2017年04月24日
破壊的イノベーションを勝ち抜くデジタル戦略
デジタルトランスフォーメーションに立ち向かう(後編)
エコシステムがもたらすウソの付けない世界
また、成りすましや詐欺といった犯行への対処も容易になる。あらゆる行動履歴が記録されているのであれば、いつでも自分の行動をスマホアプリで確認できるようになる。そうすると、身に覚えのない行動があれば、成りすましにすぐ気付けるかもしれない。またオークションのように見知らぬ誰かと取引する際に、相手の過去の行動履歴から信頼性を確認できる。例えば過去にたった2、3回しか行動履歴の無い人がいれば、不正なIDを使っているのではと疑うだろう。エコシステムによって、これまでの生活で断片的で忘れ去られていた行動まで漏れなく見られるようになるため、同時にウソのつけない世界が広がる。行動の全てがインターネット上で明かされるのはプライバシー上の問題もあるため、見せ方や使い方は考慮が必要だが、不正の出来ない世界にはなっていくだろう。
パラダイムシフトも大いに可能性が広がる。例えば職歴が確実に記録されるようになれば、今現在は「会社に雇ってもらう」文化であるものが、いずれ「会社の所属権を持つ」文化に変わるかもしれない。イメージしてみると下記のような感じだ。
- ○○コンサルファームに勤めているAさんは、確かにその会社に所属している事が証明され、なおかつ他の会社に所属する事はルール上許されない。
- □□銀行に勤めているBさんも同じく、会社に所属している事が確かに証明されている。
- ここでまず言えることは、○○コンサルファームや□□銀行の会社目線で見ると、確かに従業員数を抱えられている状態ということだ。従業員がある日突然、勝手に会社を辞めようとしても、エコシステム上の記録がそれを許さない。
- このルールが確立されれば、全く逆の発想が出来るようになる。職歴のトレーサビリティが確実に記録されるため、AさんやBさんにとっては「どこの会社に雇ってもらうか」ではなく、「今どこの会社に所属しているか」という発想になる。この発想を前提にすると、AさんとBさんがお互いに合意すれば、会社の所属権をトレードする事ができるかもしれない。
- 昨日まで○○コンサルファームで働いていたAさんが、今日から突然□□銀行で働き始める可能性もある。つまり、ひょっとしたらエコシステムによって、自分の会社は自分で決めるというパラダイムシフトが起きるかもしれないということだ。
エコシステムが支えるデジタル世界では、これまでの文化や常識を根本から変えてしまうようなパラダイムシフトも起こり得る。その変化を真っ先に感じ取れれば、ディスラプターの役割を勝ち得るであろう。そこまでではなくとも、ディスラプターの活躍を見極めて変化に乗じることで、ビジネスチャンスは逃さずに掴めるようにしていきたい。

最新テクノロジーの動向をつかみ、デジタルトランスフォーメーションに立ち向かう
ビジネスチャンスを掴むといっても、最新のテクノロジーが何であるかを正しく理解せずに取り組むのは難しい。上述のようなアンビエントITやエコシステムの描く世界を実現するのに一体何のテクノロジーが必要となるのか、まずは正しく把握することから始めていかねばならない。
IoTやAIといったビッグワードを切り口に試行錯誤は出来るが、一体どんな技術があって、今だったらどこまで出来るものなのかを理解しないと迷子になる。実際、多くの企業で新しい事を始めねばならないという危機感はあるものの、具体的に何から始めれば良いのか、どうしたら他社に勝てるのか、費用対効果は出るのだろうかという段階で足踏みして、遅々として進まない状況は多い。
実際、IoTやAIであっても単体で進めて良いものではない。IoT、AI、ビッグデータ、ブロックチェーンといった様々なテクノロジーが密に連携して、新たなビジネスを創っていくものだ。前述のアンビエントITやエコシステムの世界が現実となれば、当然そのような話になる。そこでまずは最新テクノロジーの全量を洗い出す事から始める。デジタルトランスフォーメーションに取り組む企業としては、最低限一覧化したものは持っておいた方が良い。
まずは一覧化するために、リサーチによって最新テクノロジーに関わるキーワードを漏れなく洗い出す。調べ方によっては数百ものキーワードが出てくるかもしれない。しかし、おそらくキーワードの中には概念やサービスに当たるものまで含まれているので、純粋なテクノロジーに当たるもののみ抽出して最新テクノロジーとして一覧化する。参考までに弊社の場合、現状で40~50個ほどの一覧を保持している。
次に、それぞれのテクノロジーの概要を掴んだ上で、自社に合ったものを取捨選択していく。世の中の動向や自社の業態、関係者の興味度合いで絞っていき、およそ10~20個ほどのテクノロジーを選択してもらいたい。そして選択したテクノロジーに対して深掘り調査を進めていくのだ。深掘り調査では、技術的にどこまで進化しているのか、事例としてどんな使われ方をしているのか、そこから考察すると今後はどうなっていくと予想されるのか、といった分析を進めていく。なお、分析を進めるうえで「自社の業務に当てはめると、どんな可能性があり得るだろうか」まで考慮しておくとイメージが広がりやすい。

こうして纏めた深掘り調査の資料が、新しいビジネスを創造するための土台となる。弊社も深掘り調査した資料を持っており、世の中の画期的で面白いビジネス事例をピックアップして纏めているが、発想を広げる上でも貴重な資料であるし、何より面白い。例えば社内研修などで使うと、受講者の興味を惹きつける効果は覿面であろう。最新テクノロジーを使った画期的な事例を知り、テクノロジーがもたらす未来を予想していけば、デジタルトランスフォーメーションに取り組む足がかりとなるのは間違いないだろう。