dotData社、その成長の秘密~設立後わずか 1 年で世界のリーダーになったワケ~
データサイエンスのプロセスを自動化するソフトウェア「dotData」を提供するdotData, Inc.(以下、dotData社)。その世界的な評価が高まっている。2019年5月、米調査会社フォレスター・リサーチの機械学習自動化に関するリポートで最高ランクの「リーダー」として認定されたのだ。設立約1年のスタートアップが選ばれるのは極めて異例だ。dotDataがもたらす価値と可能性について、dotData社の創業者でCEOである藤巻 遼平氏と、日本での事業展開を担うNECの森 英人に話を聞いた。
SPEAKER 話し手
dotData, Inc.
藤巻 遼平 氏
CEO&Founder
NEC
森 英人
ビジネスイノベーションユニット
エグゼクティブ・ディレクター
世界の「リーダー」に躍り出たdotData社の革新技術
──2019年5月に発表された米フォレスター・リサーチの「Forrester New Wave Report」(The Forrester New Wave™: Automation-Focused Machine Learning (AutoML) Solutions, Q2 2019)でdotData社が市場の「リーダー」に認定されました。この意義について聞かせてください。
藤巻氏:私たちはdotDataの中核をなす技術を、世界をリードする技術だと自負し、多くのお客さまからもそうした評価をいただいています。私たちがそれを語るだけでなく、今回の第三者機関に高い評価をいただいたことで、dotDataが本当に革新的で価値あるものだということを公平かつ客観的に示すことができました。これからは市場の「リーダー」としてお客さまと相対することができる。今後のビジネスを考える上でも、非常に大きな意義があると考えています。
──設立後、わずか1年でこうした評価を受ける理由はどこにあるのでしょうか。
藤巻氏:フォレスターのコメントにもあるように、やはり技術的な優位性が大きなポイントです。dotDataは予測モデルの作成に欠かせない「特徴量設計」を自動化できるのが強み。特徴量設計とは、機械学習が必要とするデータを作成する作業で、結果の精度や有用性を左右する非常に重要なプロセスです。
このプロセスはデータを業務に関する経験や知識に基づいて加工する必要があるため「人にしかできない」と言われてきましたが、dotDataは自動で行ってくれます。私たちが世界ではじめて実現した技術です。
森:私は前職を含めて約25年間にわたってデータサイエンスに携わってきました。私自身、特徴量設計は「人でなければ絶対に無理」と考えていた1人です。特徴量を設計するためには、ビジネスの「コンテキスト(文脈)」を深く理解している必要があります。ビジネスのコンテキストは、業種はもちろん、部門や業務単位でも変わってきます。変動要因が多いこの作業は人の「読解力」が欠かせないと信じて疑いませんでした。それを自動化する技術をはじめて目の当たりにしたときは、非常に衝撃を受けました。
藤巻氏:dotDataは、単なる機械学習による予測ではなく、データ準備・特徴量の設計・機械学習・可視化・モデルの運用など一連のプロセスが自動化されます(図)。
しかも、dotDataにより導き出した結果は、過程や理由を人が理解できる「ホワイトボックス化」に対応しています。AIが判断した理由がわかるため、経営層やビジネス部門の理解と協力も得やすくなるでしょう。
顧客を虜にする未知のインサイトがもたらす「驚き」
──実際にお客さまもdotDataを高く評価されていると聞きました。どのような点が評価されているのですか。また日本と北米で評価ポイントに違いはありますか。
藤巻氏:評価していただいているのはデータサイエンスのプロセスを自動化できること、これは日本も北米も変わりません。北米はデータ分析に取り組む企業が日本よりはるかに多く、データサイエンティストのステータスも確立されています。自動化によって、圧倒的に多くのユースケースに効率的に取り組むことができる。その投資対効果が重く見られています。
森:日本では多くのデータサイエンティストを抱え、本格的にデータ分析に取り組んでいる企業はまだ少数です。「思ってもみないビジネスインサイトが得られる」「ビジネスユーザーでもデータ分析ができる」という点を評価する声が多いですね。dotDataの製品が本格的に市場に導入されたのが2018年7月。そこから1年弱で、日本を中心に北米と合わせて数十社を超えるビジネスにつながっています。
──日本でビジネスインサイトに対する評価が高いのは、もともとそういうニーズがあったからなのでしょうか。
森:必ずしもそうではありません。最初はデータサイエンスのプロセス自動化の検証を目的にはじめたものの、結果的にその中から思いもよらなかったビジネスインサイトが見つかるという「驚き」をきっかけに議論が盛り上がったというケースが多いですね。
これからデータサイエンスに取り組もうと考えているお客さまは、どうやって機械学習のスキルを習得するかに悩んでいることが多く、実際にそういった相談を多数お受けします。そうしたお客さまには「今から機械学習を勉強する必要はありません」とお伝えしています。複雑で高度なプロセスはdotDataが行ってくれるので、自社のビジネスそして保有データを理解し、どういう課題を解くかがはっきりしていれば、導きだされた結果をビジネスへ生かすことができます。
dotDataがもたらすビジネス成果。アイデア次第で広がる可能性
──お客さまの事例における具体的な成果を教えてください。
森:さまざまな成果が出てきています。ある金融機関様では、複数のデータサイエンティストからなるプロジェクト体制を作り、1つのテーマの分析を2~3か月かけて行っていましたが、時間がかかり、刻々と変化する顧客ニーズを十分に捉えられないという課題を抱えていました。そこで試験的にdotDataを導入したところ、従来と同等以上の精度を持つ予測モデルをたった1日で作成できました。今ではグループ全体で活用を進め、すでに数十件のモデルが実用化されています。
メディア業のお客さまは会員のアクセスログや行動ログ、登録時の興味・関心項目などのデータを基に、dotDataで有料会員を「契約しそうな人」「解約しそうな人」それぞれを予測するモデルを自動生成。これまでのモデルを上回る結果を導きだしました。
また、故障予知をテーマに取り組んだ製造業のお客さまは、導きだされた分析結果に目を丸くされました。ある部品の進行方向に対する角度と設備の故障発生に相関関係があることがわかったからです。しかもそれはメカニズム的に妥当性が高い。熟練のエンジニアでも見落としていた部位に故障原因の一端があることを突き止め、言われてみれば理解できる妥当性がある。二重の「驚き」を感じて、dotDataへの期待が一気に高まっていきました。
──データ分析の一連のプロセスが自動化され、その利用が広まると、AIを使うことが競争優位ではなくなってきます。企業はどこで差異化を図っていくべきなのでしょうか。
森:何を分析のテーマに選ぶか。アイデアがより重要になるでしょう。これに関しては、ある大手銀行様が非常に興味深い取り組みを行っています。投資信託の拡販を目指したのですが、どんな人が買ってくれそうかはどこの銀行でも考えることです。
そのお客さまが目を付けたのは、セールスコールに対する相手の対応。快く電話を受けてくれたときは、話もしっかり聞いてくれるし、購買につながる率も高い。では、どういうときに相手が快く電話を受けてくれるのか。公開されている企業情報を駆使して、顧客別に何曜日の何時ごろが狙い目という予測モデルを作成し成果が出たそうです。
アイデア次第でデータ活用の可能性はどんどん広がります。企業の競争力の差は、そこから出てくるのではないでしょうか。
パートナー連携とサービス強化で価値向上を目指す
──最近では、AWSやマクロミルなどパートナーとの連携も積極的に進めていますね。
藤巻氏:パートナー戦略はテクノロジー・パートナーシップとセールス・パートナーシップの2軸で進めています。多様なテクノロジーとエコシステムとしての連携で付加価値を高め、グローバルのお客さまにその価値を提供していくためです。
AWS様は私たちの戦略的に非常に大きな意味をもつテクノロジー・パートナーです。データ分析を業務で真に活用するためには、データをストアするデータマネジメントレイヤや、BIによる可視化、そしてセキュリティへの対策など周辺のしくみも重要です。世界のクラウド市場で圧倒的なシェアと信頼性を持つAWSとの連携により、dotDataを使うための周辺のしくみをパッケージ化して提供することで、お客さまがフルマネージドのデータ分析をすぐにはじめられます。
森:マクロミル様とは、同社が保有する生活者のライフログデータとdotDataを組み合わせた生活者起点のデータ分析サービス「D-Profile」をすでに提供しています。これに加え、より深いインサイトを導出するサービスの提供に向けた取り組みも進めています。また、日本のお客さまのニーズに応えるパートナーシップを強化していきます。具体的には、コンサルティングファームとの連携を考えています。dotDataが示す特徴量はビジネスの洞察であり解釈そのものであり、これを活用することでお客さまへ業務改善やマーケティング施策などの的確なレコメンドが可能となります。
──dotDataのサービス・機能はどのように強化していくのでしょうか。
藤巻氏:dotDataのコアコンピタンスである特徴量設計を強化するため、いろいろなタイプのデータを扱えるようにしていきます。たとえば、今年3月に時空間データを扱えるようになったことで、駅からの距離など周囲の状況によって異なる不動産価格や、1週間以内に近くでイベントがあるコンビニの売上など、難しい空間的な特徴量設計が可能となりました。また、dotDataによって特徴量や機械学習モデルの設計が自動化されると、次はその大量の特徴量や機械学習のモデルを運用することが課題になります。日々変化するデータに対して特徴量や機械学習モデルを自動的に運用するしくみについても、取り組みをはじめています。
森:日本では、dotDataのライセンス販売に加え、データサイエンティストおよびインダストリコンサルタントの特性を生かした、よりお客さまに響くサービス強化を行います。
それに加え、今年度中に「dotDataユーザー会」を立ち上げ、ユーザー同士が交流し、それぞれの経験やノウハウの共有を支援する活動もはじめます。これに先立ち、デジタルのコミュニティも立ち上げる予定です。情報交換やちょっとした困りごとの相談・解決の場として利用できるようにします。ユーザー同士が交流を深め、そこからアイデアの発見や新しいビジネスのヒントが生まれることを期待しています。
藤巻氏:市場の「リーダー」として認定されましたが、ここがゴールではありません。私たちが今後も「リーダー」であり続けるためには、これまでお話したパートナー戦略やサービス・機能強化をスピーディーに実現していく必要があります。まずは日本と北米を中心として、存在感をさらに高めていきます。次に狙うのが、成長著しいアジア・パシフィック市場です。数年後にはこの市場へ本格参入し、将来的にはマーケットを世界に広げ、グローバルでの確固たるポジションを確立することを目指していきます。
──急成長を続けているdotData社の1年後、2年後が非常に楽しみです。本日はありがとうございました。