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2018年10月10日

社会価値創造レポート Quality of Life

鍵は健康寿命の延伸
デジタルヘルスケアで実現する持続的な長寿社会とは

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超高齢化社会に求められる社会保障費の抑制策

進む少子高齢化、膨らむ社会保障費負担

 日本の人口は徐々に減少し続けており、2010年の1億2,806万人をピークに減少し、2055年に1億人を下回ると予想されています(*1)

 また、年齢別の人口構成比をみると、2013年実績で全体の25.6%だった65歳以上の高齢者は、2025年には30.4%になると予想されており、特に75歳以上の後期高齢者の割合は12.4%から18.1%へと急速に増えていきます(*2)

 超高齢化社会の急速な進行により、2015年度に119.8兆円だった社会保障費は2020年度には134.4兆円に、2025年度には148.9兆円となり、5年ごとに10%以上増えていくことが予想されています。

 増え続ける社会保障費の中でも急激に増えるとされているのが、医療と介護の給付費です。2012年度と2025年度の推計を比較すると、医療は1.5倍、介護は実に2.4倍にも上ります(*3)

 日本全体で人口が減っていく中で、少ない若年層が社会保障費を支えるという構図がすでに見えて来ているのです。

*1 出典:内閣府「平成30年版高齢社会白書」

*2 出典:厚生労働省「医療と介護の連携に関する意見交換(第1回)議事次第」

*3 出典:厚生労働省「社会保障制度改革の全体像」

社会保障費削減の鍵を握る「健康寿命」

 日本で社会保障費が増加する原因の一つと考えられているのが年齢による医療費の差です。75歳未満の一人あたりの医療費が21.8万円なのに対して、75歳以上の高齢者は93万円(*4)。 その差は歴然です。同様に介護費も年齢が上がるほど費用が増加していきます。

 社会保障費の伸びを抑制する鍵として注目されているのが「健康寿命」です。健康寿命が伸びれば高齢者が増えても医療や介護の給付を抑えることができると考えられています。

 しかし現在、平均寿命と健康寿命には男性で約9歳、女性では約12歳の差があり、ここ15年で大きな変化はありません。この差をできるだけ小さくすることが社会保障負担の軽減にもつながります。

 高齢化社会による社会保障負担の増大が懸念されるのは、日本だけではありません。グローバルで見ても先進国を中心に高齢化の傾向にあります。アジア諸国の中では、今後日本を上回るスピードで高齢化が進むと予測されている国もあり、課題先進国としての日本の対応を、世界中が関心を持って見ています。

*4 出典:国際社会経済研究所「AI・IoT等を活用した健康・医療・介護分野のイノベーションに関する調査研究報告書」

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世界で進むデータ主導のヘルスケアシステムの実現

政府主導でデータ活用に取り組むデンマーク

 今、世界各国ではより健康的な社会の実現を目指して医療や健康に関するデータの利活用が進められています。政府による電子政府の一環としての取り組みや、ヘルスケア関連企業が革新的なサービスを提供する等、手法は様々です。

 政府主導でデータ活用に積極的なのがデンマークです。1968年に個人識別番号(CPR番号)を導入して以来、40年以上の運用実績があり、電子政府戦略のもとでデジタル化による行政の効率化を推進してきました。

 ヘルスケア分野におけるデンマークの特徴は、個人のカルテ情報のほか、ヘルスケアアプリの情報等、医療と健康に関するデータをCPR番号に紐付けて一元管理しているところにあります。政府の医療ポータルサイト「sundhed.dk」では個人や登録された家族等がこれらのデータを閲覧することができ、個人の健康意識を高めることで健康管理や予防医療へとつなげることが可能となります。また医療従事者は「sundhed.dk」を通じて患者の診察履歴や処方履歴を閲覧でき、これにより一貫した治療プロセスの提供を実現しています。

 さらに、2018年1月にはヘルスケア分野へのデータ活用に関する新たな4カ年計画が発表されました。予防やケア、治療におけるデータのデジタル化とその活用を強化し、ヘルスケアシステムの持続的な発展を目指すものです。

民間主導での健康寿命の延伸を目指すオランダ

 健康寿命延伸に向けてデータ活用を推進しているのがオランダです。2016年に、生涯においてデータを記録し、それを健康向上に役立てる生涯型電子カルテであるPHR(Personal Health Record)を推進するプロジェクト「MedMij(メッドマイ)」を立ち上げました。

 オランダの取り組みの特徴は国民の自助努力による参加型の健康増進を促している点です。また、政府の役割を、おまかな方針を示すまでに止め、民間組織や企業にサービス運用を任せることで、市場原理による医療の質の向上を促しています。

 MedMijにおいても、政府はデータの標準化やシステムの相互運用性の確保、個人情報保護やセキュリティ構築等を担い、民間企業がPHRプラットフォームの開発を担います。個人は複数の企業からプラットフォームを自主的に選択します。このプロジェクトにて、健康情報を個人ごとに集約、見える化し、医師から個人への一方通行の情報流通を是正することで、個人が自身で健康情報を管理することができる仕組みを目指しています。

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*出典:「MedMij information standards 」のデータを元に作成

日本政府が目指す次世代ヘルスケアシステムの構築

EHRの整備による保健医療情報ネットワークの構築

 データを活用した医療向上や健康増進に向けた取り組みは、日本でも始まっています。日本政府がまとめた国の成長戦略である「未来投資戦略」では、そのテーマの一つとして「健康寿命の延伸」を掲げ、健康・医療・介護サービス提供の基盤となるデータの利活用の推進を施策としています。

 2018年度に閣議決定された未来投資戦略2018によると、具体的施策としてオンライン資格確認の仕組み構築、医療機関等における健康・医療情報の連携・活用、介護分野における多職種の介護情報の連携・活用、PHRの構築、ビッグデータとしての健康・医療・介護情報解析基盤の整備の、計5つが挙げられています。その中の健康・医療情報の連携・活用に関し、全国保健医療情報ネットワークの本格稼働に向けネットワークの相互接続、データ交換、セキュリティ確保を平成29年度に検証しました。全国に約250ある地域医療連携ネットワーク(EHR)を連携させ、クラウド活用型の双方向かつ低コストのEHRを整備し、2020年に全国保健医療情報ネットワークを構築する計画です。

民間サービス事業者の参入でPHRの活用を促進

 PHRについては、妊娠・出産・子育て支援、疾病・介護予防、生活習慣病重症化予防、医療と介護連携の4つのライフステージに応じたPHRサービスモデルの開発と、基礎的技術の確立のための研究を、政府系研究機関の研究事業として進めています。また、マイナンバーの総合サイトである「マイナポータル」を通じた本人等へのデータの本格的な提供を目指し、予防接種歴や、特定健診、乳幼児健診といった健診データ等様々な医療情報についても提供の必要性を検討していきます。

 さらに民間サービス事業者も、個人の健康・医療・介護データを本人の同意の下での活用を進めています。ウェアラブル端末等で計測したバイタルデータや日々の介護サービスの提供状況の本人や家族へのフィードバック、電子版お薬手帳との連携等、民間サービスの創意工夫を促すことが期待されます。

 第18回未来投資会議(*5) で「認知症や生活習慣病等の未病や重症化予防によって、生産労働人口の増加と社会の生産性向上を目指していくことが必要」と述べられているように、未来投資戦略の目的はICT利活用による「少子高齢化の克服による持続的な成長経路の実現」です。その一つとして次世代ヘルスケアシステムの構築が位置付けられているのです。

*5 未来投資会議:将来の経済成長に資する分野における大胆な投資を官民連携して進め、「未来への投資」の拡大に向けた成長戦略と構造改革の加速化を図るため、日本経済再生本部の下、成長戦略の司令塔として開催される会議

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*出典:「総務省が推進する医療ICT政策について」のデータを元に作成

データを活用した、健康寿命の延伸に向けたNECの取組み

将来の健康状態を可視化して、行動変容を促す

 NECはデータを活用した健康寿命の延伸に向けて、様々なステークホルダーと共に、データとAIを最大限に活用したユニークな取り組みを進めています。その一つが特定健康診査のデータを使って住民の生活習慣改善を支援する事業を進めている杉並区との取り組みです。

 杉並区では、NECの最先端AI技術群「NEC theWISE」*6 の一つで、多種多様なデータの関連性から自動的に複数の規則性を発見し、規則性毎に予測式を生成する異種混合学習技術を活用した「NEC 健診結果予測シミュレーション」を平成30年度に実施しました。本ソリューションは、AIを活用して作成した健診結果の予測モデルによって、将来の健康状態を可視化するものです。

 3年先まで一年単位で将来の検査結果の値を予測し、アドバイスシートには、現状の生活を継続した場合と、生活を見直した場合の2種類のシミュレーションが提示されます 。区民の過去の特定健康診査データから個々人の将来の健康状態を予測し、生活習慣の改善が必要と思われる区民に対してアドバイスシートを提供することで、生活習慣病の早期改善を目指します。

 自分自身のデータから予測される将来の状況を数値によって可視化することで、健康問題を自らのリスクとして再認識し、生活習慣を見直す自発的な改善行動につながる意識変革をしてもらうことが狙いです。

*6 「NEC the WISE 」は、人の知的創造活動を最大化するNECの最先端AI技術群です。

高齢者の自立を促す、最適なケアプランを提供

 もう一つのデータ活用の事例が、ニチイ学館と取り組んでいる高齢者の介護・自立支援サービス開発に向けた共同研究です。

 この共同研究の内容は、通常、ケアマネージャーによる個々の高齢者に合ったケアプランの作成において、NECのAI(異種混合学習技術)を用いて高齢者の様々なデータを学習・分析することで、自立支援に資すると思われるケアプラン案を提案することを目指すものです。

 高齢化が進むことで、高齢者の自立した生活をサポートする為の介護サービス人材のニーズも増加しています。

 本共同研究を進めることで、介護事業者におけるケアマネジャー等の現場スタッフの負担軽減や、より効果の高いケアプランを作成できる人材育成の実現を目指します。

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予防医療への転換を支えるウェルネスサービスの実現に向けて

個人に寄り添うウェルネスサービスで健康意識を高める

 データ分析に基づくヘルスケアを考える際にカギとなるのが、IoTやウェアラブルデバイスを活用した日々のバイタルデータの収集です。収集したデータの分析と適切なフィードバックにより、効果的な健康管理を実現します。NECは専門性を持つパートナーと協業して、予防医療に向けたデータの活用に取り組んでいます。

 例えば、FiNCとNECは、FiNCの法人向けウェルネスサービス「FiNC for BUSINESS」と、 NECの持つIoTデバイスや最先端AI技術群「NEC theWISE」を組み合わせ、新しいウェルネスサービスの共同開発を進めています。

 NECの社内実験では、ウェアラブルデバイスから取得したバイタルデータを、FiNCが蓄積してきた食事や運動等のライフログデータと合わせて可視化・分析しています。これにより、従来の定期健康診断では困難だった健康状態の日々の変化を、個人にデータを入力させることなく捉え、その人に合った改善アドバイスをタイムリーに行うことができます。

 また両社の強みであるAI、IoT技術を活用し、オフィスだけではなく、地域の医療機関やスポーツ施設等の様々なデータと組み合わせた新たなソリューションの開発にも取り組み、ヘルスケアプラットフォームの構築を目指しています。

歩行状態から見出せる健康の変化や予兆

 健康寿命の延伸のために健康を意識した生活を送ろうとしても、常に意識を持ち続けて行動することは困難です。しかしウェアラブルデバイスの活用により、本人が無意識のうちに健康状態を見守ることができます。NECとFiNCが共同で開発している歩行に着目したソリューションの狙いもそこにあります。

 従来、人の歩行状態を把握するには映像を利用したり、ウェアラブルセンサーを直接体に装着する必要があり、場所や利便性、費用面等が課題となっていました。しかしウェアラブルセンサーを小型化、軽量化し、靴やインソールに内蔵できるようにしたことで、個人が意識することなく日常の歩行データを収集できるようになります。

 このソリューションでは、ウェアラブルセンサーで集めた歩行データとFiNCが蓄積してきたライフログデータを合わせて分析し、その人の健康状態に合わせたアドバイスをすることで、改善を支援することができます。さらにこのデータを「FiNCforBUSINESS」で統合的に分析することで企業は健康経営を推進することが可能になります。

 普段の生活の中で無理なく必要なデータを収集できるウェアラブルの活用は、個人に気づきを与え、適切なアクションを促す有効な手段なのです。

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健康長寿社会を実現するデジタルヘルスケアとは

データの利活用とパートナーとの共創で叶える健康寿命の延伸

 NECはこれまで電子カルテや地域医療連携をはじめ、医療機関や自治体の業務を支援する様々なソリューションを提供してきました。医療リソースが限りある中で高齢化に伴った社会保障費の増大という課題に立ち向かうには、「治療から予防」へ意識を変革し、個人の健康寿命を延伸することが重要だと、NECは考えています。

 その課題を解く上で鍵となるのが、IoTやAIを駆使したデータの利活用です。デジタルテクノロジーを活用することで、これまで取得できなかった様々な個人のデータが収集できるようになります。また、個々人の健康状態に対応したアドバイスを適切なタイミングと手段で提供することで、これまで人では見つけられなかった新たな気づきにもつなげることが可能です。

 具体的なサービスの提供には、高い専門性を持ったパートナーとの共創が不可欠です。パートナー企業の持つデータや専門性に、NECの持つIoTやAIに関する最先端技術やデータ分析のノウハウを組み合わせることで、健康寿命の延伸に貢献できる新たなサービスを創り出していきます。

デジタル時代のヘルスケアの実現を目指して

 NECはパートナーと共に、医療機関やウェルネス企業が持つヘルスケアのデータを、安全かつ便利に活用できる分析/統合基盤を通して、デジタル時代の新たなヘルスケアの仕組みを提供していきます。

 具体的には、日常生活におけるパーソナルデータや、医療機関、介護施設等から得られる医療データ等、様々なデータを収集します。それらのデータを統合・構造化しAI等テクノロジーを活用し分析することで、今までにない気づきや認識を得ます。

 さらに、個人の同意にもとづいたパーソナルデータの安全な活用を可能にし、医療や介護に携わる企業や団体、自治体、医療機関等パートナーと共にデータの利活用を促進することで、新たな提供価値の創出に貢献します。

 WHO*7 はHealthy City(健康都市)を定義するに当たって「都市に人口が集中するなか、都市全体を通じた健康づくりが重要」だと指摘しています。NECはIoTやAI等強みのあるアセットを積極的に提供し、医療だけでなく幅広いパートナーとの共創を通じてヘルスケアの新しい仕組みを作り、心身ともに健康で生き生きと暮らすことができる健康長寿社会とそれを支える街づくりに貢献していきます。

 本レポートの内容やNECの取り組みについて、ご意見・お問い合わせ等ございましたら、ぜひお声掛けください。

*7 WHO:World Health Organization

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