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齋藤ウィリアム浩幸氏インタビュー、IoTではセキュリティこそが最大の武器になる

2017年9月8日

 モノから収集したデータを使って、新たなビジネスモデルを生み出していくのがIoTの本質だが、日本は、社会課題の解決にイノベーション創出の可能性を秘めている。「安心、安全のDNAがある日本にとって、高齢化社会こそチャンス」と述べるのが内閣府・経産省参与、齋藤ウィリアム浩幸氏だ。米国生まれの起業家、投資家で、セキュリティの専門家でもある同氏の考える「日本独自のIoT」とは何か、その実現のために企業は、社会はどのように進んでいくべきかを聞いた。

内閣府参与
齋藤 ウィリアム 浩幸 氏

新しいビジネスモデルをどう生むかのチャレンジ

──まず、IoTをどのように定義されていますか?

齋藤氏:
 「第4次産業革命(インダストリー4.0)」が注目を集め、IoTに対する関心が高まっています。背景には、コンピューターチップの性能が指数関数的に高まり、よりコストが安くなっていることがあります。また、センサーはより小型化、高性能化し、通信インフラの高速化、ストレージ大容量化などが連動して進んでいます。

 ここで大事なことは、それぞれの要素技術や環境がIoTを進展させたのではないということです。これらの要素がプラットフォームとして組み合わされ、すなわち、センサーから収集されたデータがネットワークを通じてストレージに保存され、それを処理能力の高いコンピューティングリソースを使って分析する、その一連の流れがIoTを生んだということです。

 IoTにより、新しいサービスやビジネスが生み出されてきました。有名なGEの事例では、航空機のエンジンには数千ものセンサーが備わっており、それらが収集したビッグデータを解析することで、着陸前にエンジンの整備箇所がわかり、安心、安全な運行と整備費用の圧縮をもたらしました。しかしながら、それはIoTの一つの側面に過ぎないのです。

──IoTにより、たとえばGEはビジネスモデルそのものを変えました。

齋藤氏:
 GEはモノとしての航空機のエンジンを航空会社に販売するのではなく、航空会社に航空距離としてのマイルを提供できるようになりました。言い換えれば、航空会社にとっては、エンジンを購入、所有する「CAPEX(設備投資)」が「OPEX(費用)」に変わったのです。

 その結果、ビジネスの初期コストが下がり、LCCをはじめとする格安航空サービスが生まれました。つまり、IoTは「新しいビジネスモデルをどう生むか」のチャレンジなのです。

 もう一つ大事なことは、今までデータというものは「人間が計算し、何らかの処理を経て作られるもの」でした。これが、IoTによりセンサーから24時間365日、自動的に膨大なデータが収集されます。「人の関与」を経た限定的なものから、機械が膨大な範囲から、膨大な量のデータを、自動的に集めてくるように変わり、その結果、今まででは考えられないようなビジネスモデルが生み出される可能性があります。

──そうした状況を踏まえて、日本は国として何をしなければならないとお考えですか?

齋藤氏:
 AI、ビッグデータ、ブロックチェーンといったテクノロジーをただ取り入れるだけではなく、「日本の良さ」を考えることです。

 日本の強み、これは少子高齢化です。日本は世界に先がけて超高齢化社会を迎えています。つまり、IoTやロボット、AIによる自動化の恩恵を一番受けなければならない国は、実は日本なのです。

 そして、なんといっても日本は「老人を大事にする国」です。ですから、セキュリティとコスト、利便性の担保というバランスを取りながら、かつセキュリティについては利用者がそれを意識することなく、自然に組み込まれて安全が保たれていることが理想です。老人にセキュリティを運用でカバーしてもらうのは現実的ではないですよね。

 これを考えることがIoTの最終的なゴールであり、日本には大きなチャンスがあると考えています。

日本は「データ」の価値を再評価すべき

──では、日本のIoTの取り組みをどのように見ていますか?

齋藤氏:
 日本の強みを生かすために「Security by Design(セキュリティ・バイ・デザイン)」ともいうべき安心、安全を主導して提供しなければなりませんが、日本のIoTの取り組みはまだ混迷を続けているように見えます。

 一つには、歴史的に見て、日本はITが弱いということがあります。今の経営者の年代はちょうど、パソコンを触ったことがなく、「怖い」「危ない」といった理由から、クラウドやビッグデータといったテクノロジーに背を向けてきました。その結果、日本は主要先進国の中でも生産性、効率性が最下位に陥っています。

 もう一つには、文化的な背景というか、「縦割りの考え方」が挙げられます。いわゆる理系、文系というくくりもその一つでしょう。経営層は文系が多く、IT、サイバー系のエンジニアは理系が多い。この両者が分断しているのも日本の停滞の要因の一つだと考えています。

 海外はそれほど明確な線引きがありません。というより、そもそもITやサイバーセキュリティにはそういう概念がありません。文系、理系関係なく、普通の人が当たり前のように使えなければならないものだからです。

──企業はIoTに取り組む一方で、マネタイズも考えないといけません。日本企業がGEのような「デジタル変革」を進めていくには、何が必要なのでしょうか。

齋藤氏:
 IoTの流れは不可逆的に進んでいて、今、取り組まないと会社が成り立たないという危機感があるかどうかではないでしょうか。日本は「モノづくり」に強みがあるといわれてきました。確かに半導体やメモリーなどの個々の要素、部品を高品質で作るのは得意です。

 一方で、IoTはプラットフォーム、すなわち要素や部品を統合することが重要で、日本はここが弱いのです。携帯電話やカメラ、パソコン、自動車など、日本製品はモノとしてはナンバーワンを取るのに、数年経つとプレゼンスを失ってしまう理由もそこにあります。

──何が原因なのですか?

齋藤氏:
 一言でいえば「ものづくりからソフトウェアの転換」。プラットフォームとはすなわち、モノとモノを結合し、価値を生み出すための接着剤、ソフトウェアのことです。

 このプラットフォーム思考、ソフトウェア思考が足りないために、日本のIoTの取り組みは遅れています。世界は今、ソフトウェア化、ネットワーク化しています。たとえば、いま世界一の広告会社はFacebookですが、彼らは広告を作っているわけではありません。Airbnbはホテルを作って、所有しているわけではないですし、Uberは自動車を作っているわけではありません。

 彼らはみな、IoTをうまく使い、ネットワーク化、プラットフォーム化しているのです。今や、自動車も数多くのセンサーを備え、ネットワーク接続された巨大なIoTデバイスということができます。これをユーザーがセキュリティを意識することなく、安全に使えるものにしなければなりません。

──「ソフトウェアの転換」を果たすためにはどう進めていくべきでしょうか。

齋藤氏:
 IoTでは「データ」が価値を生むということを見直すべきです。「データ」こそ、日本の経済を支えている中小企業の最大のチャンスなのです。今までは工場の設備投資やサプライチェーン、流通システムなど、大規模なインフラがなければビジネスを行うことができませんでした。

 しかし、海外のスタートアップを見ると、Uberはそうしたインフラを持たずにビジネスをしています。これはデータを集めるコストが圧倒的に少なくて済むからなのです。そして、Uberの時価総額は7兆円。まさにIoTの「データ」が評価されているのです。

 IoTは物理的なモノとは異なります。日本はどうしても「見えないものには価値がない」と考えがちですが、そうではなく、データには大きな価値があるということです。ハードウェアにソフトウェアを組み込み、モノはどんどんインテリジェンス化、高付加価値化していきます。こうしたモノづくりのあり方はこれまでは十分に考えられていませんでした。

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