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2017年02月20日

「カープ女子」現象から読み解く、新時代のスポーツビジネスのあり方

 「カープ女子」現象に代表されるように、今やスポーツビジネスは「スポーツそのもの」を楽しむことだけではなく、それにまつわるヒトやモノ、コトなどを巻き込んだ、一大市場を形成しつつある。なぜ、広島東洋カープ(以下、カープ)は「女性」ファンを取り込むことができたのか。その背景にはどんな要因があったのか。さらにプロ野球だけではなく、今後「スポーツ」はビジネスとして、どう発展していけばよいのか。自らも「カープ女子」を自認し、事業創造論、中小企業論、起業論の専門家である高千穂大学経営学部教授 川名和美氏に「カープ女子」が生まれた背景やスポーツビジネスのこれからについて話を聞いた。

関東地方で急増するカープファン

──「カープ女子」は、2014年のユーキャン新語・流行語大賞のトップテンに選ばれ、今では一般にも定着しています。先生はご自身でも「カープ女子」でいらっしゃいますが、「カープ女子」とはどういった人たちなのでしょうか?

川名氏:
 女性および女性の心を持っている方で、カープを応援したいという人なら、年齢、住んでいる場所に関係なく、みんな「カープ女子」を名乗っていいと考えています。むしろ定義を設けることなく、手を挙げれば誰でも「カープ女子」になれるから、ここまで「カープ女子」という言葉が広がったのではないでしょうか。

川名 和美(かわな かずみ)氏
高千穂大学副学長 経営学部教授

──いわゆる「カープ女子」現象はカープだから起きた現象ともいえるわけですが、他の球団とカープはどう違うのでしょうか?

川名氏:
 近年、本拠地ではない関東でファンが増加していることが特徴として挙げられます。これは数字を見ても明らかです。2009年~2011年と2012年~2015年の1試合当たり平均入場者数の増減率を球場ごとに比較してみると、神宮球場を筆頭に東京ドームと横浜スタジアムでの対カープ戦は大幅な伸びを示し、他の対戦カードを上回りました。つまり関東にあるビジター球場の集客面で、カープが大きく貢献しているということです。私も数年前から関東のビジター球場で行われるカープ戦を観戦していますが、内外野のビジター側は赤いユニフォームのファンが埋め尽くすなど、球場の雰囲気は以前と大きく変わっていることを実感しています。

──やはり女性ファンが増えたことが要因ですか?

川名氏:
 「カープ女子」の存在もあるかもしれませんが、ファミリーでの観戦が増えたことも要因だと考えています。球場では子どもが騒いでも怒られることはありませんからね。

 それから広島市民にとって、カープは常に生活に密着した存在なんです。私は2001年~2009年まで広島で過ごしていました。私の息子も多くの広島の子ども同様、小学校に上がると少年野球チームに入りました。もちろん、野球が好きならカープ戦は年に数回は観に行くし、コンビニエンスストアやスーパーに買い物に行っても、カープ坊やがパッケージなどに付いているものがたくさん売られているんです。カープの本拠地はMAZDA Zoom-Zoom スタジアム広島ですが、所有者は広島市で、広島市の市民球場です。カープは他の球団より、地域密着度が高いのかもしれません。

カープファンを生む広島という土地の魅力

──熱いカープファンを生み出す広島という土地には、他の街にはない特徴があるのでしょうか。

川名氏:
 日本は中山間地域が国土の約7割を占めており、この地域をいかに活性化させていくかが国の課題となっています。実は広島も同じで、県面積のかなりの部分を里山地域が占めているため、日本の縮図的な存在なのです。そのため新製品やサービスのマーケティング調査がよく実施されます。また、広島特有の郷土愛の強さも特徴です。実は、広島県人会は東京で最も大きな県人会なんですよ。

 たとえ広島を出て東京で働いたとしても、いざとなれば戻って生活ができるというところも、広島の魅力ですね。広島は大都市ではないけれども、小さな都市でもありません。マツダのような大企業もあれば、中小企業もたくさんあります。そのため、戻ってみて仕事がない、ということもほぼありません。

 カープという誇れる球団が存在することも、大きな意味があると思います。2016年にカープがセ・リーグで優勝したことをきっかけに、「広島の会社です」とアピールする企業も増えてきました。

「カープ女子」が増えた背景にある「ふるさと欠乏症」

──先生は、「カープ女子」がこれだけ増えた要因について、どのように考察されていらっしゃいますか。

川名氏:
 カープはもともと、レディースカープという女性のためのファンクラブを用意し、女性ファンを育ててきた歴史があります。だから広島にはもともとのカープ女子がたくさんいるんです。

 もう1つ見逃せないのが、「ふるさと欠乏症」という現象です。たとえば、関東地方出身の人間には、「ふるさと」と呼べる場所がありません。しかし、地方から上京してきた人たちには、帰る「ふるさと」があるわけです。そんな「ふるさと」へのあこがれが、「ふるさと欠乏症」です。ですが、たとえ関東出身でも、カープファンになれば広島を「ふるさと」と呼べるようになり、球場の応援席ではみんなのふるさとが広島なんですよね。

 それに加え、広島カープのチームカラーが赤であったこと、応援グッズがカワイイことも、カープ女子増加の要因の1つです。やはり「赤」は伝統的に色彩マーケティングでも購買色や興奮色と言われるカラーです。

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