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禅・マインドフルネス×ICTでワークスタイル変革を!
SUMMARY サマリー
ワークスタイル変革と、マインドフルネスの逆輸入
『サーチ・インサイド・ユアセルフ』によれば、マインドフルネスの実践によって、意のままに心を鎮められ、集中力や創造性が向上し、成功への道が開けるという。その方法はこうだ。まず息を吸う。そして吐くまでの間、自分のすべての注意力を、自分自身の呼吸に向ける。その呼吸は、「今、ここ」で起きていて、過去も未来も関係ない。だから後悔や不安から解放され、落ち着きを取り戻せる。心が過去や未来にさまよい出そうになったら、その都度注意を呼吸に戻す。一回やるごとに脳の集中力は鍛えられ、現在にとどまる能力は高まる。グーグル社内では、この瞑想法を“pause”、すなわち“立ち止まる時間”として、gPauseと称し、勤務中に実践している。なぜ立ち止まることが必要なのか。現在のビジネス環境が、集中力を奪い続ける構造となっているからだ。デジタル化がすすめば、マルチタスクを同時にこなすことができる。しかし、このマルチタスクは仕事の効率をむしろ落とすことが明らかになってきている。そればかりか、マルチタスクの常態化が脳の損傷を招くとさえ言われている。我々を取り巻く史上空前の情報量。このビジネス環境の中で、あえて立ち止まり、「今ここで起きていること」に集中すること。それがパフォーマンスを最大化し、その結果、効率よく生産性を上げる働き方につながる、として注目されている。
マインドフルネス学会は、マインドフルネスを次のように定義づけている。「今、この瞬間の体験に意図的に意識を向け、評価をせずに、とらわれのない状態で、ただ観ること」「“観る”は、見る、聞く、嗅ぐ、味わう、触れる、さらにそれらによって生じる心の働きをも観る、という意味である」と。厳密にはマインドフルネスと、禅をはじめとする哲学が全く同じとは言えないだろうが、続々と若い世代や外国人が日本の禅寺を目指してやって来ている事実もある。座禅や瞑想が現代人の生き方、働き方にヒントを与え、同時に日本の禅への関心も高まっている。
ICTが推進するお寺のグローバル化

鎌倉最大にして日本最古の禅寺、建長寺。ここで起こっている「禅ハック」が、大きな反響を巻き起こしている。「ハッカソン」と呼ばれるこのイベントは、禅を体験することで、シンプルな思考と集中力を養い、ICTをツールに世界の課題解決に挑むことが目的だ。ハッカソン(hackathon)とは「ハック」と「マラソン」を組み合わせた言葉で、アイデアやプログラミング技術を競い合い、限られた時間の中で、与えられたテーマを元にチーム・個人でアイデアを練り上げ、プレゼンテーションを行う。禅とICTを結びつけたシリコンバレーさながらの若者向けイベントだ。(4)
様々な分野で活躍するエキスパートのプレゼンテーションで有名なTEDで、マインドフルネスについて英語で講演した禅僧がいる。臨済宗春光院の川上全龍氏。"How mindfulness can help you to live in the present"と題したこのプレゼンテーションは、過去と未来の間にある想念や注意力との葛藤の中で、今を平常心でいることの大切さを訴えている。彼が副住職を務めるこのお寺では、積極的に国際交流を企画し、オレゴン大学・造園学科と建築学科の5週間に及ぶサマープログラムやバージニア大学主催の洋上大学にも関わっている。また、今必要とされているものを受容し、それに忠実であるべきという考え方に基づいて、同性愛カップルの結婚式を仏式で行い、世界的な注目を浴びている。(5)
こうした世界の潮流に乗って日本でも、禅(瞑想)はアプリとなって日常に浸透しつつある。マインドフル・トレーニングアプリ、「MYALO」がその一つ。音声ガイド付きで、初心者でも簡単に使える。最新技術によりマインドフル度合いを測定し、56セッションもの本格的トレーニングに挑める。お寺に籠らなくてもどこでも手軽に瞑想が体験できる。ストレス軽減やパフォーマンス向上にもつながり、職場での集中力をアップさせ、短時間で効率よく仕事をこなせるようになるためのツールとして期待できる。
一方で、ICTリテラシーの高い若きリーダーたちによるお寺変革が各地で始まっている。背景には日本人のお寺離れという深刻な課題があってのことだが、それだけに新ビジネスとしてのチャンスもありそうだ。その一つ、お坊さんの派遣サービスのビジネスとしての需要が伸び、盛況を博している。(6)他にも神谷町にある宗派を超えたインターネット寺院「彼岸寺」や、福井の照恩寺による音楽と照明を駆使したテクノ法要
など、続々と新しい試みが登場している。
人材育成というところではどうか。ここでは、よりドラスティックな変革が起きている。世界規模で「禅」に対する関心が高まっていることを受け、グローバルスキルとしての「禅」を人材育成に反映させた教育機関の登場だ。京都にある花園中学高等学校の、その名も”スーパーグローバルZENコース”。タブレットやスカイプを活用した先進的なICT教育。世界トップ20の海外大学進学で実績のあるNIC International College in Japan
によるNIC講座を実施するなど、目標は海外大学進学だ。もともと臨済宗妙心寺の宗門子弟の教育機関として創立され、禅の精神を根本に据えた教育を行ってきた学校だが、このコースではZENをグローバルスキルと捉え、異文化を受け止め、世界の人々と協働しながら活躍できる人材を育成することを最大の目標に掲げている。

マインドフルネスという瞑想法が逆輸入され、日本人の関心が再びお寺へと戻りつつある中、関連業界ではこのムーブメントを一時のブームで終わらせないための、存続を賭けた努力が続いている。また一方では、マインドフルネスが日本人の働き方に変化をもたらすのではないかという期待が高まっている。無駄を省き、短時間で効率的に働き、かつ生産性を上げる。ビジネス界ではそのためのマインドフル・リーダーシップ・セミナーが行われるなど、ワークスタイル変革のための土台作りが進んでいる。
(文/有限会社ラウンドテーブルコム Active IP Media Labo、写真/AFPBB News)
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AFPBB News 関連記事(2017年2月6日)「政権移行疲れに救世主? 米首都「お昼寝スタジオ」に利用希望殺到」
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AFPBB News 関連記事(2016年10月4日)「禅寺で修行しながらプログラミング、鎌倉市で「禅ハック」開催」
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日本語サイト http://shunkoin.com/Nihongo.html
英語サイト http://shunkoin.com - (6) AFPBB News 関連記事(2017年2月26日)「字幕:お坊さん派遣、寺とのつながり薄れる日本で需要拡大」
- (7) AFPデータベース ID: 000_HKG4878592
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AFP通信(Agence France-Presse)
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