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2018年08月24日

社会価値創造レポートIndustry Eco-System

解決の鍵を握るバリューチェーン変革
食料ロス・廃棄削減は国際的なミッションへ

 本記事はPDFでもご覧になれます(PDFダウンロードにはNEC ID登録が必要です)

 新興国を中心に世界人口が増加し続けている状況の中、食料不足の問題は極めて深刻になりつつあります。国連の食料支援機関である国連WFP(World Food Programme)は世界の栄養不足人口を約7億9500万人と算出しており、世界人口の9人に1人が健康で活動的な生活を送るための十分な食料を得られていないとしています。

 その一方で、先進国と新興国のいずれにおいても、日々大量の食料が失われています。食料生産のためには、貴重な水を消費するだけでなく、温室効果ガスも大量に排出されることになります。これら問題の原因として注目されているのが、バリューチェーンの各段階における食料の減少(食料ロス)や小売・および最終的な消費で発生する食料廃棄です。

 世界中で食料ロス・廃棄削減の取り組みが拡大する中、課題解決に向けた企業の積極的な取り組みは社会的要請であるとともに、企業価値向上にとっても重要な経営課題です。持続的成長の観点で、社会課題の解決に力を注ぐ企業に対し積極的に投資するESG投資を意識した取り組みも必要性を増しています。

 NECは、さまざまな事業者が連携して食料ロス・廃棄の問題に向き合い、バリューチェーン全体でイノベーションを生み出すことが重要と考えます。本レポートでは、事業者間連携と最新技術で課題解決を目指す「需給最適化プラットフォーム」を中心に、NECの考えや取り組みについて紹介します。

地球環境にも影響を及ぼす食料廃棄の問題

 一部の先進国を除き、世界全体での人口増加はとどまるところ知りません。国連の最新データによれば、2050年の世界人口は約97億人になるとの予測で、2015年の約73億人と比べると約1.3倍も増加すると考えられています。人口が増加すれば、当然ながら必要となる食料の量も増えることになります。しかし食料生産には多くの水が必要になるほか、その過程において温室効果ガスも排出されてしまうため、貴重な地球資源を浪費することにもつながってしまいます。

 この課題解決を考えるうえで重要となってくるのが、食料ロス・廃棄の解消です。国連食糧農業機関(FAO:Food and Agriculture Organization of the United Nations)の調査によれば、世界全体で年間に生産される食料39億トンのうち、約3分の1にあたる年間13億トンもの食料が人々の口に入ることなく捨てられているのが現状です。この誰にも食べられない食料の生産のために、約33億トンの温室効果ガスが排出されているほか、250立方キロメートルもの淡水が使われているのです。

捨てられる食料を造るために消費される資源
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 適切な量の食料を生産し、無駄なく消費者に届けることができれば、地球資源の浪費を解消することにつながり、持続可能な社会の実現にも近づくでしょう。

 国連が2015年に採択した『我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ』では、「持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)」を定めています。そこで記述されている「今日の世界」では、「依然として数十億人の人々が貧困のうちに生活し、尊厳のある生活を送れずにいる」としており、さらに「多くの国の存続と地球の生物維持システムが存続の危機に瀕している」と警告しています。

 このSDGsでは、食料ロス・廃棄にもフォーカスしています。具体的には「2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の1人あたりの食料廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・バリューチェーンにおけるロスを減少させる」という目標が掲げられました。我々はいますぐにでも食料ロス・廃棄の削減に真剣に取り組んでいかなければならないのです。

年13億トンもの食料ロス・廃棄を防ぐ世界での呼びかけ

 世界中で生じている年間13億トンもの食料ロス・廃棄の経済的損失は、約76兆円に及ぶとFAOは試算しています。食料ロス・廃棄は日本でも看過できない問題となっており、農林水産省は国内消費量全体の2割にあたる年間約1700万トンの食料が廃棄され、このうち本来食べられるのに捨てられている食品ロスは年間約500.800万トンと推計しています。これは世界全体の食料援助量(約400万トン)の約2倍、日本の米生産量(約850万トン)に匹敵する量です。

 このような状況を改善するために、食料ロス・廃棄に対する世界的な取り組みがすでに進められています。2011年からFAOをはじめとする国際機関や民間企業は、連携して食品廃棄物削減に取り組む「SAVE FOOD」キャンペーンを実施し、2013年にはアジア太平洋地域でも展開しています。また、欧州では欧州議会において2014年を「ヨーロッパ反食品廃棄物年」と位置付け、2020年までに食品廃棄物を半減させるための資源効率化促進対策を加盟国に義務付けるなど、欧州全体での取り組みが始まっています。

 米国においても、食料ロス・廃棄は重要な問題だと捉えられています。同国の環境保護庁と農務省は、食品廃棄物の50%削減を国家目標として掲げています。これを達成するために、州や公益財団、民間団体など、さまざまな組織と連携して取り組みを進める姿勢を示しています。

 2017年、世界資源研究所(WRI)は、世界の食料ロス・廃棄の削減に取り組む政府や企業などのグループ「チャンピオンズ12.3」の調査報告書を公表しました。報告書では、17カ国の700企業の1200事業所において食品廃棄物・食料ロスの数値化や監視、食品貯蔵・加工処理の変更など、食品廃棄物削減の取り組みにより、ほぼすべての事業所で利益が上回り、約半数で14倍以上のリターンがあったといいます。また温室効果ガスの削減や食料安全保障の向上など、多くのメリットも出てきています。

 このように国際的な取り組みが進んでいること、また食料ロス・廃棄を重大な問題と捉える企業の数も増えています。前述したように地球環境への悪影響もあり、今後多くの人々にとっての重大な関心事となる可能性は高いでしょう。食料購入や外食といった場面において、食料ロス・廃棄への取り組みが消費者の意思決定に影響する、そういった将来も十分に考えられるのではないでしょうか。

食料ロス・廃棄削減に向けた世界の取り組み
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先進国と新興国で異なる食料廃棄の理由

 食料ロス・廃棄は生産から消費までバリューチェーン全体で生じていますが、先進国と新興国では廃棄されるタイミングに違いがある点に注意が必要でしょう。

 先進国では食料の多くが加工後から消費段階で廃棄されています。例えば新商品の販売、あるいは規格の変更といったタイミングでは、既存の商品が店頭から撤去されて廃棄されることになります。業界の商習慣や食に対する安全・安心の考え方も、廃棄量が増加する大きな原因となっています。家庭における食べ残しや、購入したものの期限切れとなって捨てられる食品の量も決して少なくありません。

 これに対し、新興国では生産や流通の段階で食料が廃棄されています。未発達な収穫技術をはじめ、産地で多くの食料が廃棄されているほか、安全な輸送インフラが整っていないこと、また包装技術の低さから、流通経路上でも多くの食料が捨てられています。

 実際、ヨーロッパと北アメリカでは1人あたり年間280.300キログラムの食品廃棄物のうち、消費者によって捨てられる食料は95.115キログラムですが、サハラ以南アフリカと南・東南アジアでは1人あたり年間120.170キログラムの食品廃棄物のうち、同じく捨てられる食料は6.11キログラムに過ぎません。

 この問題を解決するには、先進国と新興国で分けて対策を考えていかなければなりません。食料消費が旺盛な先進国では、主にバリューチェーン上の各業者の協調性の欠如や消費者の習慣が食料を廃棄に導いています。消費者が不完全な外見の食料品を拒絶するような品質基準を求めることや、捨てることをいとわない態度によって、業者自身に賞味期限切れ間近の食品を事前に回収し廃棄するという自主規制を誘発させ、大量廃棄を生み出しているのです。

 一方、新興国で取り組みを強化する必要があると考えられているのが「コールドチェーンシステム」の整備です。収穫された農産物や海産物を、生産から流通、そして消費の段階に至るまで低温に保つ仕組みがコールドチェーンシステムであり、これが整備されている先進国では流通経路上で痛んでしまう食料の割合が抑えられています。しかし新興国にはこのようなインフラが整備されていないため、加工前の段階で多くの食料が廃棄されています。

 食料ロス・廃棄を半減させるためには、それぞれの国や地域の事情に応じてバリューチェーン全体を見直す必要があります。実際、将来の規制予測に対応するため、大手メーカーや小売をはじめとする企業や団体でその動きは加速しつつあります。コカコーラやネスレ、キリン、味の素など、世界の食品メーカーや流通企業など約400社が参加しているCGF(The Consumer Goods Forum)は、2025年までに製造や販売の過程で生じる食品廃棄物を半減する方針を決めました。すでに、多くの企業や業界団体が食料ロス・廃棄に対して自主的に取り組み始めています。

各地域における消費および消費前の段階での1人当たり食料のロスと廃棄量
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バリューチェーン全体で食料ロス・廃棄削減に取り組む

 食料ロス・廃棄削減には、農業や酪農業、漁業といった生産(一次産業)から加工を中心とする生産(二次産業)、そして卸から小売、生活者に至るまでバリューチェーン全体で改善点を洗い出し、具体的な対策に落とし込んでいくことが大切です。また効率的かつ効果的に食料ロス・廃棄削減の対策を推進するためにはICTの活用も欠かせません。

 販売の段階では廃棄予定の食料をシェアするさまざまなサービスが立ち上がっています。米国の16 歳の少年が立ち上げた「Waste No Food」は、レストランやスーパーからの廃棄食料情報をもとに慈善団体やホームレスに食料を提供するサービスです。この取り組みはミシュランに掲載されたレストランを含む多くの店舗が賛同し参加しています。

 小売の段階における食料ロス防止で重要なポイントとなるのが「鮮度」です。世界最大のスーパーマーケットチェーンのWalmartは、生鮮食品を適切な鮮度で販売可能とする食品管理システム「Eden」を開発しました。野菜の鮮度を自動測定することで「いつ売り出すのがベストか」という判別が容易に行えるようになり、約90億円の廃棄ロスの防止につながりました。

 バリューチェーン全体を見据えた食料ロス・廃棄削減に向けた取り組みも進められています。イギリスの大手スーパーマーケットチェーンの「Tesco」はSDGsを採用するサプライヤー24 社とパートナーシップ契約を結び活動しています。また高度な予測と発注システムによる廃棄物管理や、寄付アプリを通じてTesco の店舗における余剰食品を地元のチャリティ団体などに提供しています。

 日本においても、生活者、企業、行政、生産者、NPO、学識者などが食料ロス・廃棄問題に取り組む「フードロス・チャレンジ・プロジェクト」を立ち上げて活動しています。また、食品生産や加工業者では間接材や原材料などを購入する際、環境に配慮しているものを優先的に選ぶグリーン調達や製造委託先の環境管理の強化を求めるなど、バリューチェーン全体のグリーン化に向けてさまざまな取り組みが進められています。

 世界中で食料ロス・廃棄削減の取り組みが拡大する中、社会課題の解決に力を注ぐ企業に対し積極的に投資する「ESG投資※1」への関心も高まっています。食料ロス・廃棄削減への対応は社会的要請であるとともに企業の持続的成長にとっても極めて重要な経営課題です。

食・農のバリューチェーンにおける課題
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※1:ESG投資:環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)を重視している企業を選別して行う投資。

「需給最適化プラットフォーム」で食料ロス・廃棄問題の解決に貢献

 食料ロス・廃棄の大きな原因の1つは、刻々と変化する消費環境に対応できずバリューチェーン上の需要と供給の間でミスマッチが生じることです。バリューチェーン上のさまざまな工程で発生するこの問題の解決は、個々の企業や業種の取り組みだけでは限界があります。バリューチェーン全体で情報を共有・活用し需要と供給のミスマッチを解消するために、NECはAI(人工知能)技術をベースとした「需給最適化プラットフォーム」を提供していきます。

 「需給最適化プラットフォーム」により、販売実績や在庫情報、出荷情報などをバリューチェーン上の取引先企業と共有することで、予測精度や情報共有スピードの向上が図れます。これにより、需要予測の変動に合わせて需給バランスの調整が可能となり、バリューチェーン全体の需給最適化を実現します。

 バリューチェーン全体で共有する需要予測では、大量データを処理する能力と高い予測精度に加え、AIの推定理由や根拠を示す高度な解釈が求められます。これらのニーズに応えるのが、NECの最先端AI技術群「NEC the WISE ※2」の1つである異種混合学習技術です。データの中から単一の規則性のみを発見する従来方式では、天候などで条件が変わるデータを高精度に分析することは困難でした。異種混合学習では多種多様なデータの中から複数の規則性を発見し、データのパターンから参照する規則性を自動で選択します。また、異種混合学習技術は予測の裏付けとなる根拠を可視化することができるため、「なぜそれを選ぶべきか」という理由(判断根拠)を確認することが可能です。そして、人はAIが出したさまざまな示唆に基づき、より高度な意思決定を行うことができるようになります。

 食料の需要予測の精度向上では、予測で利用するデータの量と質が求められることから、ステークホルダーのデータのみならず、気象情報やイベント情報など、さまざまなデータが必要となります。NECと一般財団法人日本気象協会は、気象データの提供や商品需要予測に関するコンサルティング実績などをもとに、多様な業種・業界における製造、卸・物流、販売のバリューチェーン全体で需給を最適化するビジネスにおいて協業しました。NECは「需給最適化プラットフォーム」を通じて、今後もさまざまなパートナーとの連携を広げていきます。

 NECはこの取り組みを通じて食料ロス・廃棄問題に加え、生産や輸送時に排出されるCO₂の削減、消費エネルギーや水など利用資源の削減といった環境問題の解決に貢献していきます。さらに、関連するステークホルダーとSDGsの達成に取り組むともに、グローバル競争に勝ち抜くための企業価値向上にも貢献していきます。

需給最適化プラットフォーム全体イメージ
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※2:「NEC the WISE」は、人の知的創造活動を最大化するNECの最先端AI技術群です。

バリューチェーンの変革を通じて、社会価値創造を目指すNEC

 NECではさまざまな社会課題に対して、世界最先端のAIおよびIoT※3 技術を活用し、「造る」、「運ぶ」、「売る」のバリューチェーン全体の人と、モノ、プロセスをつないで新しい価値を提供する、「バリューチェーン・イノベーション」の実現に向けて取り組んでいます。前述のAIを活用した需要予測への取り組みのほか、各プロセスの代表例をご紹介します。

 まず「造る」において、自らが取り組んできたものづくり革新やIoT実証・実装の知見をベースに「NEC Industrial IoT」を提供しています。その中の「Digital Manufacturingソリューション」は、製造現場における情報の見える化によるプロセス改善、異常の早期発見、現場オペレーションの効率化や最適化を支援しています。こうした取り組みを食品の製造現場に適用し無駄の排除や品質向上を図ることで、食料ロス・廃棄問題への対処を可能にします。

 また「運ぶ」の課題解決のために、NECはグローバルの現場で物流を可視化する「Logistics  Visualization System」を提供しています。「何が、どこへ、どのように届くのか」についてリアルタイムな情報提供を通じて在庫管理やマネジメントの高度化を実現し、物流バリューチェーンにおける全体最適を図ります。物流インフラ整備のために「Logistics Visualization System」を導入した事例では、輸送中のコンテナの正確な位置情報をリアルタイムに確認することで、移行リードタイムの短縮や在庫削減、生産計画の精度向上などを実現できました。食品においても物流の可視化により流通経路における廃棄ロスの削減につなげることが可能です。

 さらに食料廃棄の観点から「売る」プロセスで重要となるのが、小売店の店舗で使われている各種設備の安定稼働です。NECの「ITサービス-LCM」は、センシングやAI技術を活用しリアルタイム監視はもとより、故障の予兆を察知し安定した店舗運営をサポートします。小売業の大手企業様とは、「I T サービスLCM」の一環としてさまざまなメーカーの設備機器の稼働情報をセンシングし一元管理を図り、予防保守を行うことで止まらない店舗運営を実現し「食の安全・安心」につながる取り組みを進めています。

 このように、バリューチェーン全体での効率化や最適化の実現、安全・安心で止まらない事業環境を提供していくことで、企業単独では成し得ない食料ロス・廃棄削減の解決を目指しています。

 NECは、社会やお客さまの本質的な価値の追求を大切にしながら、ICTを活用した新たな社会価値を皆様とともにデザインし明るい世界(Brighter World) に取り組んでいきたいと考えております。

 本レポートの内容やNECの取り組みについて、ご意見・お問い合わせなどございましたら、ぜひお声掛けください。

新しい価値を提供する「バリューチェーン・イノベーション」
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※3:Internet of Things

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