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2019年10月17日

~フィンテック&レグテック・サミット2019特集~
新しい成長の源泉を求めて
In search of new sources of growth

 日本経済新聞社と金融庁による金融とテクノロジーのカンファレンス「FIN/SUM」(フィンサム)が、今年も9月3日〜6日に開催された。「新しい成長の源泉を求めて」をキーコンセプトに掲げた今年のフィンサムには、200人を超える多彩なスピーカーと延べ1万人を超える来場者が参加。麻生 太郎副総理や黒田 東彦日銀総裁、遠藤 俊英金融庁長官らのスピーチをはじめ、国内外から集まった登壇者が、フィンテックとレグテックの未来について議論を繰り広げた。約80のセッションのなかでもとくに注目すべきは、4日に行なわれた「Future of Banking」と6日の「国民のペインポイントを吸い上げろ! 〜日本がレグテック先進国になるための方策」だ(以下文中敬称略)。

左からNEC 岩田 太地、衆議院議員 村井 英樹氏、バンクソフト CEO テリエ・チョス氏、ワンファイナンシャル CEO 山内 奏人氏、元シンガポールDBS銀行 CIOスティーブ・モナハン氏

シンポジウム 「Future of Banking」

ユーザー視点の「体験」と「信頼」が銀行を変える

 「Future of Banking」のモデレーターを務めたのは、NEC デジタルインテグレーション本部 ディレクターである岩田 太地。「Bank( 銀行) ではなくBanking(銀行業)の未来」を主題にあえて英語のみのタイトルとした。パネリストは財務省出身で元金融担当大臣政務官の村井 英樹衆議院議員、ノルウェーの金融機関向けソフトウェア企業・バンクソフトCEOのテリエ・チョス、弱冠18歳にしてレシート買い取りサービスを提供するワンファイナンシャルCEOを務める山内奏人、元シンガポールDBS銀行CIOのスティーブ・モナハンの4名がそろった。

NEC
デジタルインテグレーション本部
ディレクター
岩田 太地
衆議院議員 村井 英樹氏

 「銀行業」はもはや「銀行」だけが行なうものではなくなってきている、議論はそこから始まった。それでも村井は敢えて問題提起する形で「メガバンクは100年後も金融の中心にありつづけられるポテンシャルがある」と主張。とりわけメガバンクがもつ情報量・信用力・人材の3つは、これからのデータ駆動社会において高い価値をもつという。一方で、銀行が時代に合った形でビジネスモデルを転換できることをその前提条件として挙げた。

ワンファイナンシャル
CEO 山内 奏人氏

 また、山内は「現在の銀行は“不自然”なものになっている」と疑問を呈す。山内のような若年層は、送金手段として銀行以外のサービスを使うことも少なくない。「今後はよりユーザーのライフスタイルに密着したサービスが銀行業を内包していくのでは」と語る。チョスも「銀行の業務は自動化が進んでおり、ユーザーのニーズに対して意識しなくても応えることができる目に見えない存在にならなければいけない」と同意する。

  議論のなかではキーワードとなったのが「体験」と「信頼」だ。山内は「SNS(交流サイト)の体験が拡散することで、それにあったサービスを提供することが必要」と指摘、モナハンは「今の銀行は顧客のデータを持っているが活用しきれていない。顧客の体験を通じて、適切なアドバイスを与えることが、信頼につながる」と語った。

元シンガポールDBS銀行 CIO
スティーブ・モナハン氏

顧客のライフスタイルに密着したサービスが必要

バンクソフト CEO
テリエ・チョス氏

 欧州ではEU決済サービス指令(PSD2)や一般データ保護規則(GDPR)の導入など、銀行業の変化が進み新しい「信頼」源を探求することはこれからの重要な指針だ。銀行のデジタル化やオープン化が進む北欧中心にBanqsoft事業を展開するテリエ・チョスも同調する。北欧では、銀行業務は購買などの顧客体験の一部へと融合が進んでいる。そのプロセスの中で、「新しい顧客体験を生み出せるバンキングとはデータ処理の自動化が要諦であり、信頼を損なわないためにはデータとソフトウェアのガバナンスがデジタルバンキングにとって重要だ」とチョスは欧州での経験則を共有した。

 また、「銀行業の担い手が得られる対価が従来の手数料・金利から情報に移っていく中で、その情報を生かした新たな収益源を創り出すことが必要。フィンテックはそのために活用されるもの。銀行業としての信頼は簡単に得られるものではなく、情報を適切に管理することが信頼獲得に向けた重要なステップだ」と村井は述べ、セッションを締めくくった。

クロージングセッション 「国民のペインポイントを吸い上げろ!」

レグテックの推進が急務に

千葉市長 熊谷 俊人氏

 規制やその対応コストを下げるレグテックを議論するパネル討論「国民のペインポイントを吸い上げろ!」でも、新たなビジネスモデルが生まれる可能性が提示された。前出のNEC デジタルインテグレーション本部 ディレクターの岩田 太地と、千葉市長の熊谷 俊人、EY新日本有限責任監査法人 EY Japan レグテックリーダーの小川 恵子、東京大学大学院教授の森川 博之、スタンフォード大学リサーチスカラーの櫛田 健児の5名が参加し、日本経済新聞社の山田 康昭がモデレーターを務めた。

 国民のペインポイント=直面する課題=を理解することは、レグテックの発展においても重要となる。なかでも「相続」にまつわる処理に象徴されるような行政手続きは大きなペインポイントであり、だからこそ熊谷は千葉市で数多くの行政改革を手掛けてきた。

スタンフォード大学
リサーチスカラー
櫛田 健児氏

 櫛田が「いま普通に相続手続きを行なうと計100時間ほどかかる。日本全体で考えるとこれはものすごいコスト」と語るように、「時間」はレグテックを考えるうえで重要な要素のひとつ。しばしばレグテックはコスト削減の手段と位置づけられることが多いが、熊谷は「手続きの時間を削減することは市民に時間を返すことでもある」と指摘し、これが人々の生産性向上にもつながることを明らかにした。

 ただし、ペインポイントを解決するうえで重要なのはテクノロジーではない。森川が「テクノロジーはすでにある。実現を阻害するしがらみを壊す場をつくらなければいけない」と指摘するように、レグテックは責任の所在や利益の分配などが定めづらいため、社会実装が進みづらい側面もある。

東京大学大学院教授 森川 博之氏

複数のステークホルダーが情報共有できる仕組みが必要

 NECは例えば不正取引対策へのAI適用向け金融機関や当局との対話を実施しホワイトペーパー作成に取り組んでおり、岩田も「三方良しは必須の条件。しばしばレグテックは儲からないと言われるが、(環境や社会貢献を重視する)ESG投資のように新たな評価基準がつくれたらその位置づけも変わるはず」と応答する。小川も「一企業が情報を独占するのではなく、複数のステークホルダーが共有できる仕組みが必要なのでは」と語った。

EY Japan RegTech Leader
小川 恵子氏

 国民のペインポイントを解消するために、政治・行政・民間・国民それぞれやるべきことがある。熊谷は「われわれ地方自治体がエッジの効いた事例を率先してつくりたい。それで国民に関心をもってもらえれば全国に事例は広がるはず。そのためにも最初から補助金を出すのではなく広く展開する際に大きな支援を受けられる仕組みが必要」と語り、森川はアカデミアが「失敗」を継続的に議論する必要を説く。それと並行し、NECのような企業は新たなビジネスをデザインしていくだろう。もちろん国民はみずからペインポイントを探し出さねばならない。

 これからのフィンテックやレグテックを考えるためには、単に自分が儲かる仕組みやコストの削減だけを考えても意味はない。フィンサムで行なわれた議論は、いま求められているものが新たな「ビジネス」ではなく新たな「価値基準」であることを明らかにしていた。

左からEY Japan 小川 恵子氏、NEC 岩田 太地、東京大学大学院 森川 博之氏、千葉市長 熊谷 俊人氏、スタンフォード大学 櫛田 健児氏

(日経BizGateから転載)

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