と進んでいる。

 ほかにも、物流やインフラ点検、警備といった領域でもドローンに期待するところは大きい。

 「インフラ点検の領域でいうと、人の目や手が届きづらい、例えば送電線などの点検は特にドローンが活躍できると思います。物流の領域では、最近、コロナ禍でネット通販の利用が加速し、小口の物流が増えたことで、トラック運転手の人材不足が浮き彫りとなりました。“物流クライシス”が叫ばれる中、解決すべき課題は山積しています。その解決に向けた取り組みも既に始めています。例えば、2021年11月に行われた実証実験がその1つです。仙台と山形をつなぐ幹線道路は国道48号線しかなく、毎日のように渋滞が発生している。そこで、『ドローンを使えば物流を効率化できるかもしれない』という物流企業からの期待もあり、検証を進めました。運航管理システムでリスクを低減しながら、ドローンで物流サービスが提供できるコストレベルまで到達すれば、こうした問題の1つの解決手段となるでしょう。あるいは買い物難民が多い過疎化地域にも利便性の高いサービスを提供することが可能になるかもしれません」(森氏)

社会受容性の向上なくして社会実装は進まない

 ただし、こうしたドローンの本格的運用に向けて、解決すべき課題もある。その1つは、社会受容性の問題だ。上空からの落下事故に加えて、重要施設への侵入やテロ攻撃など、ドローンの安全性に対する社会的な懸念は根強い。ドローンに対する社会受容性を高めていかない限り、その社会実装を加速させることは難しい。

 「いよいよ2022年12月から目視外での第三者上空飛行がスタートします。ドローンで実現できることが増え、活用も爆発的に広がっていくと考えています。そこでは、DRESSプロジェクトで培ってきた運航管理などの成果が役立つはずです。ドローンの運航や、機体自体の安全性を高めることは、社会受容性につながると考えています。今はヘリコプターが上空を飛んでいても、落ちることを誰も心配しないですよね。さらに、ドローン活用の普及には、そういった技術による安全性の向上と社会受容性の確立、多くの方々に活用のメリットを感じていただけるような取り組みが必要になると考えています」(森氏)

 こうした点を踏まえつつ、ドローンの可能性を広げ、社会課題の解決につなげていくために、NEDOではさらなる取り組みを行っていく考えだ。

 「2022年度、経済産業省は『次世代空モビリティの社会実装に向けた実現プロジェクト』を立ち上げます。これを受け、NEDOもドローンの本格的な社会実装に向けて取り組んでいくことになりますので、多くの企業や研究機関からのよい提案を期待しています」(森氏)

 多くのことが具現化しつつあるものの、ドローンが活躍する空の産業革命への道のりは、緒についたばかり。NECでも最先端テクノロジーを活用しながら、さまざまなパートナー企業と連携してエコシステムをつくりあげていく考えだ。すでに将来に向けた取り組みも始めている。

 「今年度の2月にドローンを飛行させるフィールド『NECモビリティテストセンター ドローンフィールド』を開設しました。ここでは今後、ドローンの活躍が期待される点検、防災などの領域で、ドローン社会実装を加速するための技術検証を行っていく予定です。今回の実証で得たノウハウやNECのAIや画像解析技術も活用し、ドローンを活用した新しいサービスを創出し、社会課題の解決に貢献していきたいと考えています」(田靡)

NECモビリティテストセンター ドローンフィールド

NECモビリティテストセンター ドローンフィールド

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