臨場感が伝わり、インタラクティブにつながる充実の遠隔授業
5G「共創」がビジネス実現へまた一歩
次世代通信規格5G時代の新たなビジネスモデルやサービスを創出するための共創プロジェクトとして、NEC、MXモバイリング、クレセントの3社が2019年6月、上智大学の協力を得て、遠隔双方向教育の体験学習を行った。NECが2018年12月に立ち上げた、オープンイノベーションを促進して新たなビジネスを創出する「5G Co-Creation Working」の一環。5Gを活用することで、よりリアルタイム性や臨場感を高めたインタラクティブな授業の実現が可能になる、とさらなる質の向上に対する期待が高まる結果となった。今後、NECはパートナー企業と協力し、商用サービス化を目指す。
SPEAKER 話し手
NEC
松田 尚久 氏
デジタルサービスソリューション事業部
事業部長代理
クレセント
氏原 亮介 氏
代表取締役社長
MXモバイリング
笠井 智廣 氏
法人事業本部
ソリューション推進室マネージャー
上智大学グローバル教育センター
戸田 裕昭 氏
非常勤講師
上智大学と都内の3拠点結びディスカッション授業
今回のプロジェクトは、通信回線は5Gではなく、LTEでネットワークを構築し、授業が行われている上智大学と、都内のオフィスなど3拠点を結んで、プレゼンテーションやディスカッションを実施。NECは、感情分析ソリューション、表情分析ソリューションの提供と、プロジェクト管理。上智大学は「社会的価値創出のためのプロジェクト形成論」という授業でのPJ協力。MXモバイリングは、双方向映像配信システム、ARアプリケーション、LTEネットワークの構築を担当した。クレセントは、プロジェクトリーダーとして全体をコンサルティングした。
参加した学生からは「授業で遠方とコミュニケーションを取りながらやるというのは、ありそうでなかった。今後、技術が進歩し、こういう授業が普及していくことで未来が明るくなると思った」などの好意的な感想があった。また、「その場にいないと分からない周りの空気はまだ十分に伝わりにくい」など、今後、5Gの登場によりさらに臨場感が高まることへの期待の声もあった。
教員の負荷軽減と教育格差是正の実現を目指す
──プロジェクトの狙いは。
松田:教育現場では、教員が抱えている作業が過重になるという状態が慢性化しています。1人の先生がいかに効率的に複数クラスをカバーできるかというのが、今回のプロジェクトの重要なポイントです。
また、教育現場では教員が多忙すぎることに加えて、専門領域授業の受講に地域格差があることが社会課題となっています。5GをはじめとするIoTを活用し、こうした課題を解消し、親密なコミュニケーションが行える授業の実現に取り組むことになりました。
──「流通」のワーキンググループが「教育」をテーマに選んだ理由は。
氏原氏:次世代通信規格5G は、超高速・大容量通信、多数同時接続、低遅延という特徴を持ち、さまざまな分野での新たなサービスの登場が期待されています。5G Co-Creation Workingには、「流通」「交通」「建設」の3ワーキンググループがあります。私たちの「流通」グループでの議論を通し、遠隔地の人々を身近に感じてインタラクティブなコミュニケーションできるプラットフォームを構築することで、Eコマースや遠隔ライブなどさまざまな分野において新たな可能性が生まれると考え、その一つの適用例として「教育」を選びました。
「流通」と「教育」という言葉だけ見ると、関連性のない領域であると感じるかもしれません。しかし、モノがヒトからヒトへ移動するという既存の「流通」概念は、来る5G時代においてはサービスや知識、経験など形のないモノがヒトからヒトへ繋がっていく概念まで広がります。この概念変化はまさに「教育」という知識や経験がヒトからヒトへ伝わる領域にてはまると考え、「教育」をテーマとしております。このようなビジネスアイデアの変化や広がりも5G時代への期待を感じさせてくれます。
距離という制限を外し、もっと笑顔が増える授業を
──遠隔地を結ぶだけでなく、さまざまなアイデアを付加した背景は。
笠井氏:遠隔地を結ぶことはひとつの通過点。新しい未来や人々の笑顔を作り出したい、これが私たちの最終的な狙いです。例えば、学校で学びたくても、通うことができない子供たちや、地方にいながらも都市部で行われている授業を受けたいと考える学生たちの夢を、通信とシステム技術を使って叶えていきたいと考えています。
遠隔地をつなぐだけであれば、テレビ会議などの既存の方法でも可能です。ARなどの新しいテクノロジーを加えることで、空間の制約を超えてみなが同じ場に集まっているかのような臨場感で心に響く授業を実現できるのではないかと考えました。5G時代の到来によって、通信の速度や低遅延化の解消など、テクノロジーの性能が上がっていくので、さらに優れた環境を実現できるようになります。
──授業を終えての感想は。
戸田氏:これまでも、さまざまなツールを使って遠隔地を繋ぐ授業を経験しましたが、やはり、授業を受けている側のリアクションや感情が全く分からず、一方通行になってしまうことが多かったです。遠隔地にいる学生の表情がわかれば、どんな感情を持っているのかをある程度把握し、こちらから「今の説明は大丈夫?」と問いかけていくことが可能になり、双方向性や臨場感が高まっていくと考えています。場所や距離を問わずに双方向で人がつながることができれば、コミュニケーションの幅が広がります。そこでのつながりを生かして、みんなが”やりたい"を共有し実現していく社会になれば、より明るい社会が実現できるのではないかと感じています。
一方で、課題も感じました。今回の授業で、こちら側で起きている状況は遠隔地で全てが見えているわけじゃないので、「予定時間がおしている」というような、その場の空気感が伝わらなかったことがありました。リアルタイムの教室だと全員の表情が見えるので「楽しそう」「眠そう」「いらいらしている」などが分かるのですが、今回も遠隔地の学生の表情までは分かりませんでした。画面で見ていて、とても険しい顔で聞いている学生がいたので話しかけたら、実はフリーズしている(固まっている)だけだった、ということもありました。画面で見えるもの以外の情報が伝わるように作っていくことが大事であると感じました。
「学生たちの感情を知りたい」課題は臨場感の向上
──画面が見にくいなど他にも課題を挙げる学生がいた。
氏原氏:学生が発表しているときに、パワーポイントや資料などを遠隔地で見ていたときに、少し見にくいと感じました。この課題については、画面を大きくしたり、画質を向上させるなどの方法ですみやかに改善できると思っています。それよりも、リアルタイム性を確保できるかどうかが、最も重要な課題です。別の空間にいても、同じ空間にいるような感覚を確保できるようになると、このビジネスの可能性はますます広がっていくはずです。まだまだスタート地点ではありますが、その可能性は無限大です。今後、ビジネスとしての精度をさらに高めていき、次世代の社会になくてはならないサービスとして展開していきたいです。
──臨場感を高めていくことは、技術的には可能なのか。
松田氏:今回の授業では感情分析、表情分析などのNECの技術を取り入れています。単なるストリーミング配信ではなく、よりインタラクティブな授業が実現できたのではと手ごたえを感じています。ただ、今回の概念実証で使ったのは5GではなくLTE回線でしたので、技術的な課題が見えてきたのも事実です。
こうした課題は、5Gになると高速・広帯域になり、解決できる可能性は高まります。繰り返しになりますが、今回あくまでも概念実証なので、技術的な検証を行うことに主眼を置いています。今回の授業を通して、遠隔授業であっても講師と生徒が共に臨場感のある授業を体感でき、リアルタイムに生徒の感情を可視化できることなどの成果が得られました。将来的には商用として活用され、教員の過重な作業の緩和と教育の格差の解消につながればと考えています。
今回の概念実証を通じて、技術的な課題は洗い出せたと思っています。今後は、ここで得られた知見を活かし、商用サービスの実現に向けて、パートナー企業と共にビジネスを作っていきたいと考えています。