2016年12月08日
AFP通信ニュースで世界の「今」を読み解く
トランプ次期米大統領で、世界の産業界はどう変わるのか
失敗を乗り越えて成功してきたトランプ氏のビジネスから学ぶ
大統領としての力量は未知数のトランプ氏だが、ビジネスマンとしての経験は豊富だ。彼が資産を築き大富豪となっていったプロセスと、その陰で数々の事業の失敗をどうやって乗り越えて復活を果たしてきたか、ビジネスマンとしての彼の足跡から成功の秘密を探ることで、大統領としてのトランプ氏の資質と可能性を予測してみる。ここでの予測は、これからトランプ次期大統領率いるアメリカならびに世界の国々とつきあっていく日本にとって、何らかのヒントにつながるかもしれない。
トランプ氏が勝利を勝ち得たいちばんの理由は、米国民の「グローバル化への反発」とその背景にある「貧富の格差」だと言われている。
ドナルドの父フレッドはスウェーデン移民の子で大工だったが、安い土地を買い、家を建てて売り払うことで利益を得ていった。1920年代の好景気に乗じて成長し、1929年の大恐慌では破綻した会社を安く買って大儲けした。この手法を後に息子ドナルドが受け継いでいるのは周知の通り。1970年代以降、プラザホテルをはじめ破綻した物件を次々と買い叩いた。批判も多いが、破綻したホテルに投資して再建させることで救済された人々がいるのも事実である。
そして1990年までには本人も多額の負債を抱え、破産の危機に追い込まれる。1991年、オープンから1年で破産を申請したカジノ「トランプ・タージマハル」もその一つ。しかしここで驚くべき逆転の発想によって危機を乗り切る。借金が大きければ大きいほど政府や銀行は破綻を恐れて救済する、という論理である。この論理を武器に、銀行に迫って債権を放棄させた。これがトランプ流ビジネスの危機管理術である。
加えて交渉術を見てみると、その特徴は今回の選挙戦からもわかる通り、実現不可能な要求から始める。最初に極端な発言から始めることで、相対的に印象を上げていくという戦術である。メキシコとの国境に壁を築く、イスラム教徒の入国を禁じる等も然り。また、もう一つの特徴として、ビジネスマンならでは、金銭で解決できない問題など存在しないという姿勢である。最近ではトランプ大学の示談成立劇が好例だ。(4) 日本に対する「安保タダ乗り論」にも同じ姿勢がうかがえる。
こうした過去の傾向は、今後のトランプ氏の思考や行動のパターンを予測する上での格好のデータとなるだろう。
トランプ大統領誕生後の世界で、これから伸びる産業は何か
トランプ氏優勢の速報とともに急激に下落した相場だが、翌日以降は上昇を続け「トランプ相場」が加速した。
では、これから始まるトランプ政権始動後の世界でいったい何が起こるのか、商機の女神が微笑むのはどの産業か、想像をめぐらせてみる。
まず、トランプ次期大統領が「就任初日に」離脱するとさっそく表明したTPPから見てみよう。今後も様々な形で自由貿易への模索は粘り強く続けられることを期待するが、影響を受けやすい業界は注意深いリスク管理が肝要である。次に、為替。これも極端なドル安政策は取られないとしても、やはり円高が進むリスクもある。
その鍵となるのは公共投資だ。トランプ氏は自著で1兆ドル規模のインフラ投資を主張している。アメリカには広大な土地があり、大都市を除きインフラ整備は遅れている。もしトランプ氏が大規模なインフラ投資に乗り出せば、所得は増加、消費は活性化、金利は上昇する。そうなればドル高に振れて、円高ドル安は抑えられる。米国経済が再成長の軌道に乗ることは日本企業にとって投資のチャンスにもなり得る。
トランプ氏が規制緩和を掲げている金融業、従来から現地生産シフトを進めてきた製造業などには追い風か。一方で、海外からの移民の多い西海岸に拠点を持つIT企業などは様子見が必要かもしれない。
(文/有限会社ラウンドテーブルコム Active IP Media Labo、写真/AFPBB News)
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*(2)AFPBB News 関連記事(2016年11月10日)「米国人、トランプ氏当選で大量に国外脱出? カナダは「難民」歓迎」
*(3)AFPBB News 関連記事(2016年8月4日)「米カジノ「トランプ・タージマハル」が閉鎖へ」
*(4)AFPBB News 関連記事(2016年11月19日)「詐欺疑惑の「トランプ大学」訴訟、28億円支払いで和解」
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