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2017年02月20日

「カープ女子」現象から読み解く、新時代のスポーツビジネスのあり方

ジャニーズに通じるカープのマーケティング手法

──応援グッズがカワイイことでファンが増えるということは、野球のファンのあり方自体も変わってきているということでしょうか。

川名氏:
 そうですね。野球が好きだから観戦に行くというのが従来のファンのコアな層だとしたら、カープ女子をはじめ、最近、増えている女性ファンの多くは選手のライフヒストリーを含めて楽しんでいるんだと思います。

 つまり、インディーズアイドルを育てるような感覚です。だから応援の仕方が従来の野球ファンとは全然違う。従来の野球ファンの場合は、応援しているチームが大差で負けていると、途中で帰ったりしますよね。しかしインディーズアイドル的な楽しみを感じている最近のファンは、最後まで試合を観戦するんですよ。というのも、お目当ての彼が最後の最後、抑えの切り札で登板する可能性があるからです。それにカープの場合、2016年は勝ち星が89で、そのうち45勝は逆転勝ち。実に半分以上の割合で逆転による勝利をつかんでいるのだから、コアなファンも最後まで見逃せなかったのです。

 この女性の心理をうまくついてビジネスを展開しているのが、ジャニーズです。ジャニーズにはジュニアと呼ばれるたくさんのアイドル予備軍がいますが、人気が出てもすぐにCDデビューはさせません。そうすることで「もっと応援してあげなければ」と思わせるわけです。これと同じ様な感覚です。

 しかもアイドルの場合は一緒に写真を撮ったり、握手をしてもらったりなど、触れ合う機会はそうそうありません。しかし野球選手はファンサービスの教育がされており、特に2軍の選手なら練習場に行けば比較的簡単に触れ合うことができます。そういう新たな楽しみを野球に見つけたとも言えるのではないでしょうか。

スポーツビジネスの発展は多様で常に変化する価値にいかに応えていくか

──いち早く女性向けのマーケットを開拓したカープは、あらゆる球団の中でも異質な存在なのでしょうか?

川名氏:
 カープに限らず、いずれの球団も女性ファンやファミリー層という新しいファン層を獲得するための努力を行っています。

 カープの場合、本拠地のMAZDA Zoom-Zoom スタジアム広島が新しいファン層獲得戦略の1つです。2009年に完成したこのスタジアムは、米国のボールパークの思想が生かされています。内野、外野関係なくぐるっと一周できますし、寝転んで観戦できる席など、さまざまな観覧席を設けています。また、子どもが観戦に飽きても楽しく過ごせるよう、遊具を設置したり、夏場にはお化け屋敷も併設したりしています。とにかく楽しめる工夫がたくさん盛り込まれているんです。だから野球にあまり興味がなくてもマツダスタジアムに観に行きたくなる(笑)。

──今後、スポーツビジネスを発展させていくために欠かせないものとは何でしょうか。

川名氏:
 ファンの多様化により、スポーツに求める価値が多様化しているということを覚えていないといけません。試合に勝つことや上手い選手や強い選手を見ることがお客さまの求める価値だとは限りません。ある選手のライフヒストリーやグッズのかわいさに惹かれたり、グッズを着用している自分が輝いて見えたりなど、それぞれ価値を感じるポイントはさまざまです。しかもその価値は常に変化していきます。固定的な見方は捨てて、幅広く見ていくことが大事だと思います。

 次に、新しいファンの獲得です。たとえばプロ野球選手になる子どもたちは、小さな時から少年野球チームに入っています。少年野球を続けるためには、子どものためにお弁当を作ったり、練習会場まで送り迎えしたりと、親の強力なサポートが欠かせません。これは他のスポーツでも同じだと思います。つまりファミリーでスポーツ好きにならないと次の世代が育たない可能性があります。

 そしてもう1つ忘れてはならないことは、スポーツのライバルは多岐にわたるということです。これまでのスポーツビジネスは、観客は野球を見に行くのか、サッカーを見に行くのか、といったスポーツのジャンル同士の戦いでした。しかし、今は、観客は飲み会に行くのか、コンサートに行くのか、野球を見に行くのか、何に時間を使うのかという戦いになっています。多様な時間の使い方の中で、観客の時間を勝ち取る意識がますます重要になります。スポーツビジネスに携わる皆様には、いろんな価値を理解してもらいたいですね。

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