

Technology to the Future
「仕事を奪う」はずの人工知能がつくる、もうひとつの仕事の未来
SUMMARY サマリー
世の中のミスマッチを無くす
中学生の頃から起業を志向していたという島田氏だが、scoutyを起業したきっかけは、大企業に就職した多才な同級生が、会社の中でその才能を眠らせたまま働いていることへの違和感だったという。
島田氏:僕の友人は、素晴らしいデザインのスキルと、絵の才能を持ち合わせていた。少なくとも大学時代の彼は輝いて見えました。しかし就職した彼が会社で何をしていたかというと、毎日終電間際まで、ずっと会社でエクセルをいじっていたんです。
僕から見れば明らかにミスマッチなのに、彼は「いや、これは修行だと割り切っているから」と言う。でも彼はきっと、目の前に自分がやりたい仕事をやらせてくれるデザイナーがスカウトに現れたら、きっとそのオファーを断らないと思うんです。しかし現実にはその日は来なかった。
いかに才能があっても、人は目の前にある選択肢からしか選ぶことができない。この不条理を人工知能の力で変革したい。それが起業の動機でしたね。
創業は2016年。わずか1年足らずでInfinity Venture Partners、Candle代表取締役の金靖征氏ほかから1億円を調達している。
島田氏は国内の人材紹介の市場規模を3200億円程度(※)と推定する。これらは「転職顕在層」の市場だ。つまり、転職しようとした人が転職サイトに登録するというアクションを起こし、転職している、といった部分のみで算出された数字である。そして数多くの競合がひしめき合う、レッドオーシャンだ。
scoutyは「顕在層を転職させる」のではなく、「現在転職してないけれど可能性がある人を新しく転職させる」こと。つまり転職者の絶対数を新しく増やすことで、「転職潜在層」の市場を新しく開拓している。島田氏は、転職顕在層の3200億円市場よりも遥かに大きな市場規模を、転職潜在層に見出しているという。
またscoutyは当面、転職における人材サービスとして展開するが、今後はさらに領域を拡大するのだという。
島田氏:scoutyの理念は「世の中のミスマッチを無くす」こと。僕たちの持っている「人」のデータベースは転職だけではなく、学校選びなどの教育、自動車や住宅、保険、クレジットカードの選択などにおける全てのミスマッチを解消できる可能性がある。そしてその全ては、人々の見えないうちに行われる。インターネットにアクセスする全ての人々が、知らず知らずのうちに、もっとも最適化された人生を送ることができる。それが僕たちが実現したい未来です。
現在のscoutyは主にエンジニア採用向けに展開しているが、今後は職種を広げるほか、近い将来にはグローバル展開も視野に入れている。
- ※ 株式会社リクルートホールディングス発行・監修 人材ビジネスの市場規模・事業展望
人間の「適応」を自動化する
4年前、イギリスのオックスフォード大学が、将来的にアメリカの47パーセントの仕事が自動化されることを予見する研究を発表した(※1)。またフランス、パリに本部を置くOECD(経済協力開発機構)は、同機構を構成する21カ国で平均9パーセントの仕事が自動化によって高いリスクを被るとし、25パーセントの仕事が大幅な再編成を経験するだろうとしている(※2)。
人工知能研究者の間で意見は分かれているが、「人工知能が人間の仕事を奪う」というのは、今や世界中で議論され、労働市場における大問題になっていることは明らかだ。
そうした世界の中で、島田氏が「人工知能が、天職を探し出す」ことを志向する意義とは何か。島田氏は、人工知能によって仕事が奪われる中で、scoutyは「消滅する古い仕事」から人々を開放し、「創造的で新しい仕事」へと繋げてゆくという。
島田氏:ニューラルネットワークなどの旧来の人工知能が行うのは主として「分類」なんです。写真の中に写っているものを判定する最先端のディープラーニングも、行っていることは高度な分類問題です。分類を人工知能に依存した方が収益性が上がる仕事は、これからもどんどん代替が進むはずです。人間の仕事は確実に奪われるでしょう。
しかし、人工知能に代替されることで、新しい人間の仕事も生まれるはずです。人々は今日までの歴史の中で、人工知能同様の大きな変化に遭遇し、仕事を失ってきました。たとえば産業革命時に蒸気機関が発明され、工場制手工業に従事する人々は失業しました。しかし、機械のエンジニアリングやメンテナンスなど、新しい仕事も数多く生まれ、人々はそれらの仕事に従事した。そうして変化にたくましく適応していった人々のおかげで、今の世界がある。
大きな技術的変化における人々の失業で問題となるのは、テクノロジーによる変化に適応できない人々です。
OECDもまた、テクノロジーによって急速に変化する世界に適応するためのスキルが、世界中の多くの人々に不足していることを指摘している。OECD構成国における大人の過半数(56%)が、テクノロジーが豊かな環境下で経済的に成功するためのスキルが不足しているとしているのだ。
そうした背景を受けて、scoutyは人間の適応を自動化することで、この問題へ対処する。
島田氏:scoutyの価値は、あらゆるものを最適化するエンジンです。よって、人々の適応を促すことが可能です。たとえば、scoutyによって「人工知能に代替される仕事を辞めて、これからの人間に求められる新しい仕事をやりましょう」ということもできる。こうして社会の変化に応じて人々を新しい仕事へ結びつけてゆくのもscoutyの果たせる役割なのだと思っています。
一見すると、「人間の労働の自由意志が人工知能にコントロールされている」ように見えるかもしれない。ある人にとってはそれが、ディストピア的に見え、しばし不快なものとして映ることもあるかもしれない。しかし、そう遠くはない未来、人間が不快を感じる時間もなく(あるいは人間がどのように不快を感じるかすらも人工知能が学習し)、人工知能は人々を適材適所へと最適化していくのかもしれない。人々の幸せが、概ね時流と数の論理によって決まるように、自由意志の定義も変容する。
scoutyがこれから多くの人々に提供するであろう新しい転職の形は、ある意味では、未来の労働の自由意志の先取りなのかもしれない。
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※1
The Future of Employment