ここから本文です。

地方創生現場を徹底取材「IT風土記」

福島発 スマートシティ技術が結集、地方再生のモデルケース目指す

2017年01月27日

 NHK大河ドラマ「八重の桜」の舞台となり、多くの観光客を集める福島県会津若松市。難攻不落の名城とうたわれた鶴ヶ城や、大正ロマン漂う街並みなど歴史情緒あふれるこの地域が、日本最先端のスマートシティとして生まれ変わろうとしている。会津若松市、会津大学、民間企業がスクラムを組み、欧州最大規模の医療・産業クラスター「メディコン・バレー」を手本に医療・健康分野をはじめ、観光やエネルギー、市民生活に至る幅広い範囲でICTの活用を進める。生きたビッグデータを使った実証の取り組みは多くの関心を集めており、国主導のプロジェクトや最先端の研究を進める企業誘致の足掛かりをつかんでいる。会津若松発のイノベーションを起こし、過疎で悩む全国の地方都市再生のモデルケースを目指す。

会津若松市の課題と転機

 2008年のリーマン・ショックのあと、会津若松市から製造業の撤退が相次いでいる。室井照平市長は「製造業の撤退により、1000人規模で人口が減少するのを見るのは衝撃的だった」と振り返る。その後、自社で生産設備を持たないファブレスや、自社の製造規模は最小限にして、製造を外部へ委託するファブライトが進み、工場誘致のみでは人口問題の解決の切り札にはなり得なくなった。室井市長は「現在の12万人程度の人口を、長期的に10万人程度までの減少で維持するためには、製造業に加えて新しい柱がどうしても必要だった」と述懐する。

会津若松市の室井照平市長

 東日本大震災発生から半年もたたない2011年8月1日、世界最大級の経営コンサルティングファームであるアクセンチュア株式会社が、当時で世界7番目となるイノベーションセンターを会津若松市に設立した。

 これが会津若松市にとって大きな転機となった。

腰を据えた復興支援、福島にイノベーションセンター設立

アクセンチュア福島イノベーションセンターの中村彰二朗センター長

 イノベーションセンター長に就任したアクセンチュア株式会社 中村彰二朗氏は「当時、原発事故の影響で外資系企業は撤退が相次いでおり、グローバル本社の経営陣の間には被災地に拠点を設けることに慎重な声もあった」と振り返る。

 しかし、中村氏は、「コンサルティング会社が本気で復興を支援するためには、現地に腰を据えて、地域が抱える課題を洗い直すことが欠かせない」という強い思いがあった。アクセンチュアはその年、くしくも日本進出50周年の節目だった。中村氏は「今こそ、ここ福島を拠点にイノベーションを起こすことが、世界に向けた強いメッセージになる」と周囲を説得して回り、実現にこぎつけた。

 センター発足から6年目に入った今、会津若松市や会津大学、民間企業と連携し、試行錯誤を繰り返し続ける中で、中村センター長は復興や地方創生へ向けた確かな手ごたえを感じている。会津若松市では、ICTを活用した16プロジェクトを展開しているが、これだけの数は他の地域には見当たらない。「総務省や経済産業省、内閣府といった省庁からの期待は大きく、スマートシティなら会津若松市だという認識が定着している」という。会津若松市で実践しているスマートシティの取り組みが、少子高齢化や社会保障費の拡大、社会資本の老朽化、エネルギー問題など、日本が抱える課題の解決のモデルケースになりうるという確信を持っている。

 というのも、人口も面積も日本全体の1000分の1というサイズの会津若松市には、国が抱える課題が集約されているからだ。2016年4月、復興から地方創生へ向けて力強く動き出すため、医療や農業、産業、エネルギー、人材育成などの分野で「会津若松市まち・ひと・しごと創生人口ビジョン」及び「会津若松市まち・ひと・しごと創生総合戦略」を全国でいち早く策定した。いずれも実現のためのコアとなるのはICTの最大限の活用だ。データに基づく政策の決定がカギとなり、会津大学を核にデータ分析を得意とするアナリティクス人材を育成し、高付加価値産業を誘致することで、人口減に歯止めをかける青写真を描く。

まちの活性化に重要なアナリティクス人材の育成

会津大学の先端ICTラボ「LICTiA(リクティア)」内で取材を受ける会津大学の岩瀬次郎理事

 室井市長がICTに期待する背景には、日本最大級の情報工学の教育機関である公立大学法人、会津大学の存在がある。室井市長は「ICTを専門にしている会津大学はわれわれの強み。約13万人の人口を抱えるこの街で、会津大学と民間企業の協力を得て、スマートシティの実証に取り組み、その成果を他の地域にも役立てることができる」と力を込める。会津若松市は地方都市として典型的な産業構造で、過疎化や少子高齢化など抱える課題も典型的といえる。そうした中で、ICTが課題の解決に役立てることを示すことができれば、政府が進める地方創生の重大なヒントになる。

 会津若松市の地方創生の原動力となるのは、会津若松市、会津大学、民間企業が連携し、アナリティクス(データ分析)の人材を育成することにある。室井市長は「膨大なデータの解析などを行い、環境・医療・農業などさまざまな分野の問題解決などに役立つ情報提供や提案を行える人材を育て、街の活性化につなげる」と意欲を見せる。すでに、NECが地元の企業に対し、ビッグデータ解析による経営支援を実施するなど、民間企業が参加した先端ICT研究事業や人材育成プログラムは成果をあげつつある。室井市長は「こうした人材育成の積み重ねが交流人口(*1)の拡大につながる」と期待感を示す。人材教育を担う会津大学の岩瀬次郎理事は「ICT分野では、アナリティクスの知見も有するエンジニアが1人リーダーになると、プログラマーやオペレーターなど5~6人のチームができる。100人リーダーを育成すれば6倍の雇用の創造が期待できるわけで、工場誘致よりも効果は大きい」と意義を強調する。

会津大学で開催された人材育成向け講座。地元企業の経営支援にも活用されている(会津大学提供)

*1 その地域に来訪する(交流する)人のこと。その地域に住んでいる人(定住人口、又は居住者・居住人口)に対する概念。

関連キーワードで検索

さらに読む

本文ここまで。
ページトップ