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2018年08月06日

変わる研究所
~ビジネスチャンスを生む研究所の姿とは?

イノベーションは「リニアモデル」から「リーンモデル」へ

 企業が有する研究所の在り方が大きな変貌を遂げつつある。中長期的に競争優位性の源泉となり得る基礎研究から、既存の事業に密着した研究活動に軸足が移ってきたのだ。この背景には、イノベーションが生成されるプロセス、すなわちイノベーションモデルが変質したことがある。

 大手企業の多くが中央研究所を設置し、そこでの基礎研究が盛んだった1970~1980年代には「リニアモデル」というプロセスでイノベーションが世の中に広まってきていた。リニアモデルとは、単一の企業内での「研究→開発→製造→販売」という垂直統合の流れから革新的な製品・サービスを生み出され、それが広く普及するプロセスのことだ。

 しかし、主要な部品を外部から調達している米アップルが時価総額の世界首位に座していることが象徴しているように、現在ではものづくりのプロセス自体が垂直統合型ではなくなりつつある。意匠やユーザー・インターフェースなどアップル自体の研究活動が競争優位性の源泉につながっている部分もあるが、主要部品で採用されている先端技術は外部企業の研究活動から生まれている。これは、イノベーションモデルにおけるリニアモデルが終焉を迎えつつあることを意味する。だからこそ、企業が有する研究所では基礎研究から事業密着型へと軸足を移しているのだ。

 事業密着型の研究では、顧客のニーズや社会の課題を見極めることが活動の起点となる。自社の製品・サービスのユーザーに対するアンケートやインタビューで浮かび上がるような表層的なニーズや課題ではなく、時にはユーザー自身も気がついていないような潜在的な課題を見いだせば、革新的な製品・サービスを開発することが可能である。ただし、さまざまな領域で技術の成熟化が進みつつある上に顧客の価値観が多様化している現在、これを実践することは容易ではない。単一企業の経営資源や価値観の中からは、これまでの延長線上ではないまったく新しいアイデアが生まれにくいからだ。さらに、新たなアイデアが生まれたとしても、自社が保有する技術だけでは実現できないケースも多い。

 こうした問題には研究所の文化改革が非常に重要になる。その一つの切り口が異分野を含めた外部から広い知見を取り入れる活動だ。NECでは、共創に向けた取り組みとして、顧客やパートナー企業と共に社会の本質的な課題探索から始める「社会課題への気づき」、課題解決に必要な人たちとつながる「価値創造への仲間づくり」、先進のICTを活用した新たなビジネスモデルを創出して社会価値を創造する「ICTを活用した価値づくり」を実践しているが、こうした活動を実践するに際して、異業種の視点というのは極めて重要になる。このような背景から三井化学とNECは共同で技術交流会を開催した。

三井化学株式会社
コーポレートコミュニケーション部
広報グループ課長
松永 有理氏

三井化学とNECの研究者がそれぞれの先端技術を熱く議論

 「さまざまな素材の中に眠っている機能的価値や感性的な魅力を再発見し、そのアイデアやヒントをこれからの社会のためにシェアしていく」。こんな思いを抱いた三井化学の有志社員が立ち上げた研究組織が「そざいの魅力ラボ(Mitsui Chemicals Material Oriented Laboratory:MOLp™)」である。今回の技術交流会には、このMOLp™のメンバーが中心に訪れている。

 技術交流会では、まず三井化学コーポレートコミュニケーション部広報グループ課長の松永 有理氏が、MOLp™の活動を紹介。同氏はMOLp™を「部活」だと評した。メンバーが本業の仕事に縛られずに自由に研究活動に取り組めるからだ。ただし、松永氏のようにメンバーは研究職に就いている社員だけではない。自分とは異なる方向からのアプローチや発想を研究者が体験することで、これまでのやり方やプロセスを見直すきっかけになるという。

 素材メーカーである三井化学の場合、本業の取引相手のほとんどが法人であるが、MOLp™では素材の新しい魅力を体感できるよう消費者向けの身近なプロダクトに昇華させ発表している。その一例が、海水から生まれた熱伝導プラスチックを使用して陶器のような質感を実現したタンブラーや、レンズ向けの素材を使用して太陽光を浴びると徐々に色づくボタンやバングルなどである。今回の技術交流会にも、これらの実物を展示。MOLp™のメンバーの説明に、NECの研究者が熱心に耳を傾けていた。

三井化学とNECによる技術交流会の様子

 こうした社員による研究開発に加えて、MOLp™では発足間もない頃からデザイナーやプランナーなどのクリエイティブ人材と共創を行う「クリエイティブリレー」を展開している。この取り組みの一つが博報堂の関連会社、TBWA\HAKUHODOでエグゼクティブクリエイティブディレクターを務める佐藤カズー氏とのコラボレーションで生まれた「FASTAID」だ。これは関連会社の三井・デュポンポリケミカルが製造する特殊な樹脂を使ったサプリメントパッケージで、二つの房に封入された水と栄養成分を一つのパッケージに納めている。パッケージを握るだけで水と栄養成分が混ざり合うので、災害時や難民キャンプなど、両方を手に入れるのが困難な場所で必要とする人に、同時に届けることができるようになった。

 一方のNECは、生鮮品やパッケージ品などすべての商品を画像で認識するPOSシステムや、嗅覚IoTセンサーを駆使した「ニオイデータマイニング」、ペンで1滴のインク点を付けるだけでバーコードやICタグのように識別や認証ができるようになる「mIDoT(マイドット)」などの先端技術のデモンストレーションを実施した。デモの後には、NECの研究者とMOLp™のメンバーが、自身の専門領域の視点から熱く議論を交わしていた。

中央研究所内に共創・創発のための専用スペースを設置

 今回の技術交流会は、2018年4月に中央研究所内に新設した「Open Collaboration Park(愛称Spark)」で開催された。NECの研究企画本部で本部長を務める井原 成人は、Sparkを「NECの共創・創発を加速する場」だと述べる。

 Sparkは、欧州の有力企業がイノベーションの場として開設しているフューチャーセンターのように、一般のオフィスからはかけ離れた非日常的な空間になっている。300インチの大型スクリーン、研究者が今までに触れたことのないような角度で選書した本が並ぶライブラリー、思いついた時にものづくりができる「Fabスペース」、天井まで伸びた黒板、気の合う仲間と議論できる「Campエリア」、自由にコーヒーが淹れられる「カフェカウンター」──などが配されている。部屋の隅の「芝生エリア」には、成長すると根元が膨らむ「シンボルツリー」も置かれている。このツリーには「社内外の多くの人たちとの共創により叡智を蓄え、NECのビジネスの根を支え成長していく」という意味が込められているという。

NEC
研究企画本部長
井原 成人

 Sparkでは、外部の人たちとの共創活動のほかにも、研究者が創発するきっかけとなる独自の企画やイベントを開催できるようになっている。4月には、社外からピーテル・フランケン氏(マネックス証券シニアアドバイザー/慶応大学環境情報学部客員教授)、渡邊 淳司氏(NTTコミュニケーション科学基礎研究所主任研究員)を招いて、「中研の働き方を考える」と題したワークショップを開催している。井原は、Sparkを設置した狙いを次のように語る。

 「価値創造型のビジネスを標榜するNECにとって、お客さま自身にとっても顕在化していない課題や新しい価値の理解が重要です。これを実現するには、お客さまやパートナー企業、三井化学さまのような異業種の企業との共創が欠かせません。そこで、そういう場を、我々共創に携わる研究者の近くに設置しました」

 中央研究所の研究活動から生まれる技術と社会課題の解決方法を結びつけるための空間――これが、Sparkが担う役割だ。

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