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2019年09月10日

入退場は“顔”で!熊谷組の取り組む、建設現場の生産性向上に迫る

 青森県むつ市で施工中の「むつ市総合アリーナ」の現場では、“顔”による入退場を行っている。IDカードなどを使わずに現場にいる作業員をリアルタイムに把握し、記録・集計などをスピーディーに行えるこのシステムは、入退場管理業務を大幅に進化させている。今回はこの取り組みを推進する熊谷組のキーマンたちに話を聞いた。

現場所長の永遠のテーマを顔認証が解決

 工事現場にはその日の作業内容によって、さまざまな専門工事会社や作業員が出入りする。そのため、元請けの建設会社にとっては、その日、どの会社の誰が出勤しているのかを把握する「出面(でづら)管理」をいかに正確かつスムーズに把握するかは、現場所長にとって永遠のテーマといっても過言ではない。

 実際の現場では、作業員が何人出勤しているかは、一次下請け会社の職長から、二次下請け以下の会社を含めた人数報告に頼らざるを得ない場合も多い。

熊谷組JV 作業所長
松本 佳人 氏

 「この方法だと作業員個々の情報を、われわれ元請け会社が直接把握しにくいという問題がありました。そのため工事費を精算するとき、そのうち何人分の宿泊費がかかったのか、退職金制度の建退共の加入者は何人いるのかなどを、各社に確認・集計するのに時間がかかっていました」と、熊谷組・熊谷建設工業・橋本建設工業JV(以下、熊谷組JV)の作業所長を務める松本佳人氏は語る。

 こうした問題や発注者からの問い合わせに対する集計や条件ごとの分類が瞬時にできない状況に対して、副所長の志摩 貴次氏は、むつ市総合アリーナの工事を行うにあたり、作業員個々の入退場管理や履歴管理をリアルタイムに行えるようにしたいと考えた。そこでNECの顔認証システムの導入を計画し、松本氏に強く要望した結果、導入することが決まった。

熊谷組JV 作業副所長
志摩 貴次 氏

 「費用対効果はわかりませんでしたが、やってみなければ分からない。一度、試しに導入してみようということになりました」(松本氏)。

 こうした熊谷組JVの決断の結果、NECの「建設現場顔認証入退管理サービス」は、2018年12月に日本で初めて、むつ市総合アリーナの建設現場に導入されることになったのだ。この現場では、現在、約150人の作業員が、入退場管理に利用している。

むつ市総合アリーナ工事の現場で行われる朝礼。さまざまな専門工事会社に所属する作業員が集まる。彼ら一人一人の入退場管理をリアルタイムに行うことは、元請け会社にとって生産性向上につながる

“顔”による入退場管理を実現

 青森県むつ市にある「むつ市総合アリーナ」の建設現場の一角には、壁に「顔認証ハウス」と書かれたプレハブ小屋がある。朝の現場出勤時や夕方に仕事の終わった作業員たちは、次々にこの小屋に入っては出てくる。

 小屋の内部には、iPadが2台、壁に取り付けてあり、作業員は小屋に入るとiPadに顔を向けて画面にタッチ。2秒後には立ち去っていくのだった。

「顔認証ハウス」での入退場登録の様子。簡単な操作で2秒で入退場登録が完了

熊谷組JV 工事係
富田 達哉 氏

 工事係を務め、本サービスの展開を推進する富田達哉氏は「iPad内蔵のカメラで作業員さんの顔を撮影すると、システムに登録された顔映像と瞬時に照合し、出勤が記録される仕組みです。」と説明する。

 建設業向けにIDカードやICタグなどを使ったさまざまなシステムもこれまで、開発されてきたが、重層下請け構造の建設現場では、全員に統一したカードを持たせるという方法は適さない。そしてカード忘れや紛失による問題も多かった。

 「建設現場顔認証入退管理サービスを導入して以来、その日、どの会社の誰が出勤しているのかを、パソコンでリアルタイムに把握できるようになりました。県外からの作業員が何人来ているのかといった集計も、スピーディーに行え、発注者からの急な問い合わせにもすぐに対応できるようになりました。」と富田氏は語る。

現場での活用を最大限意識した、顔認証を活用した入退場管理サービス

 熊谷組JVが導入した建設現場顔認証入退管理サービスは、使用するハードウェアは、スマートフォンやタブレットなどのモバイル端末だけで、特別な端末やカード、カードリーダーなどはいらない。この現場では共用のiPadを2台使って運用している。

 作業員はiPadで顔認証を行うと、GNSS(全地球測位システム)の位置情報を取得し、だれがいつ、どこで入退場を行ったのかを正確に把握することができる。

顔認証による入退場管理の仕組み。本人確認とともにGNSSによる位置情報や時刻も同時に出退勤データとして記録される
画像を拡大する

 その入退場データはクラウドに集約され、CSV形式のファイルに書き出して、表計算ソフトで現場での出面(でづら)管理や労務管理、作業実績報告などの業務に簡単に利用できる。1日の作業完了時には、現場に残っている人がいないかの最終確認にも使える。また、2019年4月より本格運用が開始された、作業員が持つ資格や経験、現場履歴などを記録し、作業員の処遇改善や技能の研鑽を図ることを目指す「建設キャリアアップシステム」とも連携している。

 (※建設キャリアアップシステムは一般財団法人建設業振興基金の商標または登録商標です。
建設キャリアップシステム:https://www.ccus.jp/

 そしてこのサービスの最大の特長は、工事現場で入退場管理に使えるようにするため、現場職員の意見を聞きながら、操作をなるべくシンプルにしている点だ。

 「一度説明すれば、作業員さんたちもすぐに操作を理解してくれるので、スムーズに運用に入れました。」(富田氏)

 新規入場者がいた場合は、システムに新規登録する必要があるが、iPadの画面から所属会社名や名前などの必要事項を入力して、iPadで写真撮影するだけで完了するようにしている。作業員の入れ替わりが多い現場にマッチしている。

新規入場者の登録もiPad上で必要事項を入力し、写真を撮るだけで完了する

 また現場単位で導入することができ、スモールスタートが可能なため、一度、試しに導入してみようという同社の要望にも最適だった。

 なかなか決定打がなかった現場の入退場システムだが、“顔”をIDカード代わりにし、現場での機器もiPadなどのモバイル端末とインターネット接続のみ、しかも現場単位で導入できると三拍子そろった「建設現場顔認証入退管理サービス」は、建設現場の生産性向上の一手になりそうだ。

導入現場の拡大でますます便利に

熊谷組JV 事務職員
福田 純子 氏

 むつ市総合アリーナの建設現場を取材で訪れた2019年8月現在は、鉄筋コンクリート工事を行っていたため、専門工事会社の数も比較的、少なかった。本サービスの真価が問われるのは、今後、行われる仕上工事の段階だ。

 「仕上工事では、現場に出入りする専門工事会社や作業員さんの数もさらに増え、新規入場者も増えてくるため、管理業務もより煩雑になります。この段階でもスムーズに運用できることを期待しています」と言うのは、熊谷組JVで入退場データの管理を担当する事務職員の福田純子氏だ。

 この現場では、作業員の情報として「フルハーネス型安全帯についての特別教育」や「玉掛け作業の再教育」についての受講の有無といったデータも追加登録し、作業員の教育情報も管理している。

 福田氏は「一度、登録したデータを他の現場でも使えるようになれば、入退場管理はますます効率化し、作業員さんもさらに楽になるでしょう。そのためにも、顔認証による入退場管理を導入する現場が増えていくといいですね」と語る。

 松本氏は「社内の安全日報システムと、入退場管理のデータが連携できるようになると、さらに現場の業務改善は進むでしょう」と、現場事務所の業務における生産性向上について将来を展望する。
「建設現場顔認証入退管理サービス」の導入を皮切りに、熊谷組の建設現場の生産性向上の取り組みは進んでいきそうだ。

(取材:建設ITジャーナリスト 家入龍太)

市長コメント

むつ市長
宮下宗一郎氏

 私たちは、工事の施工に対して高度な技術と品質管理を求めています。工事現場において作業員の管理が、タブレット端末による顔認証により、簡単、確実に行うことが出来ることは、担当者の負担軽減となり、品質管理はもとより、建設現場での生産性の向上にもつながる画期的なシステムと考えられます。

 また、作業員の作業の蓄積が効率よく記録されることで、技術力の蓄えが可視化され、その高度化に寄与する力となるでしょう。

 NECの「建設現場顔認証入退管理サービス」は、むつ市総合アリーナの施工にあたって、日本で初めて建設現場に導入され、今後この取組が施工管理のスタンダードになることを、公共事業発注者としても国土交通省建設業課のOBとしても大いに期待するとともに、建設産業全体の発展に貢献すると確信しています。

むつ市総合アリーナ:
 青森県むつ市のおおみなと臨海公園に建設される体育館で、RC一部S造2階建て、延べ床面積約8000m2の規模。1階にバスケットコート3面に対応するメインアリーナとサブアリーナ、2階には1058席の観覧席と1周約200mのランニングコースなどを設け、市民の健康増進の場として活用される。

工事現場の全景。後方に見える白い建物は「しもきた克雪ドーム」(写真提供:むつ市)

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