2017年09月01日
世界を今よりもう少し幸せな場所にするために、今、企業ができること
~社会課題の解決に向けたグローバル企業の使命
世界を今よりもう少し幸せな場所にするために、今、企業ができることは何だろうか。社会課題の解決に向けたグローバル企業の取り組みやあり方について、グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン有馬利男代表理事とNEC 森田隆之取締役執行役員常務 兼 チーフグローバルオフィサーに、フリーキャスター桑原りさが話を聞いた。
GCNJのミッションとグローバル企業の課題
桑原氏:
グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(以下、GCNJ)はどんなミッションを掲げて活動をされているのでしょうか。
有馬氏:
1990年代、グローバル経済の裏で様々な問題が起き、「グローバリゼーションの光と影」と言われました。そこで「人間の顔を持ったグローバル市場」を作ろうと生まれたのが国連グローバル・コンパクト(UNGC)です。世界的な問題、課題に対して企業が国連と手を結んで正しい方向に進むために、「人権」「労働」「環境」「腐敗防止」の4つのエリアで10項目の理念を掲げ、企業の社会的責任を推進することをミッションとしています。世界75ヶ国に広がるローカルネットワークのひとつであるグローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)は、加盟企業におけるCSR、SDGsの浸透度と質を高め、アドボカシーも行います。
桑原氏:
NECもGCNJの会員として活動されていますが、森田さんはこの動きをどう捉えていますか。
森田:
CSRは、無償の社会貢献としての意味合いで使われることもあったかと思いますが、GCNJなどのリードもあり、企業の活動そのものが社会に対する責任を果たす、という本来のCSRの意味するものになり企業戦略そのものになってきています。これは大変良いことだと思います。
国際社会共通の目標SDGsのゴール17にもありますように、さまざまなステークホルダーがコラボレーションすることで、より大きな社会的影響、うねりを作り出せると思います。
桑原氏:
有馬さんは、企業の課題についてはどう見ていますか。
有馬氏:
森田さんのおっしゃるように、事業のプロセスにおいても、社会に対する配慮や責任が求められるようになってきたと思います。しかし、CSR推進部門は一生懸命やっているけれども、会社全体の動きになっていないというのが課題ではないでしょうか。
森田:
マイケル・ポーター教授が提唱したCSRの新たな進化形、いわゆるCSVですね。有馬さんがおっしゃるように、CSR担当だけでなく、企業全体で価値を出し、社会的責任を果たすことが、社会にも自分たちにもメリットになり、飛躍的な動きにつながると思います。
NECが取り組む社会ソリューション事業とグローバル事業
桑原氏:
SDGsの実現のために、GCNJはどんなことをされていますか。
有馬氏:
啓発活動の他に、有識者や専門家の方々にSDGsについての議論をしてもらい、やるべきことの理解を深めていきます。企業のCSR活動をSDGsのゴールにつないでいくのですが、本当の意味でゴール達成するにはどうすべきか議論します。SDGsを推進するためのガイドブックや世界中の事例を日本語に訳して広める活動もしています。
桑原氏:
森田さん、「なるほど」と頷いていましたね。
森田:
NECもCSR、CSV活動を企業活動として一致させ、ICTの力で人が豊かに生きるための安全・安心・効率・公平という社会価値を創造する「社会ソリューション事業」に注力しています。社会ソリューションでGCNJさん同様、2種類の冊子を作成し、世界の潮流を踏まえてNECの貢献できる姿をまとめました。「ブルーブック」は、NECの目指す姿や社会価値創造のビジョンをまとめたもので、「ホワイトブック」は、今現在、NECが進めている社会ソリューション事業の代表的な事業と先進的な事例を紹介しています。
有馬氏:
実体を作っていらっしゃるとは素晴らしいですね。
桑原氏:
きっかけは何でしたか。
森田:
2015中期経営計画で、NECは社会価値創造型企業に変わると発表しました。それは、ただ単に社会の課題を解決するだけでなく、どのようなプラスアルファの『価値』を社会に提供し貢献する企業になるかを考えたことがきっかけです。そこで、ICTを使って「安心、安全、効率、公平」と言う社会的価値を実現していくことが目指すべき方向だと、ミッションステートメントを作ったのです。
有馬氏:
素晴らしいですね。経営者が変わる中、後任のトップはどうしても自分の特徴を出したいと思いがちなので、経営思想として繋がっていくことは大事なことですが簡単なことではないですよね。
桑原氏:
その姿勢が評価されてのことだと思いますが、NECは今年、「世界で最も持続可能性の高い100社」に選ばれました。おめでとうございます。率直にお気持ちはいかがですか?
森田:
素直に嬉しいです。もっと官学民の連携だけではなく、民民の連携も含めて、貢献していきたいと思います。
桑原氏:
そして実際に、NECはICTを活用して、社会インフラを高度化する社会ソリューション事業に取り組んでいますよね。具体的には?
森田:
国際機関とのパートナーシップに取り組んでいます。WFP(国連世界食糧計画)がリードしている、パンデミックが発生した際の医療・救援物資の輸送状況を可視化する世界初の「物流情報管理プラットフォーム」開発パートナーシップに、初のアジア企業として2016年2月から参画しています。物資を供給する物流網や倉庫のキャパシティ不足、物資の需要と供給に関する情報の不足、国境の閉鎖に伴う感染地域へのアクセス制限、不十分な官民連携に起因する支援の重複や非効率性などが課題となっており、それをICTによって可視化、効率化し、支援物資が適切に届くよう官学民のパートナーシップで進めています。
また、アルゼンチンやインドでは、NECが得意な認証技術や行動解析などを組み合わせた監視システムで犯罪防止を実現しています。例えばATMの前に何度も同じような人が現れるなど、ある行動パターンを検知することで、事前に犯罪の可能性を予知するのです。その結果、減少させることを目標としていた犯罪が前年比30-60%減ったという結果がでました。
有馬氏:
改めて、すごいことですね。ITが持つ可能性はもっと広がりそうですよね。いくらでも広がりのあるビジネスだと感じました。
これからのグローバル企業のあり方とは
桑原氏:
世界情勢が混沌とする中、今後のグローバル企業はどうあるべきでしょうか。
有馬氏:
例えばパリ協定のように、社会や地球が求めていることが、政治の力でブロックされてしまうことが起こりつつあります。これは、環境の問題だけではない。こういうことが、人類の将来を考えた時に大きな課題かと思います。それに対して企業がどう対応したらいいのか、考えてゆかなければならないでしょう。
森田:
今後、官学民の協力が重要になってくると思います。単に何か一緒にやればいいというだけではなく、考え方、理解を合わせるということが重要です。CSR、CSVもそうですが、官、民の活動が同じ方向を向いているということ。CO₂の削減についても、それが中期的、長期的産業の活性化、より高い発展に繋がり、人々の生活が豊かになるという理解が得られることが重要になってくるのではないでしょうか。
桑原氏:
今日お話を伺って、地球の持続性と企業の持続性は同じ方向を向いている気がしました。
有馬氏:
おっしゃる通りだと思います。投資する側にも変化が出ています。ESG投資と言いますが、環境、社会、ガバナンスに対する企業の考え方、つまり地球の持続性に対する考え方を見て、投資する動きがあるのですよね。
桑原氏:
確かに、地球の持続性に配慮する企業にこそ頑張ってもらいたいし、利益を上げて欲しいですね。今後益々、投資家や消費者が、事業のプロセスに目を向ける時代になるでしょうね。
森田:
やはり利益と社会的な役割と、両方が必要だと思います。それがある企業は強い。働いている人も自信を持って働けるし、より持続性がありますよね。たとえ仮に、社会的な意義があると思っても、それが利益につながっていなければ、自己満足かもしれない。適正な利益を上げて、そして社会的な価値を実現していく。適正な価値を再投資して、そしてさらに大きな価値を提供していくということ。社会的な価値をあげることで、新たな経済的な価値を享受することが絶対必要だと思います。