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2017年01月23日

巨大損保グループが大規模な改革に成功した理由とは
──東京海上日動火災保険の「抜本改革」とその後の動きを追う

事務作業が効率化し、社内のカルチャーが変わった

 当初は3年で完了する予定だった改革は、結果的に4年間を要したが、成果は明確にあらわれた。

 例えば、BtoC担当社員約3700名の1日あたりの仕事時間は、事務作業が効率化し、ミスが大幅に減ることによって、平均34分も減った。合計すればほぼ300人近い社員の労働時間が新たに創出された計算になる。

 営業部門社員の職種で見ると、比較的女性が多い「地域型」(現在の呼称は「エリアコース」)と呼ばれる社員の事務対応時間は23%、「全国型」(現在の呼称は「グローバルコース」)と呼ばれる社員は同じく53%の減となっている。そこで創出された時間は、新規顧客獲得、あるいは既存顧客との関係強化、生命保険商品など同社にとってより成長に資するカテゴリーの営業活動、さらにはグローバル展開などに充てることが可能になった。

 保険料のキャッシュレス化が進んだのも大きな成果だった。2004年時点ではまだ、現金による徴収の方が多く、その事務作業が現場を圧迫していたが、「抜本改革」がひとまず完了した2010年時点で、口座振替やクレジットカードによる支払いは実に98.6%に達した。

 一方、閉塞感が払拭され、社内の雰囲気が明るくなるといった数値化できない効果もあった。

 「事務オペレーションやシステムがシンプルになったことによって、社員も代理店の皆さんも自信をもって働けるようになりました。ミスを恐れて萎縮する必要がなくなったので、いきいきと仕事ができるようになった。そうして働き手のモチベーションが上がり、社内のカルチャーが変わった。それもまた非常に大きな成果だったと言えます」

 事務作業のミスが少なくなり、契約手続きが迅速化すれば、当然顧客満足度も向上することになる。社員、ビジネスパートナー、顧客。その三者が「Win-Win-Win」となる効果をもたらしたという点で、「抜本改革」はまさに、他業種を含めたあらゆる企業がお手本とすべき変革の好事例となったのである。

「改革後」の新しい展開

 「抜本改革」と呼ばれた変革は、2010年の時点でいったんは完結した。しかし、これをもって社内改革が終わったわけではない。同社ではそれ以降も、現場のデバイスをPCからタブレット端末に切り替えるといった変革を続けてきた。画面を提示しながら商品説明をすることで、顧客に商品をより深く理解してもらうことを目指した変革だった。現在は、これをさらにスマートフォンに切り替えることを模索している。

 「3メガ」と呼ばれる大手損保グループ間の競争は激化しており、少子高齢化も加速している。また、業界外部からの新規参入が今後増えていくことも予想される。一方、フィンテック、あるいは、保険業界に特化したテクノロジーである「インシュアテック(Insurtech)」の進化も日進月歩で進んでいる。「抜本改革」が始まった当初に想定されていたように、変化の激しさはいっそう勢いを増している。

 「テクノロジーが進化すれば、数年前にできなかったことができるようになります。環境変化に対応し、持続的な成長を目指していくためには、新しいテクノロジーにキャッチアップしながら、変革を続けていくことが必要です」

 そう桑原氏は言う。

改革にゴールはない

 「今後の課題は、保険会社・代理店さん双方にとっての業務効率のさらなる向上と、お客さまとの接点強化。その2点に集約されると考えています。そのいずれにおいても、鍵を握るのはITです」

 ITを駆使して業務をさらに効率化することによって、サービスレベルを上げながらコストを減らすことが可能になる。また、デジタルの活用により、多様化するお客さまに対してOne to One対応を実現できる。さらに、AIを活用して個々の顧客のデータを集約・分析してニーズを深堀りする、あるいは自動車・住宅・医療・農業等の様々な領域でIoTを活用したりするといった新たな取り組みが実現する可能性も考えられる。

 「社内でもテクノロジーに関する研究は続けていますが、私たちはITの専門家ではありません。今後は、外部の事業者とのパートナーシップを強化して、課題をともに発見し、ともに解決していく“共創”の関係をつくっていく必要があると考えています。ITベンダーには保険業界向けに拘らず最新の取り組みを紹介していただいたり、我々も新しいテクノロジーを新たな取り組みに向けてどう活用できそうか等のアイデアを議論させていただいたりするなど、多面的なサポートを期待しています」

 ビジネスの環境が変わり続ける以上、改革にゴールはない──。そう桑原氏は言う。そして、苦労に苦労を重ねたあの「抜本改革」の経験が、これからの変革の支えになるだろう、と。

 「お客さまにいっそう信頼していただける損保会社、お客さまに選んでいただける損保会社になることが私たちの願いです。すべての改革はそれを実現するためのものである。そう私たちは考えています」

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