2017年03月24日
AFP通信ニュースで世界の「今」を読み解く
高齢化社会と介護の狭間で ICT活用が示唆するワークライフバランスの実現
超高齢化社会における課題と対策

日本は今、世界に先駆けて超高齢化社会に突入している。団塊の世代が75歳以上となる2025年、高齢者人口は約3500万人、人口の30%に達すると見られている。それに伴い、介護や医療費等社会保障費の増大、介護医療従事者の不足、生産年齢人口の減少などの社会課題は一層深刻になる。殊に社会保障費においてはすでに100兆円を超え、2025年には医療費だけで50兆円を超えると推計されている。
一方、家庭における高齢者の介護の担い手は、依然女性であるという現状がある。経済成長の鈍化を招いている原因は、なにも生産人口の減少に限られたことではない。高齢化が進めば女性の社会参加はますます阻まれ、ひいては日本の産業競争力に影響を与えることになりかねない。
平成26年、政府は医療・介護・健康分野におけるデジタル化・ICT化を打ち出し、超高齢化社会への対策に乗り出した。個人の健康に関する情報、PHR(Personal Health Record)をビッグデータとして統合・蓄積し、閲覧を可能とするネットワークを構築。それによって医療の質の向上、医療費の適正化、さらには社会保障費の伸びを抑える狙いだ。また国は、「病院完結型」の医療から、「地域完結型」の医療・介護、地域包括型ケアへと転換を図りつつある。(2) この介護分野における「地域完結型」在宅医療という流れの中で、女性のワークライフバランスはどう変わるのか。女性を生産人口に加えることのできる社会となるのか。新たな局面が予想される。
医療と介護の狭間で

米国の俳優ロビン・ウィリアムズ氏が突然命を絶ったニュースの衝撃は記憶に新しい。うつ病と不安神経症に加えて、パーキンソン病を患っていたということである。しかしその後、氏に起こった様々な異変がレビー小体認知症によるものだったことが判明した。(3) 医療の発達によって、これまでわからなかった病気や、その原因が次々解明されている。そのひとつが、アルツハイマー病の「病原体」を真菌とする説。アルツハイマー病の主原因はこれまで、粘着性タンパク質の蓄積によって形成される脳の「アミロイド斑(プラーク)」とされてきた。だが、患者の脳に数種類の真菌の痕跡が発見され、アルツハイマー病の「病原体」である可能性が示唆された。
他にもY染色体の欠失説、ライトの点滅が脳内のアミロイド斑(プラーク)の蓄積を減少させたとする研究など、最先端の医療が次々と原因を探り治療に役立てようとしている。
医療の発達、新薬の開発により、人類は長寿を手に入れた。しかしそれが社会の高齢化を招き、加齢が最大の危険因子である認知症患者の増大ももたらしているのは皮肉なことである。世界の認知症患者の数は現在の4700万人から2050年には約3倍の1億3200万人に達するだろうと、国際アルツハイマー病協会は予測している。(4) また2013年にはロンドンで主要8か国(G8)認知症サミットが開催され、今後爆発的に増加すると思われる認知症の治療法もしくは対処法を2025年までに見出すべく研究費の増額で合意している。(5)

一方、介護の分野で最近日本にも広がりつつある考え方がある。英国のトム・キットウッド氏が提唱した「パーソンセンタード・ケア」である。それによると認知症の状態は、アルツハイマー病や脳血管障害等による神経障害のほかに、性格傾向、生活歴、視力・聴力などの感覚機能、患者を取り巻く人間関係、この5つの相互作用によって影響を受けるとされている。医療分野が取り扱うのは最初の神経障害だけであり、他の4項目はすべて介護分野にかかわっている。患者本人が社会や周囲の人々と関わりを持ち、人として尊重されているという実感を持てるケア、それがこの考え方の根幹にある。寝たきりになったり、引っ越しをしたり、へルパ-とうまが合わなかったり、といったその人を取り巻く環境の変化が認知症を引き起こしたり悪化させたりする、ということはよく言われることである。本人の性格傾向や生活歴、健康状態や感覚機能等に配慮しつつ、周囲の家族や介護者が適切な認識をもってケアすることによって、認知症の症状は良くも悪くもなる。言い方を変えれば、状態を認知症ではない人と同レベルにすることも可能だということである。
さて国が目指す「地域完結型」の地域包括ケア。在宅医療・介護分野における多職種の連携をもって利用者に質の高い医療と介護サービスを提供することを目的としているが、くしくもこのパーソンセンタード・ケアの考え方を実現するツールとなり得るのではないだろうか。患者の情報を関係者が共有し連携すれば、患者本人のQOLを高めることができるに違いない。ICT化による医療情報連携ネットワークへの期待が高まると同時に、今後は利用者の側にも医療と介護をバランスよく組み合わせた賢明なライフシフトが望まれよう。