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2020年、さらにその先へ
~東京2020オリンピック・パラリンピックにおけるレガシー~

 オリンピック、パラリンピックの歴史は、大会を通じて誕生する良き遺産「レガシー」によって、開催国や世界のその後を進化させてきた歴史でもあります。そして、東京2020オリンピック・パラリンピック。TOKYOから世界へ何を伝え、東京から未来へ何を遺すことになるのでしょうか。

SPEAKER 話し手

タイムアウト東京
ORIGINAL Inc.

伏谷 博之 氏
Hiroyuki Fushitani

タイムアウト東京 代表
ORIGINAL Inc. 代表取締役

大学在学中の1990年にタワーレコードに入社。2005年、代表取締役社長に就任。2007年にタワーレコードを退社。 2009年、ロンドン発のシティガイドマガジン『タイムアウト』のライセンス契約を取得し、タイムアウト東京を設立

NEC

山本 啓一朗
Keiichiro Yamamoto

東京オリンピック・パラリンピック推進本部 部長

1999年NEC入社後、システムエンジニアや経営企画部を経験したのち、2012年復興庁宮城復興局へ出向。地域経済の立て直しを目指す地域復興マッチング「結の場」の企画・推進などを実施。2014年NECに復帰した後は東京2020を担当

日本の未来を握る2020

──東京1964オリンピック・パラリンピックでは、さまざまなレガシーがつくられ、日本が戦後復興を果たし世界で躍進する足掛かりとなりました。東京2020年大会は、未来にどのような恩恵をもたらすのでしょうか。

山本:1964年は、それまで計画にとどまっていたものが、大会準備を通じて現実のものとなりました。高速道路や新幹線といったインフラ整備が経済成長の礎となったことは有名ですが、警備業やごみ収集の仕組みなど、現在ではあたりまえとなっているサービスや価値観も生まれました。

 東京2020大会、NECはオールジャパンの一員としてパブリックセーフティという得意技で貢献し、今求められている安全・安心な社会を実現するレガシーを遺したいと考えています。東京2020ゴールドパートナーとして、東日本大震災からの復興五輪を掲げている大会であることも強く意識しています。東京2020大会そのものの成功だけでなく、本格的な復興や地方活性化につながる取り組みにも寄与していきたいです。

伏谷氏(以下、敬称略):復興を目指すのはもちろんですが、世界に先駆けて、日本が解決したい大きな課題に少子高齢化があります。克服して、サステナブルな社会をつくっていくことを考えるときに、インバウンドが重要な要素の一つとなります。

 弊社が運営するロンドン生まれのシティガイドは、現在世界108都市39カ国に広がるブランドメディアです。ローカルエキスパート=地元の目利きたちが、街の今を発信し、ローカルと観光客、双方に信頼が厚いガイドとして知られています。その東京版を私が代表として運営しています。訪日外国人に魅力的な観光体験を提供し、消費を促し、繰り返し訪問してもらえる環境を整えていくことが、結果としてその街の未来をつくることになります。

山本:世界における観光のトレンドを教えてください。

伏谷:ただ観光地を訪れるだけでなく、体験を重視するようになっています。これは観光だけの話ではなく、日常生活の中でのショッピングなどでも体験重視の現象が起きていますね。先日訪れたニューヨークでは、体験型店舗の進化に驚かされました。インターネットで何でも買える今、小売業にとっては、いかに自分たちの店舗に足を運んでもらうかが大きな課題ですが、魅力的なリアル店舗での体験を提供することで自分たちのブランドのファンになってもらうような取り組みがどんどん広がっています。

 体験型重視にシフトしていくなかで、トラベルとライフスタイルというこれまでは異なるカテゴリーだったものの境界が薄まり、融合してきていますね。シティガイドとトラベルガイドの垣根がなくなってきたとも言えるかもしれません。

東京2020大会は「東京だけ」のものではない

──日本を訪れる外国人観光客が増えるなか、より快適に滞在できる環境の整備が進んでいます。NECとしても、顔認証技術をはじめとしたテクノロジーで”おもてなし”をサポートしていますが、私たちにどのような変化をもたらすのでしょうか。

伏谷:日本のおもてなしを世界に発信するチャンスですよね。顔認証の圧倒的な利便性の高さを、難しいことと思わずに体験できるようになると良いですね。東京に行ってすごい体験ができたから、自分の街にもこの仕組みが欲しいと思ってもらえることが大切です。

山本:今はオンラインとオフラインが分断されている状況ですが、それらが融合し、顔認証をはじめとする生体認証をID・キーとしてあらゆる情報をつなげることができれば、街や経済が活性化します。世界が求めるレガシーとして、大きな社会インフラのプラットフォームになることを期待しています。

 レガシーの本格的な整備や訪日客増加は東京から始まりますが、やがて東京から地方へと波及していきます。東京2020大会は、東京をはじめとする開催地だけのイベントではありません。自分たちの生活が変わるきっかけとなるイベントとしても注目してもらいたいです。

 全国各地で実証実験や本格導入が進み、生体認証技術を使った「I:Delight」等NECのソリューションが果たせる役割の大きさを実感しています。ただ、いろいろな地域を訪れるなかで、立場によって温度差があることを感じる場面もありました。外国人観光客の増加がメリットではなく負担であり、地元住民にとっては必ずしも歓迎ムードではない地域もあるのが現実です。

伏谷:なぜ外国人が訪れているのか、理解できていない地域が多いですね。訪日客の増加が地域にどう影響するのかを、地域のリーダーや行政がもっと丁寧に説明して、市民が自分ごととして想像できるようにすることが必要だと思います。例えば、地方の公共交通網は、地元住民の需要だけでは維持が困難な地域も多いですが、観光客が増えて、モビリティのニーズが広がれば、自動運転車が走るようになってそこに暮らす人たちの生活にもよい効果がもたらされるかもしれない……自分ごととして捉えられるようにする必要があります。海外では、観光で得た収益でインフラを整備している例もありますし、国内では、医療ツーリズムによって地域の病院を存続させた事例もあります。

山本:地元住民だけで採算が取れる仕組みを作るのは難しいですよね。目的こそ違うものの共有して使うシェアリングの考え方は、地域活性化で重要な価値観になっていきそうです。

”インクルージョン&ダイバーシティ”、真の共生社会の道筋をつくる

──少子高齢化対策として積極的に外国人労働者を受け入れる方針もあり、旅行だけでなく仕事で日本を訪れる外国人も増えています。そのなかで、今後どのような視点から街づくりを考えていくことが重要か教えてください。

伏谷:日本の街や文化は、日本人目線に偏り過ぎていて、まだまだ外国人が“社会的弱者”となっている状況が多くあります。私も街づくりに関わっている豊島区は、働き手としての外国人住民も多く、外国人目線に立った取り組みについても進めようとしています。弊社は10の国と地域の人が働いています。経験も蓄積されて、外国人目線、相手目線で考えることが得意です。多様な国籍やバックグラウンドを持った人たちとの媒体運営や日々のコミュニケーションから得た示唆を共有することで、「たしかに、そういう見方もあるよね」と、共生社会に必要なコミュニケーションに役立ててもらうことが、私たちが社会にできることだと考えています。

 再び訪れたい国、友人にも勧めたい国として、思い出を持ち帰ってもらうには、もっと相手目線に立つ必要があるでしょう。外国人が感じる困難に、日本人が真剣に向き合うことが、例えば、オーバーツーリズムを解決していくヒントにもなるのではないでしょうか。

山本:外国人だけでなく、病気や不慮の事故により、誰もが一瞬にして“社会的弱者”になり得ます。ちょっと指をけがして使えなくなっただけでも、多くの困難に気づかされますよね。

 テクノロジーで解決できることも少なくなく、NECが多様な視点から考えた答えの一つが顔認証でした。NECの指紋認証技術は世界No.1の認証精度とスピードを持つのですが、なぜ今、顔認証により力を入れているかというと、よりユニバーサルなサービスを提供できるからです。

 東京2020大会は、パラリンピックスポーツを通じて改めて共生社会について考え、多様な人々の立場や視点を受け入れ、理解し合う絶好の機会です。それが、共生社会を形づくる新たなレガシーになります。1つの課題を解くことで、障がい者だけでなく高齢者や外国人の課題も解ける可能性があります。NECは、選手や関係者、そして応援する全員がストレスなくパラリンピックスポーツに集中できる環境を整備することで、共生社会の実現に向けた道筋をつくりたいのです。

伏谷:誰もが心地よい環境をつくることは簡単ではありませんが、データから興味関心や人の行動を読み取ることができるなど、テクノロジーを活用することで、多様な視点を得ることができますし、そのような環境づくりの手段としても有効だと思います。ですから技術に信頼のあるNECさんには期待していますし、私たちも一緒にレガシーを創っていきたいと願っています。

山本:テクノロジーには、誰もが輝き、感動を分かち合える社会をアシストするポテンシャルがあります。NECはさまざまなデータの活用と新たなコミュニケーションを通じて、インクルージョン&ダイバーシティ、真の共生社会への道筋をつくりたいと考えています。そうした東京2020大会のさまざまなレガシーが、共生社会に向けた大きな原動力だったと振り返る日が、近い将来訪れることを確信しています。

  • NECは東京2020ゴールドパートナー(パブリックセーフティ先進製品&ネットワーク製品)です。