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2018年10月23日

量子アニーリングマシンで、夢の量子コンピュータを実用化に導く
~従来より1000倍安定させて、実社会の多様な課題を解決へ~

 実現すれば、従来のコンピュータとは比較にならないほどの膨大な計算を瞬時に実行できる夢のマシン「量子コンピュータ」。NECは、この量子コンピュータのキー・テクノロジーとなる量子の動作を世界で初めて検証した企業だ。さらにNECでは研究を進展させ、量子コンピュータのなかでも使いやすい「全結合型量子アニーリングマシン」を2023年までに実用化することを目指している。

解を求めるために不可欠な「量子重ね合わせ状態」を、NECは安定して実現する

 従来のコンピュータは、電流のオン・オフなどによって「0」か「1」いずれかの「ビット値」を書き換えながら計算処理を行う。一方、量子コンピュータは「0」と「1」の2つの状態を同時に取るという摩訶不思議な状態(量子重ね合わせ状態という)を利用して、「量子ビット値」が「0」の場合と「1」の場合の計算を同時並列的に処理する。しかし、現在までに理論上のポテンシャルを発揮できる量子コンピュータはまだ開発されていない。粒子と波の中間のような状態である「量子重ね合わせ状態」自体が極めて不安定であり、ごく短時間で消滅してしまうため、解を求めるのに必要な時間を稼げないからだ。

 NECが独自に開発した新手法は、量子重ね合わせ状態が熱や振動などのさまざまなノイズに邪魔されにくくなるため、既存技術に比べ量子重ね合わせ状態を1000倍以上の時間、安定的に維持できる見通しだ。

 さらに、後述する量子アニーリングマシンで計算する際は、「量子重ね合わせ状態」にある量子ビット間の結合に「重みづけ」と呼ばれる処理を施す必要があり、そのためには複数の量子ビット間を安定的に結合させなければならない。この難題も、量子ビット同士を二次元的に配置・完全結合することで対応し、「全結合型量子アニーリングマシン」の開発を目指している。

宅配の最適ルートなどの複雑な組み合わせ問題を瞬時に計算

 現在、人工知能(AI)を使ってさまざまな実社会の問題を解決しようという取り組みが行われている。そのなかに、機械学習によって見つけ出された無数の選択肢から最適な組み合わせを選択する課題解決方法がある。「X台のトラックそれぞれにY個の荷物を積んで宅配する場合、それぞれのトラックにどの荷物を積んでどのルートを走らせれば、もっとも早く荷物を配り終えられるか」などが代表例だ。

 こうした複雑な組み合わせ問題を解く場合、スーパーコンピュータを使ったとしても膨大な時間がかかり、必要な時間内に行おうとすると確度の高い答えは得られない。配達先の拠点数が増えるだけでルートの候補は指数関数的に増加する。さらに刻一刻と変わる交通状況や不在・再配達要求などの状況変化に対応しながら、最小時間で配達し、ガソリン使用量や配達員の労働時間の最小化も考慮するとなれば組み合わせの数は極めて膨大となり、現在のコンピュータでは何年かかっても最適な組み合わせを見つけることはできない。また、現在商用提供されている量子コンピュータであっても、このように複雑で規模の大きな問題は解けないため、実用化には程遠いのが実情だ。しかしビジネスの現場では、せいぜい数分〜数十分程度で最善な決定をくださなければならない。

 経路などの探索に関わる組み合わせ問題は、宅配便だけでなく大規模な物流に共通する難題だ。また金融分野では、数千という株式や投資信託などの金融商品、債券、現金・預貯金などの資産のなかから、何をどういう配分で組み合わせて運用すれば最善の結果が得られるのかなども同様に難しい問題と言える。このほか各種回路の設計、金属素材の合成、創薬など質の高い組み合わせを解明することでよりよい製品やサービスを生み出す可能性に満ちた分野・対象は数多くある。

 社会の成熟化とともに問題は複雑化しており、考慮すべき要素は増える一方だ。今後、量子コンピュータの技術が進化して複雑な問題を解決できるようになれば、時間短縮、エネルギー・コスト削減、労働力の適正配分、人手不足解消、産業効率化、価値創造など多方面で大きな社会変革につながる。

組み合わせ問題の計算に威力を発揮する「量子アニーリングマシン」

 複雑な組み合わせ問題を短時間で解くツールとして注目されたのが、量子コンピュータのなかでも、量子ビット間の「重みづけ」を計算処理に利用する「量子アニーリングマシン」だ。

 量子コンピュータは大きく分けて「ゲート式」と「アニーリング式」がある。ゲート式は普通のコンピュータと同様の汎用性があるが、実現に向けてはさまざまな課題があり実用化されるとしても大分先の話だ。一方アニーリング式は、ハードウエアの特性上できることが限られるものの、実用化が見える段階にまできており、世界中の研究機関や企業が開発にしのぎを削っている。

 NECの量子コンピュータ開発の研究責任者である中央研究所理事の中村 祐一は「量子アニーリングマシンは、組み合わせ問題を高速で解くことに優れています。複雑な実社会の問題は”前半過程”をAIの機械学習にまかせて数多くの選択肢を出させ、それを使って”後半過程”で量子アニーリングマシンが組み合わせ問題を解く。この連携によって、超高速での解答が可能になるのです」と話す。

NEC 中央研究所 理事 中村 祐一

 2011年には、世界初の商用量子アニーリングマシンがカナダのベンチャー企業によって開発され、一定の条件下である程度のレベルの組み合わせ問題を解くことができるようになった。しかし中村は「実社会の複雑さに迅速対応するには、最低でも1万量子ビットぐらいの規模で安定的に稼動することが必要となります。現時点でNECが研究開発したものはわずか1個の量子ビットでのことですが、この新手法によって格段に”良質な” 量子ビットを多数結合できる目途が立ったことの意義は大きい。今後の加速度的な規模拡大を可能にし、量子アニーリングマシンを高いレベルで実用化する道を切り開きました。これまで当社が積み重ねてきた量子研究が結実したと言えるでしょう」と胸を張る。

量子コンピュータを研究して20年のNECが、量子アニーリングマシンで未来を開く

 NECは1999年に、超電導の固体素子による量子重ね合わせ状態での動作を世界で初めて検証。引き続き量子重ね合わせ状態を制御する研究を続けるなか、一連の成果をフィードバックする主軸を量子アニーリングマシンへと移していった。そして2018年10月、東京工業大学、早稲田大学、横浜国立大学との産学連携研究「超電導パラメトロン素子を用いた量子アニーリグ技術の研究開発」が、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 (NEDO)の次世代コンピューティング技術開発プロジェクトに採択された。

 また量子アニーリングマシン用のアプリ・ソフト領域についても、早稲田大学が主導する「イジングマシン共通ソフトウエア基盤の研究開発」プロジェクトと密接に連携を行い、ソフトウエア設計とハードウエア設計の相互最適化と強力な統合の実現に向け研究を続けている。

 ハード、ソフト両面でのさらなる研究の進展を期して、NECではこの分野に投入する研究者を増員することを決めた。そして一連の成果は、同社が保有する最先端 AI 技術群「NEC the WISE」の専用エンジンに組み込んで提供していく方針だ。国内外問わずさまざまな分野で、オープンイノベーションの形で協働することを視野に入れながら、実社会の多様な課題を解決し、社会に貢献していくことを目指している。

量子コンピュータのユースケース(例)

 量子アニーリングマシンは、この「実社会の多様な課題」の解決に対して大きな可能性を秘めている。組み合わせ問題の超高速解析によって、これまで研究者や技術者が「どうせ無駄だ」と判断してまったく手をつけなかった空間も含めて、10の何乗ものオーダーの組み合わせを量子アニーリングマシンなら同時並行でチェックすることが可能になるからだ。

 「つまり”下手な鉄砲”を無限に撃てることになり、これまで思いもよらなかった解答に”当たる”可能性が生まれます。そのなかには斬新な問題解決法や画期的な価値創造につながるケースが必ずあるはずです。量子アニーリグマシンが切り開く未知の世界で、何が新たに取り組むべき対象となるのか、その結果をどうやってよりよき社会づくりに生かすのか。そうした”気づき”の探求を、当社はお客さまと共に行っていきたいと考えています」と中村は締めくくった。

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