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2017年01月30日

MITテクノロジーレビュー

地球全体を鑑み、独自に温暖化適応を進めるグローバル企業

対策から適応へ

 2015年12月に採択されたパリ協定は2016年11月に条件を満たして発効した。しかし、低炭素社会の実現は難しい。実際、新たな国連の報告書が警告しているとおり、各締約国がこれまでに提示している二酸化炭素排出の削減目標では不十分だ。平均気温の上昇を2度未満に抑えるには、削減目標をさらに25%増やす必要がある。

 つまり、温暖化の進行を諦めずに対策しつつ、一方では進行してしまうことも直視し、温暖化に適応する段階に入っているのだ。

 環境対策は、企業の社会貢献の一環と捉えることが多かった。しかし、地球温暖化が現実に起きていることが明確になり、対策によっても後戻りできない状況まで悪化してしまった。したがって企業は、生存競争の一環として、地球環境の変化に取り組まなければならない。温暖化対策の意味がまったく変わってしまったことに、どれだけの日本企業が気付いているだろうか。

 特に、原料調達や生産拠点がグローバル化する中、気候変動の予測や農産物の生産計画は、すべての企業が意識すべき課題だ。たとえば農業輸出国であるベトナムでも、気候変動の影響が顕著になっている。

 2016年1月、記録的な寒波がベトナム北部を襲い、山間部では氷点下まで気温が下がり、雪が降った。イエンバイ省マー村では、前年の夏に熱波が襲い、11月の乾期には豪雨に見舞われ農作物も農地も多大な被害を受けた。マー村のグエン・ヴァン・タム村長は「気候変動リスクについての教育」を受け、世界的な気候変動が起きていることを理解している。しかし、農民に異常気象を予測するのは難しい。

ベトナム北部のサパ市の積雪(2016年2月)

 世界中からコーヒー豆を仕入れているスターバックスは、10年以上にわたって、世界中の農家に働きかけ、作物を保護するための日陰栽培や森林保全、また気候変動による害虫などの病気のリスクを管理する基準を満たす農家のネットワークを構築してきた。スターバックスの報告書によると、現在同社のコーヒーの99%(年約20万トン)はこれらの基準を満たしているという。

 温暖化対策はリスク対策であり、クリーンエネルギーや再生可能エネルギーへの取り組みは、事業継続に欠かせない。

 たとえばIKEAは、2012年にハリケーン・サンディによる停電や洪水のため、米国東海岸の9店舗が一時的に閉鎖に追い込まれた結果、およそ900万ドルの損失が出たとされる。そこで、2020年までに再生可能資源で自社が消費するエネルギーと同量のエネルギーを生産する、と2012年に発表した。IKEAがすでに2009年から風力や太陽光に15億ユーロを投じてきたが、風力発電設備や店舗や流通センターの屋上に設置する太陽光発電装置など、さらに数百万ドルを投資する必要がある。過酷な気候が業務の継続性を妨げた経験から、クリーンエネルギーへの投資はイメージ戦略などではなく、明確な企業戦略の一部になったのだ。

平屋型の大規模店舗や工場の屋上に設置される太陽光パネルは、事業継続の手段に変わりつつある(本文とは関係ありません)

 フォードを含むいくつかのメーカーにとって、節水テクノロジーの採用は、気候変動適応のために戦略的に優位になるための手段だ。長年の降雨パターンが世界的に変化し、従来の取水設備のある場所から、水源が移ってしまっているのだ。そこでフォード自動車は、製造現場で使う水に着目し、使用量の削減で生産効率を高めた。日常的な水の使用を変革するフォードの世界的な努力の一環で、水の消費量は全体で10%削減された。

 インテルもチップの製造工程で多くの水を使う。最新の年次報告書で、操業地の多くが「半乾燥地帯にあるため、気候変動による長期間の干ばつの影響を受けやすくなっている。操業ニーズを満たすだけの水を確保するのが難しくなる可能性がある」という。

 このように、すでに多くの企業が、地球のためではなく、自社のために、環境負荷の削減、温暖化対策に取り組んでいる。

米国は頼りにならない

 地球温暖化対策に積極的な政策を取ったオバマ政権と異なり、トランプ政権にはそもそも地球温暖化を認めない立場の閣僚がいる。就任1日目に、ホワイトハウスの公式ページからは気候変動のページが削除され、石炭や石油、ガス生産の増加を目指す「米国第一エネルギー政策計画(An America First Energy Policy Plan)」と題する新しいページが登場した。

炭坑街の衰退はクリーンエネルギーのせいというよりも、シェールガスとの価格競争に負けたからであり、クリーンエネルギー政策をやめても活気は戻らない

 化石燃料の探査を促進し、再生可能エネルギーへの移行を遅らせれば、世界が劇的に温室効果ガスの排出量を削減する必要があるちょうどその時期に、排気量が増加してしまう。

 一方、先週には米国立海洋大気庁(NOAA)と米国航空宇宙局(NASA)は、2016年は史上最も暖かく、3年連続で新記録を更新したと発表した。地球温暖化は政治的には正しくないことにされそうだが、科学的事実は揺らがない。企業が事業を継続させようとするなら、政治と科学のどちらを取るのか選択しなければならない。

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