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2019年12月26日

デザインとは「迷いなき関係づくり」であり「エンビジョン」

 「デザイン」という言葉が持つ意味が広がり、それが求められる領域も広がっている。空間、体験、サービス、そして都市や社会……。さまざまなモノやコト、場所にデザインが求められている。なぜ今、デザインが重要なのか。

 プロダクトから空間まで幅広くデザインし、デザインの社会実装「ソーシャルデザイン」を手がけるデザインストラテジストの太⼑川英輔氏。

 同じく、「Social Value Design」を標榜(ひょうぼう)し、2019年度グッドデザイン賞において「グッドデザイン・ベスト100」を受賞、人の体験価値の向上や豊かな社会づくりのためのデザインを手がけるNECの「クリエイティブデザインセンター」。

 ともに目指す方向が共通している両者に、改めて「デザインとは何か」「なぜ今重要なのか」について語ってもらった。

「デザイン」とは何か

 ──デザインは、定義が曖昧であるがゆえに、人によって受け止め方が違うと思います。最近では、デザインが意味する範囲が広がり、ますます定義が難しくなっているような……。まずは「デザインとは何か」についてみなさんの見解をお聞きしたいです。

太刀川氏:
 デザインとは、「かたちを通して美しい関係をつくること」だと思っています。まず「こうなったらいいな」という未来を描き、人と人、または人とモノを心地良い関係でつなぐために、かたちの力を使うことです。

NOSIGNER CEO 太刀川 英輔氏
1981年生まれ。慶應義塾大学大学院理工学研究科修了。2006年、NOSIGNERを創業。「社会に良い変化をもたらすためのデザイン」を理念に、グラフィックからプロダクト、空間デザインまで総合的なデザイン戦略を手がけている。Design for Asia Award大賞、PENTAWARDS PLATINUM、SDA 最優秀賞、DSA 空間デザイン優秀賞など多数受賞。また、福岡地域戦略推進協議会(FDC)シニアフェロー、慶應義塾大学大学院SDM 特別招聘准教授、静岡市 文化庁芸術拠点形成事業 ブランディングディレクター、グッドデザイン賞審査委員など社外活動にも勢力的。複数企業の社外取締役も務める。

 デザインというと、モノを格好良く見せるための力のように思われがちですが、かたちが主役ではなくて、生み出されるべき美しい関係性が根幹にあるんですね。

 デザインを通じて人が心地よく感じるとか、迷わず行動ができるとか、関係の側にその価値があること、それを実現できるのがかたちの力だということが肝心です。

 ──井手さんと山岡さんはNECのデザイン中核拠点「クリエイティブデザインセンター」に籍を置くデザイナーですが、お二人は、「デザイン」とは何と捉えていますか。

井⼿:
 デザインとはあるべき未来を描き、その実現に向けた課題を見抜き、方向性を決めることだと思います。

 グランドデザインという言葉がありますよね。これは「全体構想」と訳され、長期的なプロジェクトの図版や設計図のことを指すことが多い。この言葉にデザインという言葉が使われていることからも分かるとおり、デザインとは構想を描く力だと私は定義しています。

NEC クリエイティブセンター長 井手 裕紀
1999年、NECのプロダクトデザイナーとして入社。主にPCを担当。一体型PCのカテゴリでは、製品の企画段階、内部の設計段階から 参加し、外装から壁紙、スクリーン セーバー、アイコン類など網羅的に デザインディレクション。2006年、ソリューションデザイン部に異動。異動直後は携帯電話の内蔵コ ンテンツを担当。2015年4月、NEC本社に デザインセンター設立。2018年10月より現職。

 ──山岡さんは、いかがですか。

山岡:
 デザインとは「“想像”(Imagination)を“創造”(Creation)する力」だと考えています。

 未来やビジョンを想い描く“想像力”と、それを具体的なモノやアイデアに創りあげる“創造力”だと思うんです。頭の中で想い浮かべたものを具体的に表現するプロセスです。とくに、デザインは具体的に、創り上げる(Create)ことができるのが強みだと思っています。

NEC クリエイティブセンター エキスパートデザイナー 山岡 和彦
NECのプロダクトデザイナーとして入社。 海外向けのテレビデザインからスタートし ホームエレクトロニクス生活文化研究所、サウンドデザイン事業推進室(オーディオ商品企画) 海外携帯電話のデザインマネージメント、ソーシャルバリューデザインとして空港ソリューション、ティグレ市(アルゼンチン共和国)ビジョン作成、 持続可能な島づくり久米島(沖縄県)プロジェクト、 地域鉄道の活性化プロジェクト(四日市あすなろう鉄道)などを手がける。HCD-Net人間中心設計専門家、公益社団法人埼玉デザイン協議会(SADECO)業務執行理事、授産施設の商品アドバイスなど、地域活動にも取り組む。主な受賞歴にグッドデザイン賞・ベスト100、コンシューマエレクトロニクス賞(北米)、 浦和市(現さいたま市)まちづくりアイデア・提言 優秀賞 など

混沌の時代だからデザイナーの範囲は広がる

 ──「ユーザー体験(User Experience=UX)をデザインする」といった言葉がバズワード化しているなど、デザインという言葉を見聞きする機会が増えている印象があります。

太刀川氏:
 社会、国全体が成熟し、惰性が出てしまっているところに、世の中が激変してしまった。そんなある種の混沌の渦中にいるからかもしれません。

 ──混沌が関係するんですか?

太刀川氏:
 昔のデザイナーの定義って今とは違いました。デザイナーの定義って変わってきたとか、ソーシャルな領域に広がってきたよねってよく言われる話ですが、僕から言わせれば、それが本来のデザイナーの姿であって、ある意味先祖返りしているだけです。

 たとえばモダニズムの頃は、第1次世界大戦のあと、世の中がむちゃくちゃで社会全体が途方にくれていたとき、「こんな未来にしたい」「そのためにこんなことをしよう」というビジョンを描いて、産業革命を背景に新しい暮らしを描くためのモノを設計していた人たちが、デザイナーと呼ばれていたんです。

 今は格好いいプロダクトをつくる人や何らかの装飾を施す人がデザイナーだという印象が強いですよね。

 確かにデザイナーって「クラフトする」というか、何かをつくるのも得意なので、間違いじゃありませんが、それだけじゃなくて、たとえば経営者や政治家などの横にいて、エンビジョン、つまりポジティブな未来を思い描き、それを可視化できる力もデザインなんです。

 デザインが発展したモダニズム期・ミッドセンチュリー期はともに戦後でした。そうやって、新しい概念が必要なのに国や社会がどう進めばいいか分からないとき、本質的な意味でのデザインが求められるのかもしれません。

 高度経済成長期のように経済が伸びているときって、分かりやすい需要がちゃんとあってそれに応えるための供給がある。だからお金が動いて経済が伸びるわけですよね。

 このサイクルの根源である需要があるときは、それをただやればよかった。やることが明確にあるからです。決まった未来ならエンビジョンする必要はありません。

 そうするともちろん、デザインの重要な能力であるエンビジョンのためにデザイナーの力を借りようとはしませんから、相対的にクラフトマンとして、最終的なかたちを作る力が目立つわけです。

 しかし、今は違って、VUCAの世界の中で向かう道が見えてないんだと思います。だから、デザイナーが持つ両輪の一つであるエンビジョンする力が注目され、デザインが求められている領域が再度広がっているように思います。

 だから、井手さんも山岡さんもデザインの定義について未来を想像することと語っていましたが、私もそれは同感です。

 ──ビジョンを描くことは、デザイナーでなくてもできるように思うのですが。

太刀川氏:
 構想して語るだけでなく、つくれるというのがポイントですね。「絵に描いた餅」にとどまらない。これはデザイナーだけでなくエンジニアにも同じことがいえるかもしれません。

 ──井手さんはキャリアのすべてをデザイナーとして活動していますが、「デザインが求められる幅」についてどうお感じですか。

井出:
 私は社会人になってからずっとデザイン関係の仕事をしていますが、今ほどデザインを求める人が多いことはないですね。デザイナーがこんなに注目を集めるとは思ってもみませんでした(笑)。

 ──「昔は、デザイナーは軽視されていたのに……」という感じですか(笑)。

井出:
 軽視とまでは言いませんけど、今ほどいろいろなことをデザインするとは思いませんでした。

 NECの場合で言えば、家電などコンシューマプロダクトがたくさんあったとき、年間でリリースするプロダクトが決まっていて、それに合わせてプロダクトをデザインしていくことがメインの仕事でした。

 その後、2013年くらいから「社会価値創造企業」を標榜し、それまで以上にBtoBビジネスに軸足を移す中で、エンビジョンが必要になったわけです。

 NECは何をすべきか考えるというか、課題解決ばかりではなく、課題を設定することが重要で、それをさまざまな個性、能力を持つメンバーが集まって議論するようになり、そこに呼ばれることが多くなったように思います。

山岡:
 私は、空港のフライトインフォメーションシステム(FIS)をはじめ、空港のCX/UX向上など空港ソリューションのデザインに長く関わってきました。デザイナーと一緒に仕事をすることによって、プロジェクトメンバーにもデザインの重要性を理解していただけるようになってきました。

 何か新しいプロジェクトを始めようとするとき、「デザイナーも最初から入れるべきだ」という話が自然と出るようになってきたことは、デザイン部門の価値が認められたことの表れだと感じています。

世界No.1でもデザインなしでは満足されない

 ──山岡さんがリードした「税関検査場電子申告ゲートを中心としたSmart Airportの取り組み」が、2019年度グッドデザイン賞において、「グッドデザイン・ ベスト100」に選ばれました。このプロジェクトを例にデザイナーが関わる範囲の広さを教えてください。

山岡:
 NECは2018年にも「マルチモーダル生体認証Bio-IDiom」でグッドデザイン・ベスト100を受賞しています。

 複数の生体認証を利用シーンにあわせて選択、組み合わせるというコンセプトが評価されたのですが、2019年にはそのコンセプトを実際のサービスとして実現したことが評価され2年連続のベスト100受賞となりました。

 顔認証によるウォークスルーという技術力を生かしつつ、プロダクトデザイン・画面デザインからサイン計画を含めた空間デザインやプロモーションまでトータルにデザインしたことが “総合的なサービスデザイン” として評価されました。

 NECの顔認証技術は、第三者機関から世界No.1の評価を頂いていますが、いくら高精度でも「利用する人の視点」が抜けていたら意味がありません。

 空港での体験をいかに変えていくか。

  国土交通省は「FAST TRAVEL」として、保安・搭乗などの手続き・動線の効率化や高度化を推進しています。これを実現するには、すべての旅行客に不安やストレスを感じさせない「安全で快適なサービス」が望まれます。そのため、最先端の顔認証技術と最新のデザインを融合して、今までにない安全で快適な体験全体をデザインしました。

※米国国立標準技術研究所(NIST)による顔認証技術の性能評価で5回目の第1位を獲得。詳細はこちら

「顔認証」がもたらす本質的に効率よいデザイン

太刀川氏:
 デザインの観点からみても、生体認証ってとても価値のあるものだと思うんです。それだけで関係の流動性が上がりますからね。

 冒頭、デザインとは何か?の質問に対して、「関係性を美しくつくる」と答えましたが、この関係をシンプルにするのもデザインの持つ役割だと思うんです。

 たとえばトイレや非常口の看板を表すピクトグラムは、オトル・アイヒャーやゲルト・アルンツというデザイナーの仕事にその源流があります。

 誰しもそれを見るだけで説明なく意味が分かりますよね。この理解のシンプル化はデザインが持つ力です。それによって、効率の良いつながりが生み出せている。

 そういう意味では、ピクトグラムがかつてそうだったように、生体認証は、空港でいえば本人認証という重要な役割をシンプルに行っている。本人と本人をつなぐという作業を効率的にできることで、社会の流動性があがる関係がつくれるわけです。

 それはブランディングでも「理解のスピードを上げられるか」というテーマとして同じですし、プロダクトでも、何でもそうなんです。

 肝心なのは関係の流動性を上げることです。生態認証では、認証されたと気付かずに認証ができます。無駄なプロセスを減らせるというデザインの力ととても相性のいい可能性がある技術だと言えます。

 ──今後NECでは、どのようなソーシャルバリューデザインを手がけていく予定でしょうか。

山岡:
 顔認証技術を使ったデザインでお話をすると、空港だけでなく、駅や港などさまざまな場所で広く活用されつつあるウォークスルーゲートがあります。

 ICカードをタッチする必要がなく、歩きながら通過できるので、カートを押している方や、車いすの方など、より多くの人にご利用いただける、人にやさしいソリューションです。さらに、観光やショッピング、ホテルのチェックインなど、街中の施設・サービスもシームレスでスムーズな体験を実現しようとしています。

井出:
 そのときエンジニアだけでなくデザイナーが関わることで最初の発想が変わり、より人々の幸せに貢献できるはずです。社会価値創造企業を掲げるNECのデザイナーだからこそできるデザインとは何なのかを、これからも常に考え続けていきたいですね。

(取材・編集:木村剛士 構成:加藤学宏 撮影:北山宏一 デザイン:小鈴キリカ 作図:大橋智子)

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