2017年11月17日
金融サービスのイノベーションを支える安全・安心なテクノロジーとは
今年9月、グローバルなスタートアップイベント、『フィンサム・ウィーク 2017』が開催され、海外から多数のスタートアップ・学生が、ピッチランやアイデアキャンプに参加した。
Mycash Onlineは、出稼ぎ労働者・移民向けオンラインストアを発表。マレーシアでは出稼ぎ労働者のほとんどが銀行口座を開設できず、貯金や送金に苦労していると言われており、それを可能にする。PolicyPalは、OCR機能を活用したスマホアプリの発表。シンガポールのVisa申請確認などが人力のため、保険登録に5週間かかっていたのを、わずか5分で手続きできる。など、どのスタートアップも、それぞれの社会が抱える課題に注目し、それをテクノロジーで解決しようとしていた。
一方、大企業からもテクノロジーによる社会課題の解決に関する講演があった。NECは、国連サミットで策定された「持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)」に関連した、7つの社会価値創造テーマを設定し事業を展開している。SDGsは、貧困、エネルギーなどの問題に対する2030年までの目標値を定めたもので、すべての国がその対象となる。
NECの代表取締役社長 新野は講演の中で、「SDGsは、国連やNPOだけではなく、我々企業を含めて様々な方々が参画してはじめて実現できる。我々企業も、事業を通じて社会価値の実現に貢献しなくてはならない。」と述べた。大企業、スタートアップに関わらず、事業を通じて、社会課題の解決に向けた貢献が求められる時代になっている。そして、そのキーとなるのが、イノベーティブなテクノロジーだ。
預金や送金など、お金に関わる分野では特に、安全・安心が前提となる。新サービスによる利便性向上は、それが保証された上で成り立つ。コストがかかってでも安全、安心を優先し、信頼性の高い技術を持っている企業が、それを支える役割を担える。
では、どのように安全、安心を守るのか。新野は、3つの技術「AI・ブロックチェーン・セキュリティ」とその事例を紹介した。
1つ目は、AIを使った不正監視業務の高度化だ。
昨年、NECは日本取引所グループと、相場操縦行為など不公正取引を調べる売買審査業務でのAIの有効性を検証し、NECのディープラーニング技術「RAPID機械学習」が高い精度でその判断が可能であることを実証した。9月からは、SBI証券、楽天証券など複数の証券会社と、株式注文におけるAIの不公正取引検知の適応性について検証を進めており、来年度中にも実現させる。(1)
続いては、ブロックチェーンだ。この技術を活用し、口座開設時の本人確認業務(KYC:Know Your Customer)を高度化・効率化させるための、SBIホールディングス、SBI BITSとの共同検証を紹介した。(2)
これは、日本取引所グループによる「業界連携型ブロックチェーン実証実験」(3)を進めたもので、33社の金融機関、ITベンダー、金融庁などの関連機関が知見・技術を持ち寄り、金融インフラの様々なユースケースを調査・検証しており、課題の解決や、新ビジネスの創造が期待されている。
ブロックチェーンは仮想通貨ビットコインの基幹技術として注目されたため、金融分野と結び付けられることが多いが、ブロックチェーンの特徴であるデータの改ざん・消失が極めて困難な点は、金融以外の様々な分野にも応用できる。
NECは、ブロックチェーンが話題になる前からこの特徴に注目し、ドイツのNEC欧州研究所を拠点として、スイスのチューリッヒ工科大学やフィンランドのアールト大学と共創研究開発に取り組んできた。
また、オープンソースを通して技術進化とイノベーションを促進する非営利団体組織「Linux Foundation」が中心となって運営するブロックチェーンの技術推進プロジェクト「Hyperledger」にも参画している。これまでNECが蓄積した技術により、本プロジェクトの最上位プレミアメンバーとなり、140社を超える様々な業種の企業と共同研究もしている。(4)
最後はサイバーセキュリティ。現在、1ヶ月間に開発されるマルウェアの数は1000万を越えると言われている。NECは「サイバーセキュリティ・ファクトリー」という対策拠点を設置し、AIによるセキュリティ監視支援システム(脅威分析システム)を導入した。
調査会社IDCのAIに関する調査「2017年 国内コグニティブ/AIシステム市場企業ユーザー調査」で、NECは1位の評価を得ている。このような確かな技術によって安全、安心な金融サービスが支えられている。
先般のAPI開放を推進する銀行法が改正され、NECはセキュアなAPI連携を実現するプラットフォームの提供を始めた。新野は、「業界横断・異業種連携の取り組みを技術で支え推進することが、日本政府が提唱するConnected Industryを通じたSociety 5.0の実現にもつながる。このような取り組みはConnected Industryに必要な価値創造であると考えている。」と講演を締めくくった。
社会課題を解決するためには、安全・安心なテクノロジーを活用し、業界の枠を越え、事業を創造していくエコシステムの形成がポイントになっている。大企業、スタートアップが、このエコシステムを形成する対等なパートナーとして、金融サービスのさらなるイノベーションを起こしていくことが期待されている。
(1) http://www.jpx.co.jp/corporate/news-releases/0060/20170228-01.html
http://jpn.nec.com/press/201708/20170808_04.html
http://jpn.nec.com/press/201708/20170808_02.html
(2) http://jpn.nec.com/press/201709/20170914_01.html
(3) http://www.jpx.co.jp/corporate/research-study/dlt/index.html
(文:川崎幸臣、田中久美子)