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2017年01月30日

MITテクノロジーレビュー

地球全体を鑑み、独自に温暖化適応を進めるグローバル企業

 2099年に日本の一人当たりGDPが35%減少することに責任を持って行動できる政治家はいないかもしれない。しかし、すでに気候変動による影響は企業の事業継続を脅かしており、地球のためではなく、自社のために対策を進める段階に入っている。

by MIT Technology Review Japan 2017.01.23

 「地球温暖化」は大きな問題過ぎて実感がわきにくい。では、気候変動で収入が減るとしたらどうだろうか。

 スタンフォード大学とカリフォルニア大学バークレー校の研究によると、気候変動により、世界全体の一人当たりGDPは、気候変動なしの場合と比較して、今世紀末までに23%減少するという。極端に暑い日が増えることで、屋外で働けない場所や期間が増えるのだ。

温暖化した世界では現在暖かい地域が屋外労働に適さないほど暑くなり、暴動が増えやすくなることも予測されている

 地球全体で一人当たりGDPが23%減るとしても、2099年の話ではまだ自分の問題とは捉えにくい。では国ごとに見るとどうなるだろうか。実は、現在低気温な国(モンゴル1413%、ロシア419%、イギリス42%など)では気候変動で気温が上昇し、屋外で作業可能な場所や時期が多くなり、一人当たりGDPが増える。一方、インドやアフリカ諸国など、赤道に近い国ではおおむね80~90%一人当たりGDPが減る。日本や米国の一人当たりGDP(日本は約3万2000ドル)は2030年には1%しか減らないので実感はわかないだろうが、日本や米国でも2050年には5~6%、2099年には35~36%も減少する。カリフォルニア大学バークレー校のソロモン・サン教授が、温暖化の不均一な影響は「世界経済の大規模な再構築を意味するかもしれない」というとおり、一人当たりGDPが3割も減少すれば、経済も安全保障も影響は免れようがない。

作物を育ているには適さなかった凍土が豊饒の大地に変わる可能性が出てきた

ニューヨークを洪水から守る

 温暖化で海面が上昇すれば、海抜が低い場所は海に沈んでしまう。コロンビア大学のヨーグ・シェーファー教授はグリーンランドの氷床は「近い将来に消えることを覚悟しなければいけません」と警告するが、それでも今すぐ東京の埋め立て地が水没するわけではない。

 ところが問題は台風や津波などの災害時に起きる。平常時は問題がなくても、海面が高くなれば、そのぶん洪水の被害が発生しやすくなり、土地の価値が変わってしまう。実際、米国の沿岸地域では、不動産価格が下落する兆しがある。ニューヨーク・タイムズ紙の記事によれば、従来、リゾート地でもあるマイアミでは、どれだけ海岸に近いかで不動産の価値が決まったが、最近の購入希望者は海岸からどれだけ離れているか、海抜は何mか、非常時の電源が確保されているかなどで物件を選ぶ傾向があるという。

2012年のハリケーン「サンディ」で冠水したマイアミ市街

 海抜の低いマンハッタン島(ニューヨーク市の中心部)も、気候変動による洪水の危機に直面している。マンハッタン島には世界一高価な不動産がいくつもあり、住民を移転させずに都市そのものを守るのが賢明な対応策だ。しかし、市街の完全な再設計や地下輸送、公共インフラを再計画することは、正当な方法に見えて、実は複雑すぎて現実的ではない。

 実現可能な解決策は、いくつか提示されている。ひとつはニュージャージー州(マンハッタン島の西側)からロングアイランド(マンハッタン島の東側)まで約64kmの人工砂丘を構築し、巨大波のエネルギーを消散させ、大型ハリケーンの影響を減らす方法だ。もうひとつは、マンハッタン島の南側にある金融街(ダウンタウン)をU字型の巨大な堤防で囲ってしまう計画だ。こうした計画には、予算以外に実効面の懸念や、見捨てられる地域があることへの批判もある。しかし、ニューヨーク市が海面上昇や異常気象から都市をどう守るのか、難しい決断を迫られているのは確かだ。

2012年の洪水で閉鎖されたマンハッタン島南部の地下鉄駅

 こうした現状認識は国内ではあまり一般的ではないが、海洋研究開発機構に納入された「地球シミュレータ」の開発元で、日本のIT企業であるNECは「台風や集中豪雨など顕著な気象現象の再現・予測」「広域・高分解能の津波の浸水予測」を掲げており、研究課題としては世界の価値観と違いはないことがわかる。また、気象庁気象研究所は昨年9月に21世紀末を想定した「地球温暖化気候シミュレーション実験の結果を解析して、温暖化が進行したときに日本の内陸部において、現在よりも豪雪(災害を伴なうような顕著な大雪現象)が高頻度に現れ、豪雪による降雪量も増大する可能性があることを確認しました」と述べている。温暖化は日本にも確実に影響を及ぼすのだ。

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