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2018年09月04日

社会価値創造レポート

拡大するインバウンドを成長の力に
デジタル時代に応えるおもてなしと地域社会の活性化

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 グローバル化や都市化の進展に伴い、人やモノの移動が増加しています。世界各国を訪れる国際観光客数も急激に拡大しており、国や都市に経済や雇用を牽引するインバウンド客の獲得に向けた国や都市間での競争が始まっています。空港の整備やビザ緩和等、観光客やビジネス客を誘致するためのさまざまな取り組みが世界の都市で進んでいます。

 多様なサービスのデジタル化が進む中で、観光産業の競争力を高めるために重要となるのがデータの活用です。日本でも2020年の国際的な大規模スポーツ大会とその後の観光産業の持続的成長を実現すべくさまざまな取り組みが進められています。その中の一つに、おもてなしを強化して訪日客の体験を新たな次元に進化させるために、事業者間でデータ共有できる基盤の構築が検討され、競争力の向上が図られようとしています。

 本レポートでは、NECのデジタル時代のおもてなしを実現するサービスや取り組み、ユーザデータ基盤による訪日客のシームレスな観光体験の実証、地域と共生する観光都市の実現を支えるデータ利活用基盤についてご紹介します。

インバウンドが都市の経済成長や雇用創出に大きく貢献

世界のGDPの10%を超え、雇用の1/10を創出

 グローバル化、都市化の加速により都市間競争が激しさを増す中、経済成長や雇用創出などの推進力として旅行・観光産業が注目を集めています。
WTTC※1によれば、旅行・観光産業は2017年に世界各地で2兆6,000億米ドルの経済効果と約1億1,900万件の雇用創出に貢献しているとしています。また間接的影響等を考慮するとその効果はさらに拡大し、世界のGDP(国内総生産)の10.4%、全雇用の約10分の1に相当するとの指摘があります。

 世界的に旅行者も増え続けており、UNWTO※2によると2017年の国際観光客数は13億2,300万人(前年比6.7%増)となり、2030年には18億人に増加するとの見込みを示しています。近年、新興国の経済成長を背景に、旅行先としてもアジア太平洋地域が高い伸びを示すと予測されています。

 経済成長や雇用創出を目的に、世界各国では、空港の整備やビザ緩和、外国人向け乗り放題乗車券等、観光客やビジネス客を誘致するためにさまざまな取り組みが行われています。

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旅行・観光産業の競争力向上のカギとなるデジタル化

 旅行・観光産業の競争力の強化でカギを握るのがデジタル化です。ITU※3によると、2017年にはモバイルでのブロードバンド接続率が先進国で97.1%、新興国で48.2%に達したとしています。

 旅行者がモバイルを使って情報やサービスを活用したいというニーズに応えることは、インバウンドにおける観光戦略のベースとなるものです。2017年のWEF(世界経済フォーラム)「世界旅行・観光競争ランキング」のレポートにおいても旅行・観光産業の競争力向上には通信環境の整備が必須であり、モバイルサービスやSNSの影響力が大きいとの指摘があります。

 また、ICTの整備状況と国際旅行客一人あたりから得られる観光収入には、正の相関関係があることも指摘されています。観光客数で世界トップを走るフランスでは、デジタル化により競争力を維持するため、ステークホルダー間の情報共有を可能にするプラットフォーム「DATAtourisme」を政府が立ち上げています。

 旅行・観光産業で重要な役割を果たす、民泊プラットフォームのデジタル事業を展開するAirbnbや宿泊予約のBooking.com等の時価総額も軒並み上昇しています。旅行・観光産業のデジタル化によりイノベーションや新たなサービスの創造が加速し、ビジネスチャンスも拡大していくことでしょう。

※1 WTTC(世界旅行ツーリズム協議会)「旅行・観光産業.世界における経済的影響と課題 2018 全著作権所有」

※2 UNWTO:国連世界観光機関

※3 ITU:国際電機通信連合

観光を成長の柱に、デジタル時代を見据えた日本の取り組み

観光が日本の経済成長を担う柱の一つへ

 少子高齢化や人口減少が進む日本において、観光は国や地方の経済が成長するための大きな柱と期待されています。2016年3月に日本政府は「明日の日本を支える観光ビジョン」を策定しました。このビジョンでは「(1)観光資源の魅力を極め、地方創生の礎に」、「(2)観光産業を革新し、国際競争力を高め、我が国の基幹産業に」、「(3)すべての旅行者が、ストレスなく快適に観光を満喫できる環境に」の3つの視点で10の改革を示しています。現在、その実現に向け、官民一体となりさまざまな取り組みが進められています。

 また、2018年版観光白書によると、2017年の訪日外国人旅行者数は対前年比19.3%増の2,869万人となり5年連続で過去最高を更新しました。同年の訪日外国人旅行者における消費額も前年比17.8%増の4兆4,162億円に達し、観光は日本経済の成長を牽引する基幹産業へと変貌しつつあります。観光GDPは23.0%成長となり、その伸び率は自動車や電車など輸送用機械とともにトップクラスです。

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データに基づく観光地戦略で地域経済を活性化

 今後、さらなるインバウンド増加による観光先進国を目指し、増加する訪日客のニーズに応えていくためには、観光地域づくりの核となるDMO※4の活躍が欠かせません。DMOは欧米等を中心に広がっており、日本でも観光庁が「2020年までに世界水準のDMOを100組織形成する」という目標を掲げています。

 観光庁の日本版DMOの定義は、「地域の『稼ぐ力』を引き出すとともに地域への誇りと愛着を醸成する観光地経営の視点に立った観光地域づくりの舵取り役として、多様な関係者と協同しながら、明確なコンセプトに基づいた観光地域づくりを実現するための戦略を策定するとともに、戦略を着実に実施するための調整機能を備えた法人」です。また、重要な役割の一つとして「各種データ等の継続的な収集・分析、データに基づく明確なコンセプトに基づいた戦略(ブランディング)の策定、KPI※5の設定、PDCAサイクル※6の確立」を挙げています。デジタル化が進む中、データ活用による国際競争力と生産性の高い観光産業への変革は、地域経済の持続的成長の実現に向けた大きな一歩となります。

※4 DMO(Destination Management/Marketing Organization):観光資源に精通し、地域と連携しながら観光地域づくりを進める法人。

※5 KPI(Key Performance Indicator):重要業績評価指標

※6 PDCA(Plan-Do-Check-Act):計画-実行-評価-改善

旅行・観光産業のさらなる成長のための課題

安全性・経済性に加え、持続的成長の観点も重要

 旅行・観光産業による経済、雇用の効果拡大に向け、今後も成長を続けていくためには、さまざまな改革に取り組むことが必要です。 WTTCでは、これからの旅行・観光産業が取り組むべき優先順位の高い項目として、(1)旅の安全と円滑化、(2)危機管理とその対応、(3)持続的な成長(旅行・観光業の成長が人々に利益をもたらし、自然ならびに文化的な環境にポジティブな影響を与えることを保証する)の3つを挙げています。また日本の観光庁が2017年に訪日外国人旅行者を対象に行った「旅行中に困ったこと」に関するアンケートの結果では、「施設等のスタッフとのコミュニケーション」(26.1%)が最も多く、「多言語表示の少なさ・わかりにくさ」(21.8%)、「無料公衆無線LAN環境」(21.2%)と続きました。観光先進国の実現に向け、訪日客がストレスフリーで快適に旅行できる環境整備の促進が求められています。

官民が連携し、訪日客の課題解決を推進

  「明日の日本を支える観光ビジョン」において、2020年に訪日外国人旅行者4,000万人、旅行消費額8兆円の目標を掲げる日本では、目標達成と共に観光先進国を実現するべく観光関係の規制・制度の総合的な見直しを含めてさまざまな取り組みが進められています。

 国土交通省の観光立国推進本部では、急増するインバウンドを受け入れる上での現状と課題を把握し、必要な対策を迅速に講じるため、都道府県・政令市、関連事業者・団体などの連携による地方ブロック別で、課題解決を推進しています。

 2016年度の取り組みでは11の課題に整理し、成果事例をまとめています。例えば多言語対応の改善・強化では、多言語の標識やディスプレイの量的整備、外国人観光案内所や多言語対応コールセンターサービスの充実等に取り組まれました。通信環境の整備では公衆無線LAN環境の整備では公衆無線LAN環境の整備を促進、緊急時・災害時の対応では訪日客向けの電話医療通訳サービスの実施や避難誘導マニュアルの作成に取り組まれました。また持続的な成長の観点では、都市部・観光地における路上混雑緩和等の対策も進められています。

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 今後、観光ビジョンの目標を確実に達成するためには、個々の訪日客のニーズに的確に対応し「モノ」消費から「コト」消費への移行を踏まえ、デジタル技術を活用しインバウンド消費のさらなる拡大が必要です。

インバウンドの課題解決と拡大に貢献するNECの取り組み

多言語音声翻訳サービスで訪日客の不安を解消

 訪日客の満足度に大きく関わるのが、観光地はもとより交通機関や店舗、緊急時におけるスムーズなコミュニケーションです。NECは自治体や商業施設と共に、さまざまな国の方々への接客改善や強化に取り組んでいます。NECの「多言語音声翻訳サービス」は利用データを蓄積し会話の内容や利用状況の可視化が行えることから、データに基づいてニーズの高い困りごとに対応したサービスを整える等、旅行者との円滑なコミュニケーションや、より快適な体験の提供を可能にします。接客業務向けのため、業務用小型端末やタブレット、スマートフォン等で利用できることに加えて、商品名等、業種に特化した単語の登録も可能です。

 このサービスはDMO、スポーツ施設、鉄道、流通店舗等が、訪日客への充実した案内や買い物サポートに活用しています。例えば、小田急百貨店では、接客スタッフが本サービスを利用することで、インバウンド向けサービスの強化に取り組んでいます。また、自治体での試行も始まっています。

デジタル化によりインバウンド消費増大に貢献

 NECは多言語対応のほか、デジタル技術を駆使しインバウンド客へのおもてなしを実現すると共に、それを迎えるサービス事業者の困りごとに応えるサービスも提供しています。訪日客の売上向上では、快適なショッピングと接客スタッフ不足の解消が重要です。NECでは、免税書類作成を効率化する免税手続きソリューション「J-Tax Freeシステム」や、ホテル内のコンビニの無人店舗を可能にする顔認証システム等で、スムーズな買い物体験と人手不足の解消に貢献しています。

 政府はインバウンド需要拡大を見据え、交通や宿泊先等の不足に備えるべくシェアリングエコノミーの普及に取り組んでいます。NECは企業や自治体のスピーディなシェアリングビジネスの創出と拡張を支援するため、「シェアリングサービスプラットフォーム」を用意しています。このソリューションは、訪日客の個人情報をセキュアに管理した上で、空き室活用や移動手段、体験イベント等、さまざまなシェアリングサービスを提供することが可能です。さらにAIやIoTの先端技術と連携することで、例えば訪日客の行動様式や実績の把握、最適な需要予測等を行い、需給調整や価格の最適化を行うことでサービスの効率化や収益の拡大につなげることができます。また、このプラットフォームの利用により、訪日客向けのサービスのみならず地域住民や来街者へのサービス提供による地域活性化にも活用できます。

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デジタル時代のおもてなし実現に向けた取り組み

IoTおもてなしクラウドにユーザデータ活用基盤を提供

 総務省は、訪日客がストレスなく快適に観光を満喫できる環境の実現を目指し、「都市サービスの高度化~IoTおもてなしクラウド事業の推進」のためのさまざまな実証実験に取り組んでいます。

 NECはIoTおもてなしクラウドにおいてOpen IDConnectに準拠したNECの製品「NC7000-3A」を活用して認証基盤を構築し、2016年度と2017年度の2年にわたり実証実験に参画しました。

「迷わない移動」を実現
地域内送客サービスの実証事例

 訪日客にとって魅力ある場所であっても、認知が十分ではなかったという理由や、交通機関の利便性等の理由から、訪日客が訪れず、地域内の周遊や消費に偏りが生じるといった課題があります。

 その課題解決の一つの手段として、2017年度に参画した広島の実証実験でNECは、地域内の周遊をスムーズに行うため、交通事業者を中心としたサービス連携に取り組みました。施設や自治体が訪日客に魅力ある体験プランを用意した上で、訪日客をスムーズに送客する「迷わない移動」を実現し、域内の周遊促進を図りました。

 具体的には、スマートフォン等を使って訪日客に複数の魅力的な周遊プランを提示し、プラン選択時に施設予約と共に自らの利用言語や年齢、アレルギー、パスポート情報等の属性情報を登録してもらいます。それらの情報と交通系ICカードを実証プラットフォーム側で紐付けて、例えばバスの乗車前に交通系ICカードを券売所でタッチすることで、タクシーや施設側に乗車情報と属性情報を自動的に送信できるようにしました。

 これによってバスの到着時刻に合わせたタクシーの配車の実現に加えて、体験観光やホテルといった施設側でもあらかじめ準備することができ、スムーズなお迎えを実現しました。

 実証実験では、体験プラン企画者の予想と異なる観光地が人気だったり、宿泊先を変更してくれる訪日客がいたりと、訪日客の動向について新たな気付きを得ました。地域や交通事業者等、多様なステークホルダーと協業しながら、訪日客の情報とサービスをつなぎ、きめ細やかなおもてなしを実現することで、地域送客や消費拡大の可能性を見い出すことができました。

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データ利活用基盤が拓く地域と共生する観光都市

異なる分野のサービスをつなぐことで新たな価値を創造

 観光産業における都市・地域の競争力を高めるためには、業界や業種の枠を超えて連携し、欧米に加えて増加しているアジアからの個人手配の訪日客にも対応できる、パーソナライズされた快適な観光体験を創造することが求められます。きめ細やかなおもてなしの実現には、サービス利用者の負担とならない認証機能の提供も重要になります。交通系ICカードのほか、個人を識別できる顔認証等の生体認証も世界的に普及が進み、安全・安心な観光体験をサポートしています。

 また、近年観光客が増加した都市では、その過密性から地域住民の生活に支障をきたしたり、負担が増えたりする等、新たな問題も起きています。観光産業と地域住民の生活の向上が両輪となり地域が発展していくことが、持続的な観光産業の発展に求められています。

 NECは、データ利活用やシェアリングのための基盤を提供することで、訪日客が利用する施設や交通機関等のサービスとデジタル世界をシームレスにつなぎ、データ分析に基づいた「おもてなしサービスの高度化」による訪日客一人ひとりの満足度の向上に貢献していきます。地域の可視化や各種サービスの最適制御等、観光業だけでなく、地域住民の生活の質の向上や、地域の課題解決にも取り組んでいきたいと考えます。

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 NECは従来から取り組んできた通信環境の改善や多言語対応等と共に、今後もセキュリティや個人情報にも配慮しながら、データ利活用基盤の提供や分析などを通じて、地域や街づくりのステークホルダーの方々との共創により、異なるサービスをつなげ、デジタル時代のおもてなしの実現に取り組んでいきます。

 NECは、社会やお客様の本質的な価値の追求を大切にしながら、ICTを活用した新たな社会価値を皆様と共にデザインし明るい世界(Brighter World)に取り組んでいきたいと考えております。本レポートの内容やNECの取り組みについて、ご意見・お問い合わせ等ございましたら、ぜひお声掛けください。

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