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5G時代の通信革命がもたらす新たな体験

 次世代の移動通信システム「5G」時代の到来は、通信の世界に革命を告げる。NECはこのほど、5G時代を切り開くビジネスモデル仮説やユースケースを、業種・業態を超えた多くのビジネスパートナーと共有・発展させることを目的に「通信新世界!5G時代のビジネス共創フォーラム」を開催。参加者は130名を超え、活発な意見交換や質疑応答が交わされるなど「5G時代のビジネス共創」への期待をうかがわせるものとなった。本フォーラムの終了後、登壇者の一人で店舗のICT活用研究所代表、郡司 昇氏と、NECデジタルサービスソリューション事業部の吉本 裕事業部長代理が対談し、新たなショッピング体験が始まる5G時代のビジネスの可能性について語った。

SPEAKER 話し手

店舗のICT活用研究所

郡司 昇 氏

店舗のICT活用研究所 代表

1999年 株式会社ランド設立、代表取締役社長。2007年セイジョー入社。2010年ココカラファイン事業管理室に転籍、グループの業務効率化・アライアンス・販社統合等に携わる。2013年株式会社ココカラファインOEC設立、代表取締役社長就任。2016年ココカラファイン統合マーケティング部長兼任。2018年4月現職。薬剤師。

NEC

吉本 裕

デジタルサービスソリューション事業部
事業部長代理

1993年日本電気入社。民需向けソリューション営業部門にて営業業務従事、2001年より民間企業向け2006年より通信事業者向けの主に通信における新事業領域の営業及びシステム職に従事し2018年より現職。

ドラッグストアEC事業での成長を実現するには

──ドラッグストア業界のEC事業の成長を実現するための秘訣をお聞かせください。

郡司 昇(以下、郡司):品揃えや価格で差別化を図る戦略もありますが、お客さまがリアル店舗ではなく、ECサイトに求めるニーズを把握することが重要だと考えます。その上で、サイトの運営方針やKPI(重要目標達成指標)を設定し、達成に向けてお客さまのニーズに合ったコンテンツをサイトに盛り込むなどのサイト改善が私の経験上では有効でした。

──NECは5G時代のEC事業の成長にどのような役割を果たしていくのですか。

吉本 裕(以下、吉本):NECはこれまでもEC事業においてさまざまな取り組みを行ってきましたが、これから重要な役割を果たすと考え、注力していくものの1つに、KYC/デジタルKYCがあります。Know Your Customerの略で、新たに銀行口座を開くときの身元確認手続きの総称で、これをデジタル化することでスムーズに本人確認・口座開設ができます。NECは1963年から認証技術の開発をスタートし、技術を磨いてきたので我々の強みが活かせる領域です。デジタル社会ではオンライン上での本人認証を行うこと、すなわち「デジタル・アイデンティティ」がとても重要になってきます。

郡司:M&Aなどによる組織の拡大は、自社運営サイトの乱立にも繋がるので、自社運営サイトの統合をどう実現していくかは企業の重要な課題と言えます。そのサイト統合には、カラーガイドラインなどのデザイン、使い勝手統一といった基本に加えて、会員カードサイト、ECサイト、アプリなどのIDを統合していくことが非常に重要となります。なぜならその「IDの統合」が完了しないことにはオムニチャネルにならないからです。IDの統合がなければ、デジタルとアナログを行き来するだけのクロスチャネルになってしまいます。この「IDの統合」に本人認証は重要な役割を担うため、信頼性と構築スピードが求められますね。

──店舗運営者が欲しいデータは、どうすれば効率よく収集できるでしょうか。

郡司:今年2月に経済産業省と取り組んだ、電子化された買い物レシートの標準仕様を検証する実証実験は、非常にデータ収集の参考になりました。飲食店、コンビニエンスストア、スーパーマーケット、ドラッグストア、日用雑貨店など合計27店と、それぞれのシステムベンダーが協力し、実験的に標準仕様の電子レシートシステムを導入した結果、電子レシートによる利便性向上へのニーズを把握できました。店舗事業者は、同じような日用品でもどこで買っているかが見えてくる。そうすると、購買頻度、サイズが把握できれば、店頭MDに利用できます。こうした情報は商品開発を行うメーカーにも役立ちます。一方で、生活者も、電子レシートを活用すれば家計簿を付ける手間が省けます。この実験が上手くいったのは、参加者それぞれにメリットがあったからでしょう。

吉本:個人情報をどう集めるかといったデータ収集は、デジタル社会へ向けて越えなければならないハードルです。ユーザーにとって個人情報を開示するメリットがないと、収集はうまくいきません。データの流通が進めば進むほど、社会は便利になっていくという実感をどう抱かせるかがポイントですね。

郡司:そうですね。企業側が自分たちの都合でオムニチャネルを展開し、顧客を囲い込もうとしても、うまくいきません。あれこれとショッピングを楽しもうとしている人で、「囲い込まれる」ことを好む人はいませんからね(笑)。日用品や食料品、衣料品などのさまざまな商品を、同じ流通グループで買わなければならない必然性はありません。どの店で買うかは、消費者の自由です。

画像検索と音声検索がもたらす新たなショッピング体験

──レジに並ばずショッピングができる自動化店舗「AmazonGo」も話題ですね。

郡司:囲い込み戦略とは対照的に、プラットフォーマーであるAmazonは、AmazonGoを自分たちだけでやろうとは思っていないところが面白いと思います。消費者に新しいショッピング体験を提供し、購買者層のデータを収集するための仕組みであり、多種多様な選択の一つにすぎません。こうした発想により、AmazonGoはインフラになっています。日本企業が固執してしまいがちな囲い込み戦略は、自社の資産を活用するという意味では正しいかもしれませんが、このままではうまくいかないことは明らかです。

吉本:顧客がその店舗に求める要望を調査して、その顧客である消費者に対しメリットのある対応をしていくというOne to Oneマーケティングは、今後の店舗と消費者の新しい関係の構築につながっていくと思います。顧客の情報を一元化し、サイバー世界にその情報「つなぐ」ことで、消費者にとって、より便利でメリットのある世界を実現できますね。

郡司:現在の小売店ではまだそれほど「新しい試み」への意識が高くないと私は思っています。AmazonGoが使っているような画像解析などの機能を店舗に導入しようとしても、「それを導入したら、売上がいくらあがるのか」という反応になってしまうのが実情です。しかし、商品を小売店に供給しているメーカーにとってみると、画像解析などで得られる顧客の情報はマーケティングや商品開発のために貴重な情報になります。店舗運営者側は、店舗の売上だけでなく、デジタル化によるデータを保有や活用することについても意識していく時代になっていくでしょうね。

吉本:リアル店舗のデジタル化で言えば、認証技術を活用し、棚割りや購買情報とリンクさせた有効な商品計画を立案や、経営改善への活用、食料品店でのフードロスを削減などの取り組みも既に始まっています。5G時代の、より消費者にメリットのある世界に向けて、まだ使われていないデジタル情報はたくさんあるのではないでしょうか。

郡司:使われていないデータの代表的なものがID-POS(ID付きのPOSデータ)ではないでしょうか。ID-POS導入企業でも、「デモグラフィック・データ」(年齢、性別、居住地、家族構成、職業など、人口統計学的なデータ)を見ているだけで、実際の顧客行動を分析し、価値につなげることができていない企業が多いのが現状です。ECサイトの場合、「PV(ページ閲覧数)×コンバージョンレート(購買転換率)×客単価=売上高」の式を参考にそれぞれの数字から、改善策を検討できます。これに対し、リアル店舗では、ごく一部の企業だけが店の入り口にセンサーを付けて入店客数をカウントしているに留まります。つまり、ほとんどの企業はPOSレジの結果しか見ていない。リアル店舗が本当の意味でITを活用するには、顧客行動の把握に努めなければなりません。結果、「店には入りやすいけど、レジまで進んで購入するほどの魅力はない」のか、「店内に入る魅力は弱いが、入れば多くの人が買っているのか」を分析し、店づくりや品揃え、ビジュアルマーチャンダイジングを改善することができるはずです。

──5G時代になれば、音声AIアシスタントなどもさらに便利になりますか。

郡司 昇 氏

郡司:5G時代のキーワードは「つながる」「つなぐ」でしょう。音声AIアシスタントも「つながる」ということで可能性が広がります。これまでは、朝7時に目覚まし時計をセットし、トースターやコーヒーメーカーのタイマーをセットしておいても、朝寝坊して8時に起きたら、トーストもコーヒーも冷めてしまいます。しかし、5G時代になると「つながる」という機能が入り、センシングで「起床した」ことを把握してから、コーヒーメーカーやトースターが動き出す、といったことができるようになりますね。

吉本 裕

吉本:「多接続」「低遅延」の特徴を持つ5Gが普及してくれば、音声AIアシスタントの活躍の場は飛躍的に広がるかもしれませんね。

郡司:そうですね。例えば、今は自宅で使う人が多いですが、スマートスピーカーを自動運転車に搭載することで、運転中でもショッピングができ、目的地に到着するまでに商品が届いている、ということも実現するかもしれません。

吉本:音声AIアシスタントの世界だけでなく、複数のイベントが同時に発生した場合も、「つなぐ」ことが非常に重要になります。AIが加わることで、機器同士が直接情報をやり取りする通信の高度化が加速します。自動化というメリットのほかにも、人の生活に「変化」を与える、高度な示唆の提供が可能になります。AIが、人に寄り添いサポートしていくために必要な通信の高度化、例えば、物理的な情報をどう吸い上げるか、セキュリティーや信頼性、同時に大量の情報をどう処理するかなどが課題になってきます。

郡司:5G時代において、通信は電話や情報通信の「情報の伝達網」から社会インフラへと進化します。通信速度や容量などを論理的に細かく分配するネットワークスライシングが可能になれば、数秒で映画をダウンロードするといった4Gまでの延長線の文脈以外に、ゴミ箱の開け閉めや、エアコンのフィルター交換情報など必要とされる回線の速度を自動的に選択し、低電力でつなぐことができるはずです。今はベストエフォートと言っていますが、使う人が意識しなくても、用途に合わせて自動的に使い分けてくれるようになれば、さまざまなモノがつながる世界が実現するはずです。

吉本:これからはますます、マーケットが細分化、複雑化し、密接につながっていきます。IoTとAIの二種の神器で通信のイメージも変わります。これまでの通信は情報を運ぶ「道路」のイメージでしたが、5G時代はその「道路」を走るトラックや飛行機などの「積み荷」をどう運ぶかをイメージしなければなりません。例えて言うなら通信の世界に、モノの流れを意識し、全体最適をはかるサプライチェーンマネージメントの考え方を持ち込まなければならないと思います。

5G時代、社会問題の解決に挑む

──5G時代はビジネスだけでなく、社会課題へのアプローチも変わりますか。

郡司:サプライチェーンの考え方は、地方自治体が抱える問題に対しても有効です。超高齢社会が進む過疎地では、移動スーパーをやろうとしてさまざまな手段で試しますが、なかなか採算が合いません。個別の商店やサービスがその過疎地に行くという考え方ではなく、ネットチェーンというかさまざまなモノを束ねて共働して運べばうまくいくはずです。何が必要なのかという状況把握のためにIoTが役立ちます。それだけでなく、洗濯機が動いているか、冷蔵庫の開け閉めがあるのか、といった情報が把握できれば、高齢者の見守りサービスにも役立ちます。一方的にサービスを押し付けるのではなく、企業や団体がコラボレーションし、過疎の町にチームを送り込んで、ワークショップ的なものを展開していくなどの取り組みがよいのではないでしょうか。

吉本:通信はそれ自体で価値をだすものではなく、価値を提供、最大化するための手段です。5G時代には技術的な強みを使ってバリューチェーンを広げたり、社会課題の解決につなげたりすることが求められます。NECでは必要な人、モノに、必要な情報を最適化してつなぐためのサービスを「SmartConnectivity」として提供していきます。5G時代は、5Gが出てくる先の話ではなく、もう既に始まっていると私たちは考えています。なぜならば社会課題は待ったなしで、すでに多くの「つながる」を活用した取り組みが始まっているからです。今回のオープンフォーラムと今後始まるCO-Workingが産業と産業、人と人をつなげる場となり、「つなぐ」力を活用した素晴らしい「共創による価値」が生まれていくことを期待しています。