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2017年04月24日

破壊的イノベーションを勝ち抜くデジタル戦略

デジタルトランスフォーメーションに立ち向かう(前編)

デジタル化が浸透するアンビエントITの世界

 朝家を出るときに玄関先で、「今日は雨が降るのか!」とわかれば、傘を忘れずに済む。また、「電車が30分も遅れているの?なら他の路線で行った方が早いはず!」と気付く事が出来れば、いつもとは違う駅に向かう迂回ルートを選択できるだろう。

 前者の例では、傘もしくは傘立てがインターネットに繋がっていて、天気予報を教えてくれる。今日一日の天気予報を見て、あなたの家から職場までの範囲内で雨が降るかどうかを分析してくれるという訳だ。もし雨が降りそうなら、あなたが家を出る時に光ってお知らせしてくれることで、忘れずに傘を持っていく事ができる。一方後者では、玄関に置いてあるディスプレイがあなたの通勤に関する情報をお知らせしてくれる。インターネット上に登録されているあなたのスケジュールを確認し、“今日はどこに行くのか”を把握し、そこへの最適な経路はどうか、路線状況に乱れはないか、といった事を予め調べて表示してくれる。機械が自動的に情報を収集し、人間よりも正確に分析して教えてくれるならば、生活はますます便利になるだろう。

 例えば上記のように、朝の玄関先の風景を切り取ってみただけでも、“便利な世の中”の発想が広がる。これがIoTやAIといった最新テクノロジーがもたらす未来だ。

 ここ最近、アンビエントITという言葉が使われ始めている。「周囲や環境に溶け込むIT」という意味であり、ITが人々の生活に見えない形で溶け込み、快適な生活環境を提供するというものである。少し前にはユビキタス・コンピューティングという言葉を耳にしたが、こちらは「至る所にコンピュータが存在し、“いつでも”“どこでも”簡単に情報へアクセスできる」という意味であった。つまり、ユビキタス・コンピューティングが描く簡単に情報へアクセスできる世界よりも更に進み、いつの間にか情報を取ってくれているアンビエントITの世界が訪れようとしているのだ。

 そのためには、あらゆるモノがインターネットに繋がるIoTの世界が発展していく事は不可欠だが、今現在インターネットに接続されているデバイスの数は、一人あたりせいぜい2、3台といったところだ。スマホを持つのは当たり前とはいえ、その他にはPCやタブレット、ウェアラブル端末、カーナビといったものが考えられるくらいであろう。これが2025年になると、一人平均250台にも達すると言われているのだ。この数だけ見ても、生活に関係するモノのほとんどがインターネットに接続されることになると予想できる。

 アンビエントITの描く10年後の未来とは、膨大なデバイスを利活用するものなのだ。それも人が意識する事なく、陰ながら生活を支えてくれるものがほとんどである。その未来では、デジタル技術をまったく意識する事なく、生活が便利になっていく。例えば、衣類が人間の汗を感じ取ったら、除湿器が動き始める。体温が下がっていれば、エアコンの温度が上がる。ペットボトル飲料をいつも半分くらいしか飲まずに残してしまう人の場合、次からは自動的に半分の大きさで配達されてくるといった具合だ。IoTによるただのセンシング技術ではない。デバイス同士が連携し合って、いつの間にかどこかで生活を支えてくれるようになるのだ。

 企業としてはいち早く、この流れを察知し、マーケティングに参入していけるよう準備しておいた方が良い。

エコシステムがもたらすウソの付けない世界

 最近ではエコシステム(生態系)というバズワードがデジタルの世界で頻繁に使われる。筆者も例に漏れず、デジタル化の未来を描く際にはエコシステムの発想が不可欠だと考えている。エコシステムとは、インターネットの世界で参加するプレイヤーが互いに「つながり」、「助け合い」、共存共栄していく仕組みの事である。どこかの企業の運営に依存しない、完全オープンな環境で共存し合うエコシステム上で成り立つビジネスが、爆発的な成長を始めている。例えばビットコインを使ったビジネスなどが挙げられる。誰もが自由に参加できるエコシステム上では、新たな技術やサービスが生まれやすく、絶えずイノベーションが起こり得る。

 エコシステムが世の中に浸透していくと、生活する上で何気なく行っていることの多くが、履歴としてインターネット上に残っていく事になる。究極的には全ての行動履歴が記録されると言っても過言ではない。行動履歴としては例えば以下のようなものが想定されるが、これらの履歴がエコシステム上に保管されており、いつでも簡単に確認する事ができれば、生活が圧倒的に便利になる事をご理解頂きたい。

  • ビットコインを使った金銭の売買履歴
    ビットコインのように仮想通貨による支払が一般的になれば、金銭の入出金を一元管理し、自分の財産の全量をスマホで確認できるようになる。
  • オークションのような個人間(P2P)の取引履歴
    オークションの取引も確実に証拠として残れば、見ず知らずの相手とでも安心して売買できるようになる。
  • オンラインショッピングでの購買履歴
    こちらも上記同様、入出金の一元管理に役立つ。
  • ドライブレコーダーで記録した運転履歴
    急ハンドルや急ブレーキの回数などから安全運転であったかどうかを記録できれば、自動車保険の保険料がお得になるリワードプログラムの構築に役立てられる。
  • 体重や血圧、病院で診察してもらったカルテなどの健康履歴
    自分の情報は自分で登録するセルフメディケーションの世界を後押しする。例えば意識不明の状態となり救急車で運ばれている場合でも、救急隊員が血液型や病歴を確認する事ができれば、迅速な処置に繋がる。
  • 学歴・職歴
    学歴や職歴がエコシステム上で一元管理されれば、誰も経歴詐称できない世界になる。
  • 現住所の履歴
    引っ越した際の住所変更が一発で完了する。手続きのため色々な役所を回ったり、クレジットカード会社や行きつけの店に個別に連絡したりする必要が無くなる。

後編へ続く

八木典裕 氏

株式会社ベイカレント・コンサルティング
コンサルティング&IT事業本部 シニアマネージャー

大手IT企業を経て、2011年2月から現職。金融・製造・通信等の幅広い業界において、プロジェクト管理を手がけた案件多数。
直近では、IT戦略立案、ITコスト最適化、Web戦略立案等のプロジェクトに従事。
また、社内のブロックチェーン研究会やAI研究会のリーダーとして、顧客企業への新規ビジネス提案や、技術研究にも従事。

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