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ネスレ日本CMOが語る。なぜデジタルが必要なのか

2018年02月08日

 企業のデジタル化が経営自体にインパクトを与える時代が訪れた。メーカーにとっての顧客の定義や関係性が変化する中、何を提供できる企業が勝ち残れるのか。C&Cユーザーフォーラム&iEXPO2017特別セミナー「カスタマー・ドリブン・マーケティングデジタルで変わる企業と顧客の関係性」(主催:NEC)に登壇する、ネスレ日本CMO の石橋昌文氏に話を聞いた。(聞き手:ベストインクラスプロデューサーズ 菅恭一氏)

手段を「目的化」していないか。

菅氏:
 今企業のデジタルトランスフォーメーションの必要性が叫ばれています。ネスレ日本では、どのようにとらえていますか。

石橋氏:
 新しい現実に合わせて、我々も施策を変えなければなりません。宣伝媒体がテレビからデジタルへシフトしつつあるので、デジタル化を進めていかないと世の中に逆行してしまう。あくまでデジタルという手段が必要な戦略だからであり、トランスフォーメーションが目的ではありません。

菅氏:
 デジタル化が目的ではない、と。確かに、「何のためのデジタル化か」を定義できていない企業も多いです。

石橋氏:
 「目的と手段」が逆転している企業もあるようです。マーケティングとは何か、カスタマーの定義から始まり、目的を明確にする。そのうえで初めて、手段であるデジタルが活用されます。

菅氏:
 ネスレ日本が定義するマーケティングとカスタマーとは何でしょうか。

石橋氏:
 ネスレではマーケティングを「顧客の問題解決のプロセス」と定義しています。顧客を定義し、問題を探し出し、解決策を生むこと。これが私たちの考えるマーケティングです。

 この定義に照らすと、カスタマーは必ずしも最終顧客とは限りません。
従来は、メーカーなら小売り、卸、あるいは消費者がカスタマーでした。しかし、今の我々にとっては、人事などの他部署も、OB・OGも、将来社員になるかもしれない学生も、カスタマーです。

 マーケティングとは、問題解決のプロセス。マーケティング部門だけの仕事ではなく、全社のあらゆる部門がマーケティングをする。いわゆるマーケティング経営です。つまり、社員おのおのが、自分たちの業務の中に存在する「顧客の問題解決」を目指しています。

「問題解決」がダウントレンドを食い止める

石橋氏:
 先日我々がリリースした「ネスカフェコネクト」を例に「問題解決」についてお話ししましょう。これは月額500円で専用タブレットとバリスタiが使え、タブレットに話しかけることでコーヒーをいれられるというサービスです。専用タブレットのアプリケーションとLINEが連動し、コーヒーを飲むと相手のLINEへスタンプが届きます。音声操作で簡単にメッセージのやり取りができるので、離れて暮らすご両親やお孫さんなど、離れた家族と無理なくそっとつながることができます。

菅氏:
 高齢者と場所が離れて暮らす家族など、人と人のコミュニケーション上の距離も解決すべき問題として設定し、サービスを設計されているということですね?

石橋氏:
 コーヒーだけを売ろうと思うと、スーパーやディスカウントストアで特売されていて、シュリンクしていくでしょう。「問題解決」をやっていくことで、ダウントレンドに対応できる可能性が生まれるのです。

 このように「問題解決」という視点でやっていかないと、将来的にビジネスは続かないのではないでしょうか。

菅氏:
 とすると、社員の「問題発見力」を育成することが、ポイントですね。

石橋氏:
 そこがスタートだと思います。
「マーケティングを何のためにするのか」を定義できていない企業も多い。これでは、いくらリサーチや広報宣伝をやったとしても、意味がありません。
これらはマーケティングの一部の施策であって、そういった施策を統合してマーケティング全体を見渡せる社員や部署がないときちんと機能しないのです。

扇風機とエアコンから読み解くイノベーション

石橋氏:
 実践していく上で社員に伝えているのは、顧客の「顕在的な問題」と「潜在的な問題」を分けて考えるということです。顕在化している問題の解決は、リノベーションであってイノベーションではありません。

 実例としてよく使うのが、扇風機とエアコンです。

 かつて、暑い部屋の中で使えるものは、うちわと扇子だけでした。あるとき、電気が発明されて、扇風機ができた。自分であおがなくても、スイッチを押すだけで、空気が送られてきて涼しく感じる。

 これがイノベーションです。その後、追加された首振り、タイマー、強さ変更などの機能はリノベーションであってイノベーションではありません。

 次のイノベーションは、エアコンができた時です。同様に、後から追加された除菌やマイナスイオンなどの機能は、リノベーション。

 突き詰めると、「涼しく感じたい」というニーズに対するイノベーションは、扇風機とエアコンしかなかったということです。

 逆に言えば、顧客自身が気づいていない問題を発見し、解決策を見いだせればイノベーションになり得るのです。

 ネスレ日本では、2011年から社内で「イノベーションアワード」を行っています。社員が個人ベースで自分の顧客を定義し、その顧客が抱えているであろう問題を提示し、問題解決策を考え、実行するというものです。

 初年度は応募が約70件でしたが、7年目の今回は約4700件。社員が計2700人ですので、1人あたり2件弱の応募ということになります。

 重要なのは、実行ベースであって、アイデアコンテストではないこと。個人では成立しないので、当然、周りを巻き込みます。誰が最も貢献したかも評価基準です。

菅氏:
 全社員が考える文化を根付かせているのがすごいですね。マーケティングは決してマーケティング部署のものではなく、ビジネスそのものという理解が社員に浸透しているのですね。

上質なブランド体験をデジタルで

菅氏:
 YouTubeの「ネスレシアター」などの動画が面白かったです。かなりデジタルに投資されているなという印象がありますが、どのように投資判断をしていますか。リーチではテレビには勝てないし、購買につながるという裏付けも難しいのではないでしょうか。

石橋氏:
 これも、顧客が抱えている問題は何かという視点からでした。
特に若い方はテレビを見ない。スマホやタブレットで映像を見ている人が増えていますよね。彼らにリーチする手法として、テレビだけでいいのかという課題がありました。

 そうすると、デジタル上のメディアを使うことが選択肢になりました。弊社のブランドや製品に興味を持った人に、正確で優良な情報を伝えたい。そもそも、どうしたら興味を持ってくれるか考え続け、行き着いたのがオウンドメディアでした。

 ブランドを知りたい人、楽しみたい人、買いたい人、さまざまな人が、オウンドメディア「ネスレアミューズ」を通して、ブランド体験ができる場をつくってきました。ECを始めたのもその一環で、今や、ネスレ日本の売り上げのうち、約15%がECによるものです。

 また、YouTube上につくった「ネスレシアター」も、ブランド体験ができる場の一環としての施策です。ブランドの世界観をコマーシャル的ではなく、良質なエンターテインメントコンテンツとして見てもらうことで、ブランド体験をしてもらいたいなと。

 コストの問題や規制があるテレビでは、ハードルが高いです。しかし、YouTubeなら30秒のテレビコマーシャルのコストで10分くらいのコンテンツがつくれます。

 もちろん、リーチは広くはありません。しかし、ネスカフェとキットカットの認知度はほぼ100パーセントです。そうすると15秒でリーチをとる必要はないのです。

 リマインドもしかり。店頭にはネスカフェもキットカットもあるので忘れられるブランドではないと思うのです。

 ですから、エンゲージメントを高める施策の方が、定着したブランドにはあっています。でも15秒のテレビCMでは難しい。ですから、デジタルに振り切ろうと思ったわけです。

デジタルとリアルの融合が顧客を結ぶ

菅氏:
 一方で、デジタルでは得られないものもあると思います。

石橋氏:
 デジタルで得られないものはやはり「リアルな体験」です。モノでないと体験はできないことがあります。

 今、忙しくて時間がないと感じる人が増えている。なおかつ、少子高齢化が進む中で、大家族向けの250gのコーヒーのニーズは減っています。

 以前は、粉にお湯を注いでコーヒーをいれていました。今では、「バリスタ」にカップを入れ、ボタンを押して1分後には飲むことができるようになりました。「モノ」があることで、便利で楽しくコーヒーを味わう場を提供できるようになりました。

 さらに、デジタルを使ってコミュニケーションを円滑にし、より良い「リアルな体験」を提供するのが、「バリスタi」です。「バリスタi」では、遠くに住んでいる家族とコネクトすることができます。例えば、コーヒーを飲んでいるのは、神戸と東京でも、お互いが飲んでいることがデジタルを通じてわかる。

 「うちの親、コーヒー飲んでいるな」と、コーヒーを飲むという体験がその場で共有される。これが、デジタルとリアルの融合であると思います。

 デジタルとリアル、両方あるのが強い。特にインターネット抜きで顧客の問題解決も図れない。

 しかし、メーカーはインターネット関連のプラットフォームを持っているわけではありませんから、自社で完結できません。この「バリスタi」は、大手IT企業との協業で実現しています。今や1社で顧客の問題を解決する時代ではないのです。

問題解決を目指した共創が、イノベーションを生む

菅氏:
 今、オープンイノベーション1.0から、2.0が提唱されていますね。メーカー主導ではなく、生活者視点で共創型のイノベーションになっていくべきだと。

石橋氏:
 たとえ技術的なイノベーションがあっても、それが誰の問題解決にもならなければ、そこで終わってしまいます。ですが、顧客の問題解決のために必要なものという視点で掘り起こしていくと、そこには解決策がある。そういう考え方をする必要があるのでしょうね。

菅氏:
 まずは、やはり「問題発見」ですね。新しい問題の発見と解決がイノベーションであるということですね。イノベーションは技術やアイデアの開発だけでなく、市場に受け入れられることで初めてイノベーションと呼べるものになるわけですが、この成否の分かれ目として「顧客の問題解決」を目的としてスタートしているかどうか、がとても重要になるということですね。

(編集:久川桃子 構成:湯川うらら 撮影:小沢朋範)

※記事内容は、2017年9月取材当時となります。

※本記事は、NewsPicksにて掲載している記事を転載しております。

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