2016年12月22日
AFP通信ニュースで世界の「今」を読み解く
電子マネー、仮想通貨の行方はいかに?決済手段の多様化と新たな安心安全ニーズ
サイバー時代の金融機関を狙う脅威
急速にキャッシュレス化が進み電子決済がメインになりつつあるスウェーデンで、数年前に銃を持った男が銀行強盗に入ったが、銀行にはお金がなかったので何も持たずに逃走するという間抜けな事件があった。「お金」の性質が変わってきている現代では、金融機関が晒される脅威の性質も変わってくる。
サイバー攻撃があったことを発表したカスペルスキー社によると、攻撃は分散型サービス妨害(DDoS)で、ロシアの「金融機関上位10行のうち少なくとも5行」が標的にされたという。DDoSは標的のウェブサイトに大量のリクエストを送信しアクセスを困難にさせ、ダウンさせることを狙った攻撃で、今回の攻撃では、米国、インド、台湾、イスラエルを中心に30か国のハッキングされた機器が送信に利用された模様。
今年2月には、米ニューヨーク連邦準備銀行にあるバングラデシュ中央銀行の口座がハッカーに不正アクセスされ、盗まれた8100万ドルがフィリピンの口座へ送金されるという事件が起きた。
こうしたサイバー攻撃では、いわゆる「モノのインターネット」(IoT=Internet of Things)と呼ばれる、世界中のオフィスや家庭にある監視カメラやデジタルビデオ録画機などインターネットに接続された電子機器のネットワークが乗っ取られ、悪用される。今のところ、一日当たり数十億ドル(数千億円)規模の資金移動が行われる世界最大の銀行間通信ネットワーク「国際銀行間通信協会」(SWIFT)の中核には侵入されていないが、SWIFTネットワークへのコネクションを攻撃する企てがあったことは報告されている。
IoTはIoST=Internet of Secure Thingsでなければあり得ない、ということを肝に銘じて、スマートかつ安心安全な社会の実現が望まれる。
金融取引を安心安全にする認証技術
日本銀行金融研究所は、2016年3月2日、「金融取引を安心安全に実現するための認証技術:FinTech時代も意識して」をテーマに情報セキュリティ・シンポジウムを開催した。そこでは、利用者や取引内容を確認することで安心安全な金融取引を実現する「認証」の重要性が確認された。技術の普及と発展には安全性と利便性のバランスが必要である。世界の動向を見てみよう。
米国でグーグルが実証実験している「ハンズフリー」は顔認証技術などを活用し、端末に一切手を触れずに決済が完了する。利用者が対応店舗に近づいたことをアプリが検出、利用者はレジで「グーグルで支払います」と告げるだけでいい。レジ担当者は利用者の名前のイニシャルと「ハンズフリー」に事前登録された顔写真から本人確認を行う。
欧州では、クレジットカード大手のマスターカードが、今年10月に指紋や自撮り写真によって決済を承認する新サービスを一部地域で開始した。(6) 声明によれば、「カード保有者がパスワードを覚える必要がなくなることで、オンラインの決済が劇的に早くなり、安全性も高まる」という。この認証技術は今年2月にバルセロナで開催された展示会で発表され、その後、オランダ、米国、カナダでの実験を経て、10月からオーストリア、ベルギー、英国、チェコ、デンマーク、フィンランド、ドイツ、ハンガリー、オランダ、ノルウェー、スペイン、スウェーデンの欧州12か国で実用化が始まった。来年以降さらに世界各国で導入される。
急速に多様化・複雑化する世の中で、人々が安心安全に生きられる社会の実現にテクノロジーの果たす役割が注目されている。
(文/有限会社ラウンドテーブルコム Active IP Media Labo、写真/AFPBB News)
*(1)AFPBB News 関連記事(2016年10月29日)「スイス国鉄、券売機でビットコイン買えるサービスを試験導入」
*(2)AFPBB News 関連記事(2016年11月17日)「スウェーデン中銀、電子通貨発行を検討 現金の使用減る」
*(3)AFPBB News 関連記事(2016年11月11日)「ロシア大手銀5行に大規模サイバー攻撃、ITセキュリティー会社が発表」
*(4)AFPBB News 関連記事(2016年3月15日)「バングラ中銀総裁、91億円ハッカー被害で引責辞任」
*(5)AFPBB News 関連記事(2016年3月3日)「スマホ出さずに支払い完了、グーグルが新アプリの実証開始」
*(6)AFPBB News 関連記事(2016年10月5日)「自撮りや指紋でカード決済、マスターカードが欧州で新サービス開始」