2017年09月26日
AFP通信ニュースで世界の「今」を読み解く
ICT×農業、アグリビジネスの未来
ICT活用で拡がる、農業の未来
農業は、地球に暮らす90億人の食糧供給という役割に加え、自然環境の保全などさまざまな役割を担っている。毎年異なる気象条件の中で、種まき、施肥、防除作業(病害虫などの予防と駆除)、収穫をベストなタイミングで行うことで収量や品質を安定させる、各地にある経験則を社会資産とすることで生産農業所得を増加させる、そして後継者の確保・増加を図るために、ICT活用は有効だ。ICTを使った作業の合理化、管理の精緻化で、生産性・品質が向上する。自動化による省力化、効率化でコストを下げて収益が改善される。経営や業務運営にともなう事務処理、労務管理、顧客管理の効率がアップする。熟練農家の暗黙知やノウハウを知財化でき、雇用者、後継者、新たに農業を始める人たちに効率よく伝えることができるという、人材育成のメリットもある。生産履歴情報の記録や活用においても、トレーサビリティーやGAP(Good Agricultural Practice=良い農業のやり方)対応にICTを使うことで、リスク管理、信頼性向上、販路拡大につながる。
日本でも、平成25年に「スマート農業の実現に向けた研究会」を立ち上げた農林水産省の推進のもとで、さまざまな取り組みが行われている。ヘクタールを超える大規模温室では、統合環境制御装置の導入が進んでいる。ハウス内に各種センサーを設置して気温・湿度等の各種環境データをモニタリング、温湿度、CO2濃度等を制御、生産管理情報をデータベース化して、栽培の効率化と作物の品質向上を可能にする装置だ。また、このような装置を使った植物工場の普及も目指している。北海道では、農業用GPSガイダンスシステムを使い、効率的な耕起、整地、肥料散布、防除作業を行っている。酪農家にも、発情発見システムで雌牛の受胎率を向上させる愛知県の事例がある。
また、世界から注目されている日本チームによるこんな研究もある。馬の毛と粘着質のゲルでコーティングされた小型のドローン(無人機)が、作物の受粉を助け、世界的なハチの生息数減少を穴埋めする一助となるかもしれないとする研究論文が今年2月、米化学誌「ケム」に掲載された。実験の結果、花粉を吸着したドローンは、別の花に飛んで行って受粉を媒介し、人工的に受粉した花が種子を作る過程に進んだことが確認されたという。今後、GPSやAIを使って、ドローンに受粉経路を学習させることも可能と考えられる。(6)
NASAと農業、可能性は無限大
先端農業といえばオランダ。ワーヘニンゲン大学の研究チームは、米航空宇宙局(NASA)が火星を想定して開発した土を使い、2013年から10種類の作物を育てる実験を行っている。この土で育ったラディッシュ、エンドウ豆、ライ麦、トマトは、食べても安全であることが分かった。ジャガイモを含む残り6種類の作物に関しては、さらなる研究が必要とされる。(7)
農業における技術革新は、将来世界中で深刻化が予測される食糧不足のソリューションになる。また熟練労働者に新たな就業機会が生まれ、ソフトウェアやスマートフォン、ドローンといったビジネスにも新しい市場を生み出す。
ドイツ東部ザクセン・アンハルト州デレンブルクで200年前から土地を耕してきたミュンホフ家では、米国で1980年代に登場した最先端の技術を使って小区画をそれぞれ別々に管理する「精密農業」に転向して以来、仕事が様変わりした。数センチの精度で作業できるGPS誘導トラクターで走行距離を短縮して燃料費を抑え、収穫量も向上。さらに、土壌の組成を評価して区画ごとの栄養状態を計測する光学センサーを導入したことで肥料の使用量も減った。環境的にも経済的にも大きなメリットだ。高額なハイテクコンバイン収穫機も、利用者が増えれば、小規模農家でも導入可能になっていく。60歳を過ぎた経営者であるミュンホフさんの仕事は、図表やデジタルマップ、衛星写真をパソコンで駆使すること。「いずれ機械が農場を乗っ取る日がくるのか?」という問いに対するミュンホフさんの答えは本質を突いている。「機械は仕事を助けてくれる。それだけだ。彼らは決断しない。私が決断する」(8)
(文/有限会社ラウンドテーブルコム Active IP Media Labo、写真/AFPBB News)
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(8) AFPBB News 関連記事(2013年7月25日)「無人トラクターが耕すハイテク農場 最先端の「精密農業」 ドイツ」