2016年04月15日
インダストリー4.0最新動向、日本・ドイツ・アメリカが目指す未来とは
ドイツ企業のキーパーソンが集結。インダストリー4.0に日本企業はどう備えるべきか(後編)
注目の新興国はどこだ? IoT発展の鍵を握るアクセプタンス
――新興国の中ではシンガポールがIoTの取り組みに積極的ですが、今後、注目を集めそうな国はどこだと思われますか。

代表取締役社長
長島 聡 氏
島田氏:
やはり教育水準の高いことが必要です。インドも注目ですが、州や階層によってデジタルデバイドが大きいのが気になります。IoTに関して言えば、アクセプタンス(acceptance)が重要だと思います。IoTが発達するにはデータ活用が不可欠ですが、それに対して抵抗が大きい国は、やはり難しい。たとえば、中国の新聞を読んでいたら、クルマの自動運転に対して中国人の半分くらいはOKだそうです。しかし、日本人は数パーセントではないでしょうか。
長島氏:
IoTのアクセプタンスという意味では、ブラジルあたりは高いと思います。インドネシアもこれから高くなりそうです。
――日本の自動車業界が、今後、自動運転にチャレンジするとしたら、ブラジルやインドネシアでやってみるのはアリでしょうか。
長島氏:
ASEAN諸国なら、きっとたくさんあると思いますよ。あと、インドも出ましたが、やはり人材面が注目です。毎年、IT技術者が20万人ペースで増えて、5年で300%増加したそうです。
――人口という意味では、インドネシアも多いですね。
島田氏:
いちばんの課題はインフラです。インフラが整わなければ何もできない。電力や水道が整備されていなければ、いくらiPhoneがあってもね。
馬場氏:
世界全体を見渡せば、どこかは必ず成長します。そうなったら、リソースの奪い合いが起きる。優秀なタレントにしてもエネルギーにしても、あらゆる有限リソースの奪い合いです。すると先進国は相対的に不利益を被ります。その備えが、日本はあまりに不十分だと感じます。
島田氏:
外の厳しい状況を理解していませんね。いい温度のお湯につかっている。外は吹雪いているんですが。
デジタル化がもたらすビジネスモデル競争、インダストリー4.0でITが主役になる
――最後に、日本企業の経営層、IT部門の方々へのメッセージをいただけますか。
馬場氏:
デジタル化が進むと、これまで技術的にも無理で、経済的にも採算の合わなかったビジネスモデルが可能になります。すると、ビジネスモデルの勝負になる。世界中でビジネスモデルを競う未来が必ずやってくる。だから、それに備えましょうということです。そもそも、多くの企業のIT予算は売上の1~2%、アメリカの多い企業でも10%くらいでしょう。いまは、その数%が残りの90数%にインパクトを及ぼすのです。
島田氏:
だから、ITの人は飛び上がって喜ばなければいけません。インダストリー4.0のおかげで注目されているわけですから。これまでとは違って、戦略的なIT投資が可能になる。自分たちが主役になれる時代がいよいよやってきたと思わなければならない。

バイスプレジデント
Chief Innovation Officer
馬場 渉 氏
長島氏:
日本企業の場合、誰がビジネスモデルを決めるのかという問題もあります。本当に社長が決めるのか、現場において合議制で決めるのか。本来はリーダーが決めるべきですが、現実には、現場の人にもいろいろなことを勉強してもらい、より広い世界を見てもらったうえで、トップにうまい進言ができる環境を作るといった折衷案も必要かなと思います。
馬場氏:
新しいビジネスモデルを作ろうと思ったら、IT的な素養のある人がいないと設計のしようがありません。経営側も、ITに対してそれだけ期待しているのです。だから多くのグローバル企業は、デジタルのわかっている人間を従来の事業部門の上に付けている。我々もそうです。事業部門でずっとエンジニアとしてやってきた人間の上司が、いきなりITのわかったインド人になったりする。
もちろん、それによって失うものもあります。実際にドイツ国内で仕事をやれば、非常に優秀で信頼もされている人材が会社をやめるリスクもあります。しかし結局は5年くらいで、こうしたドイツ人は一掃されました。だからといってドイツ人が力を失ったわけではありません。無国籍化し、コスモポリタンドイツ人へと進化したのです。
日本企業も、グローバルを目指すなら、デジタル出身者が事業部門のトップに立つくらいの大胆なことをやっていいと思います。
――「答えは出ているからやる」。これが、今回の鼎談の結論であり、日本企業へのメッセージのようです。本日は、貴重なお話をありがとうございました。

(インタビュー=フロンティアワン 代表取締役 鍋野 敬一郎、ビジネス+IT 編集部 松尾慎司)