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SI力を上げる。経営スピードが上がる
—SIの生産性向上が、今後のビジネスの鍵を握る—

2017年10月18日

 ICTシステムとビジネスの関わりは、この先どう変わっていくのか。AIの進展によってシステムインテグレーション(SI)は、どのように進化していくのか。

 システムアーキテクト分野での役員級プロフェッショナル「NECフェロー」が、現在、企業の情報システム部門が抱える課題を踏まえながら、これからのシステムやSIの方向性と取り組むべきことについて語る。

 システムの最適化を目指すICT技術者に求められる、「匠」の技とは。

ICT活用は、さらに広く・深くなり、ビジネス変革の推進力に

──まず、宮澤さんの役職である「NECフェロー」について教えてください。

宮澤:
 「NECフェロー」は、2014年からNECに新設された役職です。私は、本年4月から、製品化技術、SI技術、そしてソリューション開発領域全般にわたる役員級プロフェッショナルとして「NECフェロー」の仕事に携わっています。

 具体的な役割としては、お客様が求める最適なシステムづくりに向けて、オープンミッションクリティカルシステム(OMCS)の構築で得た知見をベースに、機能要件だけでなく性能や可用性などの非機能要件も含めて技術面でサポートしています。また、NECの研究所の先端技術をソリューション化して、新たな価値を創造するための技術的な意思決定も重要な役目です。

NECフェロー 宮澤 忠

──ビジネスにおけるICTシステムの役割は、今後どう変わっていくと思いますか。

宮澤:
 ICTシステムの活用は、社内業務の電子化、省力化や低コスト化から、競争力強化や新たなビジネスモデルの創出など、その目的や役割が大きく変わってきました。これからのICTシステムは、ビジネスに対する適用領域が、いままでと比べて「さらに広く」「さらに深く」なり、ビジネス拡大やゲームチェンジを引き起こす推進力になっていくと、私は考えています。

 例えば、IoTの進展によりさまざまなデバイスやセンサーが普及し、ICTの活用領域が広がることで、あらゆるモノの動きがデジタル化され可視化できるようになります。また、AIの進化により、これまで人間でなければ対応できなかった複雑な業務の代替えや意思決定など、より深い領域までICTが関わっていくと考えられます。

 可視化されたデータをもとに、経営判断やビジネスの拡大などを行い、その効果をデジタル的に計っていく──このようなビジネス変革「デジタルトランスフォーメーション」を引き起こす推進役へと、ICTシステムの役割は変わっていくと考えています。

ブラックボックス化による弊害、ICT技術者のスキル低下

──現在、企業の情報システム部門が抱える課題についてお聞かせください。

宮澤:
 ICTシステムの役割の変化と合わせて、企業の情報システム部門にもビジネスのデジタル化による推進力が期待されています。しかし現状は、サイロ型に乱立された既存システムの運用やシステム更改への対応などに追われて、企業の利益を生み出す新たな業務に手が回りにくいという声を良く聞きます。

 また、システムを構成する製品の構造・動作を理解せず、ブラックボックス状態でシステムを利用しているICT技術者が増えており、スキルの低下が課題になっています。これは、企業のシステム担当者のみならず、ベンダやSI事業者などの技術者においても共通した課題といえます。その背景には、システムのオープン化・マルチベンダ化が進み、製品ベンダのサポートレベルの向上があります。

 そうしたベンダの製品を組み合わせて構築するため、プログラミングする機会が減っていることが、スキル低下の原因の1つになっていると思います。さらに、クラウド活用が進むとブラックボックス化の範囲も広がるので、この問題が進むのではと危惧しています。

 このようなブラックボックス化したシステムの場合、障害発生時に、どこで何が起こっているのか、障害の原因はどこにあるのか、その障害はシステム全体、そしてエンドユーザへのサービスにどのようなインパクトを及ぼすのかなど、ICT技術者が把握しにくいといった課題が生まれています。また、システム構築においても、各製品の特性を理解していなかったことで、システム全体の性能が出ないというような問題がでてきます。

──情報システム部門のスキル低下という課題は、システム構築や企業運営にどんな影響を及ぼすのでしょうか。

宮澤:
 情報システム部門のスキル低下は、企業にとってさまざまな影響が生まれます。ベンダやSIerに委託する内容を十分に理解することができないシステム担当者は、例えばコストの妥当性が評価できません。適正投資の観点で課題になるのではと考えます。

 このような企業のICT技術者のスキル低下は、企業経営にも影響を与えます。というのも、ビジネスの幅を広げるために必要な新しい技術を見つける力、何を使えばよいか判断し、経営者やビジネス部門に提案する力も低下しているということになるからです。

 新技術をうまく取り入れながら、システムをニーズや時代の変化に合わせて継続的に成長させ、効率的に安定運用することが、ICT技術者の重要な役目です。こうした本来の役割を十分に果たせるような人材育成や環境づくりも、今後ますます必要になってくると思います。

SIの生産性を上げるのは、「匠」の技

──「NECフェロー」として、今後のICTシステム構築で重要なことは何だと考えますか。

宮澤:
 これからICTシステムのビジネスへの適用領域は、より広く、より深くなっていくと先ほどお話しました。そうした流れの中で、ビジネスの幅を広げたり、時代や市場のニーズに柔軟に対応していくためには、ICTシステムにおけるSIの生産性向上が特に重要になってきます。

 「ビジネスに直結するアプリケーションの開発に、より注力したい」「新しい事業をすばやく始動させたい」──こうした要望を叶えるには、サーバ、ストレージ、ネットワークなどのハードウェアをはじめ、OSやミドルウェアを組み合わせた最適かつ安定したプラットフォームをいかに効率よく、低コストで作るかがポイントになってきます。

──SIの生産性を高めるためには、どうすればいいのでしょうか。

宮澤:
 SIの生産性を上げるには、2つの側面があると考えています。

 1つはシステム部品(ノウハウ)の共通化とAIなどの最新技術の積極的な活用によって、システム設計や構築、さらに運用面における効率化を図ることです。

 最近では、AIによってICT技術者の仕事が奪われるといった話も耳にしますが、そんなことはないと私は思いますね。AIをはじめとして機械が人に代わってできる仕事は、機械に任せればいい。そうすれば人間は、機械にできない高度なアプリケーション開発やアイデア企画など、ビジネスの真の生産性を高めることに力を注ぐことができるようになります。

 もう1つは、SIに関わる技術者のスキルアップです。そのためには、まずシステムを構成するひとつひとつの製品の特性や性能を知ることが大切です。OSやデータベース、ミドルウェア、アプリケーションなど各製品の中身を紐解き、理解することで、初めて最適かつ安定したシステムづくりが可能になるのです。こうした製品知識やSIに対するスキルなど、システム全体に精通した「匠」と言えるエキスパートの存在が不可欠になります。

──SIを熟知したエキスパートである「匠」について、わかりやすく教えてください。

宮澤:
 「匠」というのは、腕のいい大工の棟梁を思い浮かべるとわかりやすいと思います。

 すぐれた棟梁は、柱や窓、床、天井など、家を構成するためのさまざまな建材の特性を掴みながら、それらを組み合わせて建て主の要望に最適な家を完成させます。ひとつひとつの部材の特性をしっかり掴んでいるからこそ、強度や居住性、耐久性、建築期間やコストなど、すべてにバランスのとれた完成度の高い家ができ上がります。これが、「匠」の力です。

 ICTシステムを構築する際も、同様です。構成要素である製品の構造や動作、製品を組み合わせた時のシステムの特性、さらにそれぞれの製品の性能の限界、限界を超えた時のふるまいなどを理解した上で、システム全体を俯瞰して最適化する。そうした知識やスキルが、企業の情報システム部門の担当者にも求められていくでしょう。

AIの活用と匠の育成で、お客様との信頼性強化

──SIの生産性向上に向けて、NECが具体的に行っている取り組みは何ですか。

宮澤:
 NECはこれまで、オープン技術を活用した大規模なミッションクリティカルシステムの構築にいち早く注目し、これまで大手通信事業者や金融機関のお客様向けの基幹システム、さらにNECグループ11万人が活用するプライベートクラウドなどを数多く構築してきました。こうした実績をもとに、高可用システムの実現やSIの生産性向上を図るためのさまざまな取り組みを進めています。
※2017年3月末現在

【ホワイトボックス化で製品の構造やふるまいを見える化】

宮澤:
 先に、ブラックボックス化の課題に触れましたが、その解決策としてNECではシステムを構成する製品の「ホワイトボックス化」に取り組んでいます。

 製品の構造・ふるまいを見える化し、システム構築や設計・運用上の注意点、性能上の特異点、スケーラビリティの限界などを明らかにすることで、何か起きた時に、何が起きたかすぐ判るようになります。これにより、障害時の原因究明を迅速化し、ICTシステムの高品質・高性能を確保することができます。これらの実践を通して、ICT技術者のスキルアップにもつながると期待しています。

【AIを積極活用して、SI自動化にチャレンジ】

宮澤:
 NECでは、製品のふるまいをモデル化しSIノウハウとして部品化したものを選定して組み合わせることで、設計・評価、構築までを自動化しています。さらに、AIを活用して、お客様の要望からシステム要件を決定し、その要件に合ったシステムを自動構築する仕組み作りにも取り組んでいます。

 これまで、人間が手間や時間をかけて行っていた設計・構築に関する業務を大幅に低減するとともに、ミスのない高品質なシステム構築が実現できます。これにより、お客様への迅速なシステム提供や低コスト化が可能になります。

 また、運用においては、NECの最先端AI技術群「NEC the WISE」の1つである「ログパターン分析」を活用することで、人間がログを確認する際の動きを機械化し、大量のログメッセージから障害のパターン学習、調査範囲の絞り込みを支援することが可能です。

 実証実験では、障害発生時のログと過去障害時のログパターンを比較し、インシデント管理システムに蓄積されている過去の類似障害をレコメンドすることにより、障害検知から対処方法特定までの時間を最大80%近く短縮できることが確認できています。

──SIの「匠」を目指す、人材育成に対する取り組みはいかがですか。

宮澤:
 AI活用やSIの自動化に取り組む一方で、現在NECではICT技術者のスキルの高度化を目的として「ICTアーキテクトプロ養成講座」を開設し、「匠」の人材育成に取り組んでいます。この取り組みによって、システムにおける性能、高可用性、運用性、セキュリティなどの幅広い領域において、ICT技術者のスキルアップを図ります。講座の卒業生がそのスキルや知見を後輩に伝承することで、すぐれた人材のすそ野を広げていきます。こうした「匠」のスキルを持つ技術者のサポートによって、お客様により高い満足をお届けしていきたいと考えています。

──デジタルトランスフォーメーション時代における、お客様に対するNECの姿勢や考え方について教えてください。

宮澤:
 ICTシステムがビジネスに関わる領域が今後さらに拡大していきます。そうなると、これまでのように情報システム部門の方だけでなく、企画部門や経営部門などの方とも接点を持つことが必要になってきます。お客様のビジネスにおける課題や要望をきちんと把握・理解して、そのためにICTは何ができるのか、どう貢献できるのか。従来のシステム寄りの視点から、お客様のビジネスという広い視野に立った提案こそが、NECとお客様との関係強化において重要だと思います。

 さらに、ビジネスや企業活動のスピードアップに向けて、プラットフォームやアプリケーションを含めたNECの幅広い先進ICTアセットをシステムとしてモデル化して、お客様に提供することも必要だと考えています。NECならさまざまなICTのメニューの中から、お客様が要望に合ったシステムをセレクトして、すばやくビジネスに活かせる。こうした環境づくりも、今後力を入れていきたいです。

──SIにおける今後の方向性や展望を、最後にお聞かせください。

宮澤:
 コスト削減や効率化を図るSoR(Systems of Record)とビジネスチャンスの創造などによって企業を変革するSoE(Systems of Engagement)。この2つをICTによって推進する「バイモーダルICT」という世界は今後も続くと思います。

 また、目的や要望に応じてさまざまなクラウドを組み合わせて活用する「マルチクラウド」も、これから活用領域が広がると考えられます。「バイモーダルICT」や「マルチクラウド」においてキーワードとなるのが、『最適分散』です。最適分散は、お客様に最適投資という価値を生み出すからです。こうした価値にしっかり応えていくことが、これからのSIには求められていくでしょう。

NECフェロー 宮澤 忠

UNIXなどを活用したOMCS(オープンミッションクリティカルシステム)の構築において、OS、ミドルウェア、アプリケーションなどのソフトウェア製品の領域で、SIerとしての経験を重ねる。NECグループ約11万人が活用する超大規模なクラウドシステムの構築をはじめ、通信事業者や金融機関など多くの高信頼・高可用性のシステムづくりに関わっている。

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